HALの世界:後日談
そしてこれは、街を訪ねてきた、ある旅人から聞いた、ある少年の話。
宿屋の息子である、少年は訪れてきた旅人の話を聞くのが大好きだった。
将来は少年も旅をして色んな街を見て回るのが夢。
その日も、たまたま自分の宿屋で泊まることになった旅人から話を聞けることになり、ご飯中だったが、喜んで話をしてくれた。
それは金色の髪に瑠璃色の瞳のヒューマンと一緒に座っていたムスッと不機嫌そうな銀髪で紫水晶の瞳をしたヒューマンだ。
「なぁ! いままでの旅でここやばかった! って街は何処?!」
「やばかったかぁ。んー、僕的には最近だと、やっぱりあそこかなぁ」
「え、どこどこ?! どこにあんの?!」
「その街は神出鬼没で、なかなか出会うことは難しいとは思うけど、正直、訪れることがもし出来たらある意味では運がなかった、と言えるような街かな」
「へぇー! どんなところ?!」
少年は好奇心を膨らませながら旅人に食い気味で聞く。けど、聞いた内容はまるでゲームみたいな内容で、この人はからかってるんではないかと思うような内容だった。
「――と、いった感じの街だよ。くれぐれも、もし君が旅をするなら気をつけた方がいいよ」
「なんか嘘っぽいぃ〜」
「あははっ そうだね。まるで嘘のようなところだけど、実際にあるんだ。もしかしたら僕の想像もつかないような進化をして、今も色んなヒトたちを飲み込んでいる可能性もあるんだ」
「ふぅ〜ん」
少年はつまらそうに頭の後ろに腕を組んで、身体をフラフラとさせる。
そうしていると、遠くから、旅人の仲間だろうか、大声でその人を呼んでいた。
「おーい!! 準備できたから早く行くわよぉー!」
「おとうさーん! エドワードさぁん!」
目の前の旅人と似た小さな子供も手を振ってジャンプをして呼んでいる。
銀髪の旅人は、”ほら、あいつらが待ちぼうけしてるぞ”、と言い残して、呼んでいたヒトたちの所へと向かう。
残った金髪の旅人は困ったように笑いながら、”それもそうだね”、と言って少年の手に食事代を渡す。触れられたその少年は旅人を見上げる。
なんとも不思議な雰囲気の旅人で、強そうには見えないけど、なんとなく、この人のような旅人になってみたいと思った。
「さて、僕らは行くよ。ご飯、美味しかったよ」
「……あ、あの!」
普段は旅人の名前は聞かない。けど、この人は聞いて覚えておきたかった。
「な、名前! 名前教えて!」
「えっ? 僕の名前? まぁ、減るもんじゃないからいいよ」
そういう旅人はわざわざ少年と同じ視線になるようにしゃがむ。優しい手で頭を撫でてもらうとなんとも心地よいものか。
少年が惚けた顔をしていると、クスリと旅人は笑う。
「僕はアッシュ。君ももし旅をするなら、強くなって、色んな人たちと冒険や旅をするといいよ」
「……ッ! うん!」
少年は彼の言葉に頷く。
きっと彼らのように良い出会いや冒険を是非ともしてみたい。そうより一層の旅への憧れが強くなった。
そして、少年は成人を迎えた。
親の反対を押し切り、旅に出ることを承諾をどうにか貰えた彼はあの時、出会った旅人にも偶然にも会えたら、また彼の話を聞いてみたい。
それから数日歩いて周り、町や村や色んな国を回っていた。一年、二年と旅に慣れてきた頃、旅人はある国を訪れた。
「へぇ、なんか大きな国だな……」
見上げると周りをまるでシェルターのように高い壁で囲まれた国。今まで色んな国も見てきたけど、ここまで大きな外壁は初めてだ。
意気揚々と入国した旅人は街に入ると少しなにか違和感を感じた。けど本当に一瞬だったため、気にすることなく、街を歩き進める。
「お、なんだお前、見ない顔だな」
話しかけてきたのは茶色の髪をポニーテールのように結っている少年だった。
この街に来て初の住人だ。
旅人は笑顔で軽く頭を下げてから握手を交わす。
「あぁ、今日、入国したばかりなんだ」
「へぇ、なら、一旦、ギルドに来いよ。この街には宿屋がなくてさ。ギルドが宿屋代わりだから、あそこに見えてるギルドに行って、ギルマスに挨拶したらいつでも泊まれるし、良かったら案内するぜ」
「え、本当? じゃあ案内よろしく頼むよ」
「おう!」
なんとも元気な少年なのだろうか。案内されたギルドはまるでお城のようにでかい。ここまででかいギルドはなかなかないんじゃないかと思う。
……あれ、でもその割には、この国の名前……なんだっけ?
疑問に思った旅人を遮るように、案内をしてくれた少年が扉を開きながらニカッと笑う。
「ようこそ、俺らのギルドへ! あ、そうだ。俺は彪。よろしくな」
「あぁ、彪。よろしく」
彪と名乗る少年に連れられてギルドマスターのいる部屋まで案内される。その部屋にある大きな扉に彪は手をかけて中に招き入れてくれた。
「あそこにいるのが俺らのギルマスだ」
「ッ?!」
旅人は息を飲む。そこにいたのは、昔、自分に旅の話を聞かせてくれていた、あの時の旅人。
あれから何年も経ってるのに、姿があの時のままだった。
彪が指す、ギルドマスター、金髪に瑠璃色の瞳の彼。その人はニッコリとこちらに笑顔を向けながらゆっくりと歩み寄る。
「やぁ、俺の名前は灰。ここのギルドマスターをしている」
「な、なんで、なんであなたか此処に?! 俺、あんたに憧れて旅をしてるのに、なんで此処に?!」
そういうと、目の前にいる灰と名乗るギルドマスターは途端に表情が変わる。それは、なんとも不気味な顔だった。
「……なんだ。お前、もしかして本物のアッシュに会ったことあるヒト?」
「ほん、もの?」
「アハハハハッ 残念だけど、俺はお前が知っているアッシュじゃない。俺は、HAL」
その名前を聞いて旅人は入ってきた扉に手をかけて外へと飛び出す。
だけど、それを彼らは止めようとしない。
あぁ、あの時、あの人が言っていたのはこの国だったんだ!
急いで国を出ようとしたが、門を潜るとそこは、知らない、場所だった。
「え、え?」
「ざんねぇん〜」
「ヒッ?!」
灰は旅人の後ろにいつの間にか立っていた。恐怖に怯える旅人に、目の前に現れた彼は歪んだ笑みを浮かべながら両手を天に仰ぐ。
「もうここからは出られない! もう、お前は、このHALの世界の……住人だ」
そういう彼と同じ姿のHALは高らかと笑い声だけが響き渡っていた。
HALの世界、お話はこれで終わりです。次回、新章に入ります。
いやぁ、長かった……。
結果的にハルはHALとして、再度データ解析したアッシュの人格を自分自身のアバターにしております。
彪とガーナ、黒い髪のハルがどうなったかは……、皆さんの想像にお任せしましょう。
最後の旅人に関しては気付かぬうちに入国してしまい飲み込まれてしまいました。
旅人、どんまい!