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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第九章 HALの世界
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ラストクエスト:第二クエスト6

 アッシュの方を振り向くと、アティの小さな肩に顎を置いてチラッと周りを見渡し、ずっとしがみついたアティを自分に引き寄せて、”ふぅ……”と一息つく。もう一度、あたりを見ながら状況を確認する。


 そして視界の端に見える画面を確認すると通知にはこう書いてあった。


 《*ダウンロード完了。 プレイヤー権限 の すべて を ダウンロード済み です。》


 《*プレイヤー権限 の 項目 を 確認してください。》


 そう出てきたものがズラッと現れ、それに一通り目を通していると、こちらを不思議そうに見るアティが声を出す。



「お、お父さん?」

「うん、お待たせ。さて、アティ。今はどういう状態なんだい?」

「え、えっと、えっとね……」



 アティは少し泣きそうな顔になりながらも状況をアッシュに伝える。彪のことやHALのことを聞きながら、自分の見ている画面の操作をしていく。


 なるほど。グレンたちがうまくやってくれていたようで、アリスも無事みたいだ。それにしても、彪がね……。


 聞きながら解除された権限の一つを選択し、話し終えそうなアティの方を見る。



「――という感じ。……ねぇ彪さんのこと、助けられないかな?」

「ん~そうだねぇ。アティは助けたい?」

「できるなら……」

「まぁできるかわからないけど、やれるだけやってあげる。任せて」

「うん! お父さん、ありがと!」



 アティの頭を撫でて、アッシュは立ち上がる。自身の虫の意の結晶のついた方の手袋を外しながら、まずはエドワードたちの方へ向かう。


 可愛い我が子のお願いだ。できる限り、あの子の願いは叶えてあげたい。それが例え、今、()()()()()()()()()()()でも。


 歩いていくアッシュはすれ違う際に、アリスの頭をポンと叩く。



「アリス、無事でよかったよ」

「あ、アッシュ?!」



 アリスの声にノアとユキ、グレンが反応してそちらを向く。

 グレンは怪物と交戦中のためチラッと視線を入れてから、再度、怪物を向き、集中する。それはアッシュも理解してるようで、剣を抜きながら、エドワードと彪に向かって走っていく。


 走りながらアッシュはボソッと何かを呟く。



「”アクセスコード:514”……」



 そう呟いて、剣を振り下ろしてきた彪の腕を虫の意の結晶のついた方の手で掴む。なんだと言わんばかりの様子をしていたが、まるで糸が切れたように、ガクンと力が抜けたように倒れる。


 虫の意の結晶からできるようになった、このHALのプレイヤー権限。希望するアクセスコードを唱えて触れるだけで発動する。


 非常に便利なものだ。


 遠隔で操っていたのか、それとも入り込んでいたのかは分からないが、どこからか通知の音と一緒に上空にHALの顔が現れ、声が聞こえる。



 《ど、どうして?! 彪を操れない?!》


「さぁ、なんでだろうね」



 何食わぬ顔で今度はアッシュは剣を結晶のある方の手に持ち替え、再度呟く。



「”アクセスコード:3506”、”アクセスコード:462”」



 剣を構えたアッシュはグレンと交戦していた怪物に向けて剣を振るう。まるで豆腐を切るかのように切り捨て、消滅させる。


 それと同時に、クエストの討伐数が増え、クエストが、完了された。


 先程のHALとは別のブリキの声が響く。



 《第二クエスト目標達成。対象の破壊が確認されました。お疲れ様です。次の第三クエストは明日の9時からとなります》



 目標達成したと言う声にガーナは泣き崩れる。本来対象だったはずの彪が死なずに、達成したからだ。


 何故達成したのか理解ができないHALは叫ぶ。



 《ふざけるな!! お前、何したんだ?! こんなの俺は認めないぞ!!》


「認めないも何も、達成したって君たちのシステム側が言ってるんだよ」


 《俺は間違いなく、裏切り者は彪に指定していた!! それなのに、そこにいる化け物を指定したはずがない!! お前は不正をしたんだ!!》



 興奮気味にHALは叫ぶが、ため息を吐くアッシュは酷く興味がなそうに腕を組みながら、HALを見上げる。



「僕が、いつ、不正をしたんだい?」


 《今の怪物を倒したことでこの第二クエストが終わったことだ!!》


「だから――」


 《ッ?!》



 アッシュは殺気を放ちながらHALに凄む。


 周りの空気がまるで震えてるように感じるアッシュの殺気にHALはビクッとする。



「いつ、僕が不正したか証明できるなら認めよう。けど、君たちのシステム側が、クリアと認めたのにギャーギャーと騒いで何がしたいの?」


 《……ッ!! お前のことはシステム側でインストールした時にスキャンしているから分かっている。ハルを誑かした女やそいつらを守るためなら何でもする!!》


「……それで?」


 《それでって……?! だからそのためにお前は不正して――》


「人工知能のくせに、人の言葉理解しないんだね。さっきから言ってるでしょ? 僕が、いつ、どうやってしたか言ってくれたらいいよ。そしたら僕が不正したことも認めてあげるし、なんならアバターロストにしてくれたらいいじゃないか」


