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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第ニ章 クロノス騎士団

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僕のこと3

 真っ暗な空間に、どす黒い水が波打っている。


 足は、その黒い水にくるぶしまで浸かっていた。


 妙に、とても重い。はっきりとしない意識の中、どうにか抜け出そうと進もうとしても、出口が、見当たらない。


 寒い。


 痛い。


 苦しい。


 僕は、どうしてここにいるんだろう……。先程までエドワードと話をしていたことは、覚えている。

 けど、そこから先の記憶がない。今も身体中を鋭利な刃物でずっと刺されてる感覚。()()()身体に走るものとは違う痛み。


 そしてまとわりつくようなどす黒い、負の感情にずっとつきまとわられていた。


 あの時以来ずっと忘れようとしていた感覚と記憶。

 どこからか声が聞こえる。



『お前が殺した』


『レイチェルが死んだのはお前のせいだ!!』


『家族すら守ることができない、無力な貴様に何ができる?』


『目の前にいた自分の主人すら守れぬ守護者など――、存在する価値もない』


『お前では何一つ、守ることは出来ないんだよ』


『死ね』


『消えてしまえ』



 やめろ……。頼むから、もう、やめてくれ……!!


 耳を塞いでも直接脳に響くほど届く声。

 びしゃりと足元に何かが落ちる音、それは、レイチェルの頭だった。



「あ、あぁぁあ……ッ」



 レイチェルだったものはこちらに目を向ける、何も映していない、濁った、瞳で。



『私たちを守り損ねた貴方はいつ死んでくれるんですか?』


「もう、もう、やめてくれ!!!」



 思わずその場から逃げ出すように走る。走っている間も届く声、嗤い声。

 責めるように飛んでくる罵声。心がえぐられる。身も心も引き裂かれそうな感覚。


 誰か、誰か誰か誰か誰か……!!


 走っていくとどこか、燃えている屋敷に来てしまっていた。

 いや、ここは知っている。ここは、ここは、僕の、いた、家だったところ。



「れ、レイ……。レイ!! レイチェル!!」



 分かっていても探してしまう。あんなおぞましい姿で僕の前に現れていたのに、探さずにはいられなかった。

 そして、あの場所に、やはり、いた。


 血を流し、横たわるレイチェルの隣にいた、君が。

 彼女の血を浴びている、かつて僕と同じ主様(マスター)に仕えていた、君が。



「なんで、君が……、こんなことを……! 僕は、君をずっと信じて、尊敬していたのに……!!」



 足元が崩れ、黒い水に沈む。


 ――深く、


 ――沈んで、


 憎悪が、僕を飲み込んでいく。怒りも、悲しみも、寂しさも……。


 そして、視界が暗くなる。



 ◇



 横から強い衝撃を受けた。


 ガタンッと倒れ、飛びついてきた人はアッシュに抱き着いたまま、しがみつく腕に力を入れる。

 誰かと視線を下げると、白い髪に毛先の紅い、アリスの姿。


 衝撃で徐々に意識が、視界が、鮮明になっていく。先程まで、僕は、何をしていたんだ。


 困惑していると、大きく咳き込み、首を抑えながらまだ横たわったままのエドワードの姿があった。


 まさか……。


 途端に自分から血の気が引く感覚があった。視界が急にまた朧気になる。呼吸が早くなる。ここにはいられない。自分の意識がない間に、また彼女たちに、何かしてしまうのではないかと不安になる。


 そして、震えながらしがみつくアリスは声を震えさせながら、泣きながらこちらを向く。



「だめよ……。エドワード、死んじゃうから……!! おねがいだから、やめてよ……!!」


「あ、アリ、ス……ッ」


「アンタ、変な(のろ)いでいいようにされないでよ!! 私達を守ってくれるんでしょ⁈ 守るって言ったくせに、しっかりしなさいよ!!」



 泣きながらアリスは叫ぶ。ルビーの瞳から流れる涙は大粒で、いつも笑っている彼女になんて顔をさせてしまったのだろうか。


 震える手で、アリスに触れ、自分から引き引き離そうとするが、彼女は力を緩めず、しがみつく。



「だ、大丈夫……。意識は、戻ったから……」



 声が震える。だめだ、顔を見れない。



「だから、は、放して、くれないかな……」


「……いやよ、アンタどっか行く気でしょ」


「……ッ」


「アンタが、あぁなったのは(のろ)いのせいよ。アンタが悪いんじゃない。いつも守ってくれてるでしょ。だから、いなくならないって約束するなら、放すわ」


「……。うん、わかったよ……」



 そういうと、ようやく放してくれた。ずびずびと鼻水を流しながら、よたよたとエドワードのところに行く。杖を取り出して回復魔法をエドワードに唱え、再度エドワードの安否を確認する。



「エドワード、大丈夫?」


「し、死ぬかと思った……」



 ゆっくり起き上がり、痛む喉を抑えつつ、視線をアッシュに移す。目の色はいつもと同じ、翡翠の瞳。少しホッとしていると、アッシュはこちらを見ていられないか視線を逸らしながら『ごめん』と呟く。

 そんなアッシュに再度アリスは目の前にしゃがみこみ、杖を軽く振るう。



「アッシュ、本当に気にしたらダメよ。何度も言うけど普段のアンタはいつも私達を守ってくれてるでしょ。あれは(のろ)いのせいなんだから」


「……ありがと、大丈夫……。二人ともごめんね」



 アリスの言葉でも顔を上げられず、俯いたまま呟いた。今のこいつの顔はどういう顔になってしまってるのだろうか。そう思い、アッシュに近づく。肩に触れるとビクッとさせ、身体が震えていた。

 そんなアッシュにそのまま抱きしめるように触れる。



「エ、エドワード……?」


「許す」


「え?」


「お前、以前私が悪夢見てしまった時に頭突きしてしまった時にお前も笑って許してくれただろ。それと同じだ」


「え、でも、僕、君を殺しかけて――」

「寝ぼけた相手に怒るほど私は心が狭く見えるのか? 心外だな」


「そっ⁈ そんなことない!! だって、君やアリスやリリィは、僕のことを、救って、くれて……」



 アリスは、僕が、酷い人だって、分かったうえで僕を仲間に入れてくれた。人殺しなのに、ただの人と違う、醜い()()()とわかっていても、アリスは受け入れてくれた。



「君たちといられる時間が……ッ」



 エドワードは、どれだけ怖いものを見せてしまっても、対等に接してくれた。目を逸らさず、真っ直ぐ僕を見てくれていた。



「僕にとって、ほんとうに、ほんとうに……かけがえのないもので……ッ」



 リリィは、異質なものだと気づいていても、何も言わず、僕を同じ仲間として接してくれていた。


 目の奥がとても熱い。気づけばとめどなく、涙があふれて止まらない。我慢していた感情が溢れ出していく。


 もういやだ。

 はなれていかないでほしい。いなくならないでほしい。拒絶しないでほしい。見捨てないでほしい。


 独りに、しないでほしい。


 そう思っていると、今度はアリスまでエドワードと同じように抱きしめるようにアッシュのところに行く。



「ばかねぇ! 独りにするわけないじゃない!」


「あぁ、独りにしない。大丈夫だ」


「……ッ うん……! うん……ッ」



 とめどなく溢れた涙は止まらず、二人は僕が落ち着くまでそのままでいてくれていた。


 本当に、ここにいてもいいと安堵する。


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