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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第九章 HALの世界
134/252

真実1

 光を潜り抜けると、視界が暗転する。



 ――――――――――――――――――――



 ポコポコと水の音が響く。目を開くとグレンは自身の状態を確認する。入国時と同じ状態、酸素マスクをつけた状態でカプセルの中にいた。カプセルの中には水が満ちており、目の前には数人の人影が見えていた。


 腕は……動く。


 カプセルに手を伸ばして、魔法を発動させると、バキンッという音を立てながら、水は外に漏れだし、ついていた酸素マスクを外す。マスクは酸素を無駄なく送るためだったのか、長いホースのようなものが喉の奥まで伸びていた。外す不快感で嗚咽混じりの咳をする。



「ゲホッ!! ぅえ……、ゴホッ!! ハッハッ……つぅ……ッ!!」



 咳き込みながらもグレンはカプセルの中から出ると、長時間眠っていたせいなのか酷い頭痛に襲われる。痛む頭を押さえながら、見えていた人影を確認するとそれはアンドロイドたちだった。出てきたことに驚いているのと、ほかにも目を覚まし、カプセルの中から出ようとしている人たちを押え込もうとしている。


 出てきたグレンも例外なく、取り押さえようとしてくるアンドロイドに、彼はすぐさま大剣を生成し、薙ぎ払う。

 視覚で確認するだけでも残り三体。ナースの姿をしたアンドロイドも含めて切り捨てていく。最後の一体を倒していき、すぐ自分の入っていたカプセルにある隣のナギが入っていたカプセルを持っていた剣で破壊する。


 既に目を覚ましていたため、カプセルの中から引きずり出す。



「ぅえっ?! ゲホッゲホゲホッ?!」

「おい、起き上がれるか?」

「ちょ……ッ ま、待ってぇや……。頭、死ぬほど痛いんやけど……」

「チッ ”召喚、マリア”」



 パチンッと指を鳴らして、マリアを喚び出す。喚ばれたマリアは鈴の音を鳴らしながら顕現する。



『お久しぶりです。グレン様』

「あぁ。喚び出して早々に悪いが、手伝え。あと、カプセルから出したやつらに回復魔法も。先にそこのバカに施してやれ」

『かしこまりました』



 頭を下げ、隣で両手両膝ついて噎せているナギに回復魔法をかける。頭痛が治ったのか、元気よく起き上がった。



「うっしゃぁぁぁぁぁぁあああ!! 復活やぁ!!」


(うるせぇ)



 こっちも頭痛でクソ痛いのに、騒ぐなと思いながら、他はナギとマリアに任せて、アリスたちの魔力を辿り、そちらへ向かって走っていく。


 いくつかの道を走っていくと、アリスたちがいるであろう列に、リリィがカプセルの蓋を押しながら出ようとしていたところをアンドロイドたちが押さえていた。


 すぐさま、そちらの方まで加速し、全て切り捨てる。


 妨害が無くなったことで、リリィは蓋を蹴り飛ばし中から出てきた。同様に痛そうに頭を押さえているため、パチンッとグレンが回復魔法をかける。



「ゲホッ!! ……助かった、グレン……」

「いい。それよりアリスたちも早く出すぞ」

「わかった」



 頷いたリリィは先にアリスの方のカプセルの蓋をこじ開ける。エドワードやノア、ユキ、アティもどうにか出てこられて、最後に残ったアッシュの方もアリスが開けようとしたが、それをグレンが止める。



「待て、アリス」

「え、なに? アッシュも出さないとここから出られないわよ」

「そうじゃない。アッシュは……」



 言いにくそうな顔をするグレンにアリスは嫌な予感がしてしまった。走ってグレンの元まで駆け寄り、彼の肩を掴みながら身体を揺らす。



「あ、アッシュ、まさか、まだ……?」

「…………出る直前、崩壊の底へと、落ちていった」

「そ、んな……ッ」

「だが、おそらく大丈夫とは思う。今、カプセルの中にいるこいつを見て、確信した」

「え?」



 ここへ走る最中、いくつか黒くなっていたカプセルがあった。中も見えなくなっていたことから、それはおそらく死んだものとして判断されたカプセルだと思う。けど、今、目の前にあるカプセルは白く、アッシュの姿が見えている。


 まだ、生きている。



「……私はアッシュが戻るまで待つつもりだ。先にお前らは外に出ろ」

「な、なら私も残る! アッシュが戻るのをここで待つわ!」

「お前はもし何かあった時に困る。街の外で待っていろ」

「嫌よ! 私も待つ!」



 断固として譲らないと言わんばかりの態度でアリスはグレンの腕を掴む。


 そんな彼女にアティも不安そうな顔をするのが後ろに見えた。小さくグレンはため息を吐きながら、アリスの手を腕から放す。



「……アリス、お前は神子だ。さっきも言った通り、何かあれば、それこそ問題が起きる可能性もある。それに、アッシュはお前らの身に何かあれば、あいつ、この一帯を消し炭にする勢いで暴れるぞ」

「で、も……ッ」

「分かりました」



 泣きそうになるアリスの後ろからアティが二人の間に入るように歩いてくる。アリスの手を掴んで、顔を上げるアティの表情も泣きそうな様子ではあったが、グッと涙を堪えている。



