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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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侍の国:三条の刀鍛冶師2

 夏鬼は持ってきた布に包まれた刀を見せながらヴィンセントの前まで行き、差し出す。



「ほら、お前の刀。ちゃんと手入れもしたしメンテナンス済みだ。確認してくれ」



 そう言われたヴィンセントは刀に包んでいる布を外す。それはただの刀のはずだが妙な気配を感じる気がした。


 布を外した彼は、ゆっくりと刀を引き抜き、地面に向けて軽く振るったあと、刃を確認するかのように刀を横にして眺める。室内を照らす灯りを反射している刀は薄らと紅く見える気がする。


 アッシュがヴィンセントの刀を見ていると、隣で腕を組んでいたエドワードが声をかけてきた。



「兄様が使ってる刀は確か、妖刀の名前は妖刀:紅桜(べにさくら)、というものだ」

「紅桜?」

「持ち主を選んでる刀らしくてな。そうじゃないやつが触ると、操られて周りの人を切り殺してしまう呪われた刀、と聞いている」

「……操られてなくてもヴィンセントは切ろうとしてくるけどね」

「やかましい。切るぞ、貴様」



 紅桜を片手にアッシュを切ろうとするヴィンセントを止める夏鬼だが、呑気な様子で彼が持つ刀をジッと見る。


 なんだか……



「なんだかそれ、刀というより、魔剣っぽいね」

「ん? あぁ、妖刀は剣で云うと魔剣なのは違いないだろう。だが、魔剣と私たちの一族は相性がいい訳では無いようでな」

「そうなの?」

「あぁ。以前にこれを使う前に魔剣を使ってたんだが、それも簡単に壊れるし、扱いづらい。これが我々には丁度いいんだ」

「へぇ」



 エドワードにそう言われたがそういえばエドワードも使ってる刀も妖刀だと言っていた。彼が使ってるところはたまに見るが、ヴィンセントが使う刀のように禍々しさは感じなかった。刀によっては違うのだろうか。


 からかってくるアッシュに対してヴィンセントは舌打ちをしながら刀を鞘に収める。そして、懐から硬貨が入った袋を取り出して夏鬼に渡す。そしてもうひとつの同じものを取り出すと、それも夏鬼に渡した。


 渡された夏鬼は疑問の表情を浮かべて首を傾げる。



「一袋多くないか?」

「これはいつもの分だ。あと、エドワードの刀も見てやって欲しい」

「弟くんのもか? 構わないぜ。エドワードくん、刀を出してくれる?」

「え、あ、あぁ」



 エドワードも驚いた表情をしながら普段使っている刀を生成してそれを夏鬼に渡す。


 夏鬼は刀を受け取り、刀身を確認するために鞘から刀を取り出し、刀を眺める。青白く光る刀は先程の紅桜とは違って綺麗な刀身だ。

 刀に見惚れていた夏鬼だったが、エドワードはまだおどおどした様子で兄であるヴィンセントの方をチラリと見る。



「あ、兄様、刀の依頼なら自分で出すが……」

「……今回はついでだ。構わん」

「…………そうか、ありがと」



 二人の不慣れなやり取りを見て、アッシュはクスリとまた笑う。ヴィンセントなりにエドワードを気にかけてくれているのかもしれない。


 そう思っていると、刀を見ていた夏鬼が、”おぉ!”、と声を漏らす。



「弟くん、手入れいらないくらいちゃんとしてるな! ズボラなヴィンスと大違いだ。さすがにメンテナンスはいるみたいだが、凄く大事に使ってるのが刀から伝わるよ」

「一言多いぞ。三条」

「実際そうだろ? 忙しいって理由で手入れちゃんとしないだろ、お前」

「ふん。最小限しかしてないだけだ」

「それ、してるって言わねぇからな」



 ため息を吐く夏鬼は刀を鞘に戻して、笑顔でエドワードの方を向く。



「ま、刀の方は俺に任せてくれ」

「あぁ、頼む」

「……ついでと言ってはなんだけどさ、頼みがあるんだけどいいか?」

「なんだ?」



 刀を新しくアイテムボックスから取りだした布で包みながら夏鬼は少し申し訳なさそうな様子で言葉を詰まらせる。が、改めてヴィンセントたちの方を見て、紙を取り出した。

 そこには二本の刀の絵が描かれている。



「頼みってのは、無くなった二本の妖刀を探して欲しいんだよ」

「無くなった? 妖刀がか?」

「あぁ。無くなったのは半年くらい前なんだけどな」

「……半年って結構経ってるけど、見つかるのか?」

「見つかるっていうか、多分、街の中で最近事件が多発してるんだけど、それが刀が無くなった時期と同じなんだよ」

「へぇ、事件が起こってるの?」

「おぉ」



 妖刀が無くなった日から夜な夜な人が殺される事件が多発しているらしい。目撃者も少ないことから犯人の特定に至らず、夜の不要不急の外出は控えるようにとお触書が出るほどとの事。



「おそらく、刀を扱えないやつが、刀の魔力に当てられて操られてんじゃないかなって思うんだ。これ以上被害が出る前に回収したいんだけど、俺、姉貴と違って戦闘面はてんでダメでさ」

「……そもそもなんで妖刀が無くなってるんだ? ちゃんと管理はしてたんだろ?」



 確かにそうだ。危ないと分かっている刀を杜撰な管理をするはずもない。


 ヴィンセントに指摘されている夏鬼は難しそうな顔をする。



「……実は、刀は奉行っていう、お前らのところで言う騎士団って言ったらわかりやすいかな。そこが管理してくれてたんだけど、半年前に襲撃があったらしくて、そん時に盗まれたそうなんだよ」

