ラストクエスト:第二クエスト2
装置に囚われたままのアリスは――
よく分からない真っ白な部屋にいた。
四方が白くなっている部屋。上も下も右も左も、全て真っ白。極めつけには本人も髪が白いため、色という概念は本人の肌の色と、着ている服くらいだ。
「ここ何処かしら……? というか私! 毒食らってたと思うんだけど!! 身体はっ?! 大丈夫ね。ハッ!! 顔とかは?! 触った感じ、問題なさそう……。二日酔いで頭がクソ痛いくらいで、他はなんも無いわね……」
痛む頭を押さえながら、とりあえず壁の突き当たりに行く。すると、何処かからか声が聞こえる。
「ねぇ、お姉さん」
「ん?」
それは後ろから聞こえていた。振り返ると黒い髪に黒い瞳。その髪はボサボサで伸びきっていた。服装は、何処か病院できるような服装。そして歳はアティと同じくらいだろうか?
どうしてこんなところにいるのかしら?
「あら、あんたもこんなところに閉じ込められたの?」
「えへへ、そうなんだぁ。……ねぇ、お姉さん。どうせ今まだ出られないからさ、少しお話して欲しいな。ここにずっといるから、誰か来るなんて本当に久々なんだぁ」
「そうねぇ……」
アリスは悩みながら周りを見る。完全にドアも窓も何も無いただの壁。
どうせ出られないし、アッシュたちのことだから、探し出してくれるでしょ。
そんな呑気に考えながら、現れた子供のところまで歩いて、目の前であぐらをかいて座る。
「いいわよ! このアリスちゃんの冒険譚、聞かせてやろじゃないの!」
そう言うと目の前の子供はパァッと明るい顔をして頷く。
「ありがと! いっぱい聞かせて!」
「ふふふぅ〜。そうねぇ、何処から話してあげよっかなぁ。私こう見えて結構長生きしてるから、いろいろあるからなぁ〜」
目の前でワクワクしたような顔をする子供にどんな話をしてあげようか悩みながらアリスは語り始める。
――――――――――――――――――――
一方、その頃、アッシュたちの方では、裏切り者を探すため、情報集めをしていた。
とはいえ、ほとんど情報がないようなものだ。
あるとしたら、強いやつを狙っているということ。
だから、今動くことの出来ないアッシュの周りにエドワードたちが守るようにたっていた。守られている本人はいまだにアティにしがみついたまま、眠るっているようにも見える。
それを見ている彪は少し離れたところでノアたちと話をしていた。
「アッシュ、あれ大丈夫なのか?」
「俺もよくわかんねぇけど、HALを倒すための準備してんだって」
「……俺から見ると寝てるようにしか見えねぇけどよ……」
「大丈夫ですよ。僕らもそう見えてます。けど何かしらの理由があるのでしょうから、待つしかありませんよ」
「ふーん」
実際にそうにしか見えない。
アティも掴まったままの父親を守るように、”ここから先は立ち入り禁止です!”と言いながらリリィが持っていたミスリルの槍で周りを近づけようとしない。
さっきも誰か近寄ろうとして突っつこうとしていたから、誰も近ようるな、ということなのだろう。
彪はため息を吐きながら腕を頭の後ろに回す。
「あとグレンはどこ行ったんだ?」
「さぁ?」
「さぁって……お前ら第一クエストの時、頼もしかったけどよ、本当に大丈夫なのかよ? ハッパかけてきた三人がこんなんだぜ?」
「大丈夫だ」
彪の問いに、エドワードは珍しくニヤリと笑いながら腕を前に組む。
「あいつらの事だ。問題は無い。私たちは私たちができることをする」
「……あー、そうかい、そうかい。俺は他の探索部隊と合流してくるわ。…………正直、拍子抜けだよ。お前ら」
そう言って、彪はエドワードたちから離れて、何処かへと行ってしまう。
あいつの気持ちも分からなくもない。期待して任せてる分、何もしておらず、寝ているように見えるアッシュと、囚われてしまっているアリスに、行先を伝えず離れていったグレン。普段を知らなければ二人の行動に納得はできないのだろう。
