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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

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孔雀石の神子2

 アティと一緒に料理完成を待っていたアリスは呼んだのになかなか来ないアッシュにどうしたのだろうかとそちらに視線をやる。するとそこには誰かに呼び止められて、飛びつかれていた彼がいた。


 その飛びついていたのは自分と同じ神子だ。


 あの神子どこかで見た気がする……。


 そう思っているといつまでも彼にくっついたままの彼女に少しムッとする。知り合いの様子でもないし、なんだかアッシュが困ってるようにも見える。



「アティちゃん、ちょっと私、アッシュ呼んでくるわね」

「あ、はい。分かりました」



 そう頷くアティを見てからアッシュの方へと早歩きで向かい、神子が離れたところで、アッシュの背中からガバッとしがみつく。


 急にしがみつかれて少しバランスを崩しかけたが体勢を立て直してアリスの方へ視線を移す。



「おっとと、アリス?」

「…………」



 ムスッとムスくれた彼女にアッシュはどうしたんだろうかと思っていると、目の前のマラカイトはそんな不機嫌なアリスを無視して明るく、”あらっ”と彼女を覗き込む。



「先日はお世話になりましたわ。あなたも神子、ですわよね?」



 アリスは誘拐防止のために街に近くなってくると普段はアッシュの黒のパーカーを着て長い髪を隠すようになった。活用してくれてるようだからそのまま貸しているけど、まぁ、パーカーはあげてもいいかなとも思ってはいる。


 そのため、パッと見は分からないためか目の前の神子のマラカイトも同じ神子で間違いないか聞いている。


 彼女の問いに不機嫌そうにアリスも答えた。



「えぇ、そうよ。私はアリス。あんた、アッシュの知り合い?」

「あら、お忘れになられてましたか。以前、そちらの王子様にわたくし、助けて頂きましたの。人攫いに囚われ乱暴をされていたのにも関わらず、傷もすっかり治して頂き、その上、お姫様抱っこでギルドまでお運びいただいたとか……!」

「……それで、そのお礼でもしに来たわけ?」

「もちろんでございますわ! 神子たるもの、恩を仇で返すのはよくありませんわ。それに、わたくし……」



 ポッと顔を赤らめてマラカイトは両手で自分の頬を触れる。モジモジとしながらチラリとアッシュを見る。



「わたくし、あなた様に一目惚れ致しましたの!」



 真っ直ぐな孔雀石の瞳の神子はキラキラと輝かせる。

 突然の告白にしがみついていたアリスは思わず手を放して驚く。



「は、はぁああっ?!」

「え、僕に?」

「はい!」



 嬉しそうに今度はアッシュの手を握り、自分の頬に持っていく。惚けた顔で愛おしそうにアッシュを見るマラカイトは本気で一目惚れをしたと伝えるようにそのままアッシュの方へと近寄っていく。



「あの時、助けて頂いた時、わたくし、ズッキュンと来たのです! 運命の王子様に出会えたのだと!」



 マラカイトの言葉にまるで花吹雪を演出するように後ろではモリオンがバサバサッと紙花を散りばめる。

 グイグイとくる彼女にアッシュは困ったように笑いながら少し下がる。



「え、え〜と、一目惚れしてくれたのは嬉しいけど、僕こう見えて奥さんいたからさ、君の気持ちには答えられないかな……」

「構いませんわ! 二番目の妻としてお迎えでもわたくしの恋心、いえ、愛は揺らいだりは致しません!」

「い、いや、二人目を迎える気はなくて――」

「ハッ もしかしてこちらの神子の方が一番目の奥様? そちらのお許しがないとお向いは難しいのですか?!」

「アリスは僕の奥さんじゃな――」

「ちょっとあんた!」



 戸惑うアッシュの横から今度はアリスが間に入って二人を引き離す。引き離したあと、アリスは顔を真っ赤にしてアッシュの前に出る。



「あら、どうしましたのかしら?」

「人の話を聞かない神子ね。アッシュが困ってるじゃないのよ!」


(アリスも大概、聞かない時もあるんだけどなぁ……)



