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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国
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侍の国:妖刀探し3

 羅生が抱えているアティをどうにか取り返したいが、こちらの動きでも先読みしているかのように銃で気を逸らそうとしても、全く隙が見当たらない。



(ナギの方の援護射撃が来なくなったところを見ると恐らくもう一方の妖刀使いの相手をしていると考えた方がいいでしょうが……、銃で戦うにしろ、アティに当たる危険性を考えると連射は出来ない。かと言って、剣などは苦手ですし、あとは素手……。いやいや、刀相手に素手は無謀すぎますね。さて、どうしましょうか)



 牽制していたが弾切れになった銃をしまい、両手を空ける。空いた両手に魔力を纏い、一気に距離を詰めて行く。


 突然、素手で飛び込んでくるユキに向けて羅生は刀を横に振るう。体勢を低くして躱し、そのままアティへと手を伸ばすがひらりと躱される。



「カッカッカッ なんやぁ、そんなにお嬢ちゃん返して欲しいんか?」

「えぇ、返して頂きたいですよ」

「おっと!」



 グンッと蹴りを繰り出し、躱された先に魔法を仕組んだがこれも躱された。


 これは先読みってレベルじゃない。



「全く、なんのトリックか分かりませんが、その回避力には感服しますね。妖刀の力のおかげですか?」

「せやで、まぁこんなもんやないけどな。この似蛭の力は」

「ハッ 刀の力がないとあなた自身は何も出来ないと言っているようなものですけど、しょうもないですね」

「お主、言うやんなぁ。なら、似蛭の力を存分に味わってもろうてえぇよ」



 そう言って似蛭を掲げる。ブツブツと呪文を唱えたかと思うと、瞬きをした瞬間、羅生の姿が消えた。


 テレポート? いや、そんな魔法の発動には見えなかった。どこに行ったのだろうと周りを警戒して見るが姿が見当たらない。



「どこに――ぐっ?!」

「こっちや」



 いつの間にか後ろにいた羅生は刀をユキの腹部に深々と刀が突き刺さしていた。


 傷口がまるで焼かれているように酷い痛み、そして、この刀、ヒトの血を吸っている気がする。

 血と同時に魔力を奪われている感覚に、ユキは銃を再度、顕現して羅生に向けて撃つ。だが、やはり躱されてしまう。


 躱すと同時に刀が引き抜かれ、傷口からドクドクと血が流れ、吐血する。



「カハッ!」

「お主、思ったよりも丈夫やなぁ」



 フラフラとしながら口元の血を拭う。回復魔法なんて覚えていないため、アイテムボックスからポーションを取り出して飲み込む。


 だが……。



(血が、止まらない?)



 ポーションを使用したにも関わらず腹の傷は塞がることも無く、血が流れていく。傷口を押さえても止まることがない。



「ポーションくらいじゃあ、似蛭から受けた傷は塞がらんで」

「……くっ」



 氷魔法で傷口を覆う。それでも溢れる血は止まる様子はない。さっさと終わらせないと、出血で動けなくなってしまう。


 じわりと滲む汗。



「選ばしたるよ。楽に死ぬか、苦しく死ぬか」

「どちらともご遠慮いただきます!!」



 痛む身体を無視して羅生にむけて拳を振るうがやはり躱さらる。あの刀をどうにか塞がないとどうしようもない。地面を蹴り、羅生の頭上まで飛ぶ。銃を放つが刀で弾を弾く。



「ちょこまかと――っ!」



 羅生はユキを追撃しようと足を動かそうとしたが、足元に粘着質なものが地面と足をくっつけていた。


 以前にグレンから見せて貰った弾に魔法を付与して発動させる。着弾と同時に発動された魔法で動きをどうにか止められた。これなら――!!



「”氷魔法:氷の槍(アイスランス)”!!」



 氷の槍が羅生に向けて飛ぶ。それと同時にユキは距離を詰めて、アティへと手を伸ばす。羅生は当たる直前にニヤリと笑う。



「そう来るやろうなぁ」

「っ?!」



 羅生は魔法を避けない。深々と羅生の胸元へと突き刺さっても怯む様子もなく、大きく刀を振り上げる。避けようともせず、こちらに刀を振り下ろそうとするとは思わなかったユキは戸惑いながらも、せめてアティだけは取り返さなければ、と腕を伸ばす。


 振り下ろされる刀はユキの首元を捉えた。



「ほな、さいなら」



 刀が当たる直前、後ろへとグイッと引かれる。バランスを崩したことによって刀は当たらず掠めた。



「おい!」

「え、ヴィ、ヴィンセント?!」

「全く、お前は何をしているんだ?!」



 ヴィンセントは慌てて距離を取るようにその場を下がると、支えていたヴィンセントがユキから手を離す。離すと同時に支えが無くなったドサリとユキは崩れるように座る。

 驚くヴィンセントはユキの様子を見ていると腹から血が流れていることに気づく。



「おい、ポーションは?」

「使用しても、塞がりません。氷魔法でどうにか塞いでいますけど……、どうも、止まりませんね……」



 苦痛に汗を滲ませ、ヘラッとユキは笑っているが余裕は無さそうだ。舌打ちをしたヴィンセントはユキの前に出ると、刀を顕現する。



「お前、屋敷まで走れるか?」

「え?」

「妖刀で切られたんだろ。妖刀の刀傷は呪いに近い。アリスなら治せるはずだ」

「ま、待ってください! アティがまだ……」

「私が連れ帰る……、と言いたいところだがあれは厳しいな」

 