けど、私たちは知っている。特に、アッシュはアリスがあぁなっているのに何もしないという選択はしない。理由があってしていると思うし、グレンに至っては行く際に前もってナギには絶対にアッシュの死守を命じている。
だから、無意味な行動は無いはずだ。
彪の様子にユキもため息を吐く。
「まぁ、最初は分からなくて困るのは気持ち的に分かりますけどね」
「俺らはだいぶ慣れてきたしな」
「そうですね。……とりあえず僕らはアッシュの守りです。どこから来るかも分かりませんから気を引き締めますよ」
「へーい」
軽い返事をしたノアはアティの前まで行くと、二人で絶妙な間合いを取りながら遊び始める。
「ノアさんでもここからは立ち入り禁止でーす!」
「おうおーう! 立ち入り禁止かぁ! 油断しちまうと入ってきちまうぞ〜!」
「きゃー!」
……楽しそうでなによりだ。
エドワードは少し笑みを零しながら視線をアリスの方に向ける。
先程までは苦しそうだったが少し表情が柔らかくなってる気がする……。とにかく、早めに出して治療もしなくては。
「ねぇ、エドワード」
「ガーナか。どうした?」
ガーナはまだ少しおどおどしながらこちらに声をかけてくる。昨日、ガーナが持ってきたジュースでこうなったのは聞いているが、それ以外でも何かあったらしく、何故かこちらに対して怯えた表情を向けてくる。どうせ、アッシュとかが、なにかしたんだろうとは思うけど……。
そう思っていると何故かバッと頭を下げられる。
「ごめんなさい!! アッシュたちから、もしかしたら聞いてるかもしれないけど、私が安易に持ってきたジュースのせいで、あなたたちの仲間に、こんな……っ」
「…………いや、大丈夫、という訳ではないが、グレンからも内容を大まか聞いている。お前のせいでは無いのも知ってるし、嵌められたのだろ? ちゃんと昨日のうちに謝罪されてるし、それは私たちに、と言うよりかアリスが目を覚ました時にあいつに言ってくれ」
「そう、よね……。ごめんなさい……」
沈んだ声でガーナは俯く。
聞いた時はこいつをどうしてやろうかと思ったが、グレンからはそれは止められた。犯人は別だと断言していたからだ。もともと、善意で持ってきてたもの。それを責めるのはあまり良くないとグレンには言われた。
責めるなら、安全確認をしなかった自分たちだ、と。
こいつを庇う理由は分からないが、それを言われるとアリスから目を離した私たちにも非がある。
「そういえばお前、グレンになにか頼まれてたんじゃないのか?」
「あ、えぇ、それはもう完了しているわ。彼のチャットにも送ったの」
「ん、ならいい。あとは、向こうが動き出すのを待つだけだ」
「…………ねぇ、本当にあいつがそうなの? 私全然分からなくて……」
「私たちとグレンで昨夜、調べたからな。間違いないだろ」
「…………そっか……。そうだね。私も一緒に調べたり、書類も確認したから……、そうだよね……」
自身の持つ短剣を握るガーナ。それにエドワードが声をかけようとすると、何処からか銃声が
3発聞こえてくる。それは上空から聞こえてきており、見上げるながら見渡すとかなりの高さ、それも空中からどうやらグレンが射撃していたようだった。
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少し時を戻してグレン。
エドワードたちにアッシュを任せて本人は三体のモンスター討伐に向かっていた。昨日の捜査で毒を盛った者の人物は目星がついている。ただ、それが本人が自覚がないのかどうか確かめる必要もあった。もしHALに操られている、という可能性も考慮してだ。
だから、それを確かめるためにも障害になりそうなモンスター討伐を先に終わらせる。
HALの街の高い場所、時計台へ。その建物まで走っていき、ダンッと高く飛ぶ。飛距離がたりないため、空いている窓から建物に入り、そのまま吹き抜けの階段を飛び移りながら上を目指す。
