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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第九章 HALの世界
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ラストクエスト:最後の戦いにむけて2

 手を上げたアッシュにグレンたちは視線を彼に向ける。


 ランスロットたちの話をしたときに少しグレンが暗い顔をした気がする。状況が状況だったんだ。そうするしかなかったとはいえ、グレン的には被害を出さないでしてあげたかったんだと思う。



「後でランスロットたち復活できるか試してみる? 気になるならしてみるけど」

「なんだ。プレイヤー権限はそれも可能なのか?」

「まぁ、やったことないから試しだけどね。そしたら明日もし誰かが何かあってた時に対処できる。いい実験だと思うよ」

「あんた、言い方考えなさいよ」



 アリスに注意されたが実際そこはかなり重要だと思っている。


 だってもし彼女たちに何かあれば救える手立てにもなるし、それを本番ぶっつけでもしできなかったとき、どうしようもなくなってしまう。


 肘をつきながらアッシュは一度、彪の方を見る。



「どうする? 試してみるかい?」

「……もし、ランスロットたちが助けられる可能性があるなら、頼む」

「だってよ、アリス。会議のあと試してみようか」

「彪がいいならいいけど、あんたも許すって話してんだから言い方もう少し考えなさいよ」

「善処するよ」



 アリスとグレンは思う。アッシュの善処は絶対に善処できない。というか善処していた試しなんてない。一度、敵と認識してしまっているということもあるだろうけど。そういうところは分かりやすい。


 それでも彪はランスロットたちが復活できるならそれにかけたいと思っている。



「……まぁ、ランスロットたちのことはアッシュに任せる。ハル、さっき聞いたあの怪物の件に戻すぞ」

「あ、う、うん。あれはグレンさんの記憶をもとに作っていると思うんだ」

「私の?」



 その言葉にアッシュがピクッと反応し、ジロッとハルに視線を移す。その視線が痛いのか、あまりアッシュの方を向かないようにしながらもグレンの目を見て、ハルは続ける。



「ここに入るときに、みんなの人格、今までの記憶を解析されてるんだ。その中で魔物、ここではモンスターのことについてや外の世界のこととかを重点的に見てることが多いかな。で、多分、HALのことだから、力の強い二人、特にグレンさんの記憶にある、最も恐ろしい魔物、あの怪物を作り出したんじゃないかな。変異は、ちょっとわかんないかも」

「………………そう、か。私の中で、あれは魔物として見ているのだな」

「ねぇ、僕もあれ見覚えあると思っただけど、あれってあいつのところの?」



 アッシュの言う、あいつというのは深淵の神子であるアビスのことだろう。アッシュの問いにグレンは少し青ざめながらも小さく頷く。

 グレンの反応に、”あ~、だよねぇ”と彼も少し苦笑いしながらいう。二人は理解してるけどわからないアリスは彼らの顔を交互に見てムスッとして机を叩いた。



「ちょっと! 私、わかんないわよ! グレン、ちゃんと説明ちょうだい! アッシュが倒したあの怪物はなんなの?」

「…………あれは、ヒトだった者が不浄で変異した姿だ」

「不浄? どういうこと?」

「……」



 グレンが黙ってしまう。


 さっきハルが言っていた、グレンの記憶にある最も恐ろしい魔物。よほどのものなのかもしれない。


 少し間をおいてから、ため息を吐くとグレンは質問してきたアリスの方を見る。視線をあわせてきたグレンの顔色が悪く、あまり話たくはないだろうけども、眉間にしわを寄せつつも口を開く。



「深淵の神子であるアビスからの魔力の干渉を受けると、通常のヒトだとその深淵の力、この世界の中心にある世界樹とは真逆の性質、すなわち不浄の力に耐えきれず、身体が崩壊していく。それがあの怪物、不浄のモノ、ダーティネスだ。ま、大概が(あるじ)の戯れや実験であぁなったやつは何人も見ている。あの姿になっては二度と、ヒトには戻れない」

