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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里
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雨の里:ほっとけない2

 アッシュは答えを待つように笑顔のままアリスを見つめる。

 エドワードたちが反対するから、てっきりアッシュも反対だと思っていた。



「えっと、私の意見でいいの?」

「うん。君がもし、ルーファスやこの里の人を助けたいと言うなら、僕は君の望むように助ける。けど、君がルーファスで話だけをする、と言うだけなら僕は助けない事に関しては責めたりはしない。君の事だから、目の前で困っている人をどうにかしたいっていうのは、理解してるつもりさ。だから、君が思うままに動くといいよ」

「おい! アッシュ?! 止めないのか?!」



 エドワードの言葉にアッシュは首を横に降る。


 アッシュの事だから危険な事には避けさせると思っていた。特に、来る前にアリスとその話を少し聞こえていたし、何よりも、あのアレックスとかいうマーダー帝国の人間が現れた時どうするつもりなのだろうか。


 驚いた様子のエドワードに彼は困った様子でへにゃりと笑いながら言う。



「君の気持ちはわかるよ。マーダー帝国に関わってまた同じ事が起こる可能性があるなら避けるべきだって。でもさ、僕らのリーダーはアリスなんだからさ。彼女の意見に僕は従うつもりだよ」

「そ、それはそうだが、お前は止めると思ったのに……。それに今回は危険すぎるだろ」

「大丈夫。その時は僕が頑張るし、助けるとは言っても、僕の中では里よりも、君たちを守ることが最優先だからさ」

「はぁ……、とは言ってもだぞ……」



 エドワードが呆れていると、アリスはアッシュの言葉を聞いて決心したのか、彼の服を掴み、戸惑ってはいたが、目をキリッとさせる。



「やっぱりやる。私はルーファスたちを、助けたい!」

「……うん、いいよ。なら僕もルーファスたちを助けるの、手伝うよ」

「ありがとう! アッシュ!」



 ガバッと抱きつくアリスに、アッシュはヘラヘラと笑いながら彼女の頭を撫でる。撫でられた彼女は猫みたいに気持ちよさそうな顔をしてもっと撫でろと言わんばかりに彼の胸にグリグリと頭を捩じ込む。


 断言したアリスにルーファスは大きくため息をついて、肩を落とす。



「…………分かりました。ですが、無理だけはしてはいけませんよ」

「もちろんよ! 私たちができる範囲でやるわ!」



 真っ直ぐな目で真剣な眼差しで言われたルーファスは、”どうも敵いませんね”と言い、クスリと笑ってアリスに向けて頭を下げる。

 彼の隣にいたレインも頭を下げながら、横でなんの事か理解してないアヴェルスの頭を掴み、無理矢理、頭を下げる。



「神子殿、申し訳ないが、里のために手を貸してくれ」

「痛ぇ!! 痛ぇよ!! ババァ!!」

「うるさい」



 ミシミシとアヴェルスの頭を掴むレインの手に力が入り、余程、痛いのか彼はジタバタする。クスクスとルーファスは笑っているため、よりアヴェルスの顔は不機嫌な顔つきに変わっていく。


 そんな彼らに、アリスは、”よし!!”と言いながら腰に手を当てて、拳を天に掲げる。



「マーダー帝国の連中をギャフンと言わせるわよぉ!!」

「おー!」



 アリスの真似をしてアティも元気よく拳を突き上げる。決定事項となった事で、エドワードは頭が痛いのか眉間にシワを寄せて、しかめっ面をしていた。



「危ないって言ってんのに……。だいたいどうするんだ? アッシュ」

「そうだねぇ、まずはどういう状況か詳しく聞いてみようか。アリスもやる気満々だし」

「やる気満々にさせたのはお前だぞ。私たちは反対したんだからな」

「へへ、でも、アリスがするなら君たちも手伝ってくれるもんね?」

「ッ! …………はぁ、お前のそういうところは腹立つ」

「お、嫌いと言われないって事は良いって事かな?」

「ふん」



 ムスッとしているが、何処かエドワードもホッとしている気がする。恐らく彼も前回、騎士団にお世話になったのに手助けが出来なかった事は気にしていたのかもしれない。


 それに、あのマーダー帝国だと、アリスたちにどれだけ被害が及ぶかも分からない。


 アレックスと名乗っていたあの男のような連中がわんさかいるとは思えないが、良い印象はない。そもそも噂では相当酷いとも聞いているから、なおのことだ。


 とりあえず話がまとまった辺りでアッシュはパンッと手を叩く。



「さて、ルーファス、今の状況を教えてくれないかい?」

「分かりました。では一番詳しいのはアヴェルス君です。君がちゃんと説明していただけますか?」

「あぁ?! なんでこんなよそ者の奴ら――グヘッ?!」

「口が悪いぞ、アヴェルス」

「こ、このクソロリババァ……ッ」



 レインの鉄拳制裁を受けたアヴェルスは舌打ちしつつも、ドカッと近くのソファへと腰をかける。



「ケッ 話は、何処まで知ってんだよ?」

「何も知らないわ。今のところマーダー帝国がアンタたちの里の人を攫ったとかアンタが言った内容くらいしか知らない」

「……ガチのいっちゃん最初のところ話さねぇといけねぇじゃねぇかよ。クソめんどくせぇ」

「アヴェルス」

「い、いちいち殴ろうとすんなよ、ババァ!」



 一言二言多いアヴェルスに向けて今度は皿を投げようとしたレインをルーファスが止める。面倒くさそうな態度をしつつも、アヴェルスは説明を始めてくれた。



「里で失踪が起こってたのは、半年くらい前からだ。最初はガキが行方不明になって、てっきり勝手に外に出て迷子になったんじゃねぇかと思ったんだ。里の中、外も見たが姿はなかった。けど、はじめのうちは元々こういう場所に住んでっから、年に一回、あるかないかで、たまに、魔物に襲われて殺られちまうやつもいるし、心配はあったけど、重要視はしてなかったんだ」

