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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国
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侍の国:出国1

 既に日が沈みかける時間。羅生を前に三条屋敷へと戻っていると、アティは先程の分からないところをグレンに聞きながら歩いていた。元々アティは勉強熱心なところがあったが、今も変わらないようだ。


 グレンから教わるにつれて知らない事を知れて楽しいのか、アティも一層嬉しそうに笑い、そんな二人を羅生は、ジッと見つめる。


 あの男はこの国の人を鏖殺(おうさつ)しようとしていた。


 だけど、自分はどうだろうか。


 目的の為に、自我を保てなかったといえ、殺してきた事には変わりない。やってきた事もやり方が違えど同じ様なものだ。



(許す、許さないはお嬢ちゃんは関係ないとは言っとった。けど、そう簡単なものやない。大事な(もん)を失った時の時の喪失感も憤りも、無くなることはないんや。それは、わしにも(おん)じや。自分が嫌やった事を、わしもしてもうたんや)



 屋敷へもう少しと言うところで、羅生は足を止める。


 止まった彼に、グレンとアティも立ち止まった。



「おい、どうした?」

「……グレン、あの時の話、覚えとるか?」

「あの時?」

「その、わしが、自分の罪に向き合えんやったら肩代わりするって話や」

「あぁ、あれか」



 妖刀と不浄の影響で正気じゃなかったとはいえ、今、冷静に考えると……。



「実は、親父には、妖刀の件のこととか、ホンマの事は話しはしとるんや。せっかく伊東含めて口裏合わせとったんに、すまんな」

「……お前が決めたならそれでいいんじゃないか。私はあくまで預かるだけだったからな」

「あんがとうな。それに、お嬢ちゃんも」

「え、私、何かしましたかね?」

「自覚ないんかいな……。お嬢ちゃんはしてくれとったよ。ワシらは視界が狭ぁなってしもうて、大切な(もん)を悪ぅゆーてたんに、国の事を考えて怒ってくれはった。お嬢ちゃんのようなおチビでも分かるこったに、アカン大人ばっかなんを、一喝してくれた。感謝してもしきれへんわ」

「そ、そうですか……」



 こんな聡明な子がいたら、この国はもっと違かったかもしれない。


 羅生はやんわりと笑いながら照れる少女の頭を撫でまわす。



「まぁ、言いたかったんはそんくらいや。まだ、正気、恨みはないと言ったらアレやけど、まずは国の立て直しや。全部話したら親父にもこっぴどく怒られたけんの」

「そうか、せいぜい頑張れ」

「あんさん、ホンマに興味あらへん事は興味無さげやな」

「…………」


(なんなら、返事もせんなったな……)



 ため息を吐く羅生だが、彼はそういうものだと早々に諦める。諦めていると、アティは羅生の手を掴み、反対はグレンの手を掴む。


 嬉しそうに歩くアティはヘラヘラとして、二人を引っ張るように前へと歩く。



「何がともあれ、仲直り出来たなら良かったです!」

「仲直りちゃうやろ」

「仲直り、です! ねっ! おじ様!」

「あ〜、まぁ、お前がそう思うならそうでいいんじゃないか」

「えへへ、そう思うようにいたします!」

「はいはい」



 軽い返事をした後、屋敷へと戻って行った。



 ◇ ◇ ◇



 それから数日は国の中は慌ただしかった。グレンもたまに呼ばれ、その度にアティを連れて行っていた。本人曰く、将軍から頼まれて意見をまともに言わない連中と、あの子どもの前でへたな意見を言って論破されたのが余程堪えるようで、いい薬になるからとの事らしい。

 昔から、歴史や国の事に興味があった子だからいい勉強になるだろうし、本人も喜んでついて行くからアッシュも特に連れていくことには反対はしなかった。もし何かあっても、ぶっちゃけグレンがいるから大丈夫と思うというとこもある。


