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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十二章 雨の里
202/212

雨の里:ルーファスとの再会1

 ファーゼスト・エンズ国にて、グレンは侍の国の事で追加の報告を終えて、廊下を歩いていた。


 アビスはどうやら神子の(めい)を使って強制的にアッシュたちの事を話させる事を諦めたのか、突然、気を失う事はここ数日ない。喋らなくていいなら楽だが、アビスはそうでも無いようで、ずっとイライラしている様子だ。



(まぁ、奴からしたら遊び相手が面白い反応しなくなって、つまらないんだろうが)


「なぁなぁ、グレンはん、確かアリスはんから雨の里行くー()うとったけど、行くん?」

「監視も仕事だからな。一応、私も行く予定だ」

「オレも行ってえぇよな?!」

「お前、アリスに会いたいだけだろ」

「そ、それもあるけども、オレも一緒に仕事や、仕事!」



 ナギは先日侍の国で二人で話した後からか、アリスと仲良くなり、打ち解けているようだ。仲が良いのはいいし、連れて行かなくて良い時は構わないのだが……。



(一度戻らないと行けない時にコイツに何も伝達しないで行くと後でうるさいからな……)



 今度、何か簡単なメッセージとかでもいいから伝達が出来る魔法でも作ろうか……。じゃないと二度手間だ。

 ……そういえば、コイツがついてきているのに最近、抵抗が無くなってきたような気がする。侍の国で結構痛い目にコイツはあってるのにまだ食いついてくるし、自分でも、正直、慣れとは怖いものだ。


 ジッとナギを見ながら、そう考えてため息をはいていると、前から白衣にくの字に身体が曲がっているのか、腰が低く、ペストマスクを身につけた人がこちらへと歩いてくる。



「おやおや、グレン殿ぉ。あなた様が此処に居るのは珍しいことよのぉ」

「なんだ、貴様か」



 しゃげたような声の、老人……と言った方がいいだろうか、ペストマスクの人に対して、露骨にグレンは嫌な顔をして、そう返事をすると、ゲッゲッゲッと笑い、ゆっくりとこちらへと近寄る。が、3、4メートル地点のところで、彼はこれ以上近寄るなと言わんばかりに剣を顕現し、数歩下がっていく。



「不用意に近寄るな」

「ゲッゲッゲッ、相も変わらず、ワタシの事も嫌いであるのぉ」


(な、なんや、こん変なやつ……)



 睨むようにしているグレンにナギも警戒するようにしていると変わらずペストマスクの人は白衣の袖を口元に持っていき、楽しそうに笑う。



「そう警戒されるなぁ。本当はあの方と実験をしたかったのだがぁ……、どぉうも最近、ノリが悪いというかぁ……、興味が無さげでのぉ。ワタシは少々退屈でなぁ。年寄りの話し相手にもなって欲しいものよぉ」

「それは良かったな。貴様らの実験に付き合わされていた被害者が少なくなって良かったじゃないか」

「ゲッゲッゲッ あなた様もその一人ではないかぁ。まだまだアナタ様で守護者の限界や実験をしたいところでのぉ〜」

「マッドサイエンティストめ……。悪いが、貴様らの遊び半分な実験には付き合う気は無い。用がないなら私たちは仕事がある。さっさと自分の研究所に戻れ」

「なんだぁ、グレン殿も付き合いが悪いのぉ」



 フンッとグレンはそっぽを向いて、その場を去ろうとすると、鼻につくような悪臭を撒き散らし、グレンの背後にフワッとペストマスクの人は白衣の下から手を出して、彼の肩に触れる。

 その手はまるで枝のように細く、人の手とは思えないような手に隣にいたナギは、”ヒイッ?!”と小さな悲鳴を上げた。


 ゾワッと嫌な気配にグレンは振り返りながら払い除けようとするも、その細い腕からは考えられないような強い力で押さえつけられる。


 億さずグレンはギリッと睨む。



「ゲッゲッゲッ まぁまぁまぁ、待て待て待てぇ。別件で用が、二つあるのでなぁ。あの方からは許可はもろうてるぅ。ワタシの頼み、聞いてくれるかのぉ」

「…………、わかったから、放せ」

「おぉおぉ、聞いてくれるかぁ、話そう話そう」

「そっちの話すじゃない。手を放せ」



 そう言われても無視して、老人は彼の肩を撫でながら話し始める。



「先程ぉ、雨の里に行くと言っておったのぉ。そこの近くに昔、ワタシが使っていた、ある物があるのでなぁ。それの回収と後始末をしておいて欲しいのだぁ」

「……自分で行ってこい。どうせ暇なんだろ」

「ワタシは研究で忙しいのでのぉ。それに――」



 もう一方の手を彼の肩に置いて、グイッと自身へと引き寄せる。



「そこにアナタ様の大事な大事な宝物が行くのであろぉ? ワタシがそれらを実験材料にしても良い、と言うならば、是非ともワタシが行こう」

「ふざけんな、アイツらは関係ないだろ」

「ゲッゲッゲッ では、アナタ様がやって下さらないとなぁ。実験が出来ないのわぁ、ひっじょぉ〜に、残念だがのぉ」


(このクソマッドサイエンティストめ……ッ)



