ラストクエスト:第二クエスト3
グレンがドッペルゲンガーと交戦中の中、エドワードたち。
上空から発砲音を聞いて、グレンだとは気づいていた。その直後に消えたと思ったら、南門の方から何度もけたたましい音が聞こえてくる。一撃で仕留められなかったのは珍しいとエドワードが思っていると――
ガキンッ
金属と金属同士のぶつかる音が響く。
エドワードが振り向くと、アッシュの背後から剣を振り下ろしていた狐の面と、それを防いでいたアティの姿があった。
アッシュのしがみついたままなのに器用に後ろに槍を両腕で支えながら受け止めている。”やぁ!!”と言いながら力強く、振り下ろしてきた狐の面を押し返す。
なんて馬鹿力とは思ったが、慌ててエドワードもアッシュたちの元へと駆け寄る。
「アティ! 大丈夫か?!」
「はい! 問題ないです!!」
元気よく答えるアティに笑いかけ、正面にいる狐の面を睨む。音でみんな気付いたのだろう、ノアやナギたちも集まる。
それぞれ銃や槍を構えて、応戦する準備をしていた。だが、どうやらこいつは一人ではなかったようだ。
囲むようにあと三人の狐の面が現れる。
「ったくよ、普段、俺、戦えないのによ……」
「たまにはいいじゃないですか。それに、何かあればノアは僕が守りますからね」
「へーへー、それは頼もしいっこたよ」
「あんさんら、気楽やなぁ、ホンマ」
「ナギに俺、言われたかねぇんだけど」
「あぁん?!」
口喧嘩する暇があるなら目の前の敵に集中して欲しいものだ。だが、相手の力は未知数。それなのに我々だけで戦えるのだろうかという不安が出てくる。
……いや、私たちも守護者だ。アッシュやグレンばかりに任せてはいけない。
エドワードは大きく息を吸い、声を荒らげる。
「私たちもアッシュたちに負けていられんぞ!! アリスのためにも、こいつらをここで仕留める!!」
「当たり前。アリスの命がかかってるのに呑気にしていられない」
リリィは槍をクルクルと回したあと、バシッと構える。リリィの方には同じように槍を構えた狐の面が居る。それに向けてリリィはゆっくりと歩く。
「アティ。そこでアホみたいに寝てるやつを任せるぞ」
「もちろんです! あれくらいなら私も追い返せますよ!」
「あれくらいって……。本当にアッシュの子ですね。敵の力も未知数なのに、前向きすぎますよ」
「俺もたまには活躍出来るといいけどなぁ〜」
ユキは銃を構えて、ノアと一緒に目の前の斧を持った狐の面を睨みつける。
隣にいたナギは、いつものスナイパーライフルではなく、片手でも扱えるハンドガンを二丁、生成していた。
「ガキんちょって思ってたら割と痛い目見そうやなぁ」
「そんなことないですよ! 皆さんの方が向こうよりもお強いですもん!!」
「ハッハッハッ!! なんやぁ! 嬉しいことゆーてくれるやん!! グレンはんの応援よりも何倍も元気なるっちゅーもんやな!!」
笑いながらナギは銃を持った狐の面に銃を突きつける。
なんだ、珍しくみんなやる気だな。
エドワードもそう思いながらも刀を生成する。
目の前の、剣を持った狐の面を睨んだが口元がニヤリと緩む。
「やるぞ!!」
エドワードの合図でそれぞれ狐の面に向かって走る。
後ろにいるアティはカンッ!! と槍を地面につけて詠唱を始める。
「”補助魔法:攻撃力×素早さ×抵抗力強化”!!」
アティの魔法でそれぞれにバフを全員にかかる。かけ終えた後にアティがさらに続ける。
「援護は任せてください!」
「助かる!」
リリィは叫び、狐の面に槍を振り下ろす。ドゴンッと地面を抉り、躱す狐の面に振り下ろした勢いのままガリガリガリッと地面を削りながら身をグルンッと捻り、横へと薙ぎ払う。
横へと薙ぎ払われた槍を躱しきれなかった狐の面の腹部へとめり込む。追撃をしにさらに地面を蹴り、高く飛び上がる。
「”槍術:桜花連撃”!!」
素早く槍を突き刺していき、相手の血がまるで花びらのように舞う。
防戦一方にされる狐の面は反撃しようとしてくるが、そんな隙を与える気は無い。今度は素早く相手の懐まで滑り込み、相手の槍を持っている腕に向けて、足で蹴り上げる。相手から槍が手放され、それを掴みながらまるでホームランバッターのように槍を振るうと鈍い音とともに時計台へと向けて狐の面は吹っ飛んでいく。
ずれ落ちそうになっているところを、相手の服と塔に縫い付けるように槍を投げて突き刺していく。相手の槍も含めて6本ほど投げて身動きを封じる。狐の面はどうにか抜け出そうとするが思ったように動けないようでジタバタしかできていない。
フンッとリリィはもう一つ生成した槍をカンッと鳴らして塔へと歩いていく。
一方のノアとユキは、斧をもった狐の面に少し苦戦をしていた。互いに決定的に一撃がない。ノアは至近距離での体術で応戦する。
元のハーフフットの姿の時にしこたまアッシュに仕込まれている最中ではあるが合気道なら力が強くなくても見は守れるだろうということで、だ。
いや、こんな斧持ちにも通じるのか?!