「……奉行はその辺にいる兵士たちのことか」

「そ。しかもあいつらが襲撃にあって盗られたのに、盗られたものが妖刀ってだけもあって、あんま関わりたくなくて積極的に探してくれなくて困ってるんだ……」



 責任取ってそこは探すべきなのに妖刀だと命の危険性もあるからといってやらないのもどうだか……。


 夏鬼の話にヴィンセントはため息を吐いていると、マラカイトが真剣な様子で夏鬼の前に出て手を握る。



「そんな! 大変じゃないですの! わたくしもご一緒に探しますわ!」

「えっと、神子さんがいいのか?」

「もちろんでございますわ! 困っていらっしゃるのでしょ?!」

「……君、守護者探しは?」

「守護者探しより前に困っている方をお助けするのが先決ですわ!」



 振り返る彼女は真剣そのものだ。


 ……少し意外だ。結構我儘な神子かと思っていたが、人助けには無頓着かと思っていたけど、そこは神子なんだなぁと思う。



「……はぁ、僕らはどうする? エドワード」

「……私はアリスに聞いた方がいいとは思うが、リンの弟からの依頼ならいいって言うんじゃないか?」

「確かに、彼女ならいいって言いそうだけどね」

「三条、というわけだから私たちも探すの手伝うぞ」

「弟くんたちも手伝ってくれるのか! ありがと! 代わりっていうのもあれだけも、宿屋の代わりに家の屋敷使ってくれ。部屋はいくらでも空いてるからさ」



 まさか宿屋の代わりに使っていいのもありがたい。


 にっこり笑う夏鬼は隣で視線を逸らして立ち去ろうとしたヴィンセントの肩を掴む。



「お前も手伝ってくれよ、ヴィンス!」

「……私は刀を受け取ったら帰るつもりなんだが。仕事もあるし」

「どうせお前の父親に押し付けられた仕事だろ?」

「それはそうだが、一応、これでも私は現当主なんだが」

「ヴィンスさんや、手入れ依頼三回の無料サービスならどうだ?」

「それで釣れると思った貴様をこの場で切ってやろうか?」

「ちょ、タイム。ごめんて」



 ややキレ気味で先程渡されたばかりの紅桜を抜こうとして平謝りする夏鬼を見て刀を下ろし、ため息を吐く。



「お前には世話になってるし、今回だけだ。それに妖刀探しするなら、妖刀持ちの方が分かるからな」

「そうなのかい? 妖刀なら今みたいに魔力で感じ取れるかなぁて思ってたけど」

「普通は妖刀の魔力なんて感じる方がおかしいからな。そこの神子と守護者に聞いてみたらどうだ?」



 ヴィンセントの言葉にアッシュはマラカイトとモリオンの方を見ると、すぐ隣の二人とも小さく首を横に振る。



「お恥ずかしながら私は鞘に収められてる妖刀の魔力は分かりかねます。すぐ目の前にあって刀身を確認するまでは感じ取れませんでした」

「同じく」


(ふぅん、そっか。それが普通なのか……)



 大概のことはアリスやエドワードたちとかの安全のために常に魔力で辺りを警戒するようにしてるから感じ取れるだけかもしれない。以前の亡霊の件の様に見えない物体でも魔力を帯びていることもあるからなるべく拾えるようにしていたし、これも彼女たちに教えておこう。


 チラッとエドワードを見てニコリと笑うアッシュにエドワードは首を傾げていると、マラカイトが、”それでは!”、と言って夏鬼の方を改めて向く。



「妖刀探しに参りましょう! モリオン、行きますわよ!」

「……ん? アッシュは連れていかないんだな」



 呼び止められたマラカイトは振り返る。



「あくまでも守護者探しの依頼をアッシュ様にしております。さすがに他の依頼をご一緒に、というのは宜しくないかと思いまして。それに、アッシュ様方も依頼を受けられるのでしょう?」

「まぁ、そうだね」

「同じ依頼をさせて頂けるのであれば、アッシュ様とも同じようにお仕事してるようで、楽しさ倍増ですわ!!」

「あー、うん。そうだね。楽しそうでなによりだよ……」



 至極どうでも良さそうな顔になったアッシュだったが、めげずにマラカイトは瞳を輝かせて、モリオンを連れて外へと出ていった。


 ようやく解放されたアッシュは背伸びをして、”よし”、と一言呟き、ヴィンセントの方へ声をかける。



「さて、居なくなったことだし、アリスたち呼んでくるからさ、夜話そうか」

「わかった」



 頷くヴィンセントにようやく機嫌が治ったアッシュは嬉しそうにアリスたちの方へと向かう。


 アリスたちを迎えに行くアッシュにヴィンセントとエドワードは腕を組み、チラリと見る。



「……あいつ、マラカイトたちに対してストレス酷かったんだろうな。あれ離れてから今かなり清々しい様子だし」

「やっぱりあいつ機嫌悪かったんだな」

「あぁ」



 機嫌の悪さは兄様もやはり気付いていた様だ。


 露骨にわざとマラカイトたちに出してるのか、無意識なのか……。あとで話をするとも言っていたし、その時に聞かないと分からないだろう。


 小さくため息を吐くエドワードはアッシュたちが来るのをヴィンセントと共に三条の屋敷で待つこととなった。

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