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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国
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侍の国:妖刀探し5

 バキンッ


 金属を弾く音が響き渡る。


 ヴィンセントはザザッと砂埃を上げて止まると肩で息をしながら睨みつける。



「ハッ……ハッ……! くそ……!!」

「どうしたんや? まだまだやれるやろ!!」



 刀を下から振り上げて切り裂いていく。立て続けに斬撃が何度も打ち込まれて、次第にこちらが防戦一方になってしまう。息をつく、暇もない。



「さぁさぁさぁ!! お主が持つ妖刀の力そんなもんやないやろ!!」

「ぐっ!!」



 羅生は子どもとはいえヒトを一人抱えてるのにこいつ、動きに無駄もなく攻め込んでくる。



(こいつ、息が上がるどころか動きが早くなっていく……ッ)



 立て続けに振り下ろされる刀を受け流すがさばききれなくなっていく。切り傷が増えていき、そこから血がジワジワと流れる。


 刀を避け、魔法を発動させようと手を伸ばそうとすると、ヴィンセントと羅生の間に誰かが降りてきた。



「兄者!」

「陽か。そっちはどうや?」

「逃げられた。すばしっこいスナイパー野郎だったぜ」

「ふぅん。まぁ、えぇわ」

「それよりも兄者、銃声のせいかわからねぇけど、やべぇの来てる。一旦、逃げるぞ」

「え~、なんや、これからが面白そうやったんに、残念や」



 そう言いながら羅生は刀を鞘に納める。さらに路地の奥に行こうとした時に羅生はヴィンセントの方を振り返るとニヤリと笑う。



「せや、グレンに伝えてくれへん? 可愛えぇお嬢ちゃん、預かっとる。無事に返してほしかったら……、黙って殺されてくれへん、ってな。ほな、またな」

「なんだと?」



 グレンって確かアッシュから紹介された守護者の男の名だ。なんであいつの名前が……。いや、それよりも小娘を連れて逃げようとしてる。


 闇に紛れそうになっていく羅生たちを追うため、走っていくが闇に溶け込んだと同時に姿も気配も完全に消えた。



「くそっ……っ!」



 舌打ちをしていたヴィンセントの隣にダンッと音を立てながら誰かが降り立った。その人を見るとグレンと呼ばれる男だ。息を切らしてこちらの腕を掴む。



「おい、アティは何処だ?!」

「……す、すまない。逃げられた」



 あまりの勢いにヴィンセントはたじろぎながら答えると、グレンは大きく目を見開く。掴まれた腕を強く握られ、思わず、痛みで顔を(しか)める。

 普段は紫色のグレン髪が所々白く染まり、赤黒い炎のようなものがチリチリと現れる。


 それはエドワードの報告に書いてあったリリィの覚醒しかけの姿に酷似していた。


 周囲の空気が魔力で震え、重くなるのを感じる。



「奴らは何処に消えた?」

「そ、その道から消えた。おそらく妖刀の能力を使ったのか魔力痕がない」

「……そうか」



 ヴィンセントの腕から手を離し、羅生たちが去っていったところに方にいくと、その場に屈み何かを調べているようにも見える。


 その様子を見ていると今度はナギが上から降りてきた。


 グレンの姿を見るとビクッと怯えた表情になる。



「ぐ、グレンはん?! い、いつ来たん……?」

「おい、なんで私の後ろに隠れる?」



 ナギはグレンに声をかけながらいそいそとヴィンセントの後ろへと隠れる。


 やばい、やばいやばいやばい!! めっちゃ怒っとる!!