いなしなもどうにか攻撃を凌ぐもこのままだとらちが明かない。
(かといって今のユキの銃もそんなん効いてる様子もねぇし。やっぱアレかな……)
そう考えて、ノアは一旦、ユキの方まで下がる。
「なぁ、ユキ。久々にアレでやんね? アリスたちと会う前にしていた、アレ」
「え、アレですか?」
「別に殺すわけじゃあねぇし、動き止めんならそれが早ぇだろ」
「それもそうですね。この世界でも使えますかね?」
「知らね。ダメなら考える」
「ふふ、構いません。その時は――僕が撃ち殺します」
そう言ってユキは”あー、あー”と声の調子を整える。整えた後、魔法陣の書かれた紙を取り出して、口元にそえる。
「んじゃ、やるか!」
「えぇ、いつでもどうぞ」
先陣を切ってノアが目の前の狐の面に走っていくと、狐の面は持っていた大きな斧を振り上げてノアに向けて振り下ろす。すかさずノアは、相手の斧を持つ腕を掴んで斧を振り下ろした勢いのまま、地面にたたきつける。動けないように地面で固定する。
相手が動けなくなったところで、”すぅ……”とユキは息を吸う。深紅に光る瞳が目の前の狐の面を捉え、そっと耳元でささやくように唱える。
「”魂喰いの咆哮”」
唱えると半透明な狼のようなものが周りに現れる。
それらはまるで食い漁るように狐の面に向かって群がっていく。悲鳴が聞こえるも、ノアは押さえつけたまま、抵抗がなくなってようやく放れた。
ユキはペロッと舌なめずりしてクスリと笑う。
「ふぅ、あまり美味しくのない魂ですね……」
「相変わら、えげつねぇよな。ユキの魔法」
「え、そうですか?」
「そうだっての。外傷ないのに喰われんだぜ? ……てか、そろそろ魔法解かないとこいつの魂、全部、喰われんぞ」
「おっとと」
慌ててユキは魔法を解く。ピクピクッとしていて一応生きていそう。
そしてお次にナギにいたっては空中で銃撃戦を繰り広げていた。
スナイパーライフルを片手に屋根伝いに飛びながら撃っていた。それは向こうも同じように撃ってくる。それを躱しつつ、移動しながら相手の移動パターンも考えて狙撃しないといけない。
「あ~もう。これは面倒やっちゃなぁ」
基本、互いに位置がわからないように移動しながらしているということもあり、なかなか仕留めるのに時間かかる。
ナギは舌打ちをして、移動を再度開始する。動くと同時に向こうからの狙撃もあり、当たるか当たらないかギリギリで避けるように体勢を低くしながらナギからも撃ち返ししていく。
(場所は分かるンけど、あと一歩の仕留めるのができひんなぁ……)
そんなこと思いながら、ちょうど近くでグレンが戦っている姿が見える。
ナギはニヤリと笑いながら、グレンの方へとかけていき、グレンに向かって大声で叫びながらそちらへとジャンプしていく。
「グレンはぁーーーん!!」
「あ? なんだ? っうわ?!」
グレンの腕を掴みながら、着地をする。露骨に嫌そうな顔をしてきたが、お構いなしにナギは狐の面がいるであろう方面を指をさす。
「スイッチや!! 狐!! 9時の方向、2km!!」
「チッ なら、1分持たせろよ」
「はいはいさー!!」
入れ替わるようにグレンは狐の面の方へ、ナギはドッペルゲンガーと向かっていく。
向かったグレンは剣を生成して速攻向かう。
急に人物が変わったというのと、射撃にも動じずに飛び込んでくる彼に狐の面は驚き動揺していた。そんなのお構い無しに、狙撃している狐の面を肉眼で捉えたグレンは一気に距離を詰めていく。
「邪魔だ。退け」
大剣のグリップを握り直し、フラーの方を向けてそのまま振り下ろす。ゴンッと鈍い音が鳴り、狐の面は気を失う。気を失った狐の面を担いで先ほどのナギのところへと戻っていた。
スイッチをしたナギはまさかモンスターがグレンの姿をしているとは思っておらず、慌てて逃げていた。
「アカァーン!! グレンはんになってるモンスターとか聞いておらんって!!」
自分で入れ替わっておいて何してんだろうかと戻ってきたグレンは思った。
