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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:後片付け2

 グレンが指を鳴らすと彼の私室に戻っていた。



「ホンマ、相変わらず何処でもピュンピュンと移動すんねんな」

「自分が知ってるとこしか行けないしょうもない魔法だがな」

「そもそも(こん)魔法自体がおかしいと思うんけど……」



 グレンが使う転移魔法は本来、ここまでの長距離には特殊なゲートや魔法陣がないと出来ない。普通、単体での魔法は短距離が限度。



(ゆーて、この国がどのあたりにあるとかわからへんけど、相当、遠くなのは間違いけんどな)


「ほら、さっさと行くぞ。さっき言ったこと、忘れるなよ」

「へ~い」



 部屋を出て、廊下を進む。


 いつもよく見る間、あの、忌々しい、深淵の神子のいる異空間のようなこの場所に足を踏み入れる。おそよ床と呼ぶはずの地面には血肉と臓物が散らばり、視界には黒い靄のようなもので視界の先を遮られていた。


 グレンの後ろでナギは、”うわぁっ”と嫌そうな顔をしている。



「ただいま戻りました」

『「なんだ、思ったより早かったな」』



 脳内に直接、響くような声が聞こえると、靄が少しずつ晴れていく。


 祭壇と呼ばれるところに誰かがいた。


 そこには闇に溶け込むほどの黒い瞳に黒髪。そんな少女の手には、神子の象徴ともいえる純白の白い髪に毛先が灰色のグラデーションの男が首を掴まれていた。

 その神子はこちらに目が合うと必死に助けを求めるように手を伸ばす。



「た、助けて!! 助けてください!!」

「……はぁ」



 ため息を吐いて、彼は数歩、歩くと、報告のために膝をつく。助けを求めているのにそれを無視しているような気がする。アビスの方とグレンの方をキョロキョロと目をやり、グレンの肩を掴み、揺らす。



「ぐ、グレンはん……? え、えぇん?」

「…………」

「え、放置なん?!」



 ナギの言葉に、見捨てられたと思った神子は曹灰長石(そうかしちょうせき)色の瞳に涙を浮かべる。


 正直、こちらに助けを求めたところで今、できる事はない。


 手に持っている神子を持ったまま、アビスはトンッと祭壇から降りていく。グレンの前まで来るとニヤニヤと楽しそうに嗤うと、近くにあった肉塊に腰を掛けて、怯える神子の頭を優しく撫でまわす。



『「フフ、なら報告をしろ。それまではコイツで遊んで聞いておく」』

「ま、待って、待って! お、お願い、お願いだから、やめて、やめてください!!」

『「さ、早く報告しろ」』



 アビスは神子の命乞いを無視して、少女は小さな手で神子の目を、瞼をなぞる。その間、グレンも気にする様子もなく、報告を始めた。



「ちょ、ちょいちょい! アビスはん!! なんする気なんや?!」

『「パズルだ。パズルをするなら、まずはバラすのが先だろ?」』



 戸惑うナギは変わらずグレンの肩を揺さぶるが黙々と話す。その間にも神子の目に指をグリュリと肉が抉れる嫌な音と悲鳴が空間に広がる。


 数分間の報告を終えると、グレンは立ち上がる。両目を抉られ、左肘から下がもぎ取られた神子には目もくれず、小さく頭を下げ、その場をあとにしようと、扉に手を伸ばす。

 だが、その行く手を阻むように、アビスは扉の前に出るとニンマリと嗤いかける。手に持った神子には目もくれず、空いた方の手をグレンの方に向ける。



『「まぁ、待て。まだ聞いていない報告があるぞ」』

「……いえ、報告は以上です」

『「何を言う、まだあるではないか。……”神子として(めい)ずる――、前回の報告以降の出来事を包み隠さずすべて話せ”」』



 アビスにそう命じられると、普段の黄金色の瞳だったグレンの瞳の色がスファレライトの瞳へ変わる。隣で見ていたナギは、しまったと思い、慌ててグレンを引っ張り出そうとしたが、彼は少し驚いた表情をしていたが、前と違い、冷静に報告を始める。


 本来であれば本人の意思とは関係なく、アッシュたちの話をし始めた段階で彼は首を切って喉を潰していた。それをせず、彼は至って冷静だった。


 覚えていないはずだし、ナギも話しているわけではないのに、淡々と話す彼に彼女が一番驚いていた。



「――以上となります。……まとめて聞かれたいのであれば先に仰ってください、わざわざ(めい)を使うのは面倒でしょう」

『「……つまらん。小娘、貴様が話したのか?」』



 アビスに睨まれるように言われて首を全力で横に振るう。実際、話していないのに本当にこちらが驚いたくらいだ。


 少女の視線はグレンの方へと向けられる。



『「以前はアッシュの事を話して喉を搔っ切っていたくせに。なんだ、喧嘩でもして仲違いしたのか?」』

「……仕事の邪魔はされましたが、喧嘩はしておりません」



 (めい)を使用したままなのに、全く動揺も何も思っていなさそうな顔をするグレンに少女は酷くつまらない顔で、持っていた神子を彼に向けて投げ捨てる。



『「興が削がれた。それの後始末しておけ。大した能力も力もない。叫ぶだけでコイツもつまらん」』

「……(あるじ)