階段を上りきると、鐘とあたりを一望できる場所に出てきたが、グレンはさらに時計台の屋根によじ登ってく。
「”エアステップ”」
三倍の高さまで飛ぶことのできる、この世界の魔法を行使して、さらに高く飛び上がる。高く高く、雲が近くなるほどの高さまで行くとさらに魔法を行使する。
「”フライ”」
ふわりと、高度を維持したままその場にとどまれるようになる。上空からHALの街を見下ろすと、それぞれの部隊の動きもここからならよく見える。
すると西の門、東の門、南の門からそれぞれ一体ずつ何かのモンスターが向かってきているのが見えてくる。
グレンはアイテムボックスから魔法陣の紙を取り出す。
「”武器生成:M100”」
ナギに教えてもらったスナイパーライフルの一つ。飛距離は4000から5000ほどらしいが、これなら魔力を込めてしまえば問題はない。それに、あくまでも弾を届かせれば問題ない。ライフルの弾と魔法陣の書いた紙をまとめて握る。グッと力を入れると、魔法陣が弾に刻まれている。それを三発準備して、装填する。
スコープをのぞき込み、倍率を上げながら、まず、東門から来ているモンスターに狙いを定める。
タァーーンッと銃声を響かせ、すぐに南門から来ている方へ銃口を向けながら再度弾を装填する。二発目、そして最後に再装填し西門に三発目を撃つ。
それぞれ被弾を確認して、ググッと左手を前に出しながら――
パチンッ
指を鳴らす。
「”炎魔法:爆ぜろ”」
魔法の発動により、二体は頭に弾が命中していたのだろう、弾け飛び消滅を確認した。だが、もう一帯は肩に当たっていたようでこちらに向かう勢いは止まらない。再度、銃を構える。
スコープを覗いて、狙撃しようとしたが、モンスターの姿が変わっている。
「私か……?」
そう、スコープ越しにみえていたモンスターは真っ黒な姿をしたグレンがそこにいた。姿の変わったモンスターはニヤリと笑いながら、速度を上げてアッシュたちのいるギルドの方面まで一直線に向かっていく。
グレンは舌打ちをしながら、フライの魔法を解除する。
「”転移魔法:瞬間転移”」
パチンッと指を鳴らして、自分の姿をしたモンスターの前に一瞬で転移する。モンスターの加速の勢いのまま、グレンは拳をモンスターの腹部に思いっきり殴り飛ばす。ミシミシという音とともに自分の姿をしたモンスターはぶっ飛んでいった。
モンスターの名前を確認すると、ドッペルゲンガーと出ている。
「なるほどな、ドッペルゲンガーか。だから私の姿を写し取ってその姿か。ハッ、気分が悪いな……」
飛んで行ったドッペルゲンガーの元まで歩いていき、再度、拳を握りなおす。
「確かドッペルゲンガーは能力も写し取るとも言われているが……、なんだ、私の能力はその程度か。下らんな」
「うぅぅぅ……!! あぁぁああああああぁ!!」
言葉とは言えない叫び声出すドッペルゲンガーに容赦なくグレンは頭を拳で叩き割る。パンッと脳漿を飛び散らせていく。”ふぅ……”とグレンは息を吐いて、拳を放す。
ドッペルゲンガーでモンスターとはいえ、自分の顔を潰すのは些か気分が悪い。
そう思いながら、グレンはアッシュたちの方へ一旦、戻ろうとすると、先ほどのドッペルゲンガーの方から、ぐちゃぐちゃと音を立てて何かが起き上がる音がする。
振り返ると、潰したはずの頭が再生していき、こちらの姿をしたまま、剣を生成して構えてくる。
「チッ 面倒だな」
通常のドッペルゲンガーは頭を潰せば問題なかったはず。起き上がってくるとしたら……。
ちらりとエンカウントの名前を見る。そこには、繝峨ャ繝ゲン繧ャ繝シと文字化けをしている。
こいつはドッペルゲンガーだけどそうでないモンスターということだろう。ほかに二体は間違いなく消滅している。なら、こいつだけ何かしらHALの妨害として出されている可能性が高い。
「いいだろう、なら、限界まで切り刻んでやる」
同じようにグレンも剣を生成して自身の姿をしたドッペルゲンガーに向ける。




