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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:アリスの憂鬱2

 甘味屋に着くとヴィンセントは席に着いて、アリスもフードを被ったまま座る。


 普段、ヴィンセントは神子とか重要な話をする時、絶対人払いして、誰も居ないところで話をしてくれる。こんなところで話をするのは珍しい。けど、周りには聞こえないようにトンッとテーブルを指先で叩き、遮音結界魔法を詠唱する。


 薄い膜のようなものが二人の周りを囲み、魔法が展開された。



「よし、コレなら話は出来るだろ。甘い物を食べながら話をしよう」

「……いい、いらない」

「いいから、さっさと注文して、食え」

「…………」



 怒っているような口調で、メニュー表を押し付けるように手渡される。不機嫌そうに渡してくるヴィンセントにアリスは萎縮しながらそれを受け取って中身を見るふりをして視線を彼に向ける。


 何よ、さっきもそうだけど、なんか食べさせて、何がしたいわけ? 食べるよりも先に話を聞きたいのに。



「ていうか、なんで甘い物よ。アンタ、そんなに甘い物好きじゃないじゃん。それに、話す気がないなら、書類だけ貸して。記録、残してんでしょ?」

「話す気はある。が、今のお前、そんな顔しているからだろ」

「顔? 何よ、いつも通りよ。私が珍しく勉強するからって変に気にしすぎよ」

「……ただ勉強するなら、私もこうやって一対一で話す気はなかった」

「?」



 ヴィンセントの言葉に首を傾げる。


 口を閉ざして、ジッとヴィンセントを見ていると、彼は水を持ってきた店員に遮音の魔法の許可と、なにか適当な物を頼むとため息を吐き、椅子の背もたれに寄りかかる。



(変な、顔してるのかしら? ただ勉強するつもり、なんだけど)


「お前、どうしたんだ?」

「どうしたって、なんも無いわよ」

「あるだろ。じゃなかったら、お前、いつもの食い意地がないし、暗い顔をしてるだろ」

「……そんな事ない。いつも通りよ」

「…………はぁ、いいか、アリス」



 頑なに否定する彼女はずっとこちらに視線を向けようとしないので、彼女に前まで手を伸ばして、トンッと指でテーブルを叩く。音に視線が少し動いた。



「私は、前に遊ぶな、とは言った。神子の使命があるからだ。だが、同時に私は、お前には楽しく旅をしてほしいんだ。じゃなかったら……、これまで知らなかった神子の事や守護者の事、それが出た段階で、私はお前を連れ戻すつもりだった。けど、お前は旅を続けたいんだろ?」

「……うん」

「お前の守護者たちでは、正直、今のままでは頼りない。けど、今はアッシュがいる。……気にくわないがあの男の事は一応、認めるし、神子の事や守護者の事はアイツの方が詳しい。だからこそ、お前たちを連れ戻すのは諦めている、という点もある」



 本当にクロノスでアイツが信用ならない場合、無理矢理でも連れて帰るつもりだった。信用が出来るかも分からない馬の骨に、神子であるアリスを任せる気はなかったが、力が護衛であっても、守護者であっても奴が強く、誰よりもアリスたちを優先する事も、分かっている。



「というか、あの男が、お前が旅を続けたいのに、私が連れていこうとすると今度は私が殺される可能性もあるからな」

「いや、アッシュはそこまでしないと思うんだけど……」

「いいや、あるな。アイツからしたら私はあくまでもお前たちのおまけ程度だ。お前が拒めばしないだろ」



 アッシュは私たちが嫌がる事は命に関わるレベルじゃなければしようとしない。ヴィンセントを殺さなかったのもエドワードの親族だからっていう理由かもしれない。


 こうしたい、あぁしたい。


 助けてほしい、助けたい。


 手を貸してほしい、手を差し伸べてあげたい。


 そんな私たちのわがままを聞いてくれる彼に、私は、随分と甘えていた事は、否定できない。


 力もないくせに、出来もしないのに、彼に頼りっぱなしで、彼が倒れた時、私たちは助けてもらっているのに助けてあげることも、守ってあげることも出来なかった。


 今、考えると私は最低な神子だ。


 俯くアリスは言葉を発さなくても何となく、ヴィンセントは察したのか、深いため息を吐きつつも、本をアイテムボックスから取り出す。


 黒い表紙に魔法で封印が施されているのか、おもて表紙には錠のマークがあり、それを彼女の目の前に置く。



「はぁ、まぁいい。決めるのは、お前たちだ。私はサポートしか出来ん。この本に私が知っている事や歴代の守護者たちの遺したものを分かりやすく書き記している。それに……」