「……ねぇ、なんとなくだけどさ」

「なんだ?」



 心配そうな顔をしているアリスがグレンの方を見る。


 今、神子の力は使えないけど、なんとなく嫌な予感がしてしまった。以前、グレンが怪我が治ってない状態で会うことがあった。最初は魔封じの森で、エドワードからは妖怪の里に会ったときにも右目に包帯を巻いて怪我していたって言っていた。覚醒しているグレンの傷が治らないのはおそらく……。



「たまに怪我して会うときがあるけど、それってその人の力のせいで怪我も治んなくて、あんた自身の身体で、人体実験とかもさせられてるの?」

「…………」



 またグレンは黙ってしまい、否定も肯定もしない。でも、彼の表情的にそうなんだと思う。


 ナギがついて行くことに否定的だったのもそういう犠牲にさせたくないためかもしれない。



「ねぇ、グレンは向こうに帰ったら、やっぱりアビスのところに帰るの?」

「……そうだな。今の(あるじ)は深淵の神子、アビスだからな」



 今度はアリスに視線を合わせずにそらしたまま答えられた。


 何のためにそんなひとのところにいるのかは正直、わからない。けど、アッシュも黙ったまま言わないし……。


 沈黙が続くと、先に耐えられなくなった彪が席を立つ。



「え、えっとよ、そのあたりになるとセンシティブな内容は俺は聞くわけにはいかねぇと思うからさ。その怪物、ダーティネスが次のクエストにも出るかもしんないんだろ? 今回出てるってことはありえそうだしよ。あれの対処法とかねぇの?」

「そうだな……。基本はそのままの通りで不浄なモノになるから神聖魔法が有効だ。アビスの直接的なものがなければそれで倒せる」

「だから、殲滅魔法の神炎で倒したのね」



 ”殲滅魔法:神炎”は破壊の魔法と同時に神聖魔法の一つに入る。だからこそ……。



「……私の記憶のベースで作られてるなら、かなり強力な神聖魔法が必要だ。それこそ殲滅魔法並みの威力がないとあれは消えない。それだけの化け物だ。あとは注意点としては、エドワードたちは少し体験してることだが、不快感を催す金切声、超自己回復、絶えず起こる変異、異様な腐悪臭、そして驚異的な怪力だ。正直、ダーティネスに力負けしたことは何度もある。覚醒して五分五分かそれでも負けることもあるからな」

「君が?」

「あぁ」



 本当に化け物という言葉があっているような魔物だ。覚醒しててもそうなるのなら、普通のヒトが太刀打ちできるようなものではない。


 グレンの言葉にハルはアリスの足から降りて、グレンのところまで歩いていく。

 近くに来たハルにグレンは視線をそちらに向ける。



「多分、HALのことだから、きっとそれを使ってくると思うけどそんなに数は出さないと思うんだ。グレンさんやアッシュさんがほぼ一撃で倒してるっていうのもあるし、最初の時に結構モンスター出してるから残っている魔力量もそんなに多くない」

「そうだろうな。機械とはいえど、魔道具のはずだからな。永久機関の魔力の増幅装置がないなら限度があるはず。……さて、明日のクエストの流れもまとめておこう。ハル、明日の第三クエストの内容は予測つくか?」



 グレンの問いにハルは頷いて、先ほどグレンが使っていたボードを使って書こうとしたが手が届かいない。頑張ってしようとしてると、アッシュが立ち上がって、ハルの方までいくと脇に手を伸ばして持ち上げる。おかげで届くようになったようで、持ち上げてくれた彼の方を向いて、”あ、ありがとう”というと、アッシュは、”どういたしまして”と言って高さをそのまま維持してくれる。


 届くようになったボードに書いた絵はHALの名前と、五つのマル。それを書いてみんなの方を向きながらペンを五つ書いたマルを指す。



「多分、次の第三クエストは、HALの討伐。そして五体のダーティネスが守ってくるからそれを倒さないといけない、と思う。けど、この世界の魔法とかじゃHALは倒せない。そこで、アッシュさん」

