ラストクエスト:第一クエスト2
第一クエスト開始直後のこと。ギルドの屋上にいた、アリスとアティ、そしてエドワードは南の門に現れた巨大な炎を纏った巨人、いや神様に近いものを眺めていた。
あれを行使してるのはおそらくあの二人だろうとわかってはいるが、あんな馬鹿気た魔法を使うあいつらも大概だと心底思う。腕を組んでそれをアリスたちが見ていると、驚きを隠しきれてない彪が叫んでいた。
「な、なななな、なんだあれ?! あんなんHALの世界の魔法にあったか?!」
「あら、確かスキルに魔法創造てのがあったじゃない。それじゃないかしら」
「あ、あんなもの作れたっけかな……」
さらっと嘘をついたアリスは彼に見えないようにベーッと舌を出しながら先ほどの魔法の様子を見る。それを横で見ていたアティも視線を同じように、それを、神様を見る。
翡翠と瑠璃色の瞳を輝かせながら顕現している炎の神様を見つめていた。
私の知らない,、父の姿が、増えていく。
この数日の旅で今まで見ていた父は昔と違っていた。それが嫌という意味ではないけど、なんとも不思議な感覚だった。
私が知っていたのは、家で見ていた父はいつも笑っていて何を考えてるかわからないことも多かったけど、普通の父親かと思っていた。
けど、それは違くて、父は守護者と呼ばれる人。母からはお伽話のように聞いていたこともあったけど、その話の時には父は何食わぬ顔で聞いて頷くだけだったから。だから、アリスさんに旅の道中に守護者のことも、神子のこともいろいろと教えてもらっても、その実感は正直なかった。だって、守護者と聞いても、目の前にいた父はいつものように接してくれていたから。
でも、あの時、父のしていた”守護者の誓い”。あれを見たときに正直、父が父に見えなかった。誰か知らない、騎士様のように見えた。すごく、その時に実感してしまった。
あぁ、私は父を知ろうともしなかったんだ。自分のことでいっぱいだったからかもしれない。
あの魔法も、初めて見た。あんな綺麗な魔法があるなんて、知らなかった。
目を輝かせたままのアティはアリスの手を握る。
「アリスさん……」
「ん? どうしたの?」
「お父さんたちの魔法……綺麗ですね……」
「っ! ふふ、現実で見るともっと綺麗よ。特にあなたのお父さんの蒼い炎、あれが一番、アッシュが使う魔法で一番大好き」
「私も、大好きです」
惚けた顔でアティは炎を見つめる。アリスは笑顔で大事な仲間の娘の手を握り返す。
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そして、南の門で”加具土命”を顕現させていた守護者の二人は高鳴る魔力を感じながら、叫ぶ。
「 「 薙ぎ払え!! 」 」
二人の声に応じるように顕現された炎の神は目の前に溢れかえるモンスターの群れに向けて、纏う炎のを横に大きく振るう。振るわれた炎は黒いモンスターの群れを覆い隠すようにゆっくりと拡がっていき、炎が通り過ぎていくとそこには黒く焦げた大地と灰のみを残していく。
それは地平線まで拡がていった。
グレンは、それを見ながら視界の隅にあるカウント、どれだけ討伐したか見れるようになっている数値を確認すると、55895/56305、という表記が見える。
「ふむ。結構減ったな。にしても、あれで死なないなら後の410体はおそらくS ランクのモンスターだろ」
「あれ、もしかしてちょっと数に怖気ついてる?」
「馬鹿言え」
アッシュの言葉に鼻で笑い、魔法陣の紙を取り出し、大剣を顕現する。楽し気に自身の身長よりも大きな大剣を肩に乗せながら、彼の方を向きながらニヤリと笑う。
「たった410体のモンスターだぞ? 私とお前なら1時間もかからんだろ?」
「あははっ! そうだよね、うん! そうだよね! じゃあ、グレン、勝負しようよ」
「ほう、勝負?」
アッシュも魔法陣の紙を取り出して、同じように双剣を顕現させる。笑う彼にアッシュもにっこりと笑いながら顕現した剣の一つを黒く染まったまだモンスターのいる方を指す。
「昔やった、どっちが多くモンスターを狩れるかっていう勝負、どう?」
「いいだろ、やってやる」
「オッケー。なら、やろうか!!」
そういって二人は駆けて行く。
Sランクのモンスターは大概、災害レベルのものが多いが、所詮は人工知能で作られたモンスター。依頼を受けていて気付いたがHALは本物を知らない。ただのデータでしか知らないのだろう。実際の対峙したことのあるモンスターでもかなり呆気なく倒すことができた。馬鹿気たモンスターの討伐数なのに一掃できたのもそれだ。
いくら神格級の殲滅魔法でも、炎の効かないモンスターもいる。それなのに燃え尽きて灰になってるところを見ると性質を知らず、行使した魔法の熱量に測りきれず、消滅したんだと思う。