 さらに、別の日では羅生がユキへ謝罪にも来た。刀で刺したことをアティから怒られ、謝るようにとも言われたそうだ。

 ユキも怪我も治っていた事もあるので謝罪を受けいれ、たまに羅生と陽が屋敷へと足を運ぶことも多くなっていた。


 そして――



「雨の里ってところに向かうわ」



 三条屋敷の大広間でご飯を食べていた時に唐突にアリスがそう言い放つ。クルクルとスプーンを回して、話す彼女にアッシュは笑いながら聞く。



「あはは、いつも唐突だね。観光はもういいのかい?」

「うん、大丈夫。勉強しながらでも回ったしからね」

「君が満足したならいいんじゃないかな。ところで何で雨の里っていう所に行くんだい?」

「そこに今、ルーファスが滞在してるそうなのよ。なんでも、ちょっとした用事、って聞いてるわ」



 数日前に魔導伝書鳩を飛ばしていたらしく、返事はユーリが書いたそうだが、今、ルーファスはその里にいるらしく、念の為、話の内容的に直接がいいだろうと思ったそうで、そこに行くようにと言われたそうだ。


 たまたま一緒にいた羅生はついでにということで食事をし、口にした味噌汁を飲み干すと、彼女にの方を向いて聞く。



「せやったら、そんまえに親父がアリスに話したいって言っとったけん、呼んでもえぇか?」

「構わないわ。でも急に来れるの? この前も来るって言って来れなかったみたいだし」

「さすがに出国してまうなら来るやろ。ちょっと待ってな」

「あ、それなら俺行くよ、兄者」



 そう言って陽はバタバタと部屋を出て行く。アッシュと一緒にご飯を食べていたアティは気になった事を羅生に尋ねる。



「そういえば、陽さんは羅生さんのことをお兄さんと呼んでますが、会議の時に、失礼な事を言った方が陽さんのことを”お付きの人”、と言ってましたよね? ご兄弟じゃないんですか?」

「ちゃうちゃう。陽は小さい時から、わしとおるんよ。血は繋がっとらんけど、兄者って慕ってくれとるんも、名残や。さすがに城の中では若様って呼ぶけど、外じゃあんな感じや」

「へぇ、じゃあ私とエドワード、リリィみたいなものね! ほらほら〜、私の事、お姉ちゃんって言ってみて!」

「言わん」



 羅生の話を聞いてアリスはエドワードにニヤニヤしながらそう言うと、ズバッと断られる。彼女は”いいじゃないのよぉ”と口を尖らせて拗ねていると、アティがアリスの隣まで行き、抱きつく。



「アリスお姉ちゃん!」

「んんん〜ッ!! 尊い! 素直!! エドワードもこれくらい可愛げあればいいのにぃ〜」

「…………。アリス、私が今更、お前に姉のように慕えは無理だろ」

「何お! ほら、私は可愛くて、可憐で、素敵なお姉ちゃんじゃない!」



 プチッとエドワードが怒りの糸が小さくキレる音がした。


 彼からニッコリと今まで見ないような黒い笑顔を貼り付けて柔らかな口調で言う。



「そうか、そうか。可愛くて可憐で素敵なお姉さんなら、今後、甘い物は是非控えて頂きたいな。可愛い姉様が太ってしまったら弟の身として悲しくなるからな」

「え、ちょ、待って。それって……」

「でも、姉様はここ数日甘い物をずっと食べてしまっていた。食べた分は運動をすればきっと問題は無いだろうし、私もそろそろ体力作りをしなければいけない。姉様なら、それにも一緒に付き合ってくれるよな?」

「う、運動はヤァダ!! 動きたくないぃ〜!!」

「いやいや、大丈夫だ。姉様、一緒頑張ろうか。な? なぁに、今回は将軍が来るまでの間だ」

「ま、まままま、待って! まだ私はご飯中、まだご飯中だし、もう言わないからぁ!!」



 泣きべそ言い始めるアリスを無視して、笑顔のままのエドワードは箸を置いて、嫌がるアリスの首根っこを掴み、そのままズルズルと引き()っていく。

 一緒に引き()られて行くアティは目を輝かせて、”私もやります!”と言って軽い足取りでエドワードとアリスについて行った。


 そんな様子を見ていた羅生は苦笑いしながら呟く。



「は、ははは……、なんや仲良しやな……」

「そうだねぇ」



 ヘラヘラ笑うアッシュは思う。



(あれはしばらくヴィンセント式スパルタ運動をやるんだろうなぁ)



