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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:私の考え方1

5/13は投稿お休みです

 侍の国を出たヴィンセントとユエは国を出てすぐ、神子は足を止める。立ち止まった彼にヴィンセントは振り返ると、ユエは侍の国をジッと見つめていた。



「どうした? 何か忘れ物か?」

「いえ、忘れ物、では無いのですが……」



 ユエはグレンから手渡された魔石に視線を落とす。

 金色の魔法石はキラキラとしており、とても強い魔力も感じる。それと同時に何処か温かい魔力のようなものも感じていた。


 魔石を見ながらヴィンセントはジッと目を細める。



あの男(グレン)が初対面、とは思うが付き合いのない人に何かを渡すのは珍しいな。アイツもアッシュと似たようなタイプだから、興味のない人間にも縁のない人間には何もする事はないだろうし……。途中、シエルと言ったか? 恩人とも呼んでいたし、それの関連とは思うが……)



 そう考えるヴィンセントはユエが渡された魔石を覗き込むように見る。隣に来た彼にも見えやすいように見せると、ユエは優しく微笑む。



「なんとも、縁というものは不思議なものです。おそらく違う可能性もあるのに、彼が姉の守護者ではないかと思ってしまうんですよね。何故でしょうか?」

「さぁな。神子の勘というやつじゃないかと? あと、その姉、というのは、シエルという神子の事か」



 盗み聞く気はなかったが、グレンが口にした神子の名前。恩人というよりは、あの様子だとアッシュとグレンの守護者はそのシエルだということは検討がつく。

 この男はそれをわかっているのか、わざと気づかないフリをしているかは定かではない。


 ヴィンセントの問いにユエは小さく頷く。



「えぇ、そうです。とても優しく強い方ですし、アリスさんともきっと話が合うと思いますよ。姉も明るい人で楽しい話が大好きなので」

「それは、ぜひアイツに会わせてみたいものだ」

「ふふ、えぇ、是非とも」



 返事をしたユエは金色の魔石を大事そうにしまう。宝物のように扱う彼に、ヴィンセントは先頭を歩きながら気になってた事を聞く。



「そうだ、護衛をする代わりという訳では無いんだが、お前が見たアビスの知っている事を話をしてくれないか?」

「アビスの事、ですか?」

「あぁ」



 甘味屋でアリスが思い詰めていたアビスの事を何か少しでもいい、アイツらの役に立つ物がないか多少なりの情報を集めておきたい。


 真剣な眼差しで見るヴィンセントにユエは変わらず微笑む。



「……えぇ、大丈夫ですよ。私が見たもの、分かるものでよろしければ。ルーファス様の騎士団まではそれなりに遠いですから」

「すまんな。……にしても、お前、捕まったのに助かったのは幸運だな」

「ハハッ 昔から運も悪いですが、運もそこそこ良い方なんです」



 そう言ってユエはニッコリと笑う。



 ◇ ◇ ◇



 その頃、アリスたちは屋敷に戻ると、グレンから頼みがあるという事で部屋である事をしていた。


 アリスの正面にノアは気だるそうに座っている。



「ノア、準備はいいかしら?」

「おん、いいぞ〜」



 ドンと来いと言わんばかりに座り直したノアに向けて、緊張している様子のアリスは深呼吸をして、彼に向けて指をさして(めい)じる。



「”神子として(めい)ずる! 3回、回ってワンしなさい!”」


(もっとマシな(めい)じ方はなかったのか……)



 アリスの命令に、グレンは呆れた顔をしていると、ノアのツァボライトの瞳がスファレライトの色へと変わる。露骨に嫌そうな顔をしながら、アリスの命令通り、3回クルクルと回ると、高らかにワンッ! と声を上げた。


 吠えたノアにアリスとユキは驚いた顔をして、パチパチと手を叩く。



「おぉ、できたわ!」

「できたわ、じゃねぇよ!! なんだよ、今の?! もっとマシなヤツはねぇの?!」

「だって、アンタがしなさそうな事だって思ったらそれくらいしかないもん」

「だとしてもだろ!! くっそ恥ずい!!」



 顔を真っ赤にしたノアはバタバタと足をバタつかせて、隣にいたユキにしがみつく。子どものように拗ねたノアを無視して、アリスはグレンの方を見る。



「ノアが効いたなら、エドワードとかリリィには効くと思うけど、こんな感じかしら?」

「あぁ、まぁ自分の守護者には出来るのは想定内。次は私にそれをしてみてくれ」

「え、アンタに3回、回ってワンしたらいいの?」

「それ命令してもいいが、後で叩くぞ」

「え〜」



 イラッとした顔でグレンはアリスの前にあぐらをかいて座る。


 だが、コレは確認するのに必要な事だ。他人の守護者がこの神子の(めい)が主以外で効くのかどうか。

 実際、アビスの守護者でもないグレンがあの神子の(めい)が何故、通じているか、もし通じるなら神子であれば全ての守護者はそう出来るという事にもなるし、それはそれで何かしら対策もしなければいけない可能性も出てくるからだ。

