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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第十章 幽霊の住む館
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触らぬ神に……1

 そして早朝。


 すっかり静かになった館で主であるアマテラスはあくびをしながら廊下を歩いていた。


 昨日、残りの亡霊を片付けるようにツクヨミに言っているが終わらせたのだろうか。


 そう思い、館の中を見て回っていたところに、何やらいい香りがしてくる。匂いの方へと向かうと、そこは厨房。ラファエルが作っているのかと思っていたが、そこには金色の髪。アッシュがそこにいた。


 匂いにつられて思わずアマテラスは覗き込むように作っているものを見る。



「ん? あぁ、アマテラス」

「おはよう。……何作ってるんだ?」

「あぁ、これかい? オムライスだよ。あ、台所勝手に使ってごめんよ」

「構わない。滅多に使わないし、使っててもラファエルがたまに私に作る程度だからな」

「そっか。アマテラスも食べるかい? 人数分は作ろうかと思ってるけど」

「食べる」



 頷くアマテラスは近くのテーブルに座って、待っていると、すぐにオムライスとスープが置かれる。スープも甘くいい香りのするコーンスープのようだ。


 その向かいにアッシュも座り、懐中時計を確認する。



「もうそろそろ、アリスたちが起きてくるかな」

「アリスが時間通りに起きてるのか?」

「たまにね。美味しそうな香りがしたら彼女起きてくるから、起きてくるであろう時間に合わせて作ったからもう起きてくるよ」

「ふーん」



 匙を使い置かれた料理を口にする。半熟卵に中の小さな鶏肉入ったケチャップライスがよくあう。黙って食べていると、目の前に座っていたアッシュがジッとこちらを見ていたので、匙を止めた。



「なんだ?」

「ツクヨミ様ってアマテラスの部下なの?」

「部下というか、姉弟だな。まぁ部下と上司でもあながち間違いでは無いが……何かあったのか?」

「んー、そうだねぇ」



 机に肘を立てて頬杖をつく。


 アマテラスには一応、昨日のことを話をした。話したあと、頭が痛そうにしてため息を吐くと、軽く頭を下げられる。



「愚弟が失礼した……。天使もそうだが、一部の神界の者は魔族まで魔物と同じような扱いをするやつらがいる。ツクヨミにも、そういうのをやめろとは言ってるんだが……。嫌な思いをさせてすまなかった」

「いいよ。まだ忠告程度ですませてるし、今回はアリスの顔を立てて、大目に見てるよ」

「あぁ、すまん」



 申し訳なさそうにまた頭を下げる。


 にしても、アリスと色々話をしていたが、聞いた限りだとアッシュは問答無用で仕留めに行くかと思ったが、考えて行動はしているようだ。


 けど、アッシュはトンっと軽く指でテーブルを叩く。それと同時に強い殺気のようなものを彼から感じた。



「ねぇ、アマテラス。君はアリスたちに失礼なことしないから気にはしないけど、ラファエルやツクヨミ様がもしまた同じことしたら、その時は僕の判断でしてもいいかな?」

「…………」



 いや、前言撤回だ。かなり怒っているようだ。


 アマテラスを見ていた翡翠の瞳から瑠璃色に変わる。じわりと髪の色も一部分が白く変わっていったところで、アマテラスが手を出してストップというようにアッシュの前に出す。



「お前が怒るのも分かる。だが、お前がもし神殺しをしてしまうと、お前だけでは無い。アリスたちも危険になってしまう。それでももし、そういう事態になったら、私の名前を使っていい。ある程度は融通が効く」

「……ラファエルも?」

「あれに関しては私の管理不行き届きだ。その時は私も責任を取る。殺す、ではなく罰を与えて反省させる機会くらいは与えてやってくれ。それでもダメな時は、お前の好きにするといい」

「…………まぁ、アマテラスがそこまで言うならわかったよ」



 少し納得はして無さそうだが、殺気と覚醒を解いてくれた。アリスの守護者では無いにしろ、少々過保護なところはアリスもエドワード苦労しそうだな。


 が、それでもここまで譲歩した。

 あとはツクヨミとラファエル(あいつら)が下手なことをしなければ、目の前の守護者は特にこちらに対して攻撃することはないだろう。


 ある意味では人族の言葉で、触らぬ神に祟りなしという言葉があるが、こいつにも当てはまる。


 再び、食べ進めているうちに、扉が勢いよく開くと、そこにはまだ寝巻き姿のアリスがいた。


 ヨダレを垂らしながら目を輝かせている。



「めっちゃ美味しそうな匂い!!」

「おはよう、アリス」

「おっはー! アマテラスもおはよう!」

「おはよう。本当に匂いで起きてきたな」



 まるで犬のようだと思ったがアマテラスは口にはせず、黙って食べ進める。そんな彼女の隣にアリスも座って、”私にもちょうだい!”、と言う。

 そんなアリスにアッシュは微笑みながら頷くと席を立って行った。


 本当にアリスたちと話す時は優しそうな顔をするくせに裏表がある意味ではわかりやすい。


 厨房に行ったところでアリスがアマテラスの食べているものを見ていると、ゴロンと机の上で突っ伏して、ルビーの瞳でアマテラスを見上げる。



「どうした?」

「アッシュのオムライス、美味し?」

「そうだな。美味しいぞ。今度ラファエルに作ってもらおうと思う」

「えへへ〜、でしょでしょ? アッシュ料理上手だから最近色々作ってもらってるのよぉ」

「ふぅん、何が一番美味しかったんだ?」

「一番はやっぱりあのふわっふわなパンケーキかしら! ふわっとしてて、ジュワッとする、雲のように柔らかくて、口溶けのいいの!」

「ふふ、とても美味しいんだな」

「うん!」



 椅子の下で足をパタパタさせながらアリスは以前アッシュに作ってもらったパンケーキを思い出す。初めて食べたのは、グレンもいる時だったわ……。

 二人とも美味しすぎてナイフ止まらなかったし、また食べたい……!


