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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第ニ章 クロノス騎士団
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来訪者2

 ところ変わり、執務室。

 ルーファスはようやく来た来訪者を見つけて話をする、と言っても全く穏やかな雰囲気では無い。

 ルーファスの隣でずっといるユーリは睨めつけるように、目の前の黒髪の少女を見る。



「勝手にうろうろとされては困ります。その事も事前にお伝えたはずですが」

『「ふふふ、良いではないか。まだ、何もしてはいないだろ?」』

「んな問題じゃねぇだろ、勝手に彷徨くんじゃねぇよ」



 ユーリが発言した途端、先程ルーファスと話ている時とは違って少女はつまらないものを見るような目をユーリに向ける。足を組み見下したような態度を変えず、鼻で笑ってきた。



『「ふん、ただのヒューマンは黙っていろ、耳障りだ。吠えるのなら外で吠えろ。まったく、出来損ないの神には、口うるさい番犬がキャンキャンと嘆かれては喧しくてかなわんな」』

「んだと、てめぇ……」



 少女の挑発に対して剣を抜きそうなユーリをルーファスは制止させる。これ以上話をしているとこちらのペースを崩されかねない。さっさと終わらせるため、本題を直球に伝える。



「単刀直入に申し上げます。あなたの組織の傘下にはなる気はございません。お引取りを」

『「ほぉ、拒否とすると?」』

「当たり前です」



 そう。アリス達が来る前日前に届いた書面。そこには傘下に入れという内容とその返事をもらうため直接来るという内容だった。本来こういうものが届いてる場合は神子の安全を考慮して、そもそも受付はしない。

 だが、この目の前にいるこの災厄は関係ない。自由に我儘に傍若無人に動く。書面もグレンから持ってこられ、すでにこの災厄が来ることも事前に知ることができたから、前もってアリス達を避難させれた。


 断りを伝えると、少女は組んでいた足を組みなおし、目を細める。



『「……、神にも人にもなれぬ半端者が生意気なことをいうものだな」』

「何度でも言いましょう。お引取りを」



 睨みつけるルーファスに対して、余裕の表情を崩さない少女。だが、少女は黒く、およそ人とは思えぬ笑みをルーファスに向ける。



『「そんなに、ここが大事か?ルーファス・クロノスよ」』



 そう言いながらルーファスに手を伸ばし、黒い靄のようなものが現れて、伸びていく。それでもルーファスは睨み、引く様子はない。

 靄が届きそうなタイミングでノックの音が聞こえ、扉が開く。そこにはグレンが立っていた。



(あるじ)時間です」

『「……。貴様はいつも妙なタイミングで来るな」』



 グレンは返事をせず、少女の少し斜め後ろに立つ。フードを外さず黙って立ったことを確認すると、少女はルーファスの方をみて伸ばしたいた手を引っ込め、靄は飛散する。



『「さて、交渉決裂したところで、せっかくの返事だ。それ相応の対価を持って来てやろう。楽しみにしているがいい」』



 つまり戦争。加わらないのであれば力でねじ伏せるという意味だろう。

 そう言い残し、少女は闇に消えていく。


 残されたグレンは軽く頭を下げてから部屋を出ようとしたが、ユーリに腕を掴まれる。



「お前、なんであいつに仕えてんだよ……?」

「……私が誰に仕えようが関係ない。私は、私の目的のためにしている事だ」



 そう言捨てると、グレンはユーリの手を払い除け部屋を出て行った。出た先に先程の少女がいた。

 その少女の顔は酷く、そして何やら楽しげに笑ったままだった。



『「くくく……。先程のヒューマンはエドワードというのか。……おや、あれもいるな……」』



 1人でブツブツと呟く。

 今していることは恐らく先程まで触れた対象。そう、エドワードの記憶を読み取り、見ているのだ。



「……あれとは?」

『「アッシュの事だ。懐かしいだろ?久々に会えた玩具(おもちゃ)だ。せっかくだ、今日見つけた玩具を使って久々にからかうのもありだなぁ……。あぁ久々に楽しみだ……。楽しみだなぁああはははっ」』



