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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:調査6

 上座に座っていた男は開始の音頭を上げ、少し酒が回り始めた頃、再度グレンに話しかけ始める。



「ところで、グレン殿、お聞きしたい件なのですが、今回、おひとりで来られたのですかな?」

「部下を一人。今回のこの話には連れてきてはいないが、刀の捜索を命じている」

「おぉ、そうでございましたか! いやはや、てっきり深淵の神子様もご一緒かと思いましてな!」

「なんだ、(あるじ)にお会いして話したいことでもあったのか? それとも私のみで不満でも?」

「い、いえいえ! そんなことはございませんよ! ただ、今回の刀の件で罰があったかと思いましてな……」



 処罰される可能性も考えていたなら杜撰(ずさん)な管理で盗られるなと言いたいが、一旦はこいつらに喋らせておこう。


 酒を口にしながら男は続ける。



「それに、今回はそれをチャラに出来るように、我々も準備もしております。きっとグレン殿も気に入ることでしょう!」

「気に入る?」

「へへっ まぁ、それはもう少し酒が回ってからのお楽しみということで……」



 そう言ってニヤリと笑うがこの男どもはどうも信用ならない。そのため、出された料理も酒も手をつけていない。それをこいつは気付いているのかいないのか……。

 まぁ、正直、どうでもいいが……。


 不機嫌な様子のグレンは持っている酒を手の全くつけていない料理にちょろちょろと零す。



「……ふぅん、貴様らがそのお楽しみとやらを待たせる権利はあるのか?」

「と、言います、と?」



 とぼけ顔をした男に視線のみ男へと向ける。



「刀の件に関してはどう考えている? 今回、私が来た理由は分かっているんだろうな?」

「も、もちろんでございます。我々の所有する刀の盗難。それを見つけて頂けるとのことで、深淵の神子様の使者であるグレン殿に刀の捜索と回収のご協力頂くようにはなってしまいましたが――」

「協力?」

「ヒィッ?!」



 ギロッとグレンが上座に座る男を睨みつける。


 たださえ面倒な仕事が多いのに、今回はどう考えてもこいつらの尻拭いの案件。それなのに協力だと?

 協力する気は更々無いが、こうも口で言われると胸糞が悪い……。



「私は貴様らに協力しに来た訳では無い。(あるじ)から私に出している(めい)は刀の破壊、及び回収だ。貴様らの杜撰(ずさん)な管理で盗まれたものを何故また貴様らに渡す前提なのだ?」

「い、いえ、来られるとの事でしたので、そういうことかと……」

「破壊か回収ならば貴様らの手に刀が行くことは無い。それこそ回収の場合、貴様らで刀の件は(あるじ)に頼んで返してもらえ」

「お待ちくだされ! 刀は国の国宝でございます! いくら深淵の神子様とはいえ、それは横暴なのではないか?!」

「私は命じられたことを成すだけだ。あとは貴様らでどうにかしろ」

「……そう、ですか……」



 困り果てた様子だが自業自得だ。そこまでしてやる義理はない。

 ため息を吐く男たちだが諦めたのかすぐに作り笑いを始める。



「そ、そうですな。我々の失態ですので、刀の件は致し方ありませぬ。ただ、探すのは我々もご一緒にさせていただきますので」

「勝手にしろ。それと先程の件だが、何を準備している?」

「えぇ、深淵の神子様から以前お話を頂いていた、エルフの件でございます」

「エルフか」



 そういえば、(あるじ)が素材がどうのと言っていた。こいつらの以前というのも、恐らくだいぶ前に此処に来た時のことだろうか。

 別件で私はいなかったが、なるほどな……。



「はい! 深淵の神子様がエルフを欲しがっていたことを思い出しましてですね、以前、奴隷商人がこの国を訪れた時に、大量に仕入れたのです!」

「…………」



 奴隷という言葉でグレンは一度アリスの方を見る。少し顔色が悪い。……無理もない。ハーフエルフとはいえ、同族が奴隷として商品扱いされているんだ。本人からしたらいい話ではないだろう。


 楽しそうに話す男はその後もそれを深淵の神子に献上したいだの、余計な話ばかりをし始める。刀の件が終わって諦めのついている分、中身のない話が続いていく。


 酔いが回っている分、いらない話ばかりだ。



「――と、のように、是非ともグレン殿もお楽しみ頂きたいのです!」

「私は結構だ」

「グレン殿もお堅いですなぁ、たまには息抜きも必要ですぞ! 例えば……そう、女とか、ですな!」

「興味が無い。……はぁ、悪いが少し席を外す」

「おや、お手洗いですかな?」



 そう言ってくる男を無視して席を離れる。襖を閉めてしばらくすると男たちは、ケッとつまらそうな顔をし始めた。



「……ふん、やはり刀はダメか」

「仕方ないですな。予想はしとりましたが、あの男ですぞ。ひとまずはこの場で殺されなかっただけマシでありましょう。それに目的も達成されるにはまだ時間がいりましょう」

「それもそうだな。……おい、女、さっさと注げ」

「はい、どうぞぉ〜」



 差し出された男のお猪口にアリスが酒を注ぐ。


 グレンが居なくなった途端これかぁ。彼も色々大変そうだとは思ってたけど、やっぱりこういうのも言われるのはそうだよなぁ……。


 って、そんなことをしてる場合では無い。恐らく席をグレンが外してくれたのは話すタイミングを作ってくれるためだろう。

 せっかくの機会だ。この酔っ払いたちに話を聞いて少しでも情報を集めよう。


 アリスは話をするために意気込む。



 ――――――――――――――――――――



 一方、アッシュは部屋を出て、少し遠くのところへと歩いていた。こんなところで密会するような人たちだ。ここで働く彼女たちも話を聞いている人もいるはずだし、口をすべられてくれたらいいが恐らく口が堅い人たちだろう。さて、どう話を彼女たちから聞き出そうか……。


