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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第ニ章 クロノス騎士団
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エフェメラル兄弟1

 翌朝になってもエドワードは目を覚まさない。


 アリスも、もう少し滞在の許可をルーファスにもらい、誰かを呼ぶため、騎士団に備えつけられているワープゲートの貸し出しもお願いしたそうだ。誰を呼んだかまではわからないけど、頼りになる人らしい。

 ……どんな人なのだろうか。


 呼んでから2日目にその人は来た。


 エドワードと同じ銀色の髪、背が高い男がワープゲートを通ってきた。そして、何故か僕とユキに対してものすごい睨んできている。



「紹介するわ、エドワードの兄、ヴィンセントよ」

「へー、あれがエドワードの兄貴か。くっそ似てる。あ、俺ノア。よろしく」

「あぁ、三人目のか。ヴィンセント・エフェメラルだ」

「え、えーと初めまして、ユキです」

「……」

「……あ、あの〜……」



 無視されたユキは挨拶として出した手の行き場に困ってしまう。明らかにノアとユキとで態度がえらい違う。

 それは僕に対してもそうだけど、なんなんだろうか、この人……。


 気まずい雰囲気のまま、ヴィンセントはアリスの方をみたあと、アリスはヴィンセントの方に向かう。



「エドワードはこっちよ。あと、ヴィンセント。アンタね、あんまアッシュとユキに冷たくしすぎないでよね。私の仲間なんだから」

「善処する」



 絶対にしないと思う。

 そうアッシュは思うが、ルーファスの件もあって、あまりこっちから変に警戒や威圧をするのはよくない。グッと堪えて、アリス達の後ろからついていく。


 エドワードが眠っている部屋にたどり着いて、扉を開ける前に、アリスはヴィンセントに指をさす。



「あと!言っとくけど、絶対にエドワードを責めないでよ。あんた達の家系ほんとそういうところ家族関係なく容赦ないんだから」

「……神子の足を引っ張っている愚弟に対して咎めがないわけないだろ。しかも自身の失態で招いたことだぞ」

「いや、だから電話でも言ったけど、わざとじゃーーってちょっとヴィンセント!!」



 アリスの制止を無視して部屋に入っていく。ずかずかと進んでいく。眠ったままのエドワードの横に立つと、ヴィンセントの左手に魔力が集まり魔法陣が展開される。



「”強制覚醒”」



 左手をそのままエドワードの胸元に振り下ろし、バチバチと音が鳴り響く。



「――かはっ⁈」



 ヴィンセントが腕を引き抜くと、エドワードは大きく咳き込みながら起き上がる。困惑した様子のエドワードに対してそのまま左手で拳をつくり、エドワードにめがけて振りかぶった。

 アリスが慌てて止めに駆け寄るがエドワードは迫りくる拳を片手で掴み、防ぐ。それも視線を向けずに。



「……何?」



 ヴィンセント本人も塞がれるとは思っていなかったのだろう。目を細めながら、掴まれた腕を振り払うと、ようやくエドワードはヴィンセントに気づいたようだった。



「あ、兄様? なんでここに?」

「……愚弟が覚めないとアリスから連絡が来たものでな」

「そ、そうか……。手間をかけさせた。すまない、兄様」



 ぎこちない会話のなか、ゆっくりエドワードはベッドから出てきて、自身の状態を確かめる。



「……兄様が普通に起こすのは珍しいな。殴ってくるかどうかすると思うのだが」

「したぞ。お前が自分で防いだだろうが。いつもなら殴って吹っ飛ばしていたんだが……、どういう訳か防がれたからな」

「? 私が?」



 釈然としない様子のエドワードは自分の手も確認して、グーパーとしながらも首を傾げる。

 そして、ハラハラしながら見ていたアリスもかなりびっくりした様子でエドワード達のもとへ。



「エドワード!大丈夫?」

「あぁ、アリス。大丈夫だ。心配かけたな」

「全くもう……。心配したわよ。ヴィンセントもありがと」

「……ところでだ、アリス。1つ確認したいことがある」

「あら?なによ?」

「お前が以前話ししてた男はどっちだ?」

「ん?あぁアッシュの事?」



 僕の話?


 ”あれだけど……”とアリスが指をさすと、急にアッシュの方を見てヴィンセントがこちらへと近付いてくる。


 なんだろ、凄い殺気を感じる。



「貴様がアッシュか」

「そうだけど、何か用かい?」

「……何処(どこ)ぞの神子の守護者かは知らんが、貴様のような危険な人物をこれ以上アリスと同行することは認めない。貴様には早々に脱退してもらう」

「……はい?」

「ちょ!ちょっと!!ヴィンセント!!あんた何勝手に――」

「アリス、黙っていろ」



 ヴィンセントの言葉で周りの空気が冷え込む。殺気を隠すつもりもないこの男は視線をゆっくりとアリスに向ける。



「お前達の旅は遊びではない。お前から報告あった時点でそれを止めるべきだったな」

「なっ!あんた、この前の手紙あれ冗談かと思ったけど本気なの?」

「あぁ、そうだ」



 ヴィンセントは再度アリスの方をまで歩き、腕を掴み上げる。痛いのかアリスの表情が歪み、掴まれた腕をどうにか振りほどこうとするもヴィンセントは掴む手を緩めない。



「アリス、お前は1度、街まで戻るぞ。その後の行動はまたおって話す」

「待って待って待って!!ほんとに待っ――」

「ちょっと、ヴィンセントだったかな。何勝手に決めてアリスを困らせるの?」



 慌ててヴィンセントを止めようとしたアリスだがその間にアッシュが入り、ヴィンセントの腕を掴み上げる。力をこめ、アリスから手を離させると、彼女はアッシュの後ろに隠れながら、ヴィンセントの様子をうかがい始めた。


