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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国
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侍の国:灰色の神子

5/9は出張のため投稿をお休み致します

 ヴィンセントとアリスは甘いものを食べ終え、彼が会計を済ませたている間に先にアリアは暖簾(のれん)をくぐり、外へと出る。


 お腹いっぱいとはいえないが、それ以上入らなかったし、あとは戻って彼からもらった本を読まないと。


 本を抱えて、待っていると、背後からフワッと風が吹く。振り返るとそこにグレンとナギが立っていた。が、よく見たら誰か抱えている。神子、なんだろうか。



「グレン、お帰り」

「おか……、いや、まぁ、ただいま。珍しいな、一人か?」

「うぅん、ヴィンセントも一緒。ところで、その人は神子?」



 彼女はグレンが肩に担いでいる神子を指をさす。ぐったりとしており、白い髪に毛先が灰色の神子に興味があるのか、彼の周りをクルクルと回って確認する。


 なんだかここ最近、神子に会うことが増えたなと感心してしていると、彼女の問いに彼は小さく頷く。



「あぁ、そうだな」



 肩にいた神子の様子を見れるように、グレンは気を失っている彼を近くにあった横長の椅子に寝かせる。眠っている神子の顔をのぞき込むアリスは本を抱えてしゃがみ、神子の頬をツンツンと突く。


 確か、アッシュやグレンは魔力循環をして状態を診てあげていたはず。


 頬に触れながらも魔力を流してみると、何か、変な気配みたいなのが感じる気がする。これくらいなら彼も気付いているはずだと、チラッとグレンの方を見る。



「回復させないの?」

「させてる。連れてくる前に(あるじ)から両目と腕を捥がれていたからな」

「え、そうだったの?」

「グレンはん、ジッと見ないでおっとたけど」



 彼の後ろから今度はナギもヒョコッと現れる。


 現れたナギはアリスに向けて、”いえーい”、と二人はハイタッチをしている様子にため息を吐いているグレンは少し面倒くさそうな顔をする。



「ま、とりあえず、(あるじ)から後始末任されたから、コイツをギルドに任せてしまおうかと思っている」

「……それって絶対に後始末って、殺してどっかにやれって意味じゃないの?」

「ま、殺して放置も何処かに放置も変わらんだろ。後始末、としか言われなかったからな」

「あっはっはっ、それもそっか」



 ニヤッと笑いながら言うグレンの言葉にクスクスと笑う。


 始末しちゃうなら別に何処に置いていこうがどうかは勝手かもしれない。だから、こそ彼は傷ついた人たちを魔法で治し、ギルドで保護してもらおうって事かもしれない。少しばかりのアビスへの抵抗なのかも。


 でも目を覚まさないのは心配だ。



「じゃなくて、なんか変な気配感じるけど、それはいいの?」

「よく気づいたな。……まぁ、私は怪我の治療は出来ても不浄は浄化する事が出来ない。いつもギルドに預けてる時に自分で治すようには伝言を頼んでおこうかと思ってはいる」

「ふぅん、そうなんだ」

「それに、この程度なら神子が使う、通常の回復魔法でも問題は無いと思うがな」

「あ、普通の回復魔法なら私がしようか?」



 正直、効くかどうかの自信はないけども……。


 アリスの提案にグレンは、”できるなら頼む”と呟く。了承を得た事で彼女は気を失ってる神子に向けて、ボソッと魔法を唱える。



「”光魔法:女神の祝福(ディア・ブレス)”」



 眠っている神子の周囲に鐘の音と共に羽根と光の粒子が舞う。それは吸い込まれるように消えていく。光がおさまると、神子の瞼がピクリと動いて、目を覚ますと彼は曹灰長石(そうかしちょうせき)色の瞳で隣にいたアリスと目が合う。



