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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第九章 HALの世界

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ラストクエスト:第三クエスト1

 白い髪の少年はこのHALの世界を見渡す。



「……俺は、間違ってるのかな?」



 いや、そんなことは無い。

 だってハルがずっと寂しそうにしていたのを俺は見ていた。だから、ハルが寂しくないように俺はハルの父親のように置いて行ったりはしない。一人にするもんか。


 あいつが、あいつさえ、あいつさえいなければ、ゲームはいつも通りあいつら(アバター)が負けてゲームオーバーで終わっていた。


 なのに、あいつが、邪魔をしてきた……!!


 記憶にチラつく金髪と瑠璃色の瞳。思い出すだけで怒りが込み上げ、自分の視界にERRORの文字がいくつも出てきている。



「俺の、大事な、ハルを奪って……!!」



 なんで、なんでハルはあいつらのところへ、あいつらの味方をする?

 俺のことはどうでも良くなったの?


 俺はハルのためにしているのに。


 寂しくないように、あいつのそばにいてくれるヒトたちを探すために、あいつを傷つけないヒトを見つけるためにこの世界に連れてきているのに。


 なんでハルはそれをわかってくれない?


 なんでハルは俺を敵視するんだ?


 なんでハルは俺を一人にするんだよ。


 少年は自身の髪を掴み、唸る。


 そして、白い髪が徐々に血のように紅く染まっていく。


 抑えられない怒りが、悲しみが、寂しさが、少年を、HALを飲み込んで行く。


 少年の周りに、ダーティネスが複数体、顕現される。


 少年の髪は徐々に伸びていき、ピシピシと音を立てて、顔に亀裂が入っていく。流す涙はそれに落ちるように零れていった。



「ハル……。お前には、俺しかいないんだ……。俺も、お前以外、もう、いらない……」



 バチバチと電子音が鳴り響く。ズルズルと音を立てながらコードが、少年に絡みつき、飲み込まれていく。そして、沈む。



 《HALプログラム 始動。 全て の アバター を 初期化 および 削除 に移行。 ウイルスバスター 発動 排除 してください》



 ――――――――――――――――――――



 早朝、アッシュたちはギルドの外で開始を待っていた。だが、不思議と、日が昇るはずの朝日が来ない。ずっと夜のまま。


 ギルドの屋上で眺めていると、下の方からエドワードたちの話し声も聞こえてくる。

 覗き込むと、エドワードとノア、ユキと無事に復活したランスロットが何やら話をしながらエドワードが指示を出していた。


 復活してすぐのランスロットたちはもちろん彪に対して敵意を出していたが、ハルやアティ、ガーナが必死に説明をして、ちょっとだけ僕も()()()()()、どうにか彪が裏切っていたのではなく、操られていたと理解をしてくれ、いつも通り接してくれている。


 最初は面倒だし、記憶を消そうかと思ったけど、彪は、”自分がしてしまったことを無かったことにするのは良くない”、と本人が希望したので消さなかった。


 そっちの方が手っ取り早いとは思うんだけどなぁ……。


 ため息をはいて、再度、アッシュが夜空を見上げていると、現実ではありえないくらいの大きな満月がそこに在る。

 星と相俟ってかなり神秘的なだ。



「これが現実世界なら、いい月見日和なんだけどねぇ」

「あ、私、白玉餡子食べたい」

「餡子かぁ。確かに食べたいね。アイスとかもあったらどうかな?」

「え、サイコーじゃん」



 隣にいたアリスは、いい提案と言わんばかりの喜びながら、アリスは月を見上げるアッシュの背中にのしかかる。が、身長が足りず、上手くのしかかれないので、何度がジャンプしてる彼女が届くように少し屈むと再度勢いよくジャンプをして乗る。