 万が一、他人の守護者にも強制的に命令が可能なら、悪意を持つような神子はいないだろうけども、そうなってしまう場合の想定をしておいた方がいい。


 アリスはグレンの方へ向いて座り直すと、ノアとは違うまた別で緊張しそう。なんと命令しようか悩みつつ、グレンに向けて命じる。



「ん〜と、それじゃ……。”神子として(めい)ずる!”」

「…………」

「………………」

「……………………」

「……………………………」

「おい、まだか?」

「ちょっ……と、待って、マジで何を言うかわかんない」

「シンプルになんでもいいだろ」

「え〜、せっかくなら面白いのがいいじゃん」

「面白いものでしようとすんな。テストだって言っただろ」

「あと、アンタ相手だと普通にキンチョーする」

「それは知らん」



 いざ何か命令と言ってもそんなに出てこない。わがままは言ったりした事はあるけど、今はして欲しいって言うのはあっても今じゃない気がするしなぁ……。


 悩んでいるとノアがユキの膝の上で寝っ転がりながら、ヘッと口をつのらせる。



「俺ん時は容赦ねぇのに、グレンには気を使うのかよ」

「あら、別に気を使ってないわよ。面白い内容が浮かばないのよねぇ」



 命令の内容を決めきれないアリスにグレンは腕を前に組みながら待っていると、何かを思いついたのか彼女はニヤッと笑う。

 何か悪巧みでもしたのかと思っているとアリスは立ち上がる。



「きーめた! あらためて、” 神子として(めい)ずる! グレン、あなたは男なのか女なのか、正直に答えなさい!”」



 そう(めい)ずると、彼は目を閉じる。色が変わってるかどうかも分からないまま、アリスとノアはゴクリと息を飲み答えを待つ。



「ど、どっちなんだ?」

「早く、早くー! 効いてるなら答えなさいよォ!」



 ワクワクする二人に、間を少し空けて、ゆっくりと彼は目を開ける。グレンの瞳には変化がない。金色のままだった。

 彼は、自分の足の上に肘をついてニヤリと笑う。



「さぁ、どっちだと思う?」

「ちぇっ、効いてないじゃない」

「というか、そんなに気になるか?」

「気になる。アンタの顔立ちってどっちでもありそうだもん」



 顔立ちが整ってる事もあるし、声も中性的だからか、どっちでも有り得そうではある。前に女性だと言っていたが、周りは男だと言うし、本人も否定も肯定もしないからどっちか未だに分からない。


 どうせ、命令が出来るならそれで判明したらいいなと思ったけど……。


 当の本人は興味無さそうだ。



「まぁ、どうでもいい事はさておき……」

「あ、もう興味無ねぇじゃん」



 思わずツッコんだノアだが、グレンは少し悩ましそうに眉間にシワを寄せ、ブツブツと呟く。



「アリスの(めい)では効かなかったな。いや、そもそも何か特別な条件でもあるのだろうか……。あるとしたら盟約? それとも、何かの契約か……?」



真剣に考えて思考してる。横で手を振るってみるが気付いてるのかそれともワザと無視してるかは分からないがグレンからの反応がない。


提案者が考え込んでしまったし、どうしようかと思っていると――。



「ん? あ、いたいた。君ら、こんなところで何してるんだい?」



 部屋の前を通ったアッシュがグレンたちを見つけてニコニコと笑いながら覗き込む。だが、聞こえてないのかブツブツとまだグレンは考えている。


 彼の代わりにアリスはアッシュを手招きし、部屋へと入れ込む。


 急に手招きされたアッシュは首を傾げつつもされるがままにいると、今度は手を握ってニヤッと彼女は笑う。



「ねぇねぇ! アッシュにも試していい?」

「うん、いいよ」

「即答ね〜。何するか聞かないの?」

「君の頼みなら、なんでも聞くよ。何して欲しいんだい? パンケーキが食べたいの?」

「ちょっとアンタ、私がいつも食い意地ばっかと思ってない?」

「間違っちゃいねぇーだろ」

「黙らっしゃい、ノア」



 余計な一言が多いノアに向けて近くにあった座布団をぶん投げるが、さすがにユキに防がれる。


 ”食べ物以外でも何か頼みはあれば言うもん”、と言ってアリスは頬を膨らませるが、一旦は置いておこう。再び彼女はアッシュの方を見て、手を握った状態で深呼吸をする。

 ゆっくりと息を吐いて、アッシュの顔を見ると、瑠璃色の瞳と目が合う。


 何故だろうか、デジャブな感じだけど、さっきグレンにも緊張したけども、別ベクトルでまた緊張してしてしまい、言葉が出ない。


 うぅ〜、徐々に顔を真っ赤になってしまうのが分かる……!


 顔を合わせた状態で固まった彼女に逆にアッシュが彼女の頭を優しく撫でる。



「どうしたんだい?」

「な、何でもないわよ! んじゃ、始めるわよ!」

「うん、どうぞ」



 アッシュは頭を撫でていた手を降ろして、ニッコリと微笑む。そんな彼に向けて、アリスは手を握っている逆の手で指をさす。



「”神子のとして、(めい)ずる、私を天高く上空まで抱きかかえてジャンプしなさい!”」




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