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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第九章 HALの世界

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ラストクエスト:バグと……2

 グレンはまだ顔色の悪いアッシュの肩を叩く。気が気でないアッシュはゆっくりグレンの方を振り向く。



「アッシュ、さっきのクリスタル。もう一度見せろ」

「クリスタル? ……あ、クリスタル!」



 アッシュも何かを思い出したかのように飲みかけの缶を拾う。


 これを飲んだ時に出てきたあの通知。アリスのこともあって流してしまっていたけど……。



「どうした?」

「……このクリスタルが手のひらに着いたからかわからないけど、何かメニューのところに追加されたんだ。それに、僕もあのジュース飲んだのにレジストされた際に出てたものが気になるんだ」

「あれ、飲んでたのか?」

「うん。ねぇ、君はこれ飲んだ時に通知なんて書いてあった?」

「私か? 確か、猛毒検出いたしました。抵抗力がSのため自動的にレジストします、だったと思う」

「……。そうだよね。君の場合それが出るよね」



 そう呟いて缶を見る。アリスに飲ませる前に一口飲んでいた。けど、猛毒に侵されず、レジストの通知が来ていた。僕自身のステータスは抵抗力は全く上げていないにもかかわらずだ。その代わり出てきていたのは、このクリスタルの名前だ。


 アッシュは見ていた中身の残った缶を飲む。



「お、おい?!」

「大丈夫」



 慌てて飲むのを止めるグレンを制止して、通知を確認する。



 《*猛毒検出いたしました。 虫の意の結晶の効果で 、 自動的にレジストします。》



 やっぱり、虫の意の結晶の名前が出ている。このクリスタルの効果は正直わからない。本来なら、この猛毒を僕自身も受けてしまっていたはず。なのにこれのおかげでそうはなってはいない。これ、ただのクリスタルではないとは思っていたけど……。


 驚いたままのグレンの方を見る。



「君、たしかステータスはオールSだったもんね。僕は抵抗力の数値あげてないんだよ」

「上げてないのか?」

「うん。僕がSまで上がってるのは、攻撃力と魔力、敏捷力だけなんだ。余ったスキルポイントは防御に振っていたからね」

「……ならなんでレジストされたんだ?」

「僕に罹った猛毒をレジストしてくれてるのは、このクリスタルのようなんだ」



 そう言って手袋を外す。虫の意の結晶を見ると相変わらず瑠璃色の綺麗なクリスタルだ。

 グレンは考えるような仕草をして、チラッと視線だけアッシュに向ける。



「……お前、確か、メニューのところに何か追加されていたといっていたな。今、確認できるか?」

「見てみる。ちょっと待って」



 画面を操作しながら追加されたものを見る。それを開くと今までの画面と違い、あの時に出てきた赤黒いウィンドウの画面が出てきた。そこにはまた文字化けした文字が浮かび上がる。



 《*陌ォ縺ョ諢上?蜉帙r繧「繝ウ繝ュ繝?け縺励∪縺吶°?》



 また出てきたYESとNOの表示。


 これが何を意味するのかは分からない。でも、もしこれがアリスを助けるために必要になるなら……。


 迷わずYESを押そうとすると、横からグレンが腕を掴む。彼を見ると怒ってる様子もなく、ただじっと見てくる。



「まず、何が出てるか言え。焦る気持ちもわかるが勝手に事を進めるな。今は、私もいる。私もアリスを助けたいし、お前がそれをすることで何かあるならサポートする。だから、何があって何が見えてるかちゃんと言え」

「……うん、ごめんよ」

「大丈夫だ」

「……そうだね。これ画面の共有できるといいんだけどね」

「何を言っている?」



 そう言いながらグレンは魔法陣の紙を取り出す。



「見れるようにすればいいだろ。HALの知らない魔法でな。向こうが知らなければレジストされることはないだろ。されるならされるで、レジストされるかどうかも実験できるしな」

「え、いや、そんなすぐ作れるの?」

「任せろ。こういうのは得意だ」

「……あはは、そういえば君、元々ある魔法を魔改造すんの好きだもんね」



 そういえば彼は昔からそうだった。魔法陣で不要なものがないかとか効率的に発動できるか、短縮しても同じ威力、もしくはそれ以上のものができないかと魔法いじりするのが趣味なようなもの。一緒に同行してるときによく魔導書を読んでいるし、その本にもかなり書き込みがあるときもあった。


 なんて考えていると、グレンは魔法陣を書いていく。



「……これって視覚化の魔法?」

「そうだ。これをこうして……」



 グレンは線を追加したり消したりとか書き換えていく。それをササッとできるのは本当にすごい。一歩でも間違えたら魔法陣は壊れたり暴発もしてしまうからこういう書き換えは細心の注意を払わないといけないのにそんなの気にしないといわんばかりに書き進めていく。