 ハルとグレンも隣にいてそれを見ていると、ハルがアッシュたちを見てからグレンの方を向く。



「アッシュさんとアリスさんは付き合ってるの?」

「さぁな。聞いてみたらどうだ?」

「え、聞いてもいい部分かな……」



 気になるけど聞きにくそうにしているハルはそわそわしている。


 ハルから見るとそう見えるのか。なんだかんだでしばらく見ているがあまり気にしたことはなかったな……。


 なんて考えているとアリスとグレンが目が合う。ニヤニヤしながらこちらを見てくるのでため息を吐き、”なんだ?”と言う。



「アッシュの乗り心地もいいけどグレンの背中も凄い安定して安心するのよね〜」

「ヒトを乗り物扱いするな」

「えへへ〜」



 褒めてないのに照れるように笑う彼女に呆れていると、声が響いてくる。

 だが、ブリキの声ではない。HALの声でもなく、電子音と二重に重なっているような何処か不快感のある声だった。



 《つくづく思うよ》



 ゆっくりと空から誰かが降りてくる。


 それに視線を向けるとハルは目を見開いて驚いていた。そこには自分の姿のHALでは無い。全く違う姿のHALがそこにいる。


 姿は違うけど、HALだって、わかる。


 赤と白の混ざったような少年、いや、青年の姿をしたHALは不機嫌そうな顔をしていた。



「お前らを、この世界に招かなければよかったって。人格や記憶をインストールした時に、特にお前はヤバいやつだとは思っていたけどここまでされるとは思わなかった」

「なんだい? ようこそって招いてきておいて酷い言い草じゃないか」



 背中に乗っていたアリスが降りると、驚いているハルを自分の方に寄せる。そんな彼女を守るようにアッシュは前に出る。



「……ねぇ、ハル。帰ってこいよ。そいつらはここから抜け出すためにお前を騙しているんだぞ」

「……もし、そうだとしても! もう僕は君にこんなことをさせる訳にはいかない。だから、HAL、もうやめようよ! 僕が願ったことを、もう叶えなくていいんだよ!」



 そう叫ぶがHALは表情を変えない。冷たく見下ろした目にはもうハルの言葉は届くことがないということを物語るように、少年の言葉を無視してHALは左腕を上げ手のひらを天に仰ぐ。



「……これが、ラストクエストだ。ハルを奪ったお前らを、一人残らず、削除(アンインストール)だ」



 地響きと共に雷が轟く。


 バンッ!! という音と共にダーティネスがHALの前に二体、現れる。


 剣を構えたアッシュはニヤリと笑う。それに対してアリスは杖をカンッと鳴らし、ギルドにいる全員に聞こえるように叫ぶ。



「いい?! ここが正念場よ!! 泣いても笑ってもここでHALを止めない限り、私たちは出られない!! 全身全霊で挑みなさい!!」



 鼓舞するアリスに全員が雄叫びをあげ、戦いの幕を切って落とす。


 召喚されたダーティネスは雄叫びあげたギルドの人々がその一体に一斉攻撃を始める。ギルドの人たちが怪我やロストしないように後ろではエドワードとアティが援護に入っていた。一応、エドワードにはダーティネスへの対抗で崩壊のコードのある武器を渡している。

 問題なく仕留められるはずだ。


 残りの一体はアリスとアッシュの前に降りてきた。


 二体で来るわけが無い。ダーティネスを別で召喚される可能性も含めて、一撃で葬らないといけない。


 剣を構えて、前回と同じアクセスコードを唱え、ダーティネスを切り捨てる。

 前回と同様に豆腐のように切られていき、消えていく。



「さて、さっさと終わらせようか」

「私も頑張るわよ! ハル、行くよ!」

「わかった!」



 ぽつんといるHALに向けてアリスとハルが駆けていく。そんな二人を妨害するように手を前に突き出して、なにか呟くと、まるでコードのようなものがアリスたち目掛けて飛んでくる。


