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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第九章 HALの世界
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ラストクエスト:第三クエスト2

 アリスとアティにダーティネスが近くにいる。アッシュに迷いが出てしまった。


 どちらともすぐに助けに行かないと、ダーティネスに殺される可能性が高い。それだけはダメだ。いくら蘇生が可能だとしても、目の前で死なせるわけにはいかない。


 だけど、どちらかに向かってはもう片方は間に合わない……ッ


 迷ってしまっているアッシュにアリスは気づく。背後からダーティネスが拳を振り上げていることは無視しつつ、ハルを抱えて走りながら、叫ぶ。



「こンの、バカアッシュ!! あんたの守るべきなのは私じゃないでしょッッッ!!!!」



 立ち竦むアッシュに喝を入れるように叫ばれてようやく動けるようになる。アリスの方を見ると、いつもの無邪気に笑う彼女の姿。それでも、まだ迷ってしまっているアッシュの背中とバンッと誰かが叩く。


 振り返ると、アリスの方へ向けて走っているグレンだった。



「私がアリスの方へ向かう!! お前は早くアティの方へ行け!!」



 そう言われ、背中を押されるようにアッシュも急いでアティの方へと向かう。モンスターの群れを飛び越えつつ、超えられないモンスターは躊躇なく切り捨てていく。


 到着までの間、アティは魔法を放ったりしていたがダーティネスはびくともしない。だんだん怖くなってきたアティは持っていた短剣を握りしめて震える。後退りしたが、足がもつれてこけてしまった。



「あ、ぁあ……ッ お、おと、おとぅ、さ……ッ」

「Gurrrr……!!」



 唸るダーティネスは二体とも、アティに目掛けて拳を、振り上げる。どうにか防ごうと、結界魔法をはろうとするが、恐怖で魔力に上手く集中出来ない。


 振り下ろされる直後――



「アティ!!」



 襲いかかるダーティネスの上からアッシュがジャンプして飛び越えて間に入る。アティを抱きかかえて、躱す。が、一体目の攻撃は躱しきれたが、もう一体の攻撃は躱せなかった。



「カハッ?!」



 ダーティネスの攻撃は薙ぎ払うように振るわれ、アッシュの左脇に直撃する。ミシッと骨が軋む音と、ダメージを受けたことで、HPが減ってしまう。薙ぎ払われたアッシュは壁に激突して、ズルズルとずれ落ちる。


 抱きかかえられてるアティはハッと顔をあげる。アッシュはまだアティを、力強く抱きしめたままなので意識はあるようだ。



「お、お父さん?! だ、大丈夫……?!」

()……ッ だ、大丈夫だよ。それより、怪我は?」

「私は、大丈夫……。ごめんなさい、足を、引っ張って……ッ」

「そんなことは無いよ、大丈夫」



 痛む身体を無視して、アティを抱きかかえた状態で再度立ち上がる。プレイヤー権限のおかげで、HPは自動的に回復するが、痛みはそのまま。


 グレンの方を見るとどうにかアリスの方も間に合っているようで、ダーティネスの攻撃を躱しながら、距離を取っていた。彼にダーティネスを戦わせたくなかったのに……。ミスった。


 アッシュは対ダーティネス用のアクセスコードを呟き、剣に付与して、切り捨てていく。


 付与していると、HALはニヤリと笑いかけてくる。



「あーぁ、残念。お前なら悩んでどっちも救えないっていうのが俺にとっては良かったんだけどなぁ。でも、娘を選んだってことは、仲間なんて本当はどうでもいいんじゃねぇの? お前」

「ハッ 何? ハルに嫌われたからって八つ当たりかい?」

「ハルはお前らに騙されただけだ。今も昔も変わらず、俺の味方のハル。大事な俺のハルを奪った苦しみをお前に味あわせてやりたかったからさぁ」



 歪んだ笑みを浮かべ、HALはまだ何かするつもりなのか、今度は両手を広げる。



「もっと、もっともっともっと!! こいつらを呼び出して、苦しんでくれたら、惨殺されていく姿を見せてくれたらいいのになぁ?!」



 さらに応えるようにモンスターだった者の数体、ダーティネスへと変貌する。



「まだまだ、素材(アバター)はたっくさんあるんだァ! 住人(アバター)がいる限り、どんどんどんどん出てくるぞ! 止めたければ、殺してみろよ」



 次々と変貌する様子に、舌打ちをしながら、アリスたちを抱えていたグレンが魔法を行使する。



「殲滅魔法:神え――」

「ま、待って!! それ、他のヒトたちも当たっちゃう!」



 ダーティネスと交戦しているヒトたちも混在しているため、広範囲の魔法では巻き込む危険性があった。発動仕掛けた魔法陣をグレンは握り潰す。


 だが、周りのモンスターは関係なく、襲ってくる。



「……チッ おい! ハル!!」

「は、はい?!」

「HALと同じようにアバターの書き換えは貴様はできないのか?!」

「ぼ、僕、プレイヤー権限ないから、書き換えができな――」

「グレン!! 前! 前ぇ!!」

「ッ!!」



 ドスンッとダーティネスが落ちるように前に現れる。グシャッているところから異臭が漂い、思わずアリスとハルは、”うっ?!”、と鼻を摘む。唐突に現れたダーティネスに剣を振るうが、ドロドロとした身体なのに、まるで弾力のあるもののように弾かれる。



