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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:妖刀探し4

 ヴィンセントが羅生と交戦してた頃、夏鬼はユキを背負って屋敷へと戻っていた。到着すると手前の入り口でユキから止まるように言われる。立ち止まって壁の方に座らせると、血の気のない様子の彼の腹部からはドウドクととめどなく血が溢れていた。

 これ以上の出血はまずいと思い、夏鬼は持っていた手ぬぐいでも傷口を押さえる。



「お、おい、大丈夫か?」

「だ、大丈夫、です……ッ それよりも、あなたは松葉屋へ、迎えますか?」

「え、ま、松葉屋に? な、なんで?」

「僕は、ちょっと動けないので、ここで待ってます……。けど、もし、まだアッシュたちが、向こうにいて、戻りが、遅くなっていた、ら、ヴィンセントや、アティが、危ない、ので……ッ」



 今、話すのもやっとで危ないのは自分もそうなんじゃないかと思ったが、ユキは傷に再度、氷魔法で塞ぎながら言う。



「申し訳ございませんが、お願いします……」

「わ、わかった。すぐ呼んでくるから、待ってろ!」



 走っていく夏鬼を見てから、ユキは、ふぅーっと息を吐く。


 日が沈んで、もう真っ暗だ。


 あぁ、せっかく、アッシュやグレンが任せてくれたのに、また、失敗してしまった。あの子まだ子どもだ。フラフラと動き回ってしまうことくらい、アマテラス様の館の時にもわかっていたのに目を離してしまったのはいけなかった。



「これでは、また、怒られてしまいますね……」



 ぼそりと呟くユキだったが、意識が朦朧としてきていた。このままだと眠ってしまう。


 いや、このまま気を失うわけにもいかない。アッシュたちが戻ってきたときに状況の説明やアティたちのこともある。力を振り絞って、起き上がり、どうにか眠らないように身体を動かそうとすると、ふわっと風が吹いた。


 顔を上げると、待っていた人たちが門の前に現れる。



「着いたぞ」

「ありがとう、グレン。僕まだテレポートをうまく使えないから助かるよ」

「場所がわからんと意味のない魔法だ。それよりさっさと――っ! ユキ!」



 グレンがユキの存在に気が付く。血だらけで無理やり身体を動かそうとしていたため、慌ててグレンはすぐに駆け寄り、回復魔法を行使しようとしたが、ガシッと腕を掴み、ユキはそれを止める。



「待って! 僕よりも、先に、アティを……ッ ヴィンセントが、危ないんです!」



 ユキが血を吐きながらそう叫ぶと、グレンはハッとして血の痕跡の方を見る。舌打ちをした後、ユキに一旦、回復魔法をかけるが血は止まらない。


 回復魔法で止まらないなら、まさか(のろ)いか? 神聖魔法を使って回復させたいが時間がかかる。ユキが自分の回復を遮ってまで言ってきたということは時間がないということだ。


 マリアを召喚しながら、アッシュの方を振り返る。



「アッシュ! アリスを叩き起こして神聖魔法か解呪魔法を! 私はアティたちの方へ行く! マリアは回復魔法をかけ続けろ!」

『かしこまりました』

「待って、向かうなら僕が――」

「今のお前では危なっかしい。それにユキの治療も急げ! 死ぬぞ!」

「っ!」



 おそらく、(のろ)いのこともあるだろう。だけど状況が状況だ。グレンに言われた通り、急いでアリスを抱えたままユキの元へと走る。

 アッシュがユキの元まで来たことを確認してグレンはユキの血の跡を辿るように走っていった。


 召喚されたマリアが回復魔法かけ続けている間に眠りかけの彼女の肩を揺らし、起こす。



「アリス、ごめん! 起きて!」

「んん~……、何……?」

「ユキが大怪我してる!」

「けが……?」



 ウトウトとしているアリスは目を擦りながら、慌てるアッシュが見ている方を見ると血だらけのユキが視界に入る。驚いた様子に変わり、飛び起きた。



「ユ、ユキ?!」

『アリス様、私は回復を止めるわけにはいきません。アリス様は神聖魔法は使えますか?』

「ふ、普通の回復魔法なら……。でも、神聖魔法はまだ、覚えられてなくて……ッ」

『大丈夫です。でしたら解呪の魔法は使用できますか?』

「解呪ならできる!」

『ありがとうございます。では、お願いできますか?』

「う、うん!」



 アリスはマリアの指示に従って魔法を行使していく。


 アッシュはアリスたちの様子を確認しながらグレンが走っていった方を見る。



(アティの元に僕も行きたいけど、アリスたちを置いていく訳にもいけない……。それに……)



