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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国
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侍の国:調査5

 夕暮れ過ぎ、未だにアリスを遊女たちが着替えさせている間にアッシュとエドワードは手分けし、アッシュは外で屋敷の屋根の上にて全体を見渡していた。



「……んー、変な魔法の気配は今のところないなぁ」



 妙な気配はあるけども、そんなに気になるところはない。ただ、向かう予定のある部屋には罠のようなものがあるが……。


 あれって、もしかして対グレン用なのだろうか。絶対に効かないし、相手はこの密会で何かしらグレンに仕掛けようとしようとしてたんだろうか。


 ……全くもって無駄だろうけど一応念の為。アリスたちが引っかかっては困るので先に解除してしまおう。


 魔法で罠外しの解除をしていると、隣から声をかけられる。



「ねぇ、(あるじ)様。僕も居ていいの?」

「もちろんだよ。君にはアリスやエドワードたちを守って欲しいんだ。頼むよ、ジェイド」

「うん、わかった」



 白い髪が風に(なび)いている少年、以前に谷で契約の儀式で召喚の契約をしたジェイドだ。髪はアッシュと似ているけども白い髪に白翡翠の少年は喚ばれたことにかなり嬉しそうにヒトに変化してるはずなのに無いはずのしっぽが揺れているように見える。


