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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:調査1

 グレンに強く睨みつけられた夏鬼は慌てて両手を振るう。



「ま、待ってくれ! 誤解だ!」

「誤解? だったらなんでこいつの腕を引っ張ってたんだ? それも……」



 抱えるアティを隠すようにマントの中へと入れていく。あわあわと慌てるアティだが怖がらせないようにと目を塞ぐ。



「痛がるこいつを連れ去ろうとしてるようにしか、私には見えなかったが……?」

「ほ、本当に誤解なんだ!」

「お、おじ様! グレンおじ様!!」



 グレンが持つ大剣をジリジリと夏鬼の首を切り落とそうとする勢いの彼をアティが急いで止めに入る。必死にしがみつくように慌てた少女にグレンも動きを止める。



「お、おじ様! 夏鬼さんの仰っている通り、誤解です! 今、お世話になっている方なんです!」

「…………本当か? 脅されていないか?」

「だ、大丈夫です! お父さんもアリスさんも一緒にお世話になってますよ!」

「ふぅん……」



 変わらず睨んだままだが大剣をしまう。生きた心地のしない夏鬼はへなへなとその場にドサッと座り込んでしまう。


 ”フンッ”と言い、マントに隠していたアティを中から出し、腕を確認する。

 赤く腫れてしまっているアティに治癒魔法を施し、治した後は他に怪我がないか念入りに確認をしていく。


 どうやら他に怪我がないようだ。


 ホッとしているグレンの後ろから走ってきたナギは息を切らせて走ってきた。



「ぐ、グレンはん! 何を突然、あんさんは走り出してなんや! 早いってぇの! って、あれ、アティやん」

「あ、ナギさんも」

「……一応、アティの言葉を信じて特別殺さないでやるが、次、アティを傷つけたら容赦なく殺すぞ」

「は、はい……」



 こいつ本当に容赦なく殺してきそうな勢いだった。怖すぎてむしろちびるかと思うくらい。


 震える夏鬼をよそにグレンはアティを抱え上げる。空いている方の手には銃が握られていた。



「あ、あの、おじ様、本当に大丈夫ですから」

「……お前は少し自分の身を守れるように自衛を身につけろ」

「は、はい」

「あと、そこの貴様」



 再度、睨むようにグレンは夏鬼の方を見る。ビクッとした夏鬼にズカズカと向かう。ガンッと空き箱を蹴り飛ばして威嚇をする。



「貴様の屋敷へ案内しろ。アティを送る」

「わ、分かりました……。だからその手にある銃を、降ろしてください……」

「あの、おじ様、夏鬼さんは本当に悪い人じゃないので、安心してください」

「こいつが信用出来るやつならな。ほら、さっさと先にいけ」



 慌てて立ち上がる夏鬼は自分の屋敷の方へと走っていく。そんな彼に気の毒に思いながらアティは道中に改めてグレンに説明をする。何度か伝えてようやく誤解は解けた、と思うがそれでも睨むのは変わらなかった。