『「なんだ?」』

「神子の(めい)を使うのは構いませんが、記憶を消すのは、やめていただきたい。仕事に支障のあるものがあっては困りますので」

『「……今日の貴様は本当につまらんな」』

「さようですか。では、私はこれで」

『「さっさといけ」』



 言われた通り、異空間を出ていく。


 扉を閉めてナギはオロオロとしているが当のグレンはヘラッとして投げられた神子の身体を肩に担いで一旦部屋まで戻っていった。両目をくり抜かれた神子を自分のベットの上に寝かせる。



「言い忘れていたが、ナギ」

「な、なんや?」

「もし、(あるじ)が何かを壊していたとしても、反応するな」

「え?」

(あるじ)は誰かへの嫌がらせなら何でもするような奴だ。助けたいと思うなら、黙ってみていろ」



 そう言いながらパチンッと指を鳴らして回復魔法で治療する。何処の神子かは知らないがなるべく助けたい。だが、そう思って行動した際は、どの神子も、おもちゃのように遊ばれ、壊された。


 だから、興味がなくすまでは、基本、私は、その人を見捨ててしまう。こうして間に合うのであれば治すことは可能だ。手遅れになってしまった者もいるが……、生存できる確率を上げるには仕方ないと思っている自分がいる。


 だが、ナギはそれよりも心配していた事があった。



「……な、なぁ、グレンはん。アッシュはんたちの事、話してもうたけど、えぇの?」

「あぁ、問題ない。アッシュからも話す事は了承を貰ったからな」

「え、い、いつ?!」

「昨日の夜だ。伊東たちの話で神子の(めい)を使ってきている事がわかった段階で、もしかしたらと思っていたからな」

「せ、せやったんか……」



 アリスはんとも話をしとったけど、グレンはんもアッシュはんと話しとったんか。でも、せやったら余計に嫌やと思っとったんけど……。


 心配そうにしているとグレンは小さくため息を吐く。



「……それに、本当はアイツらに会うのは今回の事が終わったら、やめようと思っていた。監視は継続しなければいけないから、アイツらと仲のいいお前を代わりに任せようと考えもしてた」

「……それ、は……」



 アリスも予想していた事を言われて言葉が詰まる。


 やっぱ、アッシュはんたちの前から、居なくなるつもりやったんや……。



「が、アイツもそれを察したは知らんが、逆に説得された。その時に、もし、話す事になってもいいと言ってくれたし、また会ってもいいと言われた」



 魔法での治療を終えると、彼は顔を上げる。


 その顔は、いつもアッシュたちに向けるような優しい表情だった。



「だから、大丈夫だ。心配かけて、すまなかったな」

「え、えぇよ! グレンはんが大丈夫ならえぇよ! あと、すまへんな。神子の(めい)、やったか? やられとったん知っとったけど、言えんかって……」

「構わん。……まさかと思うが、お前が今回、様子がおかしかったのは、それの事が原因か?」



 彼の問にナギは頷く。


 呆れた様子でため息をまた吐くと、グレンはまた顔を下にしてしまったナギの頭を鷲掴みすると、グルグルと回すように撫で、髪をグシャグシャにする。



「な、何すんや?!」

「お前、馬鹿のクセに変に気を使うな」

「バッ?! な、なんやねん?! こっちは心配しとったとよ?!」

「そうか。ありがとう」

「〜〜ッ!!」



 柔らかく笑うグレンにナギはカァッと顔が赤くなる。普段、見せる事のない不意の表情に驚きと、何故かドキッとしてしまった。


 その顔はずるい……!! 反則や……!!


 赤くなった顔を隠すように手で覆う。


 そんな彼女を無視して、グレンは他に傷が無いかと神子の身体に魔力循環をしつつ、視覚でも確認する。


 ……見る限りでは大丈夫そうだ。


 神子から手を放して、両手を前に組みながら、”ふむ”と言う。



「さて、この神子は、どうするか。そこら辺のギルドに預けててもいいんだが」

「いや、そな迷子の子どもを預けるような言い方やめぇや」



 とりあえず治療し終えた神子を侍の国に連れて行こうと肩に担ぎあげる。目を覚ます前に、さっさと向こうの街のギルドに預けてしまおう。



「よし、戻るぞ。コイツが目を覚まして、面倒になる前に連れていくぞ」

「わーった!」



 ナギの返事を聞いて、転移魔法を発動するため、指をパチンッと鳴らした。

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