 単独行動するけどもこれも念の為だ。僕が居ない時にアリスたちの身に何かあればすぐに向かうように伝えている。



「ところでジェイドは谷の方は大丈夫なのかな?」

「大丈夫。ちゃんと竜たちには大人しくお留守番してくれるように伝えてる」

「急に喚んだのによく伝えれたね」

「もちろん、僕はこう見えて神竜だから」



 グッと親指を立てて堂々とするジェイドは楽しそうに言う姿は可愛らしい。

 頭を撫でながらパチンッとジェイドの服もアッシュたちと同じものにすると同じ服装になったことでくるくると服を嬉しそうに眺める。


 ジェイドだけでは心配だし、もう一人、召喚獣を喚ぶ方がいいだろうと悩んでいると一階の渡り廊下の方からエドワードが手を振りながら呼んでいた。



「おーい! アッシュ! 準備が出来たそうだ! 降りてこい!!」

「わかったぁ! ちょっと待っててー!」



 そう叫んで、後ろにいるジェイドの方を向く。時間も迫ってしまっているようだし、仕方ない。



「じゃあ、ジェイド。申し訳ないけど任せてもいいかい? 一人でも大丈夫かい?」

「大丈夫だよ。任せて」

「あははっ そうだね。じゃあ任せるよ」



 ジェイドをその場に残してタンッとエドワードの隣へと飛び降りる。



「誰かと話してたのか?」

「うん、ジェイドだよ。念の為、彼に上から見てもらってるんだ」

「そういう事か」

「あとは、まぁ、色々あったけど問題は無いかな」

「問題?」



 罠の件は、すでに部屋の罠はさっさと解除してしまってるから言わなくてもいいだろう。


 部屋へと入っていくと、遊女の姿をしたアリスとリリィがいた。

 アッシュたちが入ってきたところを見るとアリスはパァッと笑顔になりながら振り返る。



「見てみてアッシュ! どうよ!」

「うん、とても可愛いよ。いや、綺麗、と言った方がいいかな?」

「ふふふ! でしょでしょ! 可愛いでしょお、美しいでしょお!!」



 まだ髪の色はそのままで遊女の姿だが、和服もよく似合ってはいる。隣にいるリリィは正座のまま背筋を伸ばしていた。

 ……いや、なんだか震えている気がする。背筋を伸ばしたまま体勢を崩せないのかもしれない。



「リリィ、大丈夫?」

「…………」

「リリィ?」

「くそが、話しかけるな。体勢を崩したら着崩れするだろ」

「いや、あのさ、動けないと話が出来ないんじゃないの?」

「うるさい」



 大丈夫なのだろうか……。


 心配しているとアリスはリリィの肩に手を置いてピースをする。



「大丈夫よ! リリィはやる時はやるんだから!」

「……そうだね。リリィも自信もって頑張りなよ」

「分かっている」



 そういうがやはり顔が硬い。


 にしても二人とも本当に綺麗だなぁと思っていると横からマラカイトがアリスたちの方へと歩いていき、アリスの帯に触れて整える。



「あまり着崩れするような動きはしてはいけませんよ。それよりアッシュ様、エドワードさん、とても素敵な正装でございますね!」

「ありがとう。ところでモリオンも今回、用心棒として一緒に来るのかい?」

「いえ、モリオンは別件で動いてもらっております。分家の屋敷ですので大丈夫でしょうから」

「そうなんだ」



 神子の元を離れるのも結構危ない気がするけども……。それにモリオンも含めて覚醒のことも聞こうと思っていたが、また次でいいか。



「それよりアッシュ様」

「何?」

「もう奉行の方は到着されているそうです。先にわたくしたちは表に出ようかと思いますのでご一緒にお願いしてもよろしいでしょうか?」

「そうだね。じゃあみんなで出ようか」



 リリィの硬い表情は心配だけども、どうにかなる、とは思う。リリィもやる時はやる、はず。


 アッシュを先頭に部屋へと向かう途中、マラカイトはアリスとリリィにそっと声をかける。



「お先にお伝えしますが、襲われそうになったら全力で拒否か逃げてくださいませ。いくらわたくしの知っている分家でございますが危険なのは変わりませんわ」

「それもそうね……。マラカイト、ありがとう」

「いえ、アッシュ様の大切なお仲間でございますし、わたくしも神子でございますわ。困った方はお守りせねばなりませんわ」



 マラカイトの言葉に頷くアリスは改めて気を入れ直す。いくらアッシュたちがいるとはいえ自分の身は自分で守れるようにはしなくてはいけない。アッシュに甘えたままではいけないし、リリィもいる。


 きっと大丈夫だ。


 そして、奉行が居る部屋の前まで来るとアッシュが襖を開けて軽くお辞儀をする。



「お邪魔致します」

「おぉ! ようやく来たか!!」



 部屋の中へとアリスたちを通し、自分は扉の前に立つ。

 男たちは全員で七人。上座の方にいる小太りな男は目つきの悪そうに偉そうに座っていた。そして、次々と入ってくる遊女に男たちはようやく来たと喜ぶところでマラカイトは座り、自己紹介し始める。



「お初にお目にかかります。わたくし、マラカイトと申します。是非とも今宵は楽しんでくださいませ」

「私はアリスです。よろしくお願いします」

「…………リリィ、です」



 それぞれの自己紹介の後、今度は男たちはアッシュたちの方を見る。こちらもした方がいいのかと思い、笑顔を貼り付けていたが、マラカイトが酒瓶を持ち、上座に座っている男に酒を注ぐ。



「ガッハッハッ!! やはり酒といえば女がおらんと花がないな!! 客人もそろそろ来る頃合いだろうから、全員に酒を注いでおけ!」

「ふふふ、かしこまりました」



 なんとも下品な笑い方をする連中なんだろうか。これが国の中枢の人ってことだし、盗まれても仕方ない気がしてきた。


 呆れているアッシュとエドワードは出入口の前で座って待機しながらそう思っていると、しばらくすると襖を開けたグレンが現れた。


 その場にいる奉行の人たちはグレンを視線で捉えると、上座の隣の席へと手を差し出す。



「おぉ! グレン殿、ようやく来られましたか! ささ、どうぞそちらへ」

「…………」



 グレンは黙って言われた席へと座る。


 一応、僕らは知らない人として振る舞わないといけない。視線を合わせず、隣にいるエドワードにボソッ話しかける。



「エドワード、僕は少し外すよ。何かあれば呼んで」

「……わかった。けど、何処に行くつもりだ?」

「伝えてた通り、僕なりの情報集め。ちょっと君らには見られるのは恥ずかしいから詳細はまた終わったら話すよ」

「そうか」



 エドワードの返事に小さくアッシュは頷く。音を立てないようにソッと出ていった。


 アッシュが出ていったのをチラリとグレンは目で追ったが上座に座る男の方を見直す。

 その男はたかが用心棒に気を配る気配もない奉行の人たちはグレンが来たことで話を話し始める。



「グレン殿、本日はお忙しいところ来て頂いて感謝します。街の方は見られましたかな?」

「そんな暇は無い。そもそも貴様らは今回の要件、分かってるんだろうな?」

「も、もちろんでございます。ただ、本題に入る前にお聞きしたいことがございましてね……」

「聞きたいこと、ねぇ。それよりここにいる遊女たちがいるのに話をするつもりか?」



 普通、お国の事情話をする際は関係者以外は入れない。それでもここを指定して、かつ、既にヒトを入れてる段階で不要な質問だが……。



「ご安心くだされ、グレン殿。ここの遊女たちは口が堅い。よく我々もここで話をすることも多い。ですからこちらを指定してるのです」

「ふぅん……」



 やはりザルもいいところだ。こんなんだから筒抜けになってしまうんではないかと呆れてしまう。だが、今回はそれがアッシュたちにとっては都合がいい。

 こちらの仕事としては、最悪だが。



「……はぁ、わかった。そちらがそう言うなら信じよう」

「ありがとうございます」



 手を擦り合わせるように男は笑いながら、グレンの席にある空の器に酒を注ぐため、お酒の入ったひょうたんを手にする。



「ささ、お酒を飲みながら、お話を致しましょう!」

「…………」


(うっわ……、心底嫌そうな顔してるわ……)



 アリスたちから見ても死ぬほど嫌そうな顔をしていたが、お猪口(ちょこ)を持つ。酒を注ぎ終えた男は自身のお猪口を持ち、持ち上げる。



「さぁさぁ、女たちも酒を持て! 共に乾杯をするとしよう!」



 アリスたちにもお猪口を渡し、男は上機嫌に乾杯の音頭を始めた。


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