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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:調査7

 アッシュが遊女から情報を聞いていた頃、アリスとリリィは程よく酔いが回ってきた奉行の男たちにお酌をしながら話をしていた。


 アリスも一緒にお酒を飲みつつ、聞いていると程よく酔いが回ってきたのか口が向こうも軽くなっていく。



「へぇ、じゃあ旦那様は奉行の中では結構偉い人なんですねぇ」

「ガッハッハッ! そうよぉ、わしらはなぁ、このお国のために必死こいて働いてなぁ。今じゃわしはトップに近いといっても過言ではないんじゃぞ!」

「ふふふ、でも刀が盗まれた事件あったじゃないですか。その時はやっぱり結構言われたんじゃないです?」

「へっ 表向きはなぁ」

「表向き?」



 なんだろうかとアリスが首を傾げていると、男はアリスの肩を掴み、グイッと引き寄せる。急に引き寄せられたアリスは驚く。



「うわぁっ?!」

「お主……、梅の髪飾りか……」

「う、梅?」



 着付けをしてもらった時に髪の毛も結ってもらっている。その時に梅の簪を刺してもらっていた。それを男はじっと見て、ニヤリと笑う。



「まぁ、よいよい。それよりも、例の件は気になるかぁ?」

「え、う、うん、まぁ気になっちゃうかなぁ……」



 酒臭い。酔っ払いの絡みは面倒とは聞いてるけど、加齢臭かしら、それと混じって酷く臭い。うぅう〜、なんか嫌だ……。


 そう思うがなるべく嫌な顔を出さないようにして、アリスは笑顔が少しひきつりながらも男の方をむく。

 その反応が面白いのか、男は顔を近づけてくる。



「聞きたいならよぉ、良かったら向こうで二人で話さんか?」

「え、ふ、二人?」

「そうとも。それにお主は遊女だろ? もしアレなら身請けもしてやってもえぇんじゃぞ?」



 み、みうけ? みうけってなんだろうか。


 よく分からないし、こういうヤバいやつは何となく分かる。けど、どう対処しようかと悩み、マラカイトの方を見るといつの間にか居ない。


 え、えっ?! どこに行ったの?!


 戸惑っていると男はだんだんと身体を寄せてくる。



「身請けすればこんな生活ともおさらばだ。な? いい話だろ?」

「え、えーと……」

「おい」

「っ?!」



 後ろから声をかけられて男とアリスはビクッとする。振り向くとグレンが立っていた。グレンを認識した男は慌て始める。



「ぐ、グレン殿! いやはや、お戻りになられたのですな」



 明らかにグレンが来たことで慌てる男と隣で怯えた様子のアリスにグレンはため息吐いて、アリスの方へと手を伸ばす。



「……おい、そこの遊女、酒を注いでほしい」

「え、あ、わっ?!」



 彼は呆れた様子でアリスの手を掴み、立ち上がらせる。アリスの肩に手を置いていた男も思わず彼女から手を放したところで、先程までグレンが座っていた席に戻って座る。


 唖然として驚いてしまったけど、グレンにさっきの酒臭いおじさんから助けてもらったんだと思う……。


 他の周りに聞こえないようにアリスはボソッとグレンに話しかけた。



「あ、ありがとう。さっきちょっと怖かったの……」

「別に。それより話しは聞けたのか?」

「……うぅん」



 小さく首を横に振って、グレンの空いたお猪口にお酒を注ぐ。注ぐように頼んだ手前、飲まない訳にもいかないため、グレンはそれを口にする。


 話をさせやすくするのに、ある程度酒の回った状態で席を離れたが、あまり聞けなかったか……。もう少し遅ければ良かったかと思ったが先程の状況を考えると引き離しても良かったかもしれない。


