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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:神子の力4

 アッシュたちがマラカイトと話をしている間にグレンはエドワードとヴィンセントを連れて将軍の元へと向かう。



(あの神子の相手はアイツらに任せておいてもいいだろ)



 アッシュからも向こうに向かってもいいと視線で言われているグレンは軽い駆け足で歩いていく。



(それにしても、アリスの魔法では仕留められなかったのに、やはり神子の神聖魔法は神託があるかないかで勝算が大きく変わる。アリスには、無理をさせてしまったのに、そこまで配慮が足りず、かなり落ち込ませてしまっている……。申し訳ない事をしてしまった)



 そう考えながら倒れていた将軍の方へとたどり着く。覗き込むように見ると、スヤスヤと眠る男の姿はアリスの時と違い苦しそうな顔では無く、顔色もいい。再度、念の為、腕を掴み、魔力循環をする。


 先程も魔力循環し、異常がないか確認をしたが、再発してしまっていた。あまり意味は無いかもしれないが、しないよりはいいかもしれない。

 念入りに確認をしていると、将軍が目を覚ます。



「うぅ……っ うっ……? 此処は……?」

「ん? あぁ、目を覚ましたか。気分はどうだ? 身体に違和感や痛みは無いか?」

「そ、そち、は?」

「……はぁ、私は、ファーゼスト・エンズ国、深淵の神子・アビスの直属配下のグレン・ヴェスぺディウスだ。それでわかるか?」



 ため息を吐きながらそう言うと将軍は間を置いて、徐々に顔を青ざめる。起き上がって頭を下げようとしてきたので止めようとしたがその前にゴンッと鈍い音を立てて土下座をされた。唐突に、しかも勢いよく目の前で土下座され、三人はビクッと驚く。



「大変、失礼した!!」

「え、あ、いや、そういう意味で言ったわけではないんだが……」



 急な全身全霊の土下座に思わず戸惑ってしまう。



 この反応は今までの事を覚えているのか、それとも私がいるからこの反応なのか……。どちらか不明ではあるが、先程と違って、話は出来る状態ではありそうだ。



「将軍殿、此処までの記憶はあるか? 何処まで覚えている?」

「何処まで、というと?」

「目を覚ますまでの記憶だ」



 グレンの質問に将軍は思い出そうとする。だが、首を傾げるだけで答えは返ってこなかった。先ほどの土下座した時の鈍い音でアッシュもこちらが気になり、アリスとともに歩いてくる。その間に今までの事を踏まえ、軽く説明をする。


 正直、目を覚ましたら殴りかかってくるものかと思ったがそういう様子も、睨んでくる様子もない将軍に疑問を持ちつつも話をし終える。



「さよう、だったか。すまぬが、余の記憶に残っているのは、そちの話に聞く限りでは、6年前が最後よ」

「そうか」



 伊東から将軍の異変の時期も詳細も聞いていたため話はスムーズに出来た。


 どうやら、不浄の蔦が発芽するまでは意識も記憶もあるようでそれ以降は全く無いとの事。それでも意識が辛うじてあったのか――。



「覚えてはおらんが、ずっと酷く暗い、身を引き裂くような寒く深海よりも深い所へと落とされていたような感覚はあったのだ。悪夢を見せられ、足掻いても叫んでも闇の中へと引き摺り込まれ、己を喰らい尽くされているような、嫌な感覚は今も残っておる」