 アッシュは自分の心臓のある部分に手を置く。


 徐々に強くなる痛みに気が狂いそうになっていた。痛みでじっとりと汗を滲ませてしまう。正直、動くのもキツイ。


 隣で必死に治療をしていたアリスたちへと視線を移す。


 もし、今、僕が倒れると二人が不安になってしまう。悟られないようにしないと……。


 深呼吸して表情を保てるようにしていると、アリスの方から、”わっ?!”という声が聞こえる。



「ま、マリア、解呪できてるかな……」

『えぇ、アリス様。この調子であれば問題はございません』

「ホントに? さっき間違えて魔法が切れそうになっちゃったんだけど……」

『大丈夫です。アリス様のおかけでだいぶ治まりました。あとは……!』



 マリアは回復魔法をしつつ、神聖魔法の術式を組んで発動させる。解呪のおかげで傷口が広がることが押さえられたので念押しの神聖魔法で完治させることが出来た。

 浅かったユキの呼吸は徐々に戻っていき、どうにか一命を取り留める。


 ゆっくりとユキは起き上がると、アッシュの方を向くとバッを頭を下げ、震える声で謝罪を口にする。



「アッシュ、申し訳ございません。僕の判断ミスで、アティが……っ」



 完治したとはいえすぐ謝ってきたユキにアッシュは驚いた顔をしたが、軽く肩に手を置いてにっこりと笑う。



「大丈夫だよ。アティのことは心配だけど、向かったのがグレンだからさ、大丈夫だよ」

「それでも……ッ」



 判断ひとつミスでこうなってしまった。


 足を引っ張ってしまった。


 怪我もしてしまった。


 頼まれても、こうも失敗ばかりだと、ノアが居るから一緒に旅をさせてもらっているけど……。居ても、いいのだろうかと、失敗する度、不安になってしまう。


 暗くなった様子のユキにアッシュはどう声かけようか迷ってしまう。それでも謝り続けようとするユキの後ろにアリスがニヤニヤと笑いながら近寄ってくるのが見えた。



「本当に、申し訳けっ?!」

「はいはーい、ユキ。しつこいわよぉ」

「あ、アリス?! え、な、なんですか、その格好?!」

「アッシュに夜這いされたのよぉ」

「えぇえっ?!」

「やめてやめて、そんなわけないじゃん。勘弁してよ」



 飛びついてきたアリスのボロボロになった着物を見てユキは慌てる。アッシュの上着を羽織っているが肌が見えてしまっていた。

 冗談混じりに戯れるアリスだが、ユキの暗くなった顔は少し良くなっているみたいだ。



「さて、僕らは屋敷で待っていようか」

「い、行かなくていいんですか?」

「行きたいのは山々なんだけどねぇ」



 (のろ)いのことは言えない。それに、グレンからは止められたのは正しいし、今は少し動くことは出来ても戦いは、出来ない。


 ソワソワしているマリアを見る限り、彼女は気付いてるようだけど。



「僕の言い訳、になっちゃうけどさ。君らを守るためにもここから移動するのも、良くないからね」

「そう、ですか……」



 ヘラッと笑いながら言うとアリスは戸惑っているユキを連れて屋敷へと向かう。入り口にまだいるアッシュとマリアは二人が入ったことを確認した後、まだ残っていくれているマリアに声をかける。



「ねぇ、マリア」

『分かってます。(のろ)いのことですね』

「んー、それもあるけど、ね。実は呪い(コレ)の件はまだアリスたちには伝えてないくてさ。後で、頼むよ」

『……はぁ、むしろ、今までよく気を保ててますね。相当、痛いのにも関わらず動き回れるのは驚きですよ』

「あはは、これでも結構、ギリギリなんだ」

『でしょうね』



 呆れた様子でため息を吐くマリアは先に屋敷へと入っていく。

 マリアは屋敷に足を踏み入れると結界魔法を展開させ、無事に張り終えるとアッシュと共にアリスたちの後を追うように屋敷へと入っていった。

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