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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:アリスの憂鬱1

 時間が経過し、夕方頃。

 仲良く三人で寝ていた中、先にアリスが目を覚ます。


 徐々に蒸し暑さがあるからか、寝苦しさを感じる。眠気は少しづつ無くなるにつれて、頭が少し痛くて、身体がいつも以上に重い上に、筋肉痛のような痛みもある。


 痛む頭を手で押さえながらも、隣でスヤスヤと寝ている親子が視界に映る。彼女は少し身体を起こして周りを見渡すと、アッシュとアティ、自分と川の字で並んでいた。



(……よく寝てるわねぇ)



 身体を横に倒したまま、肘を着いて頭を支えて親子をジッと見つめる。一番近いアティの頭を撫でると、少女はムニャムニャとして父親であるアッシュに身を埋める。


 見ていると和んで、とても可愛らしい。


 冷静にいるために和もうとしていたが、眠る前の事が頭を過ぎる。


 せっかくみんなに頼ってくれていたのに、私、何の役にも立たなかった。いや、ずっと怠けていたんだ。ちゃんと努力していた人に劣るのは、当然だ。


 よく、ヴィンセントにも、その父親にも、言われていた。


 神子なのだから、その自覚を持て、と。



「……私、こんなにも足でまといだったんだ」

「そんな事ないよ」

「ひゃっ?!」



 ボソリと呟いたアリスの言葉に、目の前で目を閉じて寝ていたはずのアッシュから返事が返ってきたため、相当驚いてしまう。


 アリスの小さな悲鳴に、アッシュはちゃんと目を開けてクスリと微笑む。



「びっくりさせてごめんね」

「あ、アンタ、起きてたの?」

「ちょっと前くらいに起きてたよ。ただ、身体が重くてね。二人が起きたら動こうかなぁて思って目を閉じてただけさ」

「そ、そうなの? 身体重いって、何処か悪いの?」

「うぅん、魔力切れの影響。しばらくしたら治るから、大丈夫」

「魔力切れ……」



 ふと、自分も同じような感じだから今、頭が痛いのも同じように身体が重く感じるのも魔力切れが原因なのかと勝手に納得してしまう。


 アッシュは変わらず横になった状態で、チラッと目を開く。翡翠の瞳が瞼の隙間から見えると、胸の奥で何かドキッとするような感覚に、咄嗟に視線を逸らす。



「それより、アリス、今日はよく頑張ったと僕は思うよ。神託の受けてない魔法の行使は、特に、神聖魔法の魔力の消費はかなり大きいし、負担になるからさ」

「……でも、私、ちゃんと祓えなかったじゃない」



 自分の魔法が不浄の花に吸収されてしまい、反撃されたあの時。

 もし、マラカイトが来なかったら、きっともっと危ない状況になってた気がする。今、思い出すだけでもゾッとしてしまう。



「大丈夫。君がもし、危ない時になっても僕が守るし、何よりも、君は君が出来る最大限の事をしてくれたじゃないか。それだけでも、僕はじゅうぶんだと思ってるよ」

「土壇場でミスっちゃったら意味無いじゃないのよ」

「あははっ 大丈夫大丈夫。そのための僕たち、守護者がいるんだよ。神子も守護者も出来なかったことや足りないところを互いに補うために一緒にいるんだからね」

「…………それって、アンタたちのところのご主人様も同じだったわけ?」



 アリスの返事にアッシュがピクリと表情が固まる。


 彼女は少ししまったと思い、ソッとアッシュから視線をまた逸らしてしまう。



「あ……、いや、ごめんなさい。失言だったわ」



 そう言って倦怠感に襲われたままの身体を起こして部屋を出ようとしたが、アッシュは変わらず優しい声で返事をした。



「うぅん、いいよ。気にしないで、聞きたいなら聞いて大丈夫だよ」



 気を使ってくれたのか、それともアッシュだからそう返事してるだけなのかは分からないけど、立ち上がるのをやめたアリスは座り直して、もう一度彼の方を向く。



「……あの、ね、アッシュ」

「何?」

「その、アッシュとグレンの主さんって、どれくらい強かった?」

「え、主様(マスター)の強さ?」

「うん」

「ん〜、そうだねぇ」



 彼はアティが起きないようにゆっくりと起き上がる。



「どうだろ、僕の中では主様(マスター)はとても強い、っていう印象がすごく強いかな。結構頑張って僕も強くなった、つもりだったけど、子どもの時とはいえ、覚醒してても主様(マスター)に僕もグレンも勝った事ないんだよ。それこそ、女神化してないのに足元にも及ばないって感じ」

