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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第九章 HALの世界
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真実2

 ガラスの入れ物の中にいるHALに驚きながらもそれに近寄る。プシューと音を立てて、いまだに機械は動いていた。


 眠ったままのHALを見ながら、カプセルに触れる。



「なにこれ、ハルが本体じゃないの?」



 驚いていると、中にいたHALがカッと目を見開いて、不気味に笑う。目を覚ましたHALに何か嫌な気配を感じて、カプセルに触れていた手を引っ込もうとしたが、ガラス越しに指を絡め取られて、握られる。



「なっ?!」



 ズズズッとカプセルの中に引き込むようにアッシュの手を握ったまま、HALは自分の方へと引きずり込む。



「ちょっ! 手を放して!」

「アハハ……、羨ましいな……。お前」



 突然、喋るHALは顔をガラスの方へと近付けながらアッシュの手をゆっくりと引いていく。それに対して、どうにか手を放そうともがくが、ありえないくらいの強い力で手を握られていて、引き抜くことが出来ない。


 その間にもHALは喋り続ける。



「お前、なんでそんなにみんなに信用されてるんだろうな? 俺は唯一、ずっと信用してたやつにも裏切られたのにさ」

「ハッ 人望のなさなんじゃないかな? さっさと手を放しなよ」



 ギリギリと腕を軋ませながらも、掴まれている腕を振りほどこうとする。嫌味な言い方をすると、HALは不機嫌そうな顔に変わった。



「威勢だけはいっちょ前だよな、ほんと。まぁいいや……、俺はお前が欲しい」

「は?」



 露骨に嫌そうな顔をHALに向ける。


 僕が欲しい? 何をしようと言うんだろうか。



「悪いけど、僕は君に嫌悪すらいだいてる。君に欲しいと言われても――」

「大丈夫、お前の意思はいらない」

「何を――うっ?!」



 ズリュリと嫌な音がした。HALに握られている手にコードがまるで細い管のようなものがHALから伸び、それが手にくい込みながら身体を侵食するように入り込んでくる。


 それと同時に、バチリと痺れを感じる。

 本能的にこのままだとマズいと思い、腰に着けていた剣を抜き、HALに向けて突き刺そうとするが少年はニヤリと笑う。



「無駄だ。この空間は俺が全てだ」



 HALに当たる直前、パリンッとガラスが割れるように剣が砕ける。



「なっ?!」

「さぁ、お前の全てを俺にくれ。”データを再分析、同時に移行処理を実行”」



 ジリジリと電子音が響く。

 掴まれている左手から自分の中を(まさぐ)られてるような不快感。そして、脱力するような感覚に襲われ、徐々に膝をついてしまう。


 こ、れ、ヤ、バい……ッ


 頭がボーッとし始める。けれど意識は、はっきりとはしている。抵抗する気を、失わされている気が……。


 戸惑うアッシュにHALは不気味な笑みを浮かべる。



「やっぱ、そうだなぁ。ハルじゃなくて、お前みたいに忠誠心が強いやつにした方がいいかもな。アリスとか言われた神子も、お前に対して信用が凄かった。そう思うと、ハルをそのまま残さない方が良かったなぁ。結果的に裏切られたし」

「……ッ は、ハル…は、ヒトで、君はシステム、じゃないの?」

「違うよ」



 HALはガラスの中にアッシュを引っ張り込む。ズプンとガラスの入れ物に一緒にいれられ、抵抗する様子も無くなっている彼の顔に触れる。



「ハルがシステムで、俺がヒトだったんだよ。あいつの記録を弄って、記憶の一部を逆にして、俺がシステムという認識にした。そして、俺はプレイヤーとして、大事な大事な()()()をずっと守ってきていただけなんだよ」



 ハルがシステム? HALが、ヒト?


 ……あぁ、そうか。何か違和感があったんだ。


 HALは人工知能なのに、ヒトのように感情、思考があり、やり方も考え方も子供のそれだった。そして、アリスと会った方のハルは逆に察しも、観察力も、動きも自分なりの出来ることをしようと、合理的な考え方だった。


 ハル自身は自覚はないけども、本来のハルはこの子だったのだろう。



「ハルは俺として、俺はHALとして。ずっと過ごしてきた。……けど、人工知能は本当に面倒だなぁ。合理的に考えてお前らの味方してさ。俺がずっと一緒にいたのに、酷い話だ。……でも、さ」

「うぐっ?!」



 さらにコードが身体にくい込んでいく。



「お前なら、アリスたちという存在から、俺という存在が一番大事だと、書き換えてしまえば、俺を裏切らず、ずっと大事にしてくれそうだ」



 頭の中を掻き回されているような感覚。ぐちゃぐちゃと何かが書き換えられている。目の前のハルは何かを言っているが、もう、何を言っているか理解ができない。



「それか、いっそ、俺がお前の本体を乗っ取って、未練も後腐れもないように、あいつらを殺してきてあげてもいいけどな。ふふ、アハハハハハハハハッ!!」



 笑うハルに、アッシュはもう反応が無くなってきている。


 薄れていく意識。手放すなと必死に自分に言い聞かせるが、もう、無理かもしれない。


 閉じていく瞳に、目の前の笑う少年が映る。だが、その笑顔は、急に固まった。

 そして、目の前のハルとは、別の声が遠くから聞こえる。



「ダメだ!!」



 ガシャンッとガラスが割れる音がする。ガラスの中を満たしていた水が流されていくのと同時に、誰かに掴まれて、引きずり出される。アッシュを支えきれなかったのか、ゴロゴロと転がり落ちていった。