 そして……



「ん、できた。これで試すぞ」

「速くない?!」

「時間もないんだ。さっさと発動させるぞ」



 できた魔法陣を自分の右目を覆い隠すようにして、もう片方の手はアッシュの右目にそえるながら、詠唱を始める。



「”我が眼に映えるは異なる次元の結晶。視覚の枷を解き放つ、幻晶共鳴(シンパアイズ)”」



 唱え終わると目の前にグレンの姿と重なって自分の姿が見える。グレンの右目は自分の瑠璃色の眼の色になっており、そちらの眼を閉じると、自分の姿が映らなくなった。



「ふむ、うまくいったな。これなら見えるぞ」

「うん、そうみたいだね。じゃあ画面みるよ」

「あぁ」



 先ほどの赤黒いウィンドウ画面に目を映す。



「これか」

「うん。それに文字化けしていてわからないんだよね」

「ふむ。それなのにこのYESかNOの選択か」

「そうなんだよね。前回も同じように文字化けしててさ。そん時はそのままYESを押したらこのクリスタルを手に入れたんだよね」

「わからないものをYESですんな、馬鹿」



 それはごもっともだ。ただ今回はそうも言っていられない。もしこれがアリスを助けるのに必要になるなら、迷わずYESを選ぶ。



「……一応、今のところは、これのおかげで猛毒をレジストされていた。悪いものではないようだが……」

「グレン、僕はもしこれがアリスを助けるのに必要ならYESを押したい。すべてではないにしろ魔法陣の書いた方もレジストされるなら手はいくつか持っていた方がいいと思うんだ」

「…………それもそうか。わかった。お前がそれでいいならYESを選んでいい。もしもの時は私が何が何でも対処する」

「ありがと。頼もしいよ」

「ん」



 小さく返事を確認して、画面に映るYESを押す。それと同時にこのウィンドウ以外のすべての画面が侵食されていくように赤黒く染まる。染まっていきながら通知が次々と現れる。



 《*アバター より 虫の意の力 を アンロック されました。 これにより 、 アバター から プレイヤー へと 変更いたします。》


 《*プレイヤー への 変更 により 制限 の 解除 を 申請。》


 《*解除 の 承諾 を 確認中……。》


 《*解除 の 承諾 を 確認中……。》


 《*解除 の 承諾 を 確認中……。》


 《*承諾 を 確認。 認証 されました。》


 《*これより プレイヤー の 使用可能な権限 を 表示します。ご確認 を お願い致します。》


 《*ご確認 を お願い致します。》


 《*ご確認 を お願い致します。》


 《*ご確認 を お願い致します。》


 《*ご確認 を お願い致します。》


 《*………………。》


 《*………………。》


 《*………………。》


 《*………………。》


 《*プレイヤー へ 以下 の メッセージ を 再生いたします。 ご確認 を お願い致します。》



 いくつもの画面が現れる。最後の画面にはこう書いてあった。



 《*これを見ている、見ず知らずの者よ。このHALのシステムにハッキングし、侵入できる。これはいわばHALのバグだ。この力をHALのシステムにはバレないようにしているが、もしバレればただでは済まないだろう。だが、それでも、どうか、この力で、このHALの世界を壊してほしい。HALを止めてほしい。そして、許してほしい。あの子は、ハルは悪くない。悪いのは、あの子のことを考えられなかった、私だ。あの子に良かれとこんなものを作った私だ。だから、こんなことに事態になってしまった。あなたに尻拭いをさせてしまうようなことになってしまい。申し訳ない。だが、これは、これを見ているあなたにしか託せない。どうか、私のわがままを、許してくれ。》


 《*メッセージ は 以上 です。》



 文面から察するにおそらくこのHALのシステムを作った人なんかも知れない。それに思ったよりもいいものを手に入れたと思う。


 隣で見ていたグレンも考えながらアッシュの手に埋め込まれているクリスタルを指をさす。



「アッシュ。お前、これの性能と何できるか調べられるか?」

「できると思うよ」

「よし。なら、それを出来る限り調べておけ。あと、それは私に開示しなくていい」

「え、なんで?」



 グレンの方を向くとすでに魔法が解除されていた。元の瞳の色に戻っている。


 彼は腕を前に組みながら続ける。



「今、お前の状態として存在自体がバグのようなものだ。私は現状まだHALのシステムの支配下と同じだ。なら、これ以上の共有もこのメッセージを見る限りよくないと思う。あとの動きはお前に任せるが約束しろ。無茶はするな。自己犠牲で動くことは絶対にするなよ」

「……もし無茶しないとアリスが助けられなくても?」

「…………正直、そうだと私は言いたい。お前、もう一人じゃないんだぞ。アティがいるのを忘れるな」



 そうグレンに言われてハッとする。


 そうだ。今はアティがいる。せっかくあの子を見つけることができたのに、また、独りにするわけにはいかない。

 自分の命はどうでもいいと思っているのに、気づけば大事なもの守るためには自分の命を大事にしなければいけなくなってしまった。


 なんとも言えない顔になっていると、グレンはため息を吐く。



「だから、お前が無茶できない分、私がしてやる。それに改造した魔法が使えるならいくらでもやりようはあるからな。対策されても速攻で修正してやる」



 ペンを回しながらニヤリと笑う。魔改造しても魔力消費無しで今回、行使できる分、やれることはいろいろある。あとは向こうが対策してくる前にやってしまえばいい。レジストしてくるだけで使用できない状態にしてこないのもそこまで完全に防げれないということだ。


 だったら、その痛いところを、とことん突いて、突破するだけだ。



「とにかく、そういうことだ。だからお前は明日はそれに専念しろ、いいな?」

「……わかった。アリスの件はどう伝えるの?」

「どうせ明日のクエストで知るんだ。さっさと伝えておいた方がいいだろう。私から伝えるからお前はそれの確認して明日に備えろ」

「…………いろいろごめん……」

「いい。お前はお前ができることをすればいい。お前にとっての最善をつくせ」



 彼の言葉に頷くしかなかった。


 焦る気持ちと、どうしたらいいという迷いも今は忘れよう。とにかく今は虫の意の力と呼ばれるこのバグでどうにかできるか確認していかないといけない。僕が今できる最大限のことをしなければ。


 グレンにエドワードたちのことを任せて一足先に、借家へと戻っていく。

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