「くっ!」

「あ、アリスさん! グレンさん! う、後ろからも来てるよ!」



 囲むように迫り来るダーティネス。色んなところから悲鳴が聞こえてくる。視線を移すとモンスターごと、ダーティネスに呑み込まれていく者や、あの怪力によって潰される者、倒さないとわかっているのに倒すことに躊躇して、竦んでしまう者。


 このままでは全滅してしまう。


 しがみつくアティを抱えたアッシュは、現れてくるダーティネスを現れた度に切り捨てるが、一人では限度がある。息を切らせながら、辺りを見渡す。



(このままだと、アリスたちだけじゃなくて、エドワードたちも危なくなってしまう……。アクセスコードは付与しないと効果がない。なら……)


「……お、お父さん、どうしよう。このままだと……」

「…………できるか分からないけど、アリスかグレンにお願いしてみようか」

「何するの?」

「物は試しってことかな。急いで2人の元に行こう」

「う、うん!」



 走ってグレンたちの元に行く。ダーティネスが現れてるのはハルのいる方が集中している。まだエドワードたちの方は2.3体ほど。攻め方を間違えなければまだ大丈夫なはず。ただ長くならばなるほど疲労で動きが悪くなる。


 ダーティネスの頭を踏み台にグレンたちの元へ急いでいく。


 一方、グレンたちは苦戦を強いられていた。


 魔法で一掃してしまいたいが、アリスから止められる。一体一体に聖魔法で退くが、攻撃の聖魔法では無いため、殲滅魔法の神炎とは違い、威力が弱い。怯ませられたとしても、決定的な攻撃手段にはならない。



「チッ マリアに、攻撃系を聞いておけばよかった」

「そん中であんた、私たち抱えながらよく躱せるわね」

「そんなに重くは無いからな」

「ふ、二人ともなんでそんなに余裕なの?」



 アリスと軽い会話をしながら躱すグレンに関心してはいたが、触れたくないというのもあるかもしれない。平然な顔をしているが、いつもより、顔色悪いのは変わらない。無理をしている様子ではある。


 二人のやり取りに驚いてるハルだったが、もっと驚いたのは上からアッシュがスタッと降り立つ。


 唐突に現れたアッシュにグレンも思わず武器をアッシュに構えてしまう。



「グレン! アリス!」

「うわっ?! び、びっくりしたじゃない?!」

「……お前か、アティは大丈夫だったのか?」

「まぁね。それと、頼みたいことがある」



 アッシュは話しながら向かってくるダーティネスを切り刻む。”器用な話し方をするなぁ”、とアリスが感心していると、ハッとしたアリスはアッシュの腕を掴む。



「あ、アッシュ! アバターたちの情報の書き換えとか出来ない?! あの人たちがあぁなったのもHALがアバターの情報を書き換えたのが原因で――」

「大丈夫だよ」



 アリスの頭を撫でながらアッシュはニッコリと笑う。




「君のことだ。書き換えされた人たちも助けたいんでしょ?」

「……わかってて、来てくれたの?」

「もちろん。けど、結界魔法は僕が知ってる限りだと、君やグレン、アティが一番出来ると思うんだ。けど、出来れば、アリスとアティでして欲しい。僕とグレンで君たちを援護するから」



 そう言ってアッシュは腕に抱えていたアティを降ろす。


 それを見て、パチンッとグレンは指を鳴らして結界魔法を張る。ダーティネスたちはそれに入ろうと結界を叩くがビクともしない。

 入ってこないことを確認してアリスたち降ろして貰えた。



「どうする気だ?」

「アリスとアティが張る結界魔法にアクセスコードを付与する。できるだけ、広い範囲に張って欲しい。上手く行けば結界内にいる変異したアバターたちをそれで元の姿に戻せるはずだよ」

「なるほどな。わかった。なら死守しよう」



 アリスもアティもそれに頷く。アティとアリスが持つ杖と短剣にそれぞれアクセスコードを付与して、結界外から守りに行こうとすると、ハルがアッシュの腕を掴む。



「ぼ、僕も! 僕も戦う!」

「……君は、アリスたちを守ってくれるかな?」

「え、でも……」

「アリスが君を守るように君もアリスを守って欲しい。外は僕やグレンが守れても内側は守れないからね」

「……わかった」



 返事をしたハルを見てから、グレンとアッシュはダーティネスからアリスたちを守るために向かう。アッシュに言われたけも落ち込んだ様子のハルにアティが手を握る。


 手を握られてハルはアティの方をゆっくりと見る。



「大丈夫です。一緒に、頑張りましょう! 頼りにしてますからね!」

「……ありがと」

「いえ! ……では、アリスさん、やりましょう。広範囲にとの事でしたが、アリスさんのほうが詳しく存じてるかと思います。教えていただければ、私もそれをやりますのでご教示お願いします」



 アリスの方を見たアティは自信満々な様子でそう言う。アリスもにっこりとして、クルッと杖の石突で地面を叩く。



「そうね。じゃあ、広範囲ならあれね。”神威の結界”。知ってる?」

「いえ、存じないので教えてください」

「わかったわ。端的になっちゃうけど、発動出来れば問題ないわ」



 アリスは簡単な仕組みや発動条件をアティに教えていく。二人のことだから問題は無いだろうけど、怪物にされてしまったヒトやそれに襲われているヒトたちをすぐにでも救いたい。


 そんな二人に、ハルはずっと握ってくれているアティと、そんなアティに教えているアリスたちを見る。

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