「ん?」



 抱えられてるHALはアッシュの方を見る。



「HALを、倒すプログラムを持ってるよね?」

「どうして?」

「なんとなく。第二クエストで動けなかったのはプレイヤー権限ともう一つあると思って。僕がプレイヤー権限を受け取る時は半日かかることなんてなかったから」

「……まぁ、そうだね」



 抱えてたハルを降ろして同じ目線になるようにしゃがむと少年の手を持つ。



「ただ、これは君の、HALに対してハッキングプログラム、というか修正プログラムに近いかな。だから、最終的にはHALは、止められると思う」

「……止めるんじゃなくて、破壊していいよ。それにもうみんなを元の世界に帰さないといけないから。ずっと、ここに縛っておくべきじゃない。こんな、世界は、ない方が、いいんだ」



 こんな世界はない方がいいんだ。

 それに、元はと言えばHALが悪いんじゃない。僕が悪いんだ。


 きっと、僕が身体が弱くなければこんな研究をお父さんはしなかった。


 きっと、僕が望まなければ、HALにこんなことをすることはなかった。


 きっと、僕が生まれてこなければ、こんな大勢の人たちを巻き込んでしまうようなことはなかった。


 望まなければ、一番良かったんだから。


 手を握るアッシュの手にハルの手に力がこもる。ボロボロと瞳から涙が零れ落ちていく。



「僕が、僕が、HALにあんなこと、願わなければ……ッ」

「……大丈夫だよ。このプログラムは君のお父さんが残してくれたものなんだ。きっとHALを助けてくれるし、君のことも助けてくれるよ」

「……ッ お父さん……ッ」

「頑張って止めよう。最後に届かせるのは君の役目だ」



 アッシュはそういってハルの手のひらに何かを渡す。それは――



「瑠璃色の石?」



 虫の意の結晶。それは複製して作ったものだから本物とは劣ってしまうが、それでも使えなくはない。

 それを渡したものと同じものがついている手の平をアッシュは見せてくる。



「……それは僕の今ついてるのと同じ石。それに停止のアクセスコードを入れてる。もし君がHALを止められない場合、僕がこのプログラムでHALを止める。あとは君次第だよ」

「……わかった。それに僕はHALを助けたい。だから僕も、頑張るよ」

「うん、その意気だね」



 本当はHALを破壊するつもりだったけど、クエスト終了後にハル含めてグレンたちと話をした結果、彪含め助けたいというのが彼女、アリスの願い。だからそれに従うことにした結果だ。