 リリィの方を見るともう無言で眉間にシワを寄せながら舞を踊っていた。まるでロボットダンスのようにカクカクな舞。


 あれはあれで大丈夫なのだろうか……。


 グレンはお酒を飲み切り、隣で不安そうな顔をしているアリスの方を見る。どうやら、落ち込んでるようだ。



「……私も役に立てるかもって思ったのに、遊女組は全くね」

「気にするな。どうせ今頃、アッシュが情報集めしているだろ」

「え、そうなの?」



 グレンは小さく頷いて、奉行たちが見えない死角から出入口の方を指をさす。エドワードとアッシュの二人がいるはずだったが、エドワード、一人しかいない。


 アッシュは何処に行ったのだろうか。


 その疑問に答えるようにもう一口、酒を口にしながら答える。



「こういう時のあいつは単独の方が強い。戦いもそうだが、情報集めに関してもだ」

「情報集め……」



 そういえば元々アッシュは一人で行動することの方が多かった。それに加えて戦うこともそうだけど、周りの情報集めも……。旅をして間もない時、人攫いの件があった際も私たちは知らなくてアッシュは知っていた。



「お前たちに言えないやり方で集めてる場合もある。放っといても大丈夫だ」

「言えないやり方って……、まさか殺ってない、わよね?」

「それはしないと思うぞ。それに、あいつが居ない間は、私と……」



 チラッと外の方を視線を移す。アリスもそれを追って見ると、そこにはジェイドがいた。目が合ったジェイドはアリスたちにも気付いて小さく手を振っている。


 ジェイドを喚んでいたんだ。いつの間に……。



「だから、お前たちは自分の身の安全を気にしていろ」

「……そう、ね。わかったわ」



 なんだか少し悔しい気持ちになる。無理言って自分でも探すって言った割には情報なんか全然だ。

 ……いや、でもまだ時間はあるはず! 絶対に私も鼓舞するだけじゃなくて役に立ちたい!


 ……


 …………


 ………………



 そう、意気込んでいましたわ。えぇ、意気込んだわよ。はぁ、なんなのよぉ! 全然、話を聞き出せないし、リリィに至っては慣れないお酒だったからか寝ちゃって、危ないからということでエドワードが別室に連れて行っちゃうし……。

 まだ隣にグレンが居るからいいけど、正直、心細い。


 諦めてずっと座ったままのグレンの隣に戻って座る。



「どうした、もう終わったのか?」

「終わったも何も無いわよ。みんな居なくなるし、慣れない服で疲れたわ……」



 ターゲットである奉行の人たちも酔いつぶれちゃうし、これじゃあ調査所では無い。話すらもう聞けないからだ。


 ため息を吐いたアリスにグレンはクスクスと笑う。


 笑われたアリスは笑われたことに少しムスッとしながら口元を膨らませる。



「何笑ってんのよ?」

「ん? いや、中身のない密会もどきのこれもお前たちがいるなら、多少は悪くないと思ってな」

「何よそれ。まぁ確かに密会というか、なんか近況報告だけ向こうがしてきて終わった感じはあるわよね」

「適当な連中だからな。だから盗まれたりしたんだろ。身内の犯行なのに自分たちの地位のため、公開もせず、どうしようどうしようと慌てふためいて何もしない。国の中枢を担うにしては無能すぎる」

「あんた、言うこと一言一言、容赦ないわよね……」

「事実を言ったまでだ。そのせいで今回、しなくてもいい刀探しなんぞさせられているからな」



 グレンにしたらばっちりもいいところね。


 それにしても私から注いだ酒は飲むくせに向こうから注がれた酒はソッとバレないように捨ててたけどなんでかしら。

 注いでるものは同じだと思うけど……。



「ねぇ、私から注いだお酒は飲んだのにあの人たちからのは捨ててたのはなんで?」

「……信用してないやつらからの酒なんざ飲めるわけないだろ」

「あら、私は信用してくれてるんだ。ま、そうよねぇ、アッシュの仲間だからってのもあるもんね」

「別にそういうことではないぞ。あいつの知り合いだからって全ては信じることはしないさ」

「へぇ、じゃあ私も信用してくれてるんだ」

「そもそも、お前はそういう毒を盛るという考えはしないだろ」

「する訳ないじゃない。こんないいお酒なのに、毒盛るとかもったいないわ!!」



 上質なお酒の入ったひょうたんを抱えてアリスはそれを頬に当てる。


 匂いからして相当いいものだと言うのも分かる。色んなお酒を飲んでるし、なんならちょっと飲みたい!