 クルクルと少女は周り、狂ったように嗤う。およそ少女から出るとは思えないような声に変わっていき。そしてこの場にいるだけども嫌悪感を覚えるような感覚に少しグレンは眉をしかめる。


 少女は笑い終えて満足したのか、止まるとグレンの方を見て――



「――っぐっ?!」



 少女がグレンの首を勢いよく掴む。宙に浮いき、そのままグレンの身体ごと持ち上がる。

 ぼごぼごと少女の腕は肥大化し、絞めあげられてる首はミシミシと軋む音がするが少女は淡々と続ける。



『「エドワードの記憶をる限り……貴様は先にあれを見つけていたようだな……。我にそれをさっさと報告しておけばよいものを、まだ仲間ごっこをしているのか?グレン」』

「…………っ」



 グレンは応えない。応える気はなかった。こいつに何を応えたところで状況は悪化する。


 抵抗もせず、黙りを決め込んでいると少女は少々つまらなそうな顔をしながら目を細める。



『「まぁよい、結果的に見つけられたのだからな。そうだ、あれらの監視は貴様に任せよう。良いな?」』

「……かしこまりました」

『「貴様も楽しみだろ? 久々の相方ではないか」』

「…………」



 黙っているとニヤニヤと笑いながら少女は手を離し、闇にまた紛れて消えていった。


 締め上げられていた首をグレンはさすりながらため息をつく。


 1番危惧していたことが起きてしまった。こいつに目をつけられたら後は、飽きるまで遊ばれてしまう。なるべく、そうならないようにしておこうと思ったが、まさかエドワードが見つかるとは……。



「できれば関わらせずおきたかったんだがな……」



 そうつぶやいたグレンの言葉は誰にも届くことはなかった。



 ――――――――――



 少し時間は戻って、執務室。


 やはりあれと会うと酷く疲れる。ズキズキと痛む頭を抱えながら、ルーファスは椅子にもたれ掛かった。



「はぁ……。予想はしてましたが、やはり穏便には出来ませんでしたね」

「……なぁ、戦争になるならアリスの力は借りれねぇのか?」

「やめておいた方がいいでしょう。もしアリス君がこの戦争に参加して、無事に済むわけがないのです。少なからずやつは戦場にくるはずです」

「あー……くそ、そうだよな……」

「彼女達には早めの出発をお願いしましょう」



 ルーファスの決定にユーリは小さく頷いた。


 内容は省いて説明するかどうか悩みつつ、ルーファス達はアリス達がいる部屋へと向かう。

 その道中に少し大きめの籠をもったアッシュとばったり、ルーファスと会った。何やら甘い香りもする……。お菓子なのだろうか?



「あ? アッシュお前何してんだ?」

「あはは……。いやぁ、アリスが甘いもの食べたいっていうから甘いもの作っていたら思ったより時間かかっちゃって」



 へらへらと笑って答えると、ユーリがどこからか取り出したハリセンを大きく振りかぶり、アッシュに向けて振り下ろす。殺気があるわけではないが大振りな動作なので、ヒラリとかわす。