 惚けるような顔をして思い出していると、コトンッとアリスの前に大盛りのオムライスが置かれる。それと一緒にコンスープも置かれて、アリスは、”わぁっ!”と嬉しそうな表情をする。



「美味しそぉ! いっただきまぁす!!」

「あはは、どうぞ」



 匙にこんもりと半熟卵とライスを乗せて口へと運ぶ。幸せな様子で次々と口に運んで食べ進めていく。


 その様子にアッシュも満足そうにして、自分用に持ってきたスープを飲んでいる。だが、オムライスは持ってきてないところを見ると、食べないのかと不思議そうにアリスは首を傾げる。



「あんた、オムライス食べないの?」

「僕はアティが起きてきてから食べるつもり。一緒に食べないとあの子、食べないからね」

「え、そうなの?」

「うん」



 前よりは明るく笑うようになったけど、たまに昔のことを思い出してしまうのか、それとも習慣なのか、僕とアリス以外との食事の時は食べないか、どこか隅でこっそり木の実を食べていたことを見かけてしまっていた。


 僕とアリス以外のところはエドワードから聞いて発覚したため、僕自身も気づけていなかった。もっと見てあげられてると思っていたけども、そうでは無いと痛感してしまう。

 今回もユキにアティの跡をおってもらってなかったら気づかなかった。どうしてそうなったかは分かってもその前に察知ができてないのは、注意散漫なのかもしれない。



「そっかぁ、私も知らなくてごめんね」

「うぅん、あの子の父親は僕だもん。君たちにまでそこまでしてほしいっていうのは違うからさ」

「……意外だな。一応、ちゃんと父親してるんだな」

「……どうだろ。HALの時にアリスとアティがピンチになった時にどっちに向かえばいいか、迷ってしまってたから」



 父親なら、あの子が大事ならすぐさまあの子の元に行くべきだった。それなのに、自分の中でアリスとアティを選択しろとなった時に、どちらだとも選べなかった。両方とも、僕にとっては大事だから。どちらかを見捨てて助けに行くことは、出来なかったんだ。


 アリスやグレンに言われてようやく動くようでは良くないかもしれない。


 俯いたアッシュにアマテラスとアリスは互いに顔を見る。そして、アリスはアッシュへと手を伸ばしてベチッとおでこに向けて指を弾く。



「痛っ?!」

「ばぁか。あんたは私たちよりも、娘を優先しなさいよ」

「え、で、でも……」

「あら、アッシュは私たちのことそんなに弱っちく見えちゃう? 女神化すれば私はあんたよりも力強いのよ!」

「まぁ、それは驚いたし否定はしないけど……」



 ドヤッとしたアリスは足を組み、スープを一気飲みする。ゴンッとスープが入っていたお皿を置いて、立ち上がり、足をテーブルに乗せる。



「だから安心して娘であるアティちゃん優先でいいのよ!」



 自信満々に言うが、それでもまだ迷ってしまう。考えていると、ふと、彼女の後ろから誰かが来ていた。



「…………あ、エドワード」

「え、――あいたっ?!」



 話している最中だったがアリスの後ろからエドワードがどこからか出したハリセンでアリスの頭をバシンッと叩く。

 結構いい音がしていたから相当痛かったのだろうか。アリスは叩かれた頭を押えながら唸っている。



「うぅ〜! 痛いじゃないぃ〜!」

「テーブルに足を乗せるな、バカ。マナー違反だぞ」

「だからって叩かなくてもいいじゃないのよ!!」



 アリスとエドワードが喧嘩を始めてしまった。


 わーわーと騒ぐアリスを横目にアマテラスはアリスの代わりにアッシュと話を続ける。



「アリスが言いたいのは、大切なものをはき違えるな、と言いたいんだろ。お前は守護者ではあるが、同時に父親でもある。家族のいないアリスからすると、アティの事の方が心配なんだろうな」

「……? アリスは家族がいないの?」

「……まぁそこは詳しくはアリス自身から聞いた方が良いだろ」

「そうだね。僕らが勝手にそこを触れるのは、良くないかも」



 アッシュの言葉にアマテラスは小さく頷く。すると、みんないつの間にか来ていた。エドワードが全員を起こして連れてきていたみたいだ。


 お腹がすいたと嘆くノアにアッシュが前もって下準備をしていたオムライスとコーンスープを仕上げるため、席を外して、厨房へと向かう。


 コトコトとコーンスープを温めているとツクヨミがあくびをしながら厨房へと入ってきた。アッシュがいると気づくと、露骨に嫌そうに、”うげっ?!”、と声を漏らす。

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