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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国
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侍の国:神子の力1

 光で周りを照らしつつ、慎重に螺旋状の階段を上がる。


 最後尾にいるアティと羅生はついて行っている。助けられてルンルンとしているアティに羅生はジッと見ていた。


 視線を感じたアティは、”ん?”、と首を傾げて羅生の方を見る。



「どうしました?」

「……いや、その、お嬢ちゃん、すまへんな」

「え、何がですか?」

「目的のためとはいえ、殺そうとしてもうた。怖い思いもさせてもうて……」

「えへへ、いいですよ! こうして無事ですし、おじ様も羅生さんや陽さんも助けてくれてますから」

「…………のぉ、お嬢ちゃん」

「はい?」



 ずっと気になっとった。どないして……



「どないして、あの化け物(バケモン)を信用できるんや?」

「化け物じゃありません。おじ様です! 恨んでるとはいえ、化け物と呼ばれる人の事も考えてください!」



 ビシッと指をさして指摘する。少し怒っている様子の少女に、”うっ”、とたじろぐ。

 そんな怒るとは思っていなかった為、言葉が止まってしまった。困った様子の羅生に頬を膨らませたが、言ってこないのでため息を吐くとアティは先を歩くグレンの方を見る。



「羅生さんから見て、今のおじ様はまだ化け物のように見えんですか?」

「わしにはそれにしか見えん」

「本当に、そう見えますか?」

「……(なん)が言いたいんや?」

「私は、何故、羅生さんたちはおじ様の事を知ろうとしないでそう言うのか不思議です」

「お嬢ちゃんも知らんやろ。あの男は誰であろうと容赦なく殺すような男やで。命令一つで簡単に人を殺す事も迷わん化け物やろ」



 十数年前に起こったあの時も、見ていたんや。主人の命令一つで残酷な事を躊躇なく殺る、あの男の姿を。目の当たりに、しとるんや。


 思い出すだけでも腹立つのかギリッと歯を軋ませている彼に、少女は不思議そうな顔をする。



「容赦なく殺す方、ですか……。では、お二人は何で生きていらっしゃるんでしょうか?」

「? それは、お嬢ちゃんが殺すなゆーたからやろ」

「羅生さんが思う、本当に容赦なく殺すような方が、私のような子どもの約束を守ってくださると思いますか?」

「そ、それは、せやけどな……」

「……恨む前に、その人の事を知ってから恨むようにした方がいいですよ。私も、嫌いな方はいらっしゃいますが、恨んではいませんもん」



 嫌いな方というのはご主人様の事だけど。もうお父さんが懲らしめてくれてますから、もう許してますし、再びお会いになる事はないとは思います。



「恨みを持つなとは言いません。それはその方によって変わります。でも、恨むという事は、あなたも何処かでそれを成し遂げるために、あなたじゃない他の人を犠牲にした場合、その恨みはご自身に返ってきますからね」

「……それは、もう、分かっとる、つもりや……」

「いいえ、分かってません。じゃなかったらそんな顔しません」



 ……この子には今の自分の顔はどう見えているだろうか。子どもに諭されているのだろうかと思うが、この子だからだろうか、怒りは特には湧かない。


 親に、親父に怒られてるような妙な感覚だ。



「羅生さん」

「……なんや?」

「さっきも言いましたが、おじ様の事、恨むなとは言いません。でも、理解しようとする気持ちは持ってあげて欲しいです。おじ様は前を向こうとする人を蔑ろにするような方ではありません。ちゃんと話し合ってくださいね」

「…………」



 素直に少女からの言葉を頷く事が出来ない。それでも良いのかアティはトトトッと階段を上がっていく。


 羅生はそんな少女を見たあとに腕の中で小さく呼吸をしている陽を見る。


 もし、理解しようとしたら、今までしていた事は、何だったのか分からなくなる。話をすれば何か違かったのだろうか。いや、話しても変わらないかもしれない。


 ……今の自分の中では答えが見つからない。



 ◇



 長く続いた螺旋階段を登り、ようやく到達した最上階であろう部屋。その扉は蔦によって破壊され、部屋の中が見える状態のはずだが、暗闇で全く何も見えない。グレンは顔を少し階段のところから覗かせるが、下手に刺激してまた暴れては困る。


 ソッと下の方で待つアッシュたちの方を向く。



「ふむ、一応、最上階のようだ。アリス、準備はいいか?」

「だ、大丈夫! き、緊張はしてるけど、どうにか行けるわ……!」

「大丈夫だよ、アリス」



 杖を持ってカタカタと緊張で震えているアティの手をアッシュは握る。



「君なら大丈夫。いつもみたいに自信持ってやりなよ。もし、何かあっても僕らがサポートするからさ」



 アッシュのエールにアリスはバチンッと両頬を叩く。



「そうね、やるしかないんだから!」

「うんうん、その意気だよ」



 にっこりと笑うアッシュにいつも助けられる。彼の大丈夫という言葉に何度も元気づけられているの。


 だから、私も大丈夫と思えるんだから。しっかりしないと!