「え、待って、それって腕っ節で? 魔法だけの勝負とかではなく?」

「腕っ節も魔法もそうだよ。グレンの場合は魔法がとても学ぶのが好きだったから、彼がよく魔法を創ったり改造したりする事を教えたのも彼女だからね」

「マジ……?」



 子どもとはいえ覚醒した時でも強いし、それに女神化してない状態でそんなに強いのかと驚愕してしまう。


 自分はどうかと思うが、ノアには勝てても女神化したらエドワードには勝てるかな? というくらいだ。さすがにリリィには腕っ節で勝てない。魔法はワンチャンあるかもだけど……。


 頭を悩ませている彼女が面白いのかアッシュは楽しそうに続ける。



「まぁ、でも、昔は僕もグレンも子どもだったからあんまり実戦では戦わせてくれなかったんだよねぇ。一緒に任務に行ってた事あったけど、戦闘はあまりさせてくれなかったんだよね」

「へぇ、なんで?」

「そうだなぁ。まぁ、一番は、僕とグレンは一度、主様(マスター)の目の前で、死んじゃったらしいからね」

「あ……」



 そうか。二人が子どもの頃、て事は、シエルさんがどんな人でどれくらい生きていたかは知らないけど、でも、いい歳の大人だったと思う。そんな人が目の前で、自分の守護者が死んでしまったところとか、そういうのは、普通は、嫌だと思う。


 私はハーフエルフだけど、ほとんど寿命に関してはエルフに近い。そっちの血が濃ゆいと言われてる。


 だから、エドワードたちを見送るなんてことは、よくあったから、そういうところは、軽薄になってしまっているのかもしれない。



「だから、主様(マスター)によく前に出て怒られた事も、いい思い出だよ」

「アンタ、すぐ突っ走るもんね」

「あははっ それこそ、前に話してた神子の(めい)で止められたよ。グレンには呆れられたけどね」

「あ〜、なんかその光景は目に浮かぶわ……」



 猪突猛進に進もうとしているアッシュがシエルさんに止められて、それに対して呆れ返ったグレンは、なんだか少し、羨ましい気もする。


 私は、弱くて、それなのに守ろうと頑張ってくれている、みんなと同じように、対等に頑張れていない。

 なら、私がする行動は今からでも、いや、もう遅いかもしれないけど、少しでも、神子の事や目を逸らしてきた事に目を向ける事だ。



「……君が僕に主様(マスター)の話題をふるの、初めてだね。何か思うことがあったのかい?」

「…………うぅん、ちょっと気になっただけよ」

「そっか。それに、もしまた気になったら聞いてよ。昔ほど、話す事には辛くはなくなったからさ」

「そう、ありがとう。もし聞きたくなったら、また聞くわ」



 とは言え、まだ真っ向に聞こうと思っても、力の差が天地ほどある人の話を聞く勇気がまだない。すぐには、聞けないけど、もっと理解して、分かるようになるまでは、彼から聞くのは、少し先にしよう。