「それに?」

「私は今、お前を連れ戻すよりも、そのまま旅を続けた方が安全だと思う」

「えっ? それってどういう意味?」



 ヴィンセントの言葉に疑問があるアリスの質問に、少し彼は眉間に皺を寄せる。取り出した本とは別の白い表紙の本を取り出す。



「確証がある訳では無い。だが、確信に近いものがあるという状態だから、お前に言うべきか正直、迷っている。だから、確証があれば、お前たちに話す。それまでは今まで通りに旅を続けてくれ」

「それって、なにか危ない事じゃないわよね?」

「危ないかは、わからない。だが、お前やエドワードたちを守っていくには確証がある上で確かめなければならないと思っている」

「……っ」



 いつになく真剣な眼差しで告げられる言葉の重み。ヴィンセントは今も昔も変わらず、私たちのために動いてくれている。


 調べようと思った理由もちゃんと話をしてないのに。



「……あ、あのね、ヴィンセント」

「なんだ?」

「わ、私、さ、ほら、すごく面倒くさがりじゃない?」

「まぁ、そうだな。面倒くさがりだし、自分勝手だし、こっちが注意しても聞かないからな」

「うっ……、そこまで言ってないわよ……」

「その自由さは、お前のいいところでもある」



 褒めてんのか、貶してるのか、なんだろうか、と少しムッとするアリスだったが、ムスンッとしながらも続ける。



「私が、勉強しようと思ったのは、この国で怨恨を広めた元凶、アビスの事でそう思ったの」

「アビス?」

「グレンの今のご主人、何処の国だったかしら? 何処か忘れちゃったんだけど、深淵の神子って呼ばれる人、って言ったら分かる?」

「あぁ、深淵の神子なら聞いた事がある。名前程度だがな」

「うん。私たちは女神様に選ばれて神子になってるじゃない? けど、その人は世界樹や女神様たちとは真逆の存在、ってグレンは言ってたの。会ったことは無いんだけど、今回の事とか、その、あんな、残酷な事、平然とやる人。だから、もし、その人がアッシュたちやエドワードたちを傷付けてしまったらと思うと怖くて……」



 だんだんと自信が無いのか声が小さくなってく。


 そこから話をどうしたらいいのか黙ってしまった。それと同時でだろうか、頼んでいたパフェが届き、アリスの前に置かれる。ヴィンセントの前にも同じ物が置かれ、店員は軽く頭を下げ、下がって行った。


 黙ったままのアリスに、ヴィンセントは細長いスプーンをアリスに差し出す。



「それで? どうしたいと思ったんだ?」

「……それで、その、真逆の存在で私たちなら不浄を浄化して助けられるかもって言われたの。でも、ほら、私、今回、最後の最後、肝心な時に役に立たなくてさ。マラカイトが来てくれたから事なき終えたって感じだったじゃん。今更だけど、ヴィンセントやアンタのお父さんに言われた事が結構きてるっていうか……」

「…………ふぅん、なるほど」



 アリスの言いたいのは、最後役に立てず、あの神子に助けられた事や神聖魔法が効かなかった事が重なってしまった事が原因か。


 肘を着き、考えながらも目の前のパフェをスプーンでサクサクと突き刺す。



「ま、私が言えるのは、今まで怠けた結果としか言えん」

「うっ……、そうなんだけど……」

「キツい言い方になるかもだが、落ち込む暇があるなら自分が出来る限り尽くしたらどうだ? 頑張ってる、やろうとするだけなら誰でも出来る。そこから更にどうするかだなんて、お前次第だろ」

「……うん、そう、だよね」



 落ち込む暇があるなら、か。確かにそうかも。怖いからって進まないのも、やる気だけならっていうのは誰でも出来る事だもの。



「……そう、ね。私はもっと知らないといけないし、頑張ろうと思うの」

「あぁ、お前が頑張るなら、私も手を貸す。中途半端にするなよ」

「うん、ありがと」



 まだ表情は固いが、少し前向きなはなったんじゃないかと思う。そこから先はエドワードたちに任せよう。慰め方なんて、アイツらの方が知っていそうだ。



「よし、私、アマテラスとルーファスに手紙をちゃっちゃと書いて出そう! もし二人から話を聞けたら色々わかる可能性もあるわ!」

「……おい、お前」

「何よ?」

「急な内容ならこの後は私は屋敷に帰るつもりだからな。先生に手渡しでいいなら持っていくぞ」

「いいの?」

「いい。それよりさっさと食え」

「はぁい」



 いつもの能天気のような返事をしたアリスにヴィンセントは少しクスリと笑う。

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