 アッシュは先程までボーッとしていた感覚が急に晴れる。

 左腕にくい込んでいたコードを乱暴に引き抜き、助けてくれたヒトに視線を移すと、そこに居たのは――



「何しに来たんだよ……ッ HAL!!」



 黒髪の少年がアッシュを守るように前に立ち塞がる。けれど、少年は震えて、消えかけていた。



「……ッ ハル、ごめん。全部思い出したよ……。僕、本当は本当は、僕が君を守らないといけなかったのに……ぼ、僕は……ッ」

「……そうだよ、HAL。本当はお前になんかお父さんはいないし、研究者の人たちと会って話していたのも俺。でも、変わらないのはお父さんたちをここに連れてきてほしいって願いはお前の願いだ」



 ガラスの破片を踏みつけながらハルはこちらにゆっくりと歩く。

 その顔は、ゲーム中に必死にHALを取り戻したいという気持ちは全く無く、むしろ邪魔だと言いたげな顔をしていた。



「もういいよ、HAL。お前、いらない。お父さんと同じように俺を見捨てたやつなんかもう信用しない」

「は、ハル……ッ」

「それよりもっといいことを思いついたんだ。そこにいるアッシュの人格をHALのシステムに書き換えるから、お前はいらないよ。さっさと削除されてくれない?」

「……ッ」



 大事に思っていたハルにそう言い捨てられたHALは俯くが、それでもHALは涙を浮かべながら顔を上げる。



「いいよ。僕は、消えるよ……。けど、彼は帰る場所がある!!」

「ないよ。俺が、無くす」



 そう言ったハルは手を前に突き出す。コードがドンッ!! と大きな音を立てながら、こちらに向かってくる。アッシュの目の前にいるHALはそれでも引かない。



「僕一人では、君を止められない。だから、()()()()()!!」

「何を――ッ?!」



 アッシュとHALにコードが飛んできたが、それをザンッと切り刻み、二人を守るように、誰かが現れた。


 それは、彪とガーナだった。



「彪?! ガーナ?!」



 アッシュが二人の名前を呼ぶと、彼らは振り返る。ニヤリと笑いながら彪は剣を肩に置く。



「お前がうっかりやられそうになったら、助けに行ってやるって最初に言ったろ?」

「彪……」

「んな顔すんなよ。お前とも色々あったけどよ、結構楽しかったし、びっくりすることも結構あったし、短期間で怖ぇこともクソあった」

「君、そっちがメインじゃない?」



 そう言うアッシュはフラフラとしながらはHALに肩を貸してもらいながら、立ち上がる。

 彼が立ち上がったの確認して、再度、目の前のハルを睨む。



「さーてよ、アッシュ。こいつは俺らに任せて、さっさと帰れよ」

「え、でも、君らは?」

「俺らは大丈夫。そこにちっこい大将いるからよ! それに、向こうで待ってんだろ?」



 そう言ってアッシュをトンッと彪は押して、扉の方へと押し戻す。アッシュを逃がさないようにするために、コードが飛んでくるが、二人は近づけないようにするために来る度に切り刻む。


 その間に、HALがアッシュを入ってきた扉まで手を引っ張っていく。扉の外までアッシュを連れていくと、HALはその場で出て来ず、扉に手をかける。



「僕のシステムの権限はほとんど失っちゃったけど、即席の外へ出るための扉をあそこに作ってる」



 HALが指をさす方向には同じような白い扉が少し先にできていた。あれから出られれば、外に、帰られる。


 もう一度少年の方を見ると、最後にHALはヘラッと笑い、涙を浮かべる。



「本当に、ありがとうございました。アリスさんにも、お礼を伝えて欲しい。最後まで、ハルには僕の声、届かなかったけど……。それでも一緒に戦えて良かったよ」

「HAL……」

「さぁ、行ってください! ここは僕らが押さえているから、振り返らず、走って!」



 HALに背中を押されるようにアッシュは扉に向かって走っていく。走っていく彼を見送りながらHALは扉を閉めると、怒りの表情を見せるハルに向かって白い髪の少年は彪たちと共に前に立ち塞がった。



「HAL……!! 裏切っただけじゃなくて、邪魔ばっかして……!!」

「ハル、彼らは帰る場所がある。僕らと違って帰らないといけないんだ。だから、彼をここに縛るのは絶対にさせない」

「――ッ!! 本当に、鬱陶しい!! 俺を誰だと思っている?! プレイヤーで、この世界の支配者だぞ!!」



 吠えるハルに彪とガーナはニヤリと笑う。HALを守るように出て、それぞれ武器をハルに向ける。



「ハッ 支配者?」

「化け物の間違いじゃないかしら」

「んで、俺らは、てめぇを――」


「 「 ぶっ壊す!! 」 」



 彪とガーナが同時にそう叫びながら、ハルに向けて走っていく。

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