「……そういうものなの?」



 アヴェルスの話にアリスとアティは首を傾げて、エドワードの方を見る。



「まぁ、こういう里や村では魔除けの結界がある訳じゃないからな。前に雪山の麓の村がいい例だ。どれだけ注意しても、何かしら魔物関連や不慮の事故は起こることはある」

「へぇ、そういうものなのね……。あ、ごめんね、アヴェルス。続けていいわよ」

「おう。んで、最初のガキの姿が無くなっちゃまって、そこからまた三日後、次は全く関係のない年寄りが行方知れず、一週間でだいたい二回か三回ほど、誰かしらが行方不明になっちまってたんだ」

「いなくなった人たちに何か特別な動きとかはあったの?」

「いいや、特にねぇし、共通点も何もねぇ。それに今も居なくなっちまった人は死体も何も見つかってねぇ」



 彼曰く、里の警備を強化しても、里の中を慎重に見回ったりと警戒しても失踪する人は絶えなかった。突然と消える事からまるで神隠しにあったんじゃないかと、思うほど消えてしまった人たちは姿形(すがたかたち)もなく、失踪している。


 アヴェルスは続ける。



「さすがに、この半年間、こうも頻繁に失踪する奴らが出ちまうのもおかしい。だから俺らはルーファス先生に便りを出して、原因究明と、行方不明者の手がかりを掴めないか相談したんだ」

「私へ彼らから相談が来たのは今から1ヶ月ほど前です。元々レイン君たちとも交流があったので、転移魔法でこちらに伺った次第になります」

「ふーん。あ、でも、今回の失踪の件がマーダー帝国の人たちが関わってるって思ったの?」



 いくら極悪非道なマーダー帝国だとしても、人がいなくなるだけでそうは結論されることはないだろう。けど、その名前が出ているという事は何か関わりがあったと分かるものがあったんじゃないかと思うけど……。


 アリスの言葉に、アヴェルスは里の見取り図のようなものを取り出して、指をさしながら続ける。



「実はマーダー帝国の連中が里の周りをウロチョロしていたのを確認したのは半月くらい前だ。俺らが里の周辺の見回りをしてる時に偵察していた兵士を森の中で見かけてよ。連中の話は聞いていたから俺らは奴らが里の人間を攫っているんじゃねぇかって思ってる」

「なるほどねぇ」



 目撃があったとはいえ、彼らがいつから居るかは知らない。


 ……でも、引っかかる。


 アリスは腕を組み、トントンと指で叩く。アヴェルスの話の内容に対して軽く首を傾げる。



「ねぇ、アヴェルス」

「んだよ?」

「アンタらはマーダー帝国の奴らが攫ったところって直接は見たの?」

「…………そう言われると、見た事ねぇな」



 盲点だったかもと言わんばかりにアヴェルスはハッとする。

 まぁ、そういう非道な事を良くするような国だ。こういうことが起こっている事もあるし、疑うのは仕方ないだろう。


 アリスの質問の後に、今度はアッシュが軽く手を上げる。



「あと僕も気になるんだけどさ」

「んだよ?」

「偵察兵は居たみたいだけど、此処まで攻めてきたりはしてこなかったのかい?」

「それも、ねぇな。見たりはしてたけどよ、この里に攻めてきたりとか訪ねたりもねぇな」

「……なるほどねぇ、ちょっと違和感あるね」

「あ? 何処かだよ?」

「そうだねぇ、例えばだけど、さ」



 そう言ってアッシュは紙を取り出す。そこに何か描き始める。何を描いているのかと、みんな興味津々で覗き込むと、何かの、人型と図形のようなものだ。



「もし、僕が何かの目的で攫うなら、まとめて攫った方が早いと思うんだよね。なのに、攫っているのは一人ずつ。それも定期的に」

「それがどう変なんだよ?」

「何かの目的で攫ってるなら、1箇所にまとめて、それもすぐに使う事も考えて牢屋に捕らえておく方がいい。ちまちまと一人ずつ攫っていたらいつか警戒されて捕まえにくくなる。それだととても非効率じゃないかい?」



 特に向こうは団体行動している。前者を考えるならまとめて捕まえるように動くはず。そうしないのは、何か理由があるか……。



「僕の憶測だけど、失踪の件は別の者がしているか、もしくはシンプルに奴らの頭が足りない……ってとこかな」

「最後のはかなり悪意を感じるわね」

「あはは、まぁでも僕の予想だから、一番早いのは奴らの目的を探りつつ、失踪した人を捜す事じゃないかい?」

「目的ねぇ〜……、まずそこよねぇ」



 彼の予想が当たっているなら、まずは動向を探るところからだろう。となれば、潜入をするのが一番早いが、マーダー帝国の知り合いも伝手もない。


 どうするかと悩ませていると、話を黙って聞いていたユキがスッと手を上げる。


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