 《そ、それは……》



 ま、どうせHALは気付けない。

 そういうプレイヤー権限で設定できたから本当に便利だ。だから、いくら今、僕をスキャンしても虫の息の結晶やアバターではなく、プレイヤーとして今この場にいることも。彼は気付くことができないからだ。


 怒りに震えるHALだったが、ブリキの声が響く。



 《HAL様、クエストは終了しております。発言を控え、お次の第三クエストの準備をお願い致します》

 《……くっ……! わかった》



 まだ納得のいっていない様子のHALだが、最後アッシュを睨んでウィンドウ画面は閉じられる。


 完全に消えたところで、アッシュはため息を吐いてアリスたちの方を向く。



「みんな、ありがとうね」

「いや、大丈夫だ。こちらもお前が早くダウンロードが終わって助かった」

「ダウンロード……?」



 グレンの言葉にハルが反応した。アリスの手を握ったままのハルはグレンのところに向かうアッシュの腕を掴む。ハルに掴まれたアッシュは、冷たく殺意の籠った目で視線だけハルに向けてくる。

 それにハルもビクッと怯えたがすぐ恐怖心を抑えて口を開く。



「兄さんはプレイヤー?」

「…………どうしてそう思うんだい?」

「……えっとね、アリスさんとすれ違う時にアクセスコードを言っていたのと、ダウンロードをしていたって言っていたから、です……」

「へぇ……」



 ハルの言葉にアッシュは未だに殺意を宿したまま、向き合うように体の向きをかえ、少年の前に同じ視線になるようにしゃがむ。



「それで? 君は僕をどうする?」

「え、えっと……、は、HALを止めるために力を貸して欲しいです!! も、もちろん、僕も、皆さんのお力になれるように全力を尽くします!! 僕が分かることなら話すし、HALを止めるなら僕は何でもします!!」

「……じゃあ、僕と約束して欲しいけど、君にできるかな?」

「な、なんでしょうか?」



 笑ってはいるアッシュだが、冷たい目のまま、目も笑っていない。

 それでも言葉はなるべく優しく言おうとしてくれているのだろうけども、ハルはアッシュが怖いのかアリスの手を強く握る。



「まず、ひとつは、僕はこのHALの世界を壊そうと思っている。だからもし君がHALのこと救いたいと思ってもそれは変えない。僕はちゃんと第二クエストが始まる前につたえてるしね」

「それは、僕も聞いてます。基本、HALがこの世界を管理してるけど、僕も見たり聞いたりは出来るから」



 すでに僕の中ではHALは敵で、許すつもりがない。その上でもしHALを助けられることがあったとしても、それを僕がしてあげる理由も道理もない。


 ただ、アリスがどういうかなぁ。そこで変わるかもしれないけど、ないなら今のところ変える気は無い。



「それとね、これだけは守ってほしい。今後、アリスたちに危害を絶対に加えないこと。アリスの様子から君のことを守るようにしてるから今は僕も君をどうこうしようとは思わない。でもね、もし君がアリスたちに危害を加えたら……わかるよね?」

「……それは絶対しません。僕に一歩踏み出させてくれたアリスさんや皆さんに危害は絶対に加えません」



 力強くいう少年にアッシュはジーッと見つめる。しばらくしては彼から放たれていた殺気が消え、ハルの頭をポンポンと撫でながら、今度は優しく笑う。



「ん、そうやって約束してくれるならいいよ。ごめんね。脅すようなことをして」

「そうされても僕は文句は言えないから。だってHALがしてきていたこと、ずっと僕は見ていたのに、何もできなかった。……うぅん、何もしなかった、が正しいかも」

「あはは。君はいい子だね。反省できる子は嫌いじゃないよ」

「反省点ではお前はしないだろ」

「いやだなぁ、ちゃんと僕も反省するさぁ」



 横からグレンが呆れたように言われるが、へらへらとしているアッシュにまたため息をつく。


 何がともあれ、第二クエストは問題なくクリアできた。あとは……。


 そう思い、グレンはパンッと手を叩く。



「明日の準備に備えてギルドにまず行くぞ。ガーナとナギは彪の監視と回復をしてやれ。アッシュとアリス、HALは一度話をするぞ。エドワード、後の指揮は任せる。お前ならまとめられるだろ」

「大丈夫だ。任せろ」



 グレンの指示でそれぞれ動き始める。


 倒れていた彪にガーナは泣きながら抱きかかえる。特別、手を貸す様子のないナギはガーナの後ろから手を頭の後ろに持っていきながらついて行く。エドワードも本来、ギルドマスターの彪の代わりに各ギルドメンバーへの指示とノアやリリィと協力しながらまとめ上げていった。


 後のグレンたちは、今後の話をするため、会議室へと向かう。

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