「あ、え、えっと、此処は?」

「あら、おはよ」

「おはよう、ございます? って、あっ! あなた!」



 目を覚ました神子は彼女の後ろにいたグレンに驚くが何故か笑顔を見せる。



「助けてくれたんですね、ありがとうございました」

「助けてない、たまたまお前を処分しろと言われたからだ。治したのもアリスだ」

「えぇ、もちろん。彼女にも感謝しております。魔力から見て、最後の回復は彼女にしていただいたのは存じてます。あなたも神子ですね? えーと、アリスさん? でよろしいのでしょうか?」

「うん、そうよ」



 神子は長椅子から立ち上がると、スラッとした立ち姿で礼儀正しく頭を下げる。



「申し遅れました。私は、ユエ、ユエ・ヴァールハイトと申します。」

「私はアリスよ。ユエは身体、大丈夫だったの?」

「えぇ、大丈夫です。お二人には感謝してもしきれません」



 助けたわけでもないが、目を覚ましたなら後は自分でどうにかするだろ。


 念の為、アリスが魔力循環でしていると、グレンは手を軽くヒラヒラさせて、その場を離れようとする。



「目を覚ましたならあとは自分で自身の守護者と合流は可能か? 私はまだ仕事が残ってるから可能ならそうして欲しいんだが」

「はい、そうさせていただきます、と言いたい所なのですが……」

「なんだ?」



 ユエは少し言いにくそうな顔をしながらも困ったように笑い答えてくれる。



「実は、私の守護者たちはまだ幼く、恐らく今はルーファス様に預かって頂いてるのです」

「ルーファスの?」

「えぇ。私が攫われる時に、咄嗟に転移の魔法石でルーファス様の所へと強制転移させているのです。……ルーファス様の所に飛ばされたあの子たちはきっと怒っているでしょうが……」

「……ふむ」



 彼の話を聞いてグレンは少し目を細める。


 ここからルーファスたちのいる騎士団はかなり距離がある。それをギルドの人やこの人個人で行けるか心配といった様子だ。

 少し考えていると、後ろから会計がようやく終えたヴィンセントが出てきた。



「おい、アリス、今終わった――って、どうしたんだ?」

「あ、ヴィンセント、ご馳走様。んとね、グレンがユエ――神子を保護したみたいなんだけど、どうやらルーファスの所にこの人の守護者がいるようなのよね」

「先生の所にか」

「うん」



 そういうとヴィンセントは困っている様子の神子を見て前まで行くと軽く頭を下げる。



「初めまして、ヴィンセント・エフェメラルだ。もし良ければ私も先生に用事がある。そこまででいいなら送ろうか?」

「えっ! いいんですか?」

「あぁ、守護者が不在なら変に護衛を雇うのも難しいだろ。それに、グレンもまだこの国で用事がある。なら、私が送った方が一番都合がいいと思うからな」



 彼の提案にユエは嬉しそうに笑顔に変わった。


 確かに、グレンもまだ此処で用事がある。

 ヴィンセントが言っていた護衛を頼むのも可能だが、所詮は一般の護衛。ギルドの人たちであってもどんな人たちかはわからない。信用出来るランクの冒険者ならいいかもしれないが、そうじゃない人もいるし、長距離ならば人攫いに出くわしたり素性のわからない人と一緒にいるよりは、ヴィンセントの方が信用性があるし安全だ。


 グレンはヴィンセントの方に顔を向ける。



「なら用があるならついでに任せてもいいか? ギルドの方よりはお前の方が信用があるからな」

「それは光栄な事だな。それに、神子の保護も私たちの一族の仕事でもある。もしもの時は命を懸けて守るから安心しろ」



 皮肉もありそうだが、腕は確かだ。そこら辺の有象無象よりは腕が立つ。


 二人の会話に、ユエは深々と頭を下げる。



「……本当にありがとうございます。見ず知らずの私のために尽くしていただくのは感謝のお言葉も足りないほどですね」

「私はさっきも言ったが助けてない。お前の運が良かっただけだ」

「それでもあの場所から出していただいた事は変わりありません。それに、そうせざる得ない状態だったのです。神子の(めい)を使っているように見えましたし、逆らう事が出来なかったでしょうから」