だが、ちょうどいい。自分の姿をしたドッペルゲンガーだと、写し取った人物の能力のままになっているためか、自分で抑えないと他のやつらだと力負けするため、どうも、あのモンスターから目を離せなくて困っていた。こいつの姿を写し取ってもらえばどうにかなりそうだ。
「ナギ。お前の銃でそいつの頭を撃ちぬけ」
「は、はぁ?! 助けてくれへんの?!」
「助けただろ。ほら、仕留めてきた」
のびている狐の面を見せて、その場でしゃがみながらニヤリと笑う。
「私の相棒なのだろ? さっさと頭を飛ばすことくらいできると期待している」
「鬼ィ!! あんさんは鬼や!! あんさん相手にそれできると思っとるん?!」
「さあな」
まったく助けてくれる様子のないグレンにやけくそになりながらドッペルゲンガーの顎に持っていたライフルを突きつける。立ち止まったことで拳を振り上げてくるドッペルゲンガーより先にナギは叫びながら引き金に指をかける。
「やったるぞぉぉぉぉっ!!」
タァーンッと打ち抜いて頭が消し飛ぶ。が、やはりぐちゃぐちゃといいながら頭が再生されていく。だが先ほどのグレンの顔ではなく、ナギの顔だった。
うげぇ?! と驚くナギを他所にグレンが上から何かを落としてドッペルゲンガーの身動きを封じる。
落としていたのは先ほどの狐の面と巨大な瓦礫だった。自分の同じ顔をしたやつが潰されてなんだか複雑な気分になっているナギの隣にグレンが降り立つ。
「ふむ。やはり写し取ったやつの身体能力をコピーするようだな。非力が役立ったじゃないか」
「なんや、それ絶対に馬鹿にしとんやろ。それで褒められても嬉しかないわ!」
「褒めているつもりだがな。それにお前が来る前に同じように瓦礫で動きを封じてみたが、私の姿だと抜け出されてた。お前の姿ならそれも今はないようだし、一旦このままこいつらは放置だ」
「わかった。あ、そや。アッシュはんところにこの狐の面あと三体おんで」
「そうか。なら戻るぞ」
瓦礫の下で蠢くドッペルゲンガーを置いたままグレンたちはアッシュたちのところへと戻っていく。
三体の狐の面を捕らえることができた。最後に残るのはエドワードの前の前にいる、剣を構えているやつだけだ。
エドワードは刀で攻撃をいなしつつ、魔法で戦っていたがどうも相手の動きの方が早く、魔法が当たる前に避けられてしまう。ヴィンセントやアッシュたちのように魔法を素早く構築出来ないため、魔法の発動に隙ができて、避けられるのは仕方ないが、如何せん、体力がもたない。
肩で息をし、額に流れる汗を拭う。
(体力のなさがここで響くな……)
後ろにいるアティも大丈夫なのかと心配もされてしまっている。全員を鼓舞しておきながらこの体たらくなんて、情けなくなる。
(できないなら、できないなりに、やればいい!!)
エドワードは大きく息を吸い、魔法陣の紙を複数枚バッと取り出す。
「”雷鳴轟き、稲妻よ天を裂け! 雷魔法:稲妻の銃弾”!!」
複数の魔法陣が現れてそこから雷の銃弾が放たれていく。目の前の狐の面はそれをやすやすと躱していく。だが、躱した先にも魔法陣がカッ現れる。
「”雷魔法:雷の縛”」
雷を宿した鎖がジャラジャラと現れる。拘束しようと絡みつくがそれも上へと飛び、躱す。
だが、躱されてもエドワードはニヤリと笑う。
「残念だが、そこもアウトだ」
狐の面を取り囲むように四方に魔法陣が展開される。
「”闇魔法:暗き牢獄”」
ガチンッとロックをかけるように鳥かごのようなものに狐の面は閉じ込められる。抜け出そうとするが徐々に小さくなっていく檻に身動きが取れなくなっていく。
後ろで見ていたアティが目を輝かせながら”おぉー!”と嬉しそうに笑う。
「エドワードさん! すごいです!」
「いや、リリィたちの方がすんなりと終わっていたからな。むしろ時間かかってしまっている」
「そうですかねぇ……」
”ん~”とアティは首を傾げるが、実際そうだ。向こうで早々に仕留めているリリィは時計台のところで変な動きがないか見張っているし、ユキとノアも動かない狐の面の上に座ってくつろいでいる。