 フンスッと意気込み、アリスはグレンの方を見る。



「いつでもいいわよ!」

「よし。じゃあ私とアッシュが先に出る。念の為、抑え込めるようにはしてやるから、お前は目標が見えたら迷わずに浄化魔法を放て。ヴィンセントとエドワードはアリスのサポートを頼む」

「わかった」

「うん! 任せて!」



 アリスの返事を聞き、彼は合図をするとアッシュ共に部屋へと足を踏み入れる。アリスはいつでも女神化が出来るように準備をして、ヴィンセントとエドワードと警戒しながら、続いて部屋へ入っていく。


 アティたちはチラッと頭だけ出して邪魔にならないように階段で待機する。


 将軍は壊れたオルゴールのように繰り返し呟いていた。


 刺激しない程度に、互いの姿がかろうじて見えるくらいの明るさで中へと進む。それでもこの真っ暗な部屋では十分な明かり。うっすらと見えるのは部屋を埋め尽くしているのではないかと思うほどの大量の不浄の蔦と黒い百合の花。今いる自分たちの足場もほとんどそれに埋め尽くされていた。


 先行して入っていったアッシュとグレンは先程のダーティネスと同じ声で色んな言語を組み合わせているのだろうか、ところどころ聞き取れるが、乱雑に組み合わされており、その単語自体の理解ができない。それでもそれは呪言(じゅごん)という事は分かる。


 呪いの影響なのか、身体がズッシリと倦怠感のような感覚と足が鉛のように重く感じほどの呪言(じゅごん)。呪いの影響を考えて、部屋の入ってすぐ入り口で止まるようにアリスたちに仕草で指示をする。

 隣にいるアッシュは小声でグレンに話かける。



「どうする? 僕の炎で一気に包んでしまってアリスに撃ってもらう?」

「それでもいいだろうが、一番は結界か何かで閉じ込めてしまって、アリスたちに被害が来ないようにしておきたい」

「ん~、でも、そんな魔法ある? 通常の結界魔法なら知ってるけど」

「ないなら作ればいい」



 そう言って何処からか紙とペンを取り出し、書き始める。


 そうだった。彼はこういう必要に応じて魔法を作るの得意だ。


 手元が見えるようにかなり弱めの炎で見えやすくするとこれは普段使ってる結界魔法。そこから線を消したり付け加えたりする。ほんの数十秒で書き終えると、グレンはそれに魔力を込める。



「ふむ、できた。アッシュ、将軍を囲むように炎を展開できるか?」

「もちろん、可能だよ」

「よし、では私が囮として前に出る。合図をしたら囲って炎で蔦を一掃しろ。その間にこの結界魔法で私が閉じ込める。いいな?」

「うん、りょーかい」



 彼の返事を聞いてグレンはゆっくりと部屋の中心まで歩いていく。そして自身の姿が見えるように光魔法(ライト)を使い、照らす。真っ暗な中で唯一の光に部屋を埋め尽くしている蔦や黒い百合の花は急に照らされ光から逃げるように去っていく。だが、宿主である将軍は異変に気付いたのか、言葉が、止まった。


 その身を隠すように、薄い布の向こうにいる将軍に向けて、グレンは小さく礼をして挨拶をする。



「将軍殿、突然の訪問失礼する。私は、ファーゼスト・エンズ国、深淵の神子・アビスの直属配下が一人、グレン・ヴェスぺディウスだ」



 彼がそう名乗ると、将軍の身体がゆっくりと起き上がる。その様は壊れたマリオネットのように蔦で身体を動かし、グレンの方へと身体を向ける。掠れた声で、”ぐれん……、ぐれん……”、と名前を何度も言いながら身体を引きずり、姿隠ししていた布を、手でもがくように触れては、隙間からその姿が少しずつ露わになる。


 それでも彼は表情を変えずに続ける。



「床に臥せってしまっているのに申し訳ないが、本日、急遽伺ったのは、我が主であるアビスが貴殿に対し失礼なことをしてしまった詫びと、その際に妙な置き土産を置いて行ってしまったようでな。それの回収に参じた次第だ」

「かい、しゅう……?」



 将軍はまるで絞め殺されるような、喉から血を出しながら絞っているような声を出し、身体を引きずり、しきりとなっていた布を乱暴に引きはがす。



「ぎさ、ま”ら……は、まだ、われらがら、まだ、なにかを、奪おうというのか……ッ⁈」

「……ふむ、親子ともども人の話を聞かんな」



 まぁ、今の状態で話を聞くことも話せないことも想定内だ。コイツをまず元に戻す、話をするのはそのあとだ。


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