 後ろで聞いていたアッシュはそう思うと心を詠む力を使ったのかギリっとアリスが睨むように振り返る。サッとアッシュは視線を逸らしていると、その様子を一歩離れて見ていたエドワードが呆れながら腕を組んで見ていた。


 二人の神子が言い合いをしている間に演出を後ろで出していたモリオンと呼ばれる糸目の男にエドワード話しかける。



「おい、モリオン……だったか?」

「ん? あぁ、そう。モリオンだけど何?」

「マラカイト、だったか?」

「マラカイト様と呼べ」

「……いや、私はあの神子の守護者ではないからそう呼ぶ気はないんだが、お前たち二人だけで旅をしているのか?」

「あぁ、そう。我々二人だけだ。以前、(あるじ)であるマラカイト様を助けて頂き、ありがとう」



 なんとも掴みどころのないモリオンは軽く頭を下げる。にしても、二人の雰囲気というか、服装が妖怪の里の着物に似ている。少し違う感じだが……。



「だからダメ!!」

「あら、なんでですの?」

「なんでですのじゃないわよ!!」



 アリスの怒鳴り声と淡々と話をしているマラカイトの二人の雲行きが怪しい。アリスの後ろで困った様子で慌ててるアッシュがこちらと視線があって、”助けて”と言わんばかりの顔をしていた。


 ため息を吐いて、エドワードも三人の方へと向かう。



「おい、アリス。なんで声を荒らげてるんだ?」

「どうもこうもないわよ! この神子、あろうことかアッシュを譲れって言ってきてるのよ?!」

「譲る?」

「人聞きが悪いですわ。依頼としてお願いしているつもりです。お話を聞く限りではアッシュ様は彼女の守護者ではないそうですし、お仕事でご一緒にいらっしゃるのですか?」

「仕事でもなんでもないわよ! 仲間として一緒に旅してのよ!」

「では、特に契約をされてないのであれば良いではありませんか。それにあなたにはたくさんのお仲間がいらっしゃいます。それに加えてわたくしはモリオンと二人ですわ。安心して旅をしていきたいので、わたくしの守護者が集まるだけの間ですのよ?」

「アッシュをお手軽なモノ扱いしないで!」

「まぁ、そんなっ! なおのこと人聞きが悪いですわ! アッシュ様をそういう風に思ってしまうなんて驚きですのよ! わたくし、あくまでも護衛の依頼として、お願いしておりますのに……」



 ……と言った感じに平行線というか、なんでそんな話まで発展したんだろうか……。

 困った様子のアッシュを引っ張り、二人から一旦、離す。



「というか、お前ら、アッシュの意見は聞いてるのか? 一方通行な話よりも本人に聞いた方がいいだろ」

「それもそうですわね。ねぇ、アッシュ様、ほんの少しでも良いのです、もちろん、ご依頼としてお願いできますでしょうか?」

「う、う〜ん、アリスたちが一緒なら僕はいいけど、彼女たちと離れるのはちょっとね。それに娘も一緒だからってのもあるからさ」

「あらっ! 娘様がいらっしゃるのですか?! きっとアッシュ様のように素敵な娘様なのですね! あちらにいるのがそうでしょうか?」

「そうだよ」



 マラカイトが手を差し伸べている方にアティがいる。アティもなんだろうと思いながら手を軽く振っていると、再度、マラカイトは彼の手をさりげなく握っていると、アリスがそれに気づいてその手に向けてチョップをかます。