 将軍の言葉に、アリスはまた顔を暗くする。隣にいたアッシュの服を掴んで少し隠れたまま、ボソリと呟く。



「あの、その、ごめんなさい。私が一撃で祓えなかったから、すぐ助けられなくて……」

「その髪、神子殿か」

「うん……」



 将軍殿は落ち込んでいるアリスに対して、困ったように笑い、自身の足を軽く叩く。



「そう落ち込まれるな、神子殿にはこうして助けられておる。気にする事はありませぬ」

「……祓ったのは、私じゃないわ。向こうにいる神子よ」



 アリスが小さく、マラカイトに向けて指をさす。それでも将軍は軽く頭を横に振る。



「グレン殿の話によれば、神子殿も余の呪いを払おうとしてくれていたことは存じている。神子殿がそう気に病むことはなかろうて」

「…………」



 それでも納得がアリス自身ではしてないのか、返事は無かった。またアッシュの後ろへと隠れてしまう。


 そんな彼女にグレンもどう声を掛けるべきか悩みつつ、将軍へ、もう一つ気になる事があった。



「……将軍殿、思ったよりも冷静に聞くんだな。てっきり、私に殴りかかってくると思ったんだが」

「そりゃ、起きてしまった事は仕方ないことよ。余の身にどう起ころうとも、余は国のてっぺん。民を殺されて怒っていない、わけではおらんが、私怨で動くことはならん。発芽する前もそう思っておった。ただ、不思議な事に、あの時程、グレン殿に対して恨みは持っておらんよ。そちも、気にする事はない」

「……そうか」



 ……嘘をついているようには見えない。自分の話やアリスとの話の様子を見る限り、誠実に、落ち着いた物言いをするこの男は以前に会った事はあった。

 その時は既に(アビス)の影響で憎しみや恨みの感情を隠すためか、この男には直接的に話したことは無かったが正直、どんな人物かと気になってはいた。

 割と話が通じるタイプのようで良かった。


 座っていた将軍は立ち上がり、グレンに向けて手を出す。



「正式に名乗るのは初めてだな。余は、この侍の国、将軍である徳川秀忠(とくなが ひでたた)だ。今はそちの国の属国にはなってはおるが、必ず属国を脱退出来るほどの力をつけるつもりぞ!」

「あぁ、それは楽しみだな」



 握手を交わす二人にアッシュは笑顔でうんうん、と頷く。



 あの様子ならグレンの恨みの件は将軍に任せても大丈夫そうだ。



 ニコニコとしていたら、どうやら向こうで治療の終えたマラカイトと羅生たちがこちらに向けて走ってくる。羅生に関しては慌てた様子だった。



「お、親父!!」



 呼ばれた秀忠は羅生の方を見るとグワッと鬼の形相へと変わった。握手していたグレンは目線で羅生に対してなんだと気付いていたが、急に表情が変わるものだから驚く。


 秀忠は手を離すと、メキメキと筋肉が目に見えるほど盛り上がる。というか先程まで彼は病人だったはずで、身体も結構動き回るのはキツイのではないかと思うほど細かったはずなのだが、見間違える程の筋肉がムキムキだ。



「……グレン殿、少し、失礼するぞ」

「あ、あぁ」



 秀忠はグレンに断りを伝えると、彼はその場でクラウチングスタートのようなポーズ取る。


 いったいコイツは何をするんだとグレンは少し呆れた様子で見ていると、凄い勢いで走っていく。


 突然、走ってきた将軍に羅生も驚くのもつかの間に走った勢いを殺さずに、叫びなから飛ぶ。



「こンの、バカ息子がああああああああぁぁぁ!!!!」

「グフゥッ?!?!」



 走る将軍の飛び蹴りがドゴッと音を立てて羅生の腹部へと直撃する。相当な勢いでぶつかったため、彼は後ろと大きく転倒した。



「ゲホッ!! い、いきなり何するんや?! というか、親父、寝込んでたはずやろ?! どないしてそな元気なんや?!」

「やかましい!!!!」

「だッ?!?!」



 困惑する羅生に怒鳴りながら秀忠は思いっきりゲンコツを喰らわせる。それもかなり鈍い音が響く。殴られた羅生を庇うように、完治した陽が前に出る。



「しょ、将軍様! ちょ、ちょっと待ってくれ! 兄者――じゃなくて、若様は色々と――」

「貴様も黙ってそこになおれぇい!!!!」

「は、はい!!!!」



 ビクッと怯える陽、飛び蹴りを喰らった羅生の二人はその場で正座をさせられることとなった。パワフル全開という言葉が正しいほど、顔を真っ赤にし、秀忠は二人に指をさしながら説教が始まる。