 同じように妖刀を使っているからわかる。禍々しい気配、そして相当の血を呑ませたのだろうか、妖刀の強すぎる力がヒシヒシと感じる。あそこまで来ると完全に刀に呑まれてるはずだ。


 羅生を睨むように見ていると、彼はユキの氷魔法で刺さっている氷槍を迷いなく引き抜く。大きく空いた胸の穴はみるみると塞がっていき、すっかり完治しているようだった。



(はぁ、本当はアリスたちのところへ向かおうとしたのにこれか。それに、変なトラブルがなければ屋敷に戻る頃合にはあいつらも帰ってきているはず。一番いいのは、それまでは足止めして刀の回収が出来ればいい。アッシュが来れば、恐らく回収は可能だろう)



 だが、今、自身が持つ妖刀を使っても、こいつをそれまで足止めできる気がしない。

 それよりも……。



「さっさと屋敷へ戻れ。その怪我では戦えないだろ」

「で、ですが……」

「もう一度言うぞ……」



 ヴィンセントはキレ気味な様子でユキの方を向く。ビクッとするユキに対してヴィンセントは念押をするように言い放つ。



「屋敷に戻れ。その怪我では足手まといだ。夏鬼が近くにいる。さっさと、あいつと戻れ!!」

「……っ わかり、ました」



 怒鳴られたユキは腹部を押さえてよろよろと立ち上がる。いまだに止まらない出血と激痛に耐えながら、道の少し離れたところに居た夏鬼の肩を借りてその場を去ろうとする。逃げようとする二人を羅生はヴィンセントを無視して追撃しようとするが、その行く手を遮る。



「おっと、待て。貴様の相手は私だ」

「なんやぁ、今日はえらい客人が多ぇな」

「ふん。小娘を攫おうとしてるからじゃないのか? いいご趣味をお持ちものだな」

「ちょ、待てや、こん子はそういうんやないって」



 動揺しているように見えるが、全く隙が見当たらない。小娘(アティ)を回収したいが無傷で取り返すのは厳しい。が、さすがに見捨てるわけにもいかない。どうするか……。


 どう攻め込むか悩みつつ、二人の気配が遠くなったことを確認しながら、慎重にヴィンセントは距離をとる。そんな彼に、羅生は一定の距離を取っているだけで攻めてこないことに気づいた。



「なんや、最初、威勢のいい感じやったのに、怖気づいてんか?」

「妖刀持ち相手に何の手もなく無策に、いや、無謀に突っ込むたちではないんでな」

「無策、ねぇ。なんやったらお主も妖刀を抜刀したらえぇやん。それやったら多少、わしと対等には戦えるかも、しらへんよ。えぇで、えぇでぇ、ちと待ったるよ」



 こいつ、私が妖刀持ってることにも気付いている。それもそうか。私もこいつが妖刀を持っていることに気づくと同じだ。


 にやにやとしてる羅生はまだかと言いたげな顔をしながら羅生は刀をカンカンッと鳴らす。



「ほら、はよう」

「……チッ」



 ヴィンセントは先ほどまで持っていた刀を消すと、紅桜を顕現させる。赤く光る刀を抜くと、羅生はひどく嬉しそうな顔になった。



「へぇ、えぇの。それ、いい刀を持っとるやないか」



 楽しそうに笑う羅生だが、ヴィンセントは刀を構える。それに合わせて羅生も構えた。そして、ヴィンセントは一度、刀を鞘に戻し、腰を低くしながら構えなおすと、空気がバチバチとまるで雷が走る。



「”抜刀術:雷雨乱舞”」



 一気に刀を抜くと同時に一歩踏み出す。雷の纏った刀は羅生に向けて放たれるも、羅生は受け流していく。続けて刀を振るう彼は一撃目、二撃目と流れるように追撃していき、刀と刀がぶつかる音を響かせる。


 久々に刀を使ったからだろうか。動きが悪い。



(そんな言い訳をしている暇はない。あいつらの話によれば妖刀を持っているのはもう一人いるはず。そいつが来るまでに、こいつを仕留めるかどうにかしなければ、さすがに積みだ)



 連続で刀を振るい、暇を与えないようにしていく。


 トンッと羅生が躱した先に魔法を放つ。



「”雷鳴”!!」

「おっとと」



 着地地点に放たれた魔法を刀で切り裂かれる。切り裂かれたと同時に、至近距離まで一気に距離を詰めたヴィンセントは羅生の首に目掛けて刀を振るう。が、羅生はそれに対して、アティを上に投げ、空いた腕で首を切ろうとした刀を受け止め、骨にあたる感触が伝わる。

 まさか腕で刀を受け止めるとは思わなかったヴィンセントは一瞬、驚いた隙に、羅生は刀をヴィンセントに向けて突き刺さそうとしてくる。刺さる寸前で、ヴィンセントは小刀を使い、受け流しをし、ギリギリと刀を軋ませながらどうにか直撃を免れた。塞がれた羅生はそのまま蹴りを食らわせ、バギッと音とともにヴィンセントを自身から引きはがすと、投げたアティを受け止める。



「なんやぁ、今ので死んだんと思ったんやけどな」



 蹴り飛ばされたヴィンセントは咳き込みながらも再び刀を構える。


 やつの蹴りも妖刀の影響なのか、相当な力で蹴られた。身体強化魔法を使用してるとは言え、骨に相当なダメージがある。この馬鹿力め……。


 ペッと血を吐き、睨む。



「さぁ、次は――」



 ゆらっと動く羅生は刀の先をヴィンセントに向ける。



「わしの番や……」



 そう言った羅生は不敵にニヤリと笑う。

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