表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十一章 侍の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/274

孔雀石の神子1

 グレンとナギはHALの件で報告に国へと戻っていた。(あるじ)であるアビスがいる祭壇のある部屋へと足を踏み入れると、相変わらず引きちぎられた肉片や、すり潰されたんじゃないかと思うような死体が転がっている。


 アビスの近くまで行くと服が汚れてしまうことを全く気にする様子のないグレンはそのまま、跪いて報告を始める。当たり障りのない内容、そしてアッシュたちのことは言わずに淡々と話、報告を済ませていく。

 その間、グレンの後ろ側でナギは服は汚れたくないため、つま先立ちで屈みながら、報告が終わるのを待っていた。



(よぅ、こげな部屋で過ごしとるよなぁ。足元は汚いし、誰かもわからん臓物見んのも嫌やわぁ)



 退屈と早く部屋を出たそうに身体を揺らしながら待っていると、報告を聞いていたアビスはナギの方を見て、ニヤリと笑う。



『「なんだ、暇そうだな。小娘」』

「そりゃあ暇やで。時間ないからってついてきたんけど、外で待っとった方が良かったと思っとるもん」


(こいつ、本当に早死したいんだろうか……)



 呆れながらグレンはナギの方に視線だけ移したあと、最後の報告を終えた彼は小さく礼をし、立ち上がる。

 すると、祭壇に座っていたアビスも立ち上がって、階段を降りていく。



『「フフフ、そうか。つまらなかったか。それもそうだな。なら、小娘、暇つぶし程度に面白いものを見せてやろう。たまに我はコレで遊ぶことがある。……とっても、面白いぞ」』

「? なんや?」



 グレンが立ち上がったのでナギも立っていると、2人の前まで来たアビスは先程よりも酷く楽しそうに、顔を歪める。相変わらず気味の悪い笑いを浮かべると思っていると、アビスがグレンへと手を伸ばし、口を開く。



『「”神子として命ずる――”」』



 アビスのその言葉の後に、グレンは意識が暗転した。


 ……


 …………


 ……………………



 気がつくと、自室のベッドだった。慌ててグレンは起き上がり、自身の身体を確認する。たまに意識を失ったあと、意識がない状態でアビスの戯れで怪我をしてしまうことがある。

 普段の守護者の回復力も機能しないし、回復魔法も効かないから怪我もしばらく続いてしまう。軽い怪我ならいいが、その後の仕事に支障も起こることもあるのが困る。


 が、今回は特に怪我がなかった。


 少しホッとしていると、向かいのベッドの方では顔を青ざめたナギが座ってこちらを見ていた。



「あ、グレンはん……。起きたんやな……」

「あぁ、今な。……ところでどうした?」

「いや、その、なんちゅーかな……」



 言いにくそうにナギは視線を逸らした。なんだと思うが、気を失うまでの記憶が無い。報告が終わった所までは覚えているのだが……。


 自身の記憶を遡っているがその部分だけがぽっかりと無くなったように思い出せない。

 思考しているとナギが申し訳なさそうな口調でグレンの方へ再度、視線を移す。



「……あんさぁ、グレンはん。報告終わったあとの起こったこと、覚えとるん……?」

「いや、何も」

「……そう、やろうな。そう言っとったもんな。アビスも。……すまんな。オレが退屈そうにしとったけん……」

「? (あるじ)と話している時にたまにある。今回は怪我はしてないだけましだ」


(いや、そういうことやないんよ。そう、いう話どころじゃないんよ……)



 何か言いにくそうな様子でいるナギ。意識がない間、何かあったのは確かだが、あの様子では聞くのも難しい気がする。


 ため息を吐いて、ベッドから降りて立ち上がる。



「報告も済んだんだ。次の仕事に戻るぞ」

「……なぁ、あんさん」

「なんだ?」

「…………いや、なんでもないわ」

「?」



 中途半端な反応のナギにグレンは眉を寄せる。


 言いたいことがあるなら言ってほしいが、アビス関連だと話すなと言われてる可能性もある。何があったかは分からないからなんとも言えないが……。



「あ、そうだ。忘れるところだった」



 話題を逸らすように、グレンは自分の棚のところから何かを取り出す。


 それは青空のような綺麗な結晶。それをナギの方へ差し出し、渡すと彼女は不思議そうに眺めて手のひらに置く。



「なんやこれ?」

「私が以前作った転移魔法の空間移動(テレポーテーション)の術式を埋め込んだ魔石だ。魔力をこの石に注げば一度行ったことのある場所に移動することが出来る。魔石が壊れるまでだが早々には壊れることは無いだろ」