 そんな話をしていたアリスの方をアッシュは振り向くと仁王立ちしながら、なぜか誇らしげな顔をしている。



「アリスはハルと一緒に行くの?」

「もちろん! 一緒に言ってあげるって約束もしてるからね」

「そっか。無理だけはしないでね」

「うん!」



 アリスはにっこりと笑いながらハルを持ち上げてくるくると回る。そしてアリスはニカッと笑う。



「明日の目標は、ハルがHALを止めるための手助けをすること! 最終手段でアッシュのハッキングプログラムで止める! それで行きましょ!」

「うん、そうだね」



 アッシュの返事で再度アリスはハルを抱えてはしゃぐ。そんな子供のように騒ぐアリスを見ながらグレンはアッシュの隣に来て腕を組む。



「珍しいな。アリスを前線に行かせるのか?」

「今回は僕も一緒にいるからね。何かあれば助けられるし、それに、アリスは一度言い出したら聞かないからね」

「それもそうか。ところで、そのプログラムはすぐ使えるのか?」

「もちろん。ちゃんと準備してるよ」

「ならいい」



 そう返事したグレンの顔をジッとアッシュが見ていると、その視線に気づいたグレンは、”なんだ?”、とアッシュの方に聞く。



「大丈夫? 無理、してない?」

「何がだ?」

「ダーティネスの件」

「…………別に、大丈夫だ」

「大丈夫なようには見えないよ。君、あれ苦手じゃん、昔に――ッいたた」



 何か言いかけたアッシュの頬を抓る。

 視線は逸らしたままだが、目に見えてあまり乗り気ではない様子だった。



「…………」

「第二クエストじゃ、君に一番、無理させたからダーティネスは僕が先に片付けようか?」

「…………お前の判断に任せる」



 やっぱりあまり見たくないんだろうか。いつもなら率先して行くのに……。


 グレンは抓っている頬から手を放す。座って悩んでいる彪の方を向くと、気づくように机をコンコンと叩く。叩いた音に彪が気づいて顔を上げる。



「それと、操られていた件はほかのギルドメンバーは知らない。知ってるのは今のところガーナだけだ」

「……そっか。わかった」



 小さく頷いた彪を見て、もう一度アッシュの方を向く。



「それで、ランスロットたちはどうやって生き返させる?」

「あはは、それはもちろん。これで」



 そう言って見せてきたのは、アッシュの手のひらに埋め込まれている虫の意の結晶。それをもう片方の手でアッシュはコツコツと言わせながら爪で叩く。


 まぁ、それしか方法ないだろうし。


 にっこりと笑うアッシュは、”じゃあ僕らは先に行くね”、と言って彪の首根っこを掴み何処かへと連れて行く。連れていかれた彪は驚きながらもランスロットたちの蘇生の手伝いと聞いて一緒に会議室を出て行ってしまう。


 残されたグレンとアリス、ハルは二人を見送った後、アリスはグレンの方を見る。



「グレン、大丈夫?」

「お前もか。……はぁ、大丈夫だ。それよりお前も明日に備えてさっさと寝ろ。明日はアッシュもいるからいいとは思うが、無茶と拾い食いはするなよ」

「拾い?! 失礼ね!! 拾い食いはしないわよ!! ……今は」

「前はしてたのか。さすがに引く」

「だって! だって! あの時、エドワードにスパルタなダイエットさせられたんだもん!!」

「へぇ」



 半分興味のなさそうに返事をしているとアリスが机をバンッと叩きながら吠える。それにハルもびっくりする。



「……一応聞いておいておこうか。その時のダイエットメニューはなんだ?」

「あの時は、朝はおにぎり一個と野菜スープ、昼はサラダの盛り合わせとサラダチキン、夜は卵一個だよ?! それに加えてご飯前にスクワット10回だよ?! 鬼だよね!!」

「……いや、まぁ、基準値は分からんが、そんなにスパルタには聞こえんがな。むしろ健康的な食生活じゃないか」

「私は毎食でもお腹いっぱい食べたいのぁ~……」



 シクシクと泣くアリスを見て、ふと思い出す。


 そういえばこの前、アッシュから妖怪祭の種目にあった大食い大会。そこでアリスが軽く一人で約150人前とリタイアしたチームのも食べていたと聞いている。


 そう考えるとこいつの無限の胃袋にどうやっても満腹になることはない気が……。



「お前の胃袋が満腹になることはないだろな。その前に食料が尽きるのが先だろ」

「むぅ~……」



 彼は隣でムスくれるアリスの頭をぐりぐりと撫でまわす。髪の毛がぼさぼさにされているがもう慣れたか、だんだん機嫌が直ってきて”えへへ”、と笑う。思わずグレンも笑みを零す。それを見てアリスもホッとしたのか、しばらく撫でられた後、急に立ち上がった。


 拳を天に掲げながら叫ぶ



「よーし! 明日の第三クエスト、張り切って頑張るぞー!」

「お、おー!」



 ハルも一緒にアリスの真似をして拳を天に掲げる。


 そう、明日は第三クエスト。泣いても笑ってもこれが最後のクエストだ。

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