「グレン殿から今までの事をあらかた聞いてはおる。余はあれだけ妖刀には触れぬなと、申したはずだ!! 何のために厳重に城で保管していたと思っておる?! しかも、その暴走を止めてもらったと聞くぞ……」

「そ、それは、その……」

「今回、止める際にグレン殿の魔法の流れ弾で民に被害が出たと聞く。間接的とはいえ、守るべき者に被害が出るとは本末転倒だ!!」

「間接的……?」



 羅生は間接的と言われて、グレンの方を見ると、人差し指を立てて、シーッという仕草をする彼にハッとする。



 まさか、やってた罪を被るゆーてたのは……。



 グレンの意図を理解したのか、口を閉ざして俯いてしまう。


 羅生は正直、罪にむきあえる程の覚悟が、今は出来ていなかった。思い出すだけでも竦み、逃げ出したい、怖い、と感情が渦巻いてしまっていた。


 あの男を殺そうと思っていた時は、覚悟していたはずの覚悟が、今は、無かった。



「……お、親父は、あの化け物を恨んで――ンダッ?!?!」

「バカ息子め!! 失礼だぞ!! 思ってても言うものでは無い!!」


(思ってはいるのか……)



 グレンは心の中で思ったが口に出さなかった。



「いいか?! 恨みでは国を導く事は出来んのだぞ!! それなのに、貴様ら阿呆どもは――」



 続けてガミガミと怒り心頭の秀忠に、二人は萎縮して段々と縮こまる。

 そんな彼らにアティはアワアワと驚きと戸惑いを隠せずどうしようかとグレンやアッシュたちの方を見たり、怒られている彼らの方を見たりと忙しない。


 そんな娘にクスクスとアッシュは笑いながらアティの方へと歩み寄る。



「慌てなくて大丈夫だよ。後は彼らの問題さ」

「い、いいのかな……?」

「うんうん。いいの」



 頷くアッシュは説教の受けている二人を見たあと、少しどう声かけようか悩んだ様子のグレンの方まで行く。



「グレン、ひとまず終わっているようだし、君もアリスたちも大変だったから屋敷に戻って休んだらいいよ。将軍さんは、どうも時間かかりそうだからね」

「……それもそうだな。私は一度、伊東に話がある」

「え、アイツに?」

「あぁ」



 将軍にあぁは伝えてはいるけども、他の連中が羅生がした事を話せば知られるだろうから口裏を合わせてもらわないと面倒だ。ま、話は聞かないだろうけど、嫌にでも口止めしてしまえばいい。


 グレンは腕を前に組み、まだ説教中の秀忠に声をかける。



「将軍殿」

「おっと、失礼。どうされた?」

「その説教、時間かかるなら私は別件で用事がある。説教もあるだろうが、先に国の件で片付ける事もあるだろ。それが終わったら遣いの者でもいいし、そこで干物になりかけてる奴でもいいから、三条屋敷まで知らせて頂けるだろうか?」

「うむ、わかった。すまぬな、先に終わらせておかないと、どうもまずいモノが多そうなのでな。本来であれば、すぐにでもそちと話をしなければならないだろうが……。落ち着いたら改めて伺おう」

「そうしてくれ」



 将軍に断りを入れたグレンは、アッシュやアリス、エドワードたちの方を向く。



「よし、帰るぞ」



 グレンの声掛けにエドワードたち以外は頷いた。彼が瞬間的に移動するため、テレポートの魔法陣を展開している間、俯くエドワードへ、ポトリと何か頭に落ちる。



(? なんだ……?)



 エドワードは頭に触れるが何もなかった。落ちてきたであろう上を向くが何も無い。相当ドタバタと暴れたからか、埃か木の破片でも落ちてきたのかも知れない。


 首を傾げたエドワードに魔法陣の準備が出来たと呼ばれ、彼は呼ばれた方へと向かった。

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