 怪我させたことが一番気に食わないのだろう……。


 屋敷に戻ると入り口で待っていたアッシュが驚いた様子でグレンたちの方を見る。



「あれ、グレン?」

「本当に居たんだな」

「あはは、まぁね。ところで……なんで夏鬼は怯えてるんだい?」

「いや、俺がちょっと、悪かったていうか……」

「?」



 首を傾げているアッシュに夏鬼がポツリと説明をする。聞いているとだんだんアッシュが笑いに耐えられないといわんばかりに肩を震わせ……いや耐えきれずに吹き出す。



「あははっ! それはグレンが怒るだろうねぇ」

「いや、本当にわざとじゃなくてさ……」

「分かっているよ。でも、慌ててしまったのはなんでだい?」

「あ〜、それはアイツらもいる時に話す。マジで俺も焦ったし」

「ふぅん……。まぁいいよ。グレンはここに何か用事かい?」

「あぁ」



 抱えていたアティをアッシュへ渡すとチラリと夏鬼を見たがため息を吐く。



「アティを今回たまたま送った、というのと私は仕事だ」

「なるほどね。僕もなにか手伝えることかな?」

「……いや、手伝わなくていい。このアホと探せるものだしな」

「何かのもの探しなんだ」

「……お前、探らなくていいんだぞ」

「あ、そういうつもりじゃないんだ。ごめんね」

「いや、別に構わん」



 アッシュは抱き抱えられた娘を受け取るとそのまま降ろす。降ろされた娘の頭を撫でるとアッシュはにっこりと二人に笑いかける。



「ちょうど夕ご飯の準備ができたんだ。君たちもどうだい?」

「えっ! 夕ご飯?!」



 ナギが夕ご飯という言葉に目をキラキラさせていたが彼女の耳を引っ張るとそれが痛いのか苦痛に顔を歪めるが、それを無視する。



「悪いが私たちは先約が――」

「おじ様にも是非とも一緒に頂いて欲しいです!」

「えっ」



 アッシュの横から飛び出したアティがグレンに飛びつくと彼は動きを止め、アティは笑顔でグレンを見上げる。



「私も下ごしらえ手伝ったんですよ!」

「……お、おぉ」



 戸惑うグレンにアッシュはクスリと笑う。


 彼はアティに弱い。


 どう断ればいいのだろうかと困った様子だったがしばらくしてどうも断れないグレンはまたため息を吐く。



「…………はぁ、わかった……」

「やったぁ! おじ様! こっちです! 隣で一緒に食べましょう!」

「あ、あぁ」



 アティに引っ張られていくグレンの後ろ姿を見て、ナギもニヤニヤしている。それを横目にアッシュは腕を組む。



「君、怒られるよ?」

「大丈夫や大丈夫やぁ〜。今はそれどころやないしな」

「……んー、とりあえず夏鬼、君の慌てた原因も聞きたいからさ。一緒に行こうか」

「俺、あいつ怖いんだけど……」

「あ、あはは、彼も悪気はないんだよ」



 僕たちのことになるとすごく怒るんだよなぁ。それは自分も同じでアリスたちのことでも同じようにしていたと思うし、今回は夏鬼も悪気は無いのは分かってる。

 それにしても、グレンは本当に誰かを怖がらせることが多いや……。


 そして夕食の時間。


 全員で集まって食事をしている間、ずっとアティはグレンの足の間で座っている。

 まぁ、一番は警戒しているユキと怯えている夏鬼のためでもあるだろう。そこにいる間はグレンもアティの前では怖い顔もしないから大丈夫と思う。


 グレンの隣にいるナギに関しては食事に夢中のようだ。


 軽くアッシュが手を叩いてアッシュの方を向かせる。



「さて、夏鬼、アティを慌てて引っ張って戻ってこようとしたのは何かあったのかい?」

「あ、そう……だな……」



 夏鬼はチラリとグレンに視線を移す。どうもグレンに対して恐怖が強いようだ。そんなグレンもアティの相手に戸惑っている様子なので、”ふぅ”と息を吐いて、アリスたちもこちらを見たのを確認して口を開く。



「……お前らに依頼してた妖刀の一本、あったんだよ」

「えーと、エドワードとヴィンセントから聞いた依頼の件のやつ?」



 現場にいなかったアリスたちには夏鬼から受けた依頼のことはヴィンセントから伝えてもらっている。そのため今回の依頼は泊まるところを提供してもらうということもあり、アリスの許可済みだ。