 さすがに籠も持ってるし、当たって落としたら困る。



「おっと、危ないじゃないか」

「おまっ!俺ら、アリスに出てくんなって伝えてたよな⁈ 何出てきてんの⁈」

「大丈夫、大丈夫。実際会わないようにちゃんと厨房に行って帰ってこられてるからさ」

「そうじゃない。そうじゃねぇよ」



 アッシュは頭を抱えるユーリに首をかしげる。


 そんなユーリにルーファスはなだめながら、アリス達のいる部屋へと向かう。

 ノックをすると警戒しながら慎重に開けるユキが出てきて、こちらを認識した瞬間、安堵の様子に変わる。中に入れてもらうと、アリス達は一つのベッドを囲むようにいた。

 アリスもすぐ横にいて、杖を持ったまま立っていた。



「アリス君、いまいいですか?」

「いいわよ。ただもう少し待ってくれるかしら」

「えぇ、かまいませんよ」



 回復魔法をエドワードに唱えて、顔色をうかがいながら”ん、一旦は大丈夫そうね”と言ってルーファスの方へ向く



「それで終わったの?」

「えぇ、ただ少々忙しくなりそうなので申し訳ございませんが、早めに出発をお願いしたいのです」

「……。そう、わかったわ。エドワードが目を覚ましたらすぐ出る」

「聞かないでいただけるんですね」

「いいのよ。いつも気を遣わせて悪いわね」

「いえ」



 こういう場合、特に詳しい要件を言わないで言われるときは緊急の時。神子がいると危ないと遠回しに言われてるようなものだ。あまり深く聞くのも悪い気がする。


 そう考えてると、アッシュもエドワードが心配なのか、スイーツを持ったままアリス達の方へと寄ると、甘い匂いにアリスはハッとしてアッシュが持っていた籠に手を伸ばす。



「わあ!これ作ってくれたやつ? 食べていい?」

「いいよ、食べてもらいたくて作ってるからね。好きなもの食べなよ」



 そういって籠の蓋を開ける。中にはシュークリームやクッキー、ケーキなどいろいろな種類のスイーツが入っており、思わずアリスは歓喜する。

 アッシュからスイーツの籠をそのまま受け取り、中にあったクッキーを一つつまみ、幸せそうに食べ始めた。



「んんんー!美味しい!」

「あはは、喜んでくれて何よりだよ。ノアとユキも食べていいよ」

「お、いいの?……てか、すげぇな。全部手作り?」

「うん。初めて作ったけど、うまくできてよかったよ。楽しくて思わず結構な数作っちゃった」

「初めてで作る量じゃないと思いますが……」

「まぁアリスだし、結構食べると思うし」

「あら、よくわかってるじゃない」



 幸せそうにシュークリームを頬張るアリスをみて、アッシュは満足そう顔をする。

 そしてずっと気になっていたエドワードのことを尋ねると、その問いにさっきまで幸せそうに食べていたが、少し暗い顔をしてアッシュの方を見る。



「それがわからないのよ。あんた追いかけてエドワード出た後、なかなか帰ってこないと思ったら急にグレンが来て、ぐったりしてるエドワードを連れてきてさ。開口一番に浄化しろって言われてすぐしたの。最初覚ましたけどその後起こしても目を覚まさなくて……。だから定期的に回復魔法かけてるんだけど、起きないのよね……」

「グレンが?」



 アッシュは少し考えてから、エドワードの胸元に手をおいて、彼の身体に均一に魔力を薄く通してみる。だが、何処にも異常は見られなかった。

 呼吸も別に悪い様子はない。顔色は……もともと青白いからあまり分からない。



「さすがに僕も原因がわからないな……。ほかに気になることとかなかったかい?」

「うぅん、何も。だから困ってるのよ」

「……もし目を覚まさなかったらちょっと考えておくよ」



 さすがに目を覚まさないのはすごく気になるし、心配だ。

 けど、原因がわからないのに何かしても意味がない。一番はグレンを見つけて何があったか聞ければいいけど、彼女達から聞いてるグレンの行動は特別危害を加えようとしてるようには思えない。


 にしても――



「君らよくグレン会うのに、なかなか僕は会えるためしがないね」

「あんたが苦手意識して無意識に避けてんじゃないの?」

「うぅ……それはそうかも……」



 アリスの言い分は正しい。今もグレンに会うのはまだ怖いと思っているからだ。だからか甘いものを作りに行くときも気配がそれっぽいのはなるべく避けて行っていたが今回はそれがいけなかったかもしれない。


 その話を聞いたユーリはまた頭を抱える。



「お前らさ……だから部屋いろっつったのに……っ」



 そうぼやいたユーリの言葉には皆、苦笑いするしかなかった。


 アッシュは目を覚ます様子のないエドワードの髪に触れ、拭えない不安を抱えたまま、その場をあとにした。

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