 アッシュの唐突の介入にヴィンセントはアッシュを睨む。



「ルーファスの件があったから黙っていようと思ったけど、いくらなんでもやりすぎ。もう一度言うよ。何勝手にアリスのこと決めてるの?」

「神子であるアリスを守るのが我ら一族の役目だ。咎人の分際で口を挟むな」

「咎人ねぇ、束縛男には言われたくないなぁ」

「……なんだと?」

「実際そうでしょ。君、守るといいながらしてる行動はどう考えてもやばいでしょ。アリスは物じゃない」



 アッシュの言葉に徐々にヴィンセントは睨む目に殺意が更に篭もる。気付けばヴィンセントの手には剣が握られていた。

 それを見たアリスは咄嗟にアッシュの前に立つ。



「ちょっと!ヴィンセント!剣収めて!危ないから!」

「やはり貴様はアリスにとっては毒だ。アリス、こっちに来い。さっさと街に戻るぞ」

「だから!私はまだ旅続けるわよ!」

「アリス、我儘を言うな」



 そう言ってアリスに手を伸ばす。その手をアッシュが弾いてく。前に出てきたアリスを再度自分の後ろへと隠し、睨みつける。



「あ、アッシュ……」

「これ以上、アリスの旅を邪魔をするなら、僕が君をねじ伏せるよ」

「…………」



 殺気をむき出しにしてくるヴィンセントに対して、煽るようにアリスの肩を掴み、自分に引き寄せる。

 思いもよらないアッシュの行動にアリスもびっくりした様子で顔が真っ赤になっているが、アッシュはアリスの髪に優しく触れながら、ニヤリと笑う。



「それとも何?アリス取られそうで妬いてんの?」

「……」



 無言で睨みながらヴィンセントは神子ごと切ろうとする太刀筋で剣を振りかぶる。アリスを抱き抱えて下がりながら躱す。


 それを見て慌てて2人の間に入る。



「ちょっ!ちょっと!!おふたりとも!ストップストップ!!」

「そ、そうだぞ!ここは他人の家!!危ねぇって!!」



 ユキとノアが二人の間に入り、どうにか制止しようとするが、ヴィンセントは無視して睨みながらこちらへ近寄ってくる。

 だが、2人の言う通り、確かにここは騎士団の、人様の家だ。被害を最小限に抑えないといけないけど……。



「アリスを返せ。咎人」

「やれやれ、嫉妬も大概鬱陶しくなるね」



 その言葉にヴィンセントは眉間にシワがよる。


 ……もう少し意地悪をしてやろう。

 抱えてるアリスの方を見ると、あわわとまだ顔を真っ赤にしたままだったがソッとアリスの頬に触れる。



「ねぇ、アリス、お願いがあるんだけど、いいかい?」

「ふぇ?! な、なに?」

「僕に指示を、”僕の主(マイマスター)”」

「っ!」



 その言葉にアリスがハッとする。普段絶対に僕が言うことが無い言葉。これは守護者が主に自分の力を全力を出すために使う言葉。いわゆる儀式みたいなもの。だけど僕はアリスの守護者じゃないし、冗談でも口にしたことはなかった。だからこそ、アリスも何かを察してくれたようだ。


 ニヤリとアリスも笑いながら指をさす。



「命令よ、アッシュ!ヴィンセントを止めなさい!」

「ふふ、任せてよ。アリス」

「貴様……!!」



 怒りむき出しでこちらに走ってくるヴィンセント。さすがにこれ以上はアリスが危険なため、エドワードの方にアリスを投げる。

 慌てながらエドワードはアリスをキャッチする所を確認しながら、ヴィンセントの斬撃を躱していく。


 ここが大部屋でよかった。部屋が広いおかげで剣を振るっても避けやすい。



「貴様、大口叩いたわりにちょこまかと避けるしか能がないのか?」

「なんだい?反撃来なくて寂しいのかい?」

「減らず口を……!!」



 避けながらヴィンセントの死角になるよう、隠しながら剣を生成する。次の斬撃が来るのと同時に、ヴィンセントの剣を弾く。弾いた瞬間、バランスを崩したヴィンセントの腹にめがけて、空いた手で拳を作り、ぶん殴る。



「うぐっ!!」



 殴り飛ばされたヴィンセントはそのまま壁にぶつかり、ずれ落ちていく。だがその目はいまだに殺意は消えてない。咳き込みながら立ち上がり、ヴィンセントはつけていた外套を外し、そしてこちらに手を向けると、エドワードがハッとした様子で叫ぶ。



「アッシュ!避けろ!!」

「っ!」



 エドワードの声に反応すると足元に無数の魔法陣が展開される。急いでその場を避けるが、これはよく見たことのある魔法だった。



「”雷鳴”!!」



 避けた先にも次々と魔法陣が現れる。避けながら周囲を見ると、ノアとユキは部屋の外にいて、扉を盾にしながら様子をうかがっている。ユキはノアが飛び出さないように掴んでるようだから向こうは心配いらないだろう。

 アリス達はエドワードが前に出て、魔法で結界を張っている。大丈夫そうだがエドワードの表情は少しきつそうにしていた。


 早めに終わらせよう。



「よそ見とは余裕だな」



 着地した先で束縛魔法に捕まってしまった。”しまった”と思うと同時に先程展開されていたものとは比べ物にならない強い魔力を秘めた陣が展開される。



「終わりだ」



 大きな地響きと雷の爆音が鳴りびびく。



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