 妖刀の言葉が出て、アティのことを構っていたグレンが反応する。



「妖刀? お前ら妖刀探ししてるのか?」

「そうだよ。夏鬼からの依頼で二本の妖刀を見つけて欲しいって言われてさ。なんでも奉行ってところに預けてたのに盗まれちゃったらしいからさ」

「…………お前らが探してる妖刀は村雨と似蛭という刀か?」



 妖刀の名前はアッシュの方は聞いたなかったため、夏鬼の方を見ると目が合う。聞きたかったことは何となく察してくれたのか小さく頷く。



「どうやら、それみたいだね。君はなんで妖刀を?」

「今回は妖刀の回収、もしくは破壊だ。その詳細をこの後お前が言っていた奉行の関係者に会う予定だったんだ」

「え、そうなんだ」

「だから言っただろ。先約があるって」

「なるほどねぇ」



 あの神子がなんでそれをグレンにお願いしてるかは知らないけども、グレンも探しているなら協力してもらえれば刀の詳細も詳しく聞けそうだ。


 グレンの方を見れば、向こうも何か言いたいのかグレンと目が合う。にっこりとアッシュが笑うが向こうはやや面倒くさそうな顔に変わる。



「お前の言いたいことは何となく理解してるが、協力はせんぞ」

「えー、なんで?」

「あくまでもアレ関連な可能性があるならお前たちに関わらせるつもりは無い」

「だって僕らも夏鬼の依頼で今回動くんだよ? 関わりがあれば引くとは思うけど、現段階では無さそうだし、いいじゃないか」

「断る。そもそもお前らの手助けになるだけで私にはメリットがないだろ」

「あら、あるわよ」



 先程まで黙って聞いていたアリスがご飯を頬張ってモグモグとした後、口の中のものを飲みながら立ち上がる。


 ビシッとグレンに向けて指をさし、元気よく言い放つ。



「私たちは刀の行方を知れる! あんたは刀の破壊及び回収なら破壊したことにして報告あげれるし、何より人手が増える! ウィンウィンというやつよ!」

「いや、いらん。そもそも私はお前たちの力を借りなくても問題は――」

「えぇやん! 一緒やろーや!」



 グレンの言葉を遮るようにナギも立ち上がり、アリスに同意する。何を勝手にとナギの方を睨みつけようとするが、それはまたアティによって防がれてしまった。



「おじ様のお仕事の邪魔にはお父さんたちはならないようにしてくれますよ。私はちょっとしたサポートしかできないかもしれませんけど、人が多いのはいいことじゃないですか?」

「……ナギ、お前の勝手な判断でしていいと思ってるのか?」

「おもっ、てはおらへんけど……。せやけど、どうせ奉行と会うんやろ? それにあんさんの前ではアビスのこともあって話さへんこともアッシュたちなら口を滑らすこともあるかもしれへんやん?」

「……まぁ、それはあるだろうな」

「せやろ? せやろ!」

「だが、元々は私一人でも事足りることだ。なんならお前の方をここに置いておくことも出来るだがな」

「そ、それはまたそれで困るの分かっとるやろ?!」

「……はぁ、お前はどうしてもアッシュたちと妖刀探ししたいのか?」



 必死に首を縦に振るナギにジッと眉を寄せながらグレンは見ている。しばらく見ていると目が泳ぎ始めてきた。


 ……どうもひっかかる。いつものナギなら否定すると一度は反抗する素振りを見せるが大概はこちらの決定に従っている。けど、今回は頑なに食い下がってくる。


 段々と心配そうにしているアティはグレンの方を見上げながら服を掴む。



「わ、私はおじ様とまた一緒に居るのがいいなぁ……と思ってるんですけど……」

「なっ? アティちゃんもそーゆってんやけん! 一緒にやろーや!」

「そうそう。せっかく一緒にいるだしさ」



 最後にアッシュがそう言うと、また、ため息を吐いたグレンはアティの頭を撫でながら少し考える。



「わかった。ただし条件がある。もし(あるじ)が関わるようなことが起こればすぐ引け。いいな?」

「もちろんだよ。またよろしくね、グレン」



 また笑いかけてくるアッシュに、”はいはい”、と軽い返事をする。


 どういうつもりか分からないが、後ほどナギに聞けばいいと判断し、グレンは再び食事を再開する。

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