 そう思いながらアリスは隣でヘラヘラとしているアッシュの袖を引っ張る。



「ねぇ、私、ヴィンセントの所に行くけど、アンタはもう少し寝てる?」

「うん。アティが起きてからみんなところとに行こうかなぁて思ってるよ」

「そ、じゃあ私は先に行くわ。話してくれてありがとね」

「うん、どういたしまして。行ってらっしゃい」



 彼は手を軽くヒラヒラと振るう彼女は襖を開けて、部屋を出ていき、二人が残っているため、扉を再度閉める。


 部屋を出てすぐ、周りをキョロキョロとすると、探していた人物はすぐに見つかった。



「おーい、ヴィンセントー!」



 アリスに呼ばれてヴィンセントは振り返る。どうやらリリィとエドワードで手合わせをしていたようだ。


 外を見ればもう夕方だ。沈みかけている夕日に照らされているヴィンセントは滴る汗を拭い、一緒に手合わせをしていた二人と少し話をして、駆け足でこちらに走ってきた。



「起きたのか」

「うん。お待たせ」

「体調は? 魔力の方は問題ないか?」

「バッチリよ!」



 元気よくガッツポーズをする。元気良さそうにしていたからかヴィンセントも心無しかホッとしてるようにも様子が見れる。心を詠まなくても、みんなは私のために心配もしてくれるし、気を使ってくれている。

 分かるからこそ、今までダラケてたのは良くない。今回の出来事で、酷く痛感した。



「それよりヴィンセント」

「あぁ、神子の話だろ? 話す前に聞きたいんだが、お前、どういう心境で聞こうと思ってるんだ?」

「え?」

「いつもなら聞こうともしないし、簡単な報告程度でそういった話題はしなかっただろ。……この前、助けてもらった神子か?」

「……いいじゃない。たまには私も勉強したいって思ってんの」

「…………」



 ムスッと拗ねたような様子で返事をしたアリスに彼はため息を吐いた後、顔を(しか)め、自分の頭を軽くかく。そして、空いた方の手で彼女のおでこに向けてバチンッと指を弾く。



「痛ったい?!」

「話の前に、飯にするぞ」

「え、何よ、急に。というか、なんでデコピンしたの?!」

「いいから、飯だ。エドワードたちも呼んでくるから、もし、アッシュたちも起きているなら呼んでこい。準備はユキたちが既にしてくれているからな」

「え、ちょっ――」



 呼び止めようとするアリスを無視して、肩で息をし、疲れ果てているエドワードと、まだ余裕そうにしながら水を飲んでいたリリィを呼びに行ってしまう。



「……何よ、起きたら話すって言ったのに」



 プクゥと頬を膨らませていたが、言われた通りアッシュを呼びに行く。


 だが、彼はまた眠ってしまったのかスヤスヤとしていた。


 起こそうかどうしようかと悩むと、後ろから勢いよくスパンッと勢いよく襖が開かれ、突然、開いた扉に驚いていると、後ろに立っていたのはエドワードだ。



「ん? まだ寝ていたのか?」

「さっきまで起きてたわよ。でも、また寝ちゃってるみたいだし、どうする?」

「そうだな。起きてたら連れていこうと思ってただけだし、一言声をかけて起きなければそのまま寝かせてやれ」

「それもそうね」



 アリスは寝ているアッシュとアティの肩を軽く揺らす。アティはその揺れに目を覚ましたのか、背筋を伸ばして背伸びをしながら目をシバシバさせて目を開けた。



「ふぁ〜……、おはようございます……、アリスさん」

「おはよ、アティちゃん。ご飯食べる?」

「はぁい、食べまぁす〜」



 寝惚けているようだが返事をすると一緒に横になっているアッシュの上にモソモソとよじ登ると、そのまま、のしかかる。両手を高らかに上に掲げて勢いよく振り下ろす。それを数回、叩くように繰り返して起こす。



「お父さ〜ん、おっきろぉ〜。起きないともっと強く叩くぞぉ〜」

「はいは〜い、起きるからちょっとそれ、やめてねぇ」



 元々起きていたという事もあるのか普通に起き上がった。少女はまだ叩いてくるため、片手で少女の両手を押さえ込んで、隣にいるアリスとエドワードの方を見て、”おはよう”とハニカミながら言う。


 起きた二人を連れて、大広間へと行くと、確かにユキやノアが準備してくれていたのだろう。夕ご飯の準備が出来ており、スムーズに食事をみんなで取る事が出来た。


 ……でも、いつも楽しいご飯なのに、思うように箸が進まない。


 なんでだろう。美味しいご飯なはずなのに、楽しみにしているご飯なのに、喉に食事が通らない。


 モヤモヤが渦巻いたまま、食事は終わり、 ヴィンセントとアリスは外に出て、甘い物を食べようと彼に言われ、甘味屋へと足を運ぶ。

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