 それをアッシュが来るもの全てを切り刻みながら二人のフォローをしていき、HALとの距離を縮めてゆく。



「HAL!!」



 ハルが叫ぶが、俯いた顔のままHALは無言でコードを伸ばし、ぶつけようとしてくる。数の増えていくコードに対して今度はグレンもそれに加わり、道を切り開いていく。


 数は増えていくが、アッシュとグレンであれば問題なく道ができていく。それでもHALは動じない。



「ハル、言っただろ。お前を守れるのは、俺だけなんだ」



 ようやく顔をあげたHALは叫ぶ。



「”セキュリティコード:HAL。殲滅を開始”」



 バチンッという電子音と共に、地面から何かが這い出てくる。ジジジッと鳴り、現れたのは、非戦闘員の住人(アバター)だった。


 散り散りに現れた彼らは困惑していた。ギルドの方にいたはずなのに戦場に現れたからだ。


 もちろんそれは戦っていた人たちもそうだった。


 現れた彼らに動揺していると、HALはニヤリと笑う。



「さぁ、ゲームはもっともっと楽しくて、残酷で、残虐にしないとなぁ?!」



 そう声をあげると住人(アバター)の現れた一人が、いや、呼ばれた人達が次々と苦しそうに呻くと、身体が変異していく。


 ある者はスライムへ、ある者はゴブリンへ、ある者はまた別のモンスターへと次々と変わっていった。


 周りが次々とモンスターへ変わっていくことで混乱が生じてしまった。変わってしまった住人(アバター)は理性を失っているのか襲いかかってくる。


 グレンは舌打ちをしながらも襲いかかってくるモンスターを切り捨てていく。


 ピコンッ


 通知が鳴る。

 グレンがそれに視線を向けると、あの時のランスロットたちと同じ、PVPとアバターロストの表記。


 それはグレンだけではなく、他でもモンスターを倒している人たちにも出ていたようで誰かが叫ぶ。



「おい、嘘だろ?!」

「待てよ待てよ!! 仲間を殺せってのか?!」



 変異してしまった住人(アバター)としての扱いは住人(アバター)のまま。けれど理性のないモンスターは容赦なく襲いかかる。


 通知によって怯んでいく周りは理性のないモンスターの格好の餌食だった。



「ちょっ?! これ、どういうこと?!」



 阿鼻叫喚ともいえる状態に、叫ぶアリスにくっついていたハルが青ざめた顔をする。



「HAL……ッ なんてことを!!」

「え? 何? これってどういうこと?」

「HALは、彼らの構築プログラムを弄って、魔力を消費せず、簡単にモンスターの軍隊を、戦えない住人(アバター)の人たちを使ってモンスターに書き換えたんだ……」

「そ、そんな……」



 ハルの言葉にアリスは絶句する。


 彼らは守るために戦ってるのにその守る人たちも殺さないといけないの?


 そう困惑している間にも次々と被害は広がっていく。慌ててアティや他の魔法使いたちは結界や防御魔法で守ろうとしていくがモンスター数は増えていき、守りが間に合わない。


 そんな悲惨な状態でも、一人笑う声が響いてくる。



「アハ、アハハっ!! アハハハハハハハハハッ!! そうだ!! 殺していけ!! お前らはアバターなんだ!! プレイヤーである俺によって全てが決まるんだ!! 蹂躙していけ!! 殺してしまえ!! ハル以外はいらない、全員、全部、ぜぇーんぶ!! 全滅だぁ!! アハハハハハハハハハッ!!」



 狂ったように笑うHALは自身でも戦っている周りの住人(アバター)をモンスターごとコードで攻撃していく。


 モンスターたちはアリスたちにも牙を向けてくる。



「アリス!」

「きゃあっ?!」「うわっ!」



 襲いかかってくるモンスターから守るように魔法を放ち、モンスターを撃破していく。


 魔法に驚くアリスとハルはその場に転けてしまう。


 そんな彼女たちに向けてモンスターは群がっていった。コードを薙ぎ払っていたアッシュからは少し遠くにいたため、HALに向かうのをやめ、彼女たちの方へ走っていく。


 その様子にHALはニヤリと笑う。



「ハルを俺の元へ連れてこい!!」



 その声に応えるようにまた雷が轟く、彼女の背後にダーティネスが二体、現れた。


 そして――



「ひゃあっ?!」



 アッシュが悲鳴の方へ、娘の方は視線を向ける。


 ハッと目を見開いた先にはアティのところにも二体のダーティネスがいた。



「アティ!! ――ぁぐっ?!」



 アティに気を取られてる間に、アッシュはHALが飛ばしていたコードに弾き飛ばされる。

 ズザザッと地面にぶつかりながらも、すぐ体勢を整え、顔をあげたが、アリスとアティに向けてダーティネスやモンスターが向かっていく。


 HALはアッシュの方を向いて楽しそうに嗤う。



「さぁ、選べよ。お前は、どっちを()()()()?」

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