 アッシュが思った通り、将軍が来るまで体力作りに付き合わされていた。


 最近のエドワードは体力作りのために色々と筋トレや、手合わせを増やしていた。元々が身体が弱いという事もあり、長くは出来ないけど、頼まれて一緒に手合わせが増えたのは少し嬉しい。


 彼も戦い方や体力をなるべく消費しないような最小限の動き等を見つけながらやるのもきっと面白いだろう。


 そして、数時間後に陽は秀忠を連れて戻ってきた。



「神子殿、近々出国されると聞いて伺わせてもらった。すまんな、早めに来る予定だったんだが……予想以上に国内の仕組みがぐちゃぐちゃになっててな……」

「い、いやぁ、大丈夫よ……、気にしないで……」

「……どうしたんだ? 神子殿、やたらと疲労困憊のご様子だが」

「い、いえ、お気になさらず……」



 ジャージ姿のままのアリスを心配する将軍に苦笑いをしながらも話を進める。


 本当に時間ギリギリまでジョギングや筋トレをさせられるとは思わなかった……。


 運動で乱れた髪を手櫛で直しながら本題へと入る。



「それで、本題は何かしら?」

「おぉ! そうだ、そうだ。今度、雨の里へ行かれるのだろ?」

「えぇ、そうよ」

「それなら、そっちに行った後、またこの国へ戻ってきてもらいたいのだ」

「……? どうして?」

「今度、クラウンシティ行きの船がこちらに来ることになってな、雨の里に行ったあと、特に行く場所が何も無ければ、是非ともその国へ遊びに行って見て欲しいのだ」

「クラウンシティって……あれ?!」

「そう、あれだ」



 アリスが目を輝かせて、ニヤニヤと笑う秀忠の話にアッシュは首を傾げる。先程まで彼女と運動していたため同じようにジャージ姿のエドワードの袖を軽く引っ張る。



「なんだ?」

「ねぇ、クラウンシティって、何?」

「あぁ、クラウンシティというのは、別大陸にある大きな国だ。別名、道化師の都市や世界一の遊園地とも呼ばれていたな」

「遊園地?」

「どう説明したものか……、まぁ、遊び場が沢山ある国といったところだな。私も詳しくは知らないがな」

「へぇ、なんだか楽しそうなで、アリスが好きそうなとこだね」

「だろうな。ただ、場所が場所なだけに行きずらい場所でもあるからな」

「え、そんなに?」



 エドワードが言うには行きずらさは船がないとダメな事に加え、特殊な魔法石のでないと辿り着くのがかなり困難な国らしい。彼は海域がどうこう言っていたがそのあたりはよく分からない。


 にしても船かぁ、一度だけ乗った事あったけど、あまり覚えてない。正直、どんな船に乗れるか楽しみだ。


 将軍から思わない提案にアリスは目を輝かせる。



「マジで行けるの?!」

「あぁ、大マジだ。港があるから、元々クラウンシティとも交流が多少あっての、余が床に伏せった後は港も封鎖してしまっておったが、ある程度落ち着いたらまた上陸出来るようにしたいと送ったところ、船がこちらに来るそうでな。本来はそれそうの金がいるが、そちらには感謝してもしきれんくらい助けられた。今回は余からの礼として受け取ってくれ」

「……それは、嬉しいけど、これは私が受け取っていいのかしら」

「何故だ?」

「最終的な浄化をしたのはマラカイトよ。私じゃないもん」

「あぁ、そういう事か。案ずるな、余は今回、マラカイト殿にもそれを伝えるつもりだな、この後向かう予定だ。結果がどうあれ、余や羅生もこの国もそちらには世話になったからのぉ」

「……そっか」



 アリスは少し嬉しそうな顔をして、将軍から人数分の紙を受け取る。

 受け取ってくれたのが嬉しいのか、秀忠はニッカリとして、今度は、アティの方を向く。



「お嬢ちゃん」

「え、あ、は、はい!」

「お嬢ちゃんには別で礼を渡したい。おい、待ってこい!」



 そう言って、パンパンッと手を叩くと、夏鬼が何かを布に包まれた細長い物を手に部屋へと入ってきた。


 秀忠がそれを受け取ると、アティの前で布を外して差し出した。

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