 ナギの声にグレンはギロリと睨みながらこちらを振り返ってきた。その視線には殺気がこもっており、二人の背筋に冷たいものが走る。



「ナギ、貴様は何をしていた?」

「陽とか云う、妖刀使いの……相手して、ました……。はい……」

「貴様、アティを連れて行って守るとまでほざいてたのに、このザマか?」

「ご、ごめんなさ――ひぃっ?!」



 ズカズカとナギの方へと歩いていくと、彼女の胸ぐらを掴み上げた。宙ずり状態になった彼女は息が出来ないのか足をばたつかせていたが容赦なく締め上げる。



「く、苦し……っ」

「貴様を、信用した私が馬鹿だった!! 今後一切、私の前に姿を現すな!!」

「ま、待ってぇや! グレンはん! う、うちは……っ」

「黙れ!!」



 怒りのまま、グレンはナギを投げ飛ばされ、バンッと音を鳴らしてズレ落ちていく。壁に強く打ち付けられたナギは空気が一瞬、吸うことが出来ず、咳き込む。



「ゲホッゲホッ!! ほ、ホンマ、ホンマに待ってぇや! アティちゃんのことはホンマにごめんや! けど、お願いや……っ」



 姿を二度と見せるというのはいやや。もちろん、自分の目的のためもあった。やけど、それ以外の理由もできてしもうたんや……。


 涙を浮かべるナギだったが、グレンの激昂した様子は治まらない。思わずヴィンセントは二人の間に入る。



「待て、まだ小娘は助けられる! 身内同士で争うのはやめろ!」

「こいつはもう身内でも何でも――」

「グレン!!」

「っ!!」



 怒鳴るようにヴィンセントがグレンを制止する。


 この男とはまだ2、3日の付き合いだが、恐らくアッシュと同じようなタイプなんだろう。グレンにとって、あの小娘は私にとってのアリスと同じだ。



「落ち着け、グレン。それをいうなら助けに来たのな何も出来なかった私にも非がある。すまなかった」



 頭を下げて落ち着いた口調で話す。


 落ち着いた様子で話すヴィンセントの言葉にグレンから出ていた強い殺気は徐々に無くなっていき、髪の色も元の色に戻っていった。

 グレンは俯き、ぐちゃっと自分の髪を握り、大きく深呼吸した後、顔をあげる。



「いや、こちらこそすまない。冷静さに欠けていた」

「いい、気にするな」

「……はぁ、ナギ」

「っ!」



 名前を呼ばれ、ビクッと身体を震わせて涙をボロボロと流したまま彼女も顔を上げる。グレンはまだ怒ってはいるようだったが先程までの激昂している様子は無い。



「……すまん、私の判断ミスなのに当たってしまった。怪我はないか?」

「グレン、はん……っ ホンマ、ホンマにごめんや……」

「いやいい。そもそも最終的に着いて行かせる判断をしたのは私だ。お前に当たるのはおかしかったんだ」

「ちゃう、ちゃうよ。うちが、うちが見とらんかったんがあかんやったんや……っ う、うわぁ〜〜んっ!!」

「ちょっ?! お、おい、泣くな!」



 突然泣いてしまったナギに慌てていると、グレンの視界がぐにゃりと曲がる。強い眠気は先程からしていたが、抗いようのない眠気に立っていられなくなっていく。

 フラフラと後ろに下がっていくグレンにヴィンセントが気がつく。



「っ! おい、グレン!」

「グレンはん?!」



 今、眠るわけにはいかない。眠るわけには……。


 どうにか眠気に抗おうとするが、ブツンッと視界が暗転し、そのままグレンは力なく倒れていく。咄嗟にヴィンセントが腕を掴み、倒れてしまうのを防いだが、昏倒したのかと思うほどだ。



「おい! 意識はあるか?!」

「ど、どうしたんや……? グレンはん」

「わからない。とにかく一旦、屋敷に戻るぞ。こいつが来たならユキの方は大丈夫だと思うが……」

「ユキはんもなんかあったん?」

「お前、一緒に行動してたんじゃなかったのか?」

「うっ……。オレはその……」



 陽の方で手がいっぱいでこっちの様子を伺うなんて出来なかった。


 俯いたナギにヴィンセントはため息を吐く。眠っているグレンを彼が背負おうとするとナギが止める。



「待ってぇや、グレンはんはオレが運ぶ。あんさんも怪我しとるやろ? あんま無理せん方がえぇよ」

「お前こそ大丈夫なのか?」

「大丈夫や。オレ、今回なんも出来へんかったけんな」



 グレンはんが怒るのも仕方の無いことや。グレンはんと一緒に行動して、どんだけアッシュはんやアティちゃんたちが大事なのかを間近で見ていたんや。

 少しでも力になりたかった。ただ一緒に行動するだけやない。たった一つの望みのために頑張ろうとしとった彼を見て、力になってやりたいと思った。自分には無いもんやったから。


 グレンを背負ったナギはため息を吐きながらヴィンセントの後ろについて歩いていく。ふと、そういえばこの人は参加せずに屋敷にいると言っていたのに何故こんな所にいたのだろうかと疑問が出てきた。



「……それにしてもヴィンセントはん、なんでここに居んのん?」

「私か? ……まぁ、ちょっとな。アリスたちのいる松葉屋に向かおうとしてた時に、妖刀の気配を感じてここに来ただけだ」

「ほーん」

「まさか、こんな事態になっていたなんて思いもしなかったけどな」



 まぁでも、ここにたまたま来てよかったかもしれない。ユキはアリスの仲間だ。何かあれば、きっと、アリスは悲しんでしまう。


 それよりも、アティの件だ……。



(アッシュのやつにどう説明するか……)



 あいつもあいつでめんどくさい。暴れない、いや、暴走しないようにどう話すか……。


 痛む頭を押えて屋敷へと二人は足を運ぶ。

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