 そんな貴重なもの渡されるとは……。それに魔石に術式を刻み込むのもかなり難しい。相当な熟練の魔道士でも成功例が少なく、一般的には手に入りにくい。


 なんなら転移魔法のこの魔石だと下手したら国宝級のものになるものもある。



「……なんでオレにそれ渡すん?」

「普段は私がいるからいいが、もし私が居ない時でも帰られるだろ」



 ……なんだかんだで面倒見がいいと思ってしまう。初めは結構邪険に扱われてたのに。


 グレンから受け取った魔石を握り、ポケットにしまう。



「それもそうやな。あんさんに置いてかれて帰られたら困るけんな!」

「……ま、お前をいちいち探す手間も省けるしな」

「ちょい待てい。ちったー優しいなぁ思っとったんにそれが本音かいな?!」

「さぁな。それよりさっさと次の仕事に向かうぞ」



 グレンは部屋を出ながらそう言い捨てられ、ベッドの上に座っていたナギも立ち上がる。


 渡された魔石を取り出し、目の前にそれを持っていく。



(グレンはんに、気ぃ失う前のこと、ゆーたほうがええんかな……。でも、あれは、だいぶ酷やで……)



 先に歩いていくグレンを見て、その後を追うようにナギは駆け足て彼の元へと向かった。



 ――――――――――――――――――――



 夕日が沈む頃、アマテラスたちのいた館から出たアリス一行は森を抜けて、街までもう一息のところまで到達していた。


 森をぬけた場所、侍の国を一望できる大きな崖。そこから覗き込むと、港があり、とても大きな街だ。珍しく外壁とかもない国ではあるが、侵入者を防ぐためなのか、大きく溝のようなものが掘られている。



「あれが侍の国のようだね。結構大きいけど、外壁とかない国って珍しいよね」

「その代わりに大きく溝のようなものを掘られているがな。入口は……二箇所のようだな。港側から我々は行くとしよう」

「そうだね。エドワード」



 エドワードの隣で同じように見ていたアッシュは望遠鏡で街を見ているが賑やかそうで、妖怪の里の方にいた時に着ていた着物に似たような服装の人たちが多くいる。中には違う服装の人もいるが、あれは冒険者なのかもしれない。


 カチリと望遠鏡を閉じて、食事の準備をしてくれていたノアがこちらの方へと声をかけてくる。



「おーい、晩飯できたぞー」

「はーい! さて、エド、戻ろうか」

「そうだな」



 既に出ているテーブルと椅子のところで待ち遠しいそうなアリスとその隣でアティも同じような表情でご飯を待っていた。

 二人して同じ顔しながら待っている姿はとても面白い。クスリとアッシュが笑っていると、知らない声が聞こえてきた。



「見つけましたわ!」

「え? うわっ?!」



 声の方を振り返ると誰かがアッシュに向かって抱きついてくる。殺気も感じなかったため、アッシュはその勢いで倒れそうになるが、どうにか踏ん張る。


 誰かと思い見ると白い髪に毛先が緑色の神子。そして、孔雀石の瞳の女性だ。


 ……誰だろうか?


 驚いていると、遠くから今度は黒髪の男の人が走ってくる。



「ま、マラカイト様ぁ〜!!」

「モリオン! 見つけましたわ! 私の王子様!」

「え、え〜と……、君は?」

「あっ! わたくしとしたことが申し遅れましたわ!」



 マラカイトと呼ばれる神子は少しアッシュから離れて、長いスカートの端を持ち、優雅にこちらに頭を下げる。



「わたくし、以前お助け頂きました、神子のマラカイトと申します。そちらはわたくしの守護者のモリオンです」

「神子なのは分かるけど、僕、君に会ったことあったかな?」



 そういうとマラカイトは少し悲しそうな顔をする。

 ギョッとして慌てると隣にいたエドワードが思い出したかのように、”あ、お前は”という。



「アッシュ、前にアリスが誘拐された時があっただろ。その時に助けた神子じゃないか?」

「誘拐された時って、あの時か」



 以前アリスがパンケーキに釣られて誘拐されたことがあった。確かその時、僕らが女装をして忍び込んで誘拐犯を捕まえたんだった。


 確かにその時に誰か助けたのを少し思い出す。



「確かにあの時、助けたの思い出したよ。怪我はもう大丈夫かな?」

「はい! 王子様のおかげですっかり問題はございませんわ」

「……えっと、その王子様ってのはやめてくないかな?」



 困っている顔でいると、今度は後ろからドンッと別の衝撃がくる。

 誰かと思うと、何故か、顔をムスッとさせていたアリスがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