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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第ニ章 クロノス騎士団
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僕のこと1

 今朝の騒動からようやく話が出来るようになった、アリスとルーファスは部屋で話をすることになり、それまではみんな自由行動、との事だった。


 エントランスの方へいくと、雨の音が外から聞こえる。



「あ、雨だ」

「本当ですね……。夕立、でしょうか?」



 ノアとユキが空を見上げながらボヤくと、アッシュが横から同じように覗き込む。雲がゆっくりと厚みのを保ったままこちらにきていた。



「あー、いや、あれはちょっと長引きそうかなぁ」

「うげぇ、まじかよ。ユキ、部屋帰って荷物の整理しようぜ」

「えぇ、そうですね」



 そう言って2人は部屋に行き、その後に続いてエドワードも行こうとしたがアッシュは窓際から離れずまだ空を見上げていた。



「アッシュ、お前はどうする?」

「ん?あー、いや僕は少し散歩してるよ。ちょっと気分が優れなくてね」



 朝方刺されたところが少し痛む。特に痛みがある首元をさすりながら、困ったような顔しながら答えた。どうやら刺さったナイフに毒か(のろ)いでも何かあったのだろうか。傷がないのにずっと痛みがある。



「……顔色も悪いし、程々にしろよ」

「うん、ありがと」



 エドワードを見送りながら手を振る。見えなくなったところで、1人になれそうなところを佐賀市、庭園へ足を運ぶ。



 ――――――――――



 雨が当たる。


 身体の体温を失う感覚があるが、それでも痛みのあるところは異常に熱く、それを冷ますようにアッシュは構わずベンチに座り、寄りかかる。

 雨が降る中、上を見上げながらボーッしているなんて、ここずっとなかった気がする。



「……あぁ、そうか。エドワード達がいたからか……」



 旅を始めた頃よりも、アリスやエドワード達と共にいることで離れられなくなっていた。


 どうにか守ってあげたい。今いるアリス達が僕の居場所になってしまっていた。


 だけど、時折不安になる。僕がいていいのかどうか。



「おい、アッシュ」

「ん?」



 声の聞こえる方を見ると心配そうな様子でエドワードが傘とタオルを持ってきていた。先程ノア達と部屋に戻っていってたはずだけど……。



「雨が降っているのに何故そこにいる?」

「あー、ちょっとね。頭冷やしたくて雨に当たってたんだ」

「冷やすにしろ、そのままだと風邪ひくぞ」



 持っていたタオルで髪を拭いてくれる。雨が当たらないよう大きめな傘でわざわざ来たのだろうか。

 ワシャワシャと頭を撫でるように拭いてくれるのはなんとも心地いい……。



「ありがと。……ねぇ、エド、君は僕が邪魔だと思ったことは無い?」



 その言葉にはエドワードもピタリと動きが止まった。


 何となく聞いてみた。アリス達と旅を始めてここ2年、聞くとが怖くてずっと聞けなかった。もし邪魔ならそれはそれで仕方ない。


 ただ、それでも僕は……


 まだ一緒にいていいのか、悪いのか、それを知りたい。


 ジィっとアッシュを見るエドワードはため息をつきながら再度、手を動かしながらぽつりと呟く。



「そうだな。別に私は思ったことは無い。アリスやリリィ達のために色々してくれたり、考えてくれていた。もちろん私のことも考えてお前は行動してくれている」

「……」

「たまに自分勝手な行動は腹が立つがな」

「あはは、それは申し訳ない」

「……なんでそう思ったんだ?お前からこういう話をふるのは珍しいな。何かあったか?」

「いいや、何も無いよ。ふと思っただけさ」



 こうして思って口に出来るようになっただけでも良かったのかもしれない。拒絶されてしまうのではないかと思ってしまったことも何度もあるからだ。



「……あ、それはそうとお前、朝ナイフ刺されただろ。大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。ほら怪我してないよ」



 そう言って首元を見せる。傷1つない綺麗な肌。ただそこはまだいまだに強い痛みが出てはいたがエドワードには、気付かれたくはなかった。我慢することは、慣れている。


 ため息混じりのエドワードは”怪我がないなら、それでいい”と呟く。



「お前は逆にアリス達に不満はないのか?あいつらわがままだし、私は口うるさいからな」

「あははっ!君達に対してそう思ったことはないよ。むしろ君達がいるところは今の僕にとってはすっごい暖かくて楽しい……。楽しい、けどね」

「?」

「その反面、ちょっと怖くてさ」

「怖い?」

「……」



 僕は壊す事しか君達を守る術を知らない。守ろうとして、逆に傷つけてしまうかもしれない。

 あの時の、ユキのように。

 それを考えると正直不安だった。



「君は僕が人を殺したところ、見た事あったっけ?」

「確かはじめの頃ちょいちょい見かけたな。最近は、水の都を出てからの山賊連中か?」

「おっとー、もしかしてバレてる?」

「当たり前だ。何年お前といると思ってる。ユキのあの顔みたら、どう考えてもお前絡みだろ」

「……、やっぱユキの記憶、無属性魔法が苦手でも消しておくべきだったかな……」

「やめろやめろ、お前苦手なもので失敗した時のこと考えろ」



 やっぱりバレていた。上手く隠そうとしても最近よくバレる。困ったことだ。昔はそう簡単にバレなかったのに、どうも嘘が苦手になりつつある。



「……あまり殺すなと言っただろ。正当防衛とはいえ、お前は過剰すぎる」

「どうしても、不安要素は消しておきたいタチなんだ。放っといて後々に後悔するなんて、もうしたくなかったからさ」

「それは、私達と旅をする前にあった後悔か?」

「…………」



 返事は出来なかった。そうだ。僕はあの時の事を繰り返したくないだけだ。自分が大事だと思った者が自分の手に届かないところに行くことが、何よりも怖い。



「そうだねぇ。いつか、聞いてくれると助かるかな。僕の大切だった人達の話。君達が聞いてくれるなら凄く嬉しい」

「あぁ、楽しみにしている。私も家族の事も話してやる。そこそこ血なまぐさい話になるがな」

「君の家系結構血なまぐさい、てのはアリスから確かに言われてたなぁ」

「実体験を聞くのとまた別格だぞ」

「あははっ ならお酒を飲みながら話した方がはずみそうだ」

「私、酒飲めんぞ」



 そう言ってタオルを顔に被せられる。”さっさと部屋に戻るぞ”と言われ、立たされる。


 あぁ、昔話なんて、今まで話そうとする気になんてなれなかった。受け入れてもらえる気がしなかったからか、それともまだ僕自身がそれを、許せていないのか。どちらかは分からない。

 それにアリスもエドワード達もずっと深く聞かず、同行を許してくれた。


 少しは、君のことを、レイチェルの事も(マスター)の事も話せる。


 そう思って、立ち上がろうとして突如として全身を無数のナイフで同時に切り裂かれるような感覚に襲われる。



「うっ……ぐっ……!」

「っ! おい!アッシュ!!」



 先程から出てくる痛みとは比べ物にならないくらいの激痛が走る。思わずその場に崩れ落ち、息が荒くなっていく。


 呼吸が、出来ない。


 それでも心臓がバクバクとする音が自分から聞こえる。



「かはっ……ぁ……!」



 何とか息をしようとするが走る痛みが強すぎて息すら激痛に変わっていく。朦朧とする意識の中、どうにか回復魔法を使うも全く効果がない。

 その間でも、身体中を走る激痛はおさまることはなかった。


 駆け寄るエドワードの姿が見えたが意識を保てず、意識が暗転した。


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