 思わずマラカイトは手を引っ込めるが、ガルルッとアリスは威嚇するようにしていた。


 アッシュも困った様子をしていると、ひょっこりとアティが出てくる。



「どうしたの?」

「んー、ちょっといろいろとね」

「そっかぁ。あ、ユキさんがご飯できたってよ」



 父であるアッシュを見たあとに隣にいたマラカイトの方を見る。



「えーと、神子さんとそのお連れさんも一緒にどうですか? 立ち話も疲れますでしょうから」

「はい! ぜひともご一緒させてくださいませ!」



 嬉しそうにするマラカイトはアッシュの腕に掴まり、ユキたちがいる方へと向かっていく。驚いたままアッシュも連れていかれ、ますますアリスは顔をプクゥッと膨らませる。



「むむむ〜っ!!」

「アリスさん、あぁいうタイプは一度、好きなようにさせて大丈夫ですよ」

「え、でも……」

「それに、お父さんの中ではアリスさんたちが大事なのは変わらないですし、あまりにもしつこそうなら私も言いますよ」

「……すんなりと終われば一番いいけどさぁ……」

「あはは……。まぁ、とりあえずご飯にしましょう? 日もだいぶ落ちましたし」

「そうねぇ」



 肩を落としながらアリスも向かうと、ユキとノア、リリィも誰だこの人と言わんばかりに表情をしながらマラカイトを見るが、彼女は気にせずにアッシュにくっついたままだった。


 その間、彼女は、ベタベタとアッシュに触れたり、食べさせようとしていた。そのせいなのか、少し疲れた様子でアッシュは食事を終えて、食事後の後片付けをしていた。


 が、その間もずっとくっついている。



「あの、さ……ちょっと勘弁してくれないかな……」

「あら! いかが致しましか? わたくしもお手伝い致しますのでお任せ下さいな!」



 そう言ってマラカイトは片付けているアッシュからは離れない。ずーっとくっつかれているのは、正直、邪魔してる気しかしない。

 就寝するまでずっとくっついていて、さすがに寝る時は離れてと言ったらようやく離れてくれた。


 珍しくげっそりとした様子のアッシュに同じテントにいるエドワードとユキたちも少し同情していた。



「大丈夫です?」

「あはは……、あそこまでしつこくされるとは……。さすがに疲れた」

「お前さ、怒ればいいじゃん」

「さすがに神子だからね。あまり変に扱うのもって思ってさ」

「それ、絶対後悔すんぞ〜。勘だけど」

「勘なんだ」



 そのノアの勘は、当たっていた。


 翌朝、目を覚ますと別の場所で寝ていたはずのマラカイトがアッシュの横で寝ていたのだ。ビクッとさすがにビビったアッシュは痛む頭を抱えて深くため息を吐いた。


 食事当番で朝からアッシュとエドワードが朝食の準備の最中でも彼女は離れるという言葉を知らないんじゃないかと言いたいくらいくっついたままなので、アッシュは半分諦めたような顔で、マラカイトを見る。



「……君、いつまでくっついてるの?」

「ぜひとも、依頼を受けていただくまでですわ!」

「…………はぁ、アリス〜……、ごめん、ちょっといい?」

「なによ」



 相変わらず不機嫌そうにしているアリスにもはやアッシュもなんとも言えないような顔をしていたが、申し訳なさそうに、隣でずっとくっついているマラカイトを指をさす。



「アリス、ちょっと申し訳ないけど、少しの間、彼女の依頼、受けてくる……。承諾するまでずっとくっつかれていたんじゃ、流石に身動き取れないからさ」

「…………勝手にすれば」

「ごめんよ」

「いいわよ。ただし、ずっとはダメよ。私が嫌」

「と、言うことだから、少しの間だけど君の守護者探し手伝うよ」



 アッシュがそう言うと凄く嬉しそうな顔をして、マラカイトは頷く。それでようやく放れたマラカイトに、アッシュはまた深くため息を吐いた。



(まぁ、彼女には興味はないけど、多少だけ依頼に付き合って早めに飽きてもらおう……)



 少しの間だけ、マラカイトとモリオンが同行することになり、朝食後、目的地である侍の国へと向かうのであった。

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