だったら、目の前にいるモンスターはSランクもどきのただの雑魚モンスターだ。
そんな二人を、ナギと先ほどまで東と西に分かれていたユキとノアも南門の上まで来て二人の殲滅を眺めていた。
「ありゃ~、もう早々に終わりそうやなぁ」
「……あの二人、何処にいても化け物じみてますね……」
「んなことねぇよ。下準備、バリバリしてたし。俺らの知らねぇとこでもあんな感じにやってんじゃね?」
「それを抜かしてもあの魔法は普通じゃないですよ……。あとSランクのモンスターもあんな風に紙切れのように切り捨てて進むのもおかしいですからね。ノア」
ユキはそうノアに言う。アッシュは戦いの前にあれらはSランクもどきとは言っていたけど、それでも強いのは変わらないはず。こちらからすれば、あの二人はSランク以上の化け物にしか見えない。
引いてる様子のユキだが、二人からすると、”あいつらだからな”、と今更感がある。
なんて思っていると、ナギが何かに気づく。スコープをのぞき込みながら、ミュートの状態にしていた通話を解除してアッシュとグレンたちに報告する。
「グレンはん、アッシュはん。こっから見て正面、位置は6kmくらいんところ。なんか怪しい動きしてるモンスターがおるで。どうすん?」
ナギの言葉に、通話からグレンの音声がピピピッとなった後に入る。
《ちょっと待て、見える位置に行く。………チッ、モンスターどもが邪魔で見えないな。何をしてるかわかるか?》
その指示にナギはスコープの倍率を上げてる。見えたのは何やら大きな機械仕掛けの砲撃台。それに何体かの魔法使い系のモンスターが力をその装置に充電させていた。
「なんや砲撃の準備しとるな。形状的に魔法砲撃砲に近いと思うで。その砲台に何匹かのアンデッド系のモンスターが魔力を注いどる」
《……なるほどな。モンスターで魔導具使ってくるあたり、早々に減らされたのを焦っていそうだな。ふむ。モンスターはそこから仕留めることはできるか?》
「Sランクは無理や」
《わかった。アッシュとそっちに方へ行く。狙撃して場所を教えろ。音の方へ向かう》
「おっけーやで」
通話を再びミュートに変えて、ナギは魔法陣を書いて生成する。
「”狙撃銃生成:スニペックス・アリゲーター”」
「うお、なんかごっついな」
「えぇやろ。これ、7km先の遠距離狙撃可能なオレのお気に入りの一つなんよ。あと、耳、塞いでおった方がいいでぇ」
「お、りょーかい」
自慢気に言っていたナギは先ほどの見つけたところに向けてスコープをのぞき込む。魔力の注いでいるリッチ系のモンスターの近くに同じように魔力を注ぐ小さめのモンスターに向けて狙撃をしていく。
ダダンッと狙撃をしていき、なるべく相手の邪魔になるように撃ち続ける。
通話を聞いていたアッシュも同じように向かい、グレンより速く、その場所に到達して、魔法砲撃砲と、それに魔力を注いでいるモンスターを視界に入れると、すぐさまそのモンスターへ一気に距離を詰める。
「なるほど、魔力の多いSランクのモンスターってのはデスロードか。確かに、狙撃じゃ効かないかもね。”付与魔法:対アンデット特効”」
剣に付与魔法の魔法陣の紙をつけながら唱える。
付与された剣は青白い光を放ち、アッシュが持つ剣、全体に拡がっていく。
勢いのまま、デスロードの核を一刀両断する。核を破壊されたデスロードは飛散していき、残った魔法砲撃砲の方をみると、どうやら魔力はもう充電されてしまっており、発射寸前だ。
この先は街の方角。撃たせる訳にはいかない。
一足遅く、グレンも到着したのを確認したアッシュは彼に向かって叫ぶ。
「グレン!! 上へ!!」
「ん、わかった」
詳細を聞かず、グレンは魔法砲撃砲の砲身に剣を横から突き刺してそのまま上へと蹴りあげる。蹴り上げられた魔法砲撃砲は真上を向き、弾丸が打ち上げられる。その玉は高く高くあがり、上がりきると止まったかと思った玉は今度は隕石のように落下していく。
高エネルギーな魔力量を感じる。あれは破壊した方が良さそうだ。
そのままアッシュはグレンの方まで走っていく。
それに合わせて、グレンは砲身から剣を引き抜いて、アッシュに向けて剣を下から振り上げる。
「乗れ!! 上げるぞ!!」
「任せて!!」
振り上げられる直前のグレンの大剣に足を乗せて、そのままグレンは上へと飛ばす。
隕石のように落下する魔力の塊に向けてアッシュは剣を構える。
「”剣技:焔”」
炎を纏った双剣を振るう。
シュインッと刻む音が響くと、隕石は流星群のように散っていく。散っていった流星群は残ったモンスターの方へ落ちていき――
《第一クエスト目標達成。全てのモンスターの破壊が確認されました。お疲れ様です。次の第二クエストは明日の9時からとなります》
クエスト達成に必要な全てのモンスターを倒せたようだ。