 不気味に笑うソレから離れようとするが、彼に対して、ケタケタ笑い掴む肩を撫で回す。まるで反応を楽しんでいるように見える。


 そんな、やり取りをしている二人の間にナギは眉間にシワを寄せて、入り込み、老人から引き剥がす。


 グレンを無理矢理引き剥がされた老人は楽しみを奪われてつまらなそうな雰囲気を感じたが、彼女はベーッと舌を出して威嚇した。



「……あの方から聞いてはいたがぁ、妙な小娘を飼うようになったのぉ」

「変態に小娘言われたぁないわ! その、探し物かどうかは、オレはようわからんけど、やればえぇんやろ! ホンマ、頭の変な奴しかおらへんよな!」

「ゲッゲッゲッ なんだぁ、小娘ぇ、実験体にしてやろぉかぁ?」

「誰がなるか! ボケッ!!」

「元気な被検体なら大歓迎ぇ」

「自分の足りん頭に実験したらえぇやろ!!」

「言うのぉ、小娘ぇ」



 グレンを守るように前にナギは出て言い合う。


 嫌がる人に対して此処の連中は命を懸けてるのかと思うほど、頭がイカれてる。こういう奴がやる実験なんてロクなものがないと、此処に来てよく理解している。

 本気でグレンが振り払えばきっと振りほどけるだろうけど出来ないのは、さっき言っていた、実験体にされた事もあって、口では言えても行動にぎこちなさがあった。それを見て見ぬふりは、どうしても出来ない。


 ナギの行動に驚いた顔をしているグレンに彼女は、”行こうや!”、と言って、腕を掴み、早歩きで去ろうとした。


 去っていく前に、ペストマスクの老人はグレンに枝のような指を彼に向ける。



「まぁ、よいよい。先程の件の詳しい内容は、後で書類を送っておくからのぉ」



 それだけ伝えて、老人は追いもしてこなかった。



 二人の姿が消えるとボソリと呟く。



「……人形ごときが、偉くなったものよのぉ……ゲッゲッゲッ」



 ◇



 部屋の近くまでスタスタと歩いていくと、ナギは足を止めて、うげぇと言いたいような顔をする。



「ホンマ、なんや、あのジジィ」

「アレは、ミゴという奴だ。気にするだけ疲れるぞ」

「名前を知りたいんや無いんよ。あのイカれジジィの頼みなんて聞きとう無いけど、どうするんや?」

「はぁ、そうだな……」



 ミゴは雨の里の近くにある物と言っていたが、それよりも奴は、”あの方が”と言っていた。

 アビス絡みになっているなら、嫌でも頼み事をしておかないと、後々面倒になられては困る。何を探しているかは知らないが、書類も持ってくるとも言っていたし、それを確認してから探すしかないだろう。



「どうせ、監視してる間の合間に探せばいい」

「あ〜、やるんかぁ。そうよなぁ、どうせあの深淵の神子の許可がどうのも言っとたし、せんとアカンもんな」

「残念な事にな……。さて、書類が来るまでにある程度準備をして向かうぞ」

「へーい」



 彼女が軽い返事をすると部屋へと二人は戻って行った。



 ◇ ◇ ◇



 一方、アリス一行は、侍の国を出て、数日。雨の森と呼ばれた年中ずっと雨が降っている森の中へとアッシュたちは足を踏み入れていた。


 不思議なことに、森に入るまでは晴天そのものだったのに森の中に入ると急な雨や森の様子に驚きが隠せない。川はあったが通常と違い、晴れている日と同じくらいの水の流れ。


 ユーリから受け取っている地図ではあと数時間で到着とはあるが、ずっと雨に打たれるのはとても辛かった。雨具を着ているとはいえ、洞窟や木で雨宿りしながら行くのも疲れが一層溜まる。


 そんな中、アリスたちはお昼休憩として、大きな木の下で雨宿りをしつつ、昼食の準備をしていた。


 ご飯の準備をしているユキとノアの隣で簡易テーブルの上に突っ伏しているアリスが足をパタパタさせながら嘆く。



「あ〜、雨、もう飽きたわァ。雨に濡れて靴はぐっしょりだし、地面はぬかるんで歩きにくいし、ジメジメしてて、嫌ねぇ」

「まぁ、ずっと雨が降ってますからね。僕の氷魔法で雨を凌ぐための傘を作りましょうか?」

「ん〜、大丈夫ぅ。氷で肌寒くなりそうだから、遠慮するわ。ありがとね」

「いえ、肌寒くなるのは確かにそうです。エドワードが考えてくれた献立も、暖かいものが多いですから、低体温にならないようにするためのメニューになってますしね」



 そういうノアが回している鍋にはシチューが入っていた。話をしていたユキはパンを切り、フライパンで焼いている。


 今日のお昼はシチューと焼きたてパン。


 体が温まるものとの事でこのメニューを考えたエドワードは三人とは離れているところで、アティと共に何やら訓練をしているようだ。その様子を訓練している二人から少し離れたところで父親のアッシュはニコニコしながら見ていた。


 さらに離れている場所にいる調理組と待機しているアリスはそんな三人を眺める。



「あれ、何してるのかしら?」

「え? あぁ、エドワードとアティですか。どうも刀の使い方を教えてもらっているそうですよ。頂いた刀を扱えるようになりたいとお願いされたそうで」

「あー、確か、鬼丸……だったかしら?」

「そうですね。そんな名前の刀ですね。……さて、ご飯の準備も出来ましたから、リリィは三人を呼んできてもらっていいでしょうか?」



 トンッと最後の注ぎ終えたお皿を簡易テーブルに置く。頼まれたリリィは小さく頷き、軽い駆け足で三人を呼びに行ってくれた。呼ばれた三人は訓練を中断し、こちらへと戻ってきた。


 揃ったメンバーは食事をし、もう少し休憩をしてから向かおうと話をしていた時に、バシャンッと水が跳ねる音が聞こえた。


 獣か何かの動物が来たのかと全員の視線が水飛沫の上がった所を見るとそこには、薄灰色の長髪、金と紫のオッドアイの人物、ルーファスの姿がそこにいた。ルーファスはこちらを認識すると慌てた様子でアリスたちの方へと駆け寄る。

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