 酒を抱えるアリスにグレンはため息を吐いて頬杖をつく。



「お前はそういう考えだろうけど、誰かから貰ったものでも浄化魔法でもいいからかけるようにはしろよ。HALの時みたいに毒を盛られるなんてことは有り得るんだからな」

「そ、それは普段は気をつけてるわよ! 前回はアッシュも飲んでたから私も飲んだだけで……」



 目を逸らしながら声が小さくなっていくアリス。前回のHALの時は毒を盛られた上に攫われてしまった。結果的には助かった? と言えばそうだろうけども、普段はそういうのには注意してるつもりだ。


 否定したアリスにグレンは、”普段もどうだかな”と鼻で笑いながら言われてしまう始末。ますますムスッとしているアリスだったが、こうして二人で話すのはなんだか初めて……、いや、スノーレインの時も少し話はしていた。けど、こんな風に話す機会はなかったと思う。


 それに、普段から気になっていたこともあった。



「……ねぇ、グレン。前に私がさ、HALの世界にいた時に聞いた事、覚えてる?」

「何をだ?」

「その、ほら、あんたがたまに怪我しちゃうって話したじゃない。今回はそういう怪我はないようだけど」



 覚醒してるのに治らない怪我。それに、今回、グレンから言われたアビスと関わりがあれば手をすぐ引けという条件の元、こうして潜入して捜査をしている。

 実際に深淵の神子の話を聞いてはいるけど、会ったこともないからどれだけやばい人かは分からない。それでもアッシュやグレンの様子から酷く残酷な神子というのだけは分かる。わかるけど、何故そんな人にグレンは仕えているんだろうかという疑問はあった。彼ならもっといいところで仕えることも出来ただろうから。



「なんでグレンはアビスに仕えてるの?」

「…………」



 その質問にはグレンは口を閉じてしまう。視線をこちらに向けることも無く、ただ黙ってお酒を口に運び、間を置いてようやくこちらを見てくれた。


 だが、その目は酷く冷たいような、そんな感じの目だった。


 その視線にアリスは思わずビクッと怯える。



「その質問に私が答える必要は無いだろ」

「で、でも、アッシュにも関わらせたくない程の人なら普通、仕えるなんてしないんじゃないかって思うの。それでもいるってことは何か深い事情があるのかなって……。その、ごめんなさい……」

「……はぁ、なんで謝る?」

「…………怒ってるように、なんか見えるから……」



 一緒に話したり行動していた時には見せたことの無い冷たい目。グレンは怒っているんじゃないかと思うと気が気ではなくなってしまった。自分から聞いておいて、失礼だとは思うけど……。


 少し怯えた様子のアリスにグレンは、しまったというような表情をして視線を逸らす。


 酒が回ったのだろうか。そういうつもりじゃ、なかったんだが……。



「すまん。怒ってるように見えてしまったか。別に怒ってる訳では無いんだ」

「……うぅん、ごめんなさい。あんま触れられたくないってのは分かってるんだけど、気になっちゃって……。あ、で、でも、答えるの難しいなら、いいよ。聞いた事、忘れて!」

「あ、おい!」



 慌てて手を横に振りながら立ち上がり、グレンから離れようとするアリスにグレンは思わず声をかけたが、アリスはそのまま部屋を逃げるように出ていってしまった。



(バカか、私は……)



 開けっ放しの襖を見て、グレンは深いため息をついて、壁にもたれかかり、自身に対する苛立つ感情を抑えるようにギリッと歯を軋ませた。

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