 悩んでいると、正面から歩いてきた遊女が小さくお辞儀して声をかけてくる。



「あら、お嬢のお知り合いのかたやないどすかぁ。こないところでどないしたんどすかぁ?」



 ……ちょうどいい。彼女がもし分かれば話を聞き出そう。



「どうも。いやぁ、実は迷っちゃってさ」

「あらあら、それはお困りでしょうなぁ。よかったらわちきでよければ案内しましょか?」

「ありがと。助かるよ」

「いいぇ、気にせんでよかですわ」



 遊女はアッシュを案内するように前を歩いていく。それについて行くようにアッシュも後に続いて歩きながら声をかける。



「そういえば、奉行の人たちはよく来るのかい?」

「せやなぁ。週に2、3回ほど来られますなぁ」

「そうなんだぁ。ねぇ、刀の件とか話してなかったかな?」

「いやですわぁ、いくらお嬢のお知り合いの方でもお話出来まへんよぉ。わちきも信用あってのこの商売さかい」



 ということは、刀の件もこの遊女は聞いてる可能性があるようだ。話が知らないならまだしも出来ない、てことは知ってることだ。

 さてさて、どう聞き出してやろうか。やっぱり()()かな。アリスたちにバレたら軽蔑されそうだけど、どうするかなぁ……。


 悩みつつも屋敷の外を眺めながら呟く。



「にしても、ここは凄く広いお店だね」

「そうどすかぁ? うちらはここしか知らんけんなぁ。お兄さんはこういうお店は行ったりしはると?」

「うぅん、僕は行ったことないんだ。今回、用心棒として来てるけどさ、君もそうだけど綺麗な人が多くてちょっと戸惑ってるんだよね」

「いやだわぁ、綺麗なんてことないどすわぁ。わちきらは夜のお相手もさせてもろうてるし、見かけだけどす」

「そう? 僕はすごいと思うよ。尊敬するもん」

「ふふふ、お口が上手いどすなぁ。そんな褒めても何も出たらせんよぉ」



 照れくさそうにする遊女は前を見ずに歩いていこうとする。すると、料理を運んでいた人にぶつかりそうになり、避けようとしたが着物に躓き、転けそうになってしまう。



「きゃっ?!」

「おっと」



 彼女の手を掴み、自分の方へと引き寄せる。引き寄せられた遊女は顔を赤らめていた。



「大丈夫かい?」

「だ、大丈夫どす……」

「よかった。転けちゃうとせっかく綺麗にしてるのに勿体ないからね。君に怪我がなくてよかった」



 ニッコリと笑うアッシュに遊女はさらに顔を赤くしていく。顔が赤くなった遊女から手を放して距離を置こうと数歩下がる。



「あ、ごめんよ。勝手に触っちゃったね」



 身体を引こうとすると遊女はアッシュの服を掴む。顔を見せないように逸らすが耳が真っ赤だった。



「どうしたの?」

「あ、えっと……」



 モジモジとする遊女の頬に触れて顔を近づけるとより真っ赤な顔をする遊女に逃げないように腰もとを再度自分の方へと引き寄せていく。驚いた遊女の意識をより自分へと向ける。



「……そういう可愛らしい反応されると、悪い男の人にイタズラされるよ?」

「えっ……っ?!」



 パチンッと遊女の耳の近くで指を鳴らす。



「”催眠魔法:幻惑の囁き(ウィスパリングデイズ)”」



 遊女の目が虚ろに変わる。意識がぼやけている遊女を誰もいない部屋へと連れていく。

 意識をこちらに強く向いた時に使える魔法だ。これで聞きたい内容が聞ける。そんなに長く持たない魔法だから早く要点だけ聞いてしまおう。


 倒れかけてる遊女を支えながら、耳元で質問を始める。



「さて、僕の質問に答えてね」

「……はい……」

「まずは刀の件だ。奉行の人たちが刀を盗まれていたね。あれは誰が盗んだか話していたかな?」

「聞いて、ます。あれは――」



 遊女に聞きたい内容を次々としていく。


 盗んだのは二人組。しかも起こったのは元々は奉行のヒト。盗まれた際にはたくさんの死傷者が出ていた。そして、その二人は身元が分かるのにも関わらず、指名手配はせず何故か泳がせたまま。泳がせた理由までは聞けてないそうだが、刀は後々回収する予定ではあるようだった。



「んー、聞く限りではあの妖刀は国宝として厳重に保管されている刀なのに、盗ませて後ほど回収? 刀に何かしらの力はあるのかな……」



 悩んでいると誰かが部屋の前まで来る気配を感じ、再度、パチンッと指を鳴らすと遊女の意識が戻る。アッシュに寄りかかるようになっていた遊女は困惑した様子だったが、アッシュはニッコリと笑う。



「やぁ、おはよう。大丈夫かい? 急に倒れたからびっくりしたよ」

「倒れ……? ッ! し、失礼いたしましたわ!」



 バッとアッシュから離れた遊女にアッシュはゆっくりと起き上がと、離れた遊女は顔を赤くして慌てふためくが、落ち着いた様子でアッシュは襖に手をかける。



「じゃあ、大丈夫そうなら僕は行くよ。部屋の近くまで来れたから、案内してくれてありがとう」



 顔の真っ赤にしている遊女に軽く手を振って部屋を出ていった。


 一応、ある程度は話を聞けているがもう少し情報が欲しい。

 それに、あの遊女がいうには話の際は奉行は位の高そうな遊女を指名していることも多いらしい。階層に応じてくらいが変わるらしいし、この階は最上階に近い層だ。他の位が高そうな遊女を探しながら屋敷を再度歩いていく。

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