「…………」



 いいや、違う。あの時の神子の(めい)はコイツから助けを求めるた後に使用されていた。

 だから、命があったからいいものの、ヘタしたら見捨ててしまい、あの場で殺されていた可能性もあった。たまたまアビスが興味を無くしたから助かったというものだ。


 ユエのお礼に対して目を合わせず、(そむ)けたまま、グレンは返事をしなくなった。


 ヴィンセントはユエとグレンを見た後、アリスの元まで歩いて、頭をポンポンと撫でる。



「と、言うわけだアリス、私は此処でわかれる。どうせグレンは今から三条屋敷に行くんだろ?」

「……まぁ、そうだな」

「なら、屋敷までアリスを任せてもいいだろうか」

「あぁ、問題は無い」

「そうか」



 彼の返事を聞くとヴィンセントはユエまでの隣へ行くと、今から迎えるかどうか話をし始める。二言三言話すと、ユエはグレンの元まで駆け寄り、彼の両手を掴み、顔を近づけ、彼にしか聞こえないようにボソリと呟くように話を始める。



「グレンさん、ですよね。本当にあなたに感謝してます」

「……何度も言うが、私は助けたつもりは無い。神子はどいつもこいつも能天気だな」

「ふふ、そんなことはございません。私の神子としての能力、と言ったらいいでしょうか。どんな人なのか、色で分かるんです」

「色?」

「えぇ」



 その言葉にようやくグレンはユエの目を見る。曹灰長石(そうかしちょうせき)色の瞳に反射して自分の姿が見えた。思わず息をのみそうな瞳で見つめたまま優しい笑みを浮かべる。



「あなたの色は、その瞳と同じ優しく照らそうとしてくれるような、とても綺麗な黄金の色。それと、姉さんと同じサファイアの色が混ざっていますね。だからか、あなたの事は守護者じゃないかっていうのは初めから分かってました。神子と守護者は深く繋がっておりますから色が混じるのは守護者だけなんです」

「……お前の姉?」

「えぇ、私の姉は、シエルという、神子です。今は行方知れずになってますけどね」

「……ッ!!」



 色で守護者かどうかと認識していたのも驚きだが、まさか、主様(マスター)の弟だったとは。それに主様(マスター)である、あなたを守れなかったのに、繋がりがまだあるという事に何処か嬉しく思ってしまう。


 グレンは瞳が潤んでしまいそうになるがグッと堪えていると、ユエは少し悲しそうな顔に変わる。



「……だから、でしょうか、あなたの事はとても気になります。アビスの所に捕まっていた間、あの場所はとても辛く苦しく、地獄のような場所です。アビスはあなたの主ではありません。ですので、心優しあなたの本当の主の元へ、どうか、戻って行けるよう、お祈り致します」

「そう、か。ありがと……」

「いえ、あなたに女神様の御加護があらんことを。またお会いしましょう」



 頭を下げてユエはヴィンセントの方へと向かう。再び二人は少し話すとこちらを振り向いて小さく頭を下げて、行こうとすると、グレンがユエの腕を掴む。


 ユエは驚いた顔をしていると、視線は合わせてこなかったが、自分でも驚いた顔をしながらも何かを手渡す。



「えっと、これは……?」

「いや、その……、シエルという、神子は…………以前、私が世話になった恩人だ。その弟なら、もし何かあれば、今度はちゃんと助ける。アビスでなければ、ある程度はどうとでもできるからな」

「姉さんが恩人……。ハハッ そうでしたか。本当に縁とは不思議なものです。ぜひ、その時はお願いしますね」

「……あぁ」



 にっこりと笑うユエとヴィンセントを見送っているとすぐ後ろで聞いていたナギはヒョコッと顔を出してグレンの顔を覗き込む。



「大丈夫なん?」

「……大丈夫だ。気にするな」

「ならえぇけど……。三条屋敷には今から行くん?」

「そうだな。おい、アリス」

「何よ?」

「何処かよるなら連れていくが、どうする?」

「んー、特にはないかしら。早く戻りましょ」



 グレンを先頭に三人は屋敷へと戻っていく。

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