「お父さん、ちゃんと帰ってくるんですよね?」

「あぁ、あいつはしぶといからな」

「でしたら、私も信じてお父さんの帰りを外で待ちます。それまでは私がアリスさんたちをお守りします!」



 力強い返事をしているアティに、グレンは思わず、困ったように笑顔を見せる。少女と同じ視線になるように、しゃがみ、頭を撫でる。



「ありがとう。任せるぞ」

「はい! アリスさん、行きましょう!」

「……ッ わかったわ……」



 アッシュの子供にそこまで言われるとこれ以上は言えないと思ったのだろう。袖で涙を拭いながら、エドワードたちの方へ振り向く。



「外へ出るわよ! 出る途中でもしカプセルの中の人たちが出られてないのなら、救いながら、脱出よ!」



 アリスの指示にエドワードたちは頷く。一度、アリスは振り返り、グレンを見るが彼はジッと真剣な眼差しでアッシュのことを見ていた。


 落ちる姿を見ていたなら、本当は気が気ではないはず。それでも待つと決めたのなら、私も信じるしかない。


 気持ちを入れ直して、アリスもエドワードたちの後ろを追うように走っていく。


 残されたグレンは、剣を置いて、カプセルに触れる。



「早く、戻ってこい……ッ」



 そう呟いて、カプセルに触れている手を強く握る。



 ――――――――――――――――――――



 一方そのころ、少し時を戻して、アッシュは、崩壊の大穴、深い深い地の底へと落ちていった。


 底の見えない状態にどうしようかと考えていると――



「いだっ?!」



 バシャンッと水飛沫を立てながら、地面に激突していた。仰向けに落ちたが、何処か怪我もない。痛みはあるが、動く分には問題ないようだ。


 痛む顔に手で押さえながらゆっくりと起き上がる。



「いたたた……ッ 此処、何処だろ……?」



 涙目になりながら周りを見渡す。黒く、真っ暗な空間に、立っている場所は薄く水の張ったような足場。軽く片足で足踏みをすると、足が触れたところは水飛沫を上げながらも、プワッと光って、消えていく。


 なんとも不思議なところだと思い、上を見上げるが、左右と変わらず真っ暗だった。



「……これ、崩壊の底、って言ったらいいのかな?」



 首を傾げて、パチンッと指を鳴らして、外に出るためのアクセスコードを唱える。


 が、反応はない。



「……え、これ、出られるかな」



 不安になりつつも、とにかく何かないか、走ってみることにした。


 ……


 …………


 どれくらい走ったのだろうか。


 バシャバシャと自分の走る足音だけで、何もない。何も見当たらない。何処にも、辿り着かない。このまま一生出られないのではないかと思うほど、何処へ向かって走っても、いや、もはやどちらから走ったのかも左右が分からない。


 ひたすらに闇が続くだけ。


 息を切らしてその場に立ち止まる。ずっと聞こえてくるのは自分の心臓の音と荒く息をする自分の呼吸の音だけ。



「ハァッ……ハァッ……!! い、いくら走っても、出口、見当たらないし……。これ、ジェイドの時のこと、思い出すな……ッ」



 あの時は、おそらく神様の干渉があったけど、今回はそうじゃない。HALの世界だ。

 なんて思っていると気づいたことがある。HPの表記やメニューがない。ここはHALの世界じゃないのかと思ったが、服装はそのまま。現実じゃないことを物語る。


 もう一度アクセスコードを使えないか試そうとした時、バチャンッと自分が出していない足音が聞こえる。ハッとしながら音の方を振り返ると、ブリキの、案内人がそこにいた。



「え、案内人?」



 突然現れたブリキに警戒をしていると、それはゆっくりと頭を下げる。



「はじめまして。私はニューロン。ハルの、父親です」

「ハルの? なんで此処に?」

「…………ついてきてください。あなたは、呼ばれています」

「呼ばれている? 誰に?」



 アッシュの問いに、返事はなかった。ニューロンと名乗るブリキはゆっくりと後ろを振り返り、歩いていく。


 ……これは、黙ってついて行っていいものだろうか。



(でも、今、現状どうにもならない。ついて行くしか、ないか……)



 ため息を吐きながら、アッシュはニューロンについて行く。


 何も一言も話さない目の前のニューロンに導かれるようについて行く。しばらく歩いていると、扉のようなものが現れ、淡く光を放ちながらそこに在った。



「私めの案内はここまでです」

「……ねぇ、君、ハルの父親なんでしょ? なんでここにいるの?」

「…………私は、ハルを、()()()()()()()()。そして、ずっと私はここに囚われています」

「見捨てた……?」

「貴殿と同じ父親として、情けない限りです。ですが、どうか、あの子を怨まないで頂きたい」

「……話が見えてこない。何が言いたいの?」

「…………私から言えるのは以上でございます。どうか、ご無事で」



 そう言い残したニューロンは頭を下げて、闇に溶けて消えていった。


 何処か不気味な感じがしつつも、警戒しながら、扉に手をかける。ドアノブを回すと、どうやら鍵はかかっていないようだった。

 ゆっくりと扉を開けると、眩い光が溢れて、目が眩む。

 眩しい光に目を凝らしつつ、中へ入っていく。そこは真っ白な部屋。何処もかしくも、真っ白な部屋だった。



「真っ暗なところに続いて今度は白い部屋? 本当、此処なんだろ……」



 真っ白な部屋を見渡すと、奥に部屋が続いていた。


 その部屋まで歩いていき、覗き込むと、まるで研究施設のような場所。そして、ポコポコと水の音を立て、機械音が響いている。音の元を見上げると、大きなガラスの入れ物の中に誰かがいた。


 それは――。



「え、HAL?」



 白い髪をした。少年だった。

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