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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第九章 HALの世界

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異変

 全員のレベルも問題なく上がり、予定していた滞在日の最終日となった。


 アッシュも問題なくギルドから出されたすべてのクエストSランクも含めて無事に終え、他のメンバーも問題なく過ごしたが、グレンはまだ用が終えてないようで先に出立することにした。

 いつもは見送ったりするのに今回は逆なのも新鮮だ。


 ただ、どうやって出るのかも聞いていないため、案内人を見つけて出ることに。


 最初に見た時と同じ場所に行くとやはりいた。また入国していた人たちを案内をした。話し終えるまで待って、アリスは案内人の方へと向かう。



「ねぇ、ちょっと、案内人!」

「おや、皆様、お久しぶりです」

「二日前なのに久々もないわよ。それよりも聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」

「はい、なんでも聞いてください」



 ブリキの案内人はにっこりと笑いながらアリスの方を向く。



「私たち、今日、出立予定なんだけど、どうやって出るかわからないのよね。どうしたら出られるの?」

「? おや、何か我が国にご不満でも?」

「不満はないわ。ただ私たちは旅をしないといけない理由があるの。だから出立したいのよ」

「さようでございますか……」



 ブリキはひどく残念そうな顔をする。そんなブリキに慌ててアリスはあわあわしながらも、続ける。



「あ、でもね、楽しい街だったからまた来たいと思ってるのよ。けどさっきも言った通り、私たち旅を続けないといけないの」

「……旅であれば、このオープンワールドでたくさん可能ですよ」

「いや、それは冒険でしょ? 私たちはいろんな国を回らないといけないの。だからーー」

「残念です。残念です、残念です残念ですざんねんですザンネンですザンネンデスザンネンデスザンネンデスザンネンデスザンネンデス」



 カタカタとブリキは音を立てながら、アリスの言葉を遮り、”残念です”、とひたすら続ける。


 え、なんだろう。壊れたのかな?


 そうアッシュは思っていると、ブリキは壊れたおもちゃのような動きをし、腰につけていた剣を握る。ハッとしたアッシュがすぐさまアリスの腕を掴み自分の方へと退く。

 引いたと同時に、ブリキは剣をこちらに振り上げてきたので、アッシュは引いた勢いのまま、ブリキの腕を蹴り飛ばして、そのまま顔面に向けて回し蹴りを食らわせる。


 まさかの街での戦闘行為で周りがざわつく。”これはまずいことをしてしまったか”、と思っていると、アッシュたちの近くにいた冒険者がこちらを指をさしながら叫ぶ。



「お、おい! あんた! 何してんだ⁈」

「案内人が攻撃してきたから蹴り飛ばしただけだよ」

「俺も見たぞ! 質問してきた冒険者に対してブリキの案内人が剣振り上げてきてたんだ!」

「え、案内人が?」

「なんで?」



 ざわざわと周りが騒ぎになりそうになると、何処からか同じ見た目のブリキの人形が現れる。現れたブリキは蹴り倒されているブリキをガシャン、ガシャンと壊し始める。


 そのうちの一体がアッシュの方を向く。



「これはこれは失礼いたしました。住人(アバター)である皆様に危害を加えるなど、バグでございます。コレはこちらで処分いたします。今回のお詫びと言ってはありませんが、HALの街、自慢の遊園地がございます。ぜひそちらを無料でお楽しみくださいませ」

「いや、お詫びなんていらない。僕らは出立ーー」

「是非とも、お楽しみくださいませ」



 アッシュの言葉に対して聞く耳を持たないブリキはガラクタになったブリキを持って去っていた。


 そんな彼らにアッシュは一度ため息を吐いてから、仲間の方を向くと、気味の悪いブリキにアティは怯えて、エドワードにしがみついてしまっている。


 怯える娘の方に歩いていき、抱き上げながら頭を撫でて落ち着かせる。落ち着かせつつ、アッシュはアリスの方を振り向く。



「アリス、ギルドに行くよ」

「そ、そうね。でも、なんでギルド?」

「僕一人の時に、最初に会ったここの上級者の人に少しだけお世話になった人がいてね。詳しそうな感じだし、案内人はあんなんだし、彼に聞いてみようかと」

「わかったわ。私たちも行きましょう」

「うん。エドワード、グレンにもさっきの伝えてもらっていい?」

「わかった」



 エドワードは急いで先ほどの出来事を端的にわかりやすく書いてグレンに送る。


 アッシュの案内で一同はギルドまで到着すると、相変わらず、ざわざわと賑やかなギルドだ。酒を飲みながら情報交換したり、腕試しで腕相撲したりと、力自慢もしている。


 その中からあたりを見渡していると、最初に受付してくれていた女性と話をしてる彪がいた。



「おーい! 彪!」

「ん? おぉ! アッシュじゃん! 今、ガーナから聞いたよ。Sランクの依頼完遂したんだろ? お前、マジですげぇよな! ここにきてまだ三日目だろ?」

「あはは、ありがと。それとちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」

「おう、なんだ?」



 ニカッと笑う彪にアッシュも同じように笑顔のまま、聞く。



「ここを出立したいんだけど、どうやったら出られるんだい?」



 そう聞くと周りの音が急に静まり返る。ざわめく声がなくなって異様な光景にアリスも不安になりながらアッシュの服を掴む。


 それでもアッシュは周りを気にしてない様子のまま、再度、聞く。



「あれ、聞こえなかった? ここを出立したいんだけど、どうやったら出られるのか聞きたいんだけど」

「……アッシュ、それと後ろはお前の仲間か?」

「そうだよ」

「……ここで話す内容じゃねぇ。俺の部屋、ギルマスの部屋に案内するからついてこい。ガーナ、お前ちょっとここ頼むわ」

「わかったわ」



 ガーナと呼ばれる女性は彪の指示通り、他の冒険者の方へ行く。


 歩いていく彪に警戒しているエドワードはボソリとアッシュに問いかける。



「おい、いいのか? ついて行っても」

「大丈夫かどうかは今はわからない。けど、このままだとここからも出られないし、彪は何か知ってそうだからね。それに……」

「それに?」



 エドワードの問いかけにアッシュは後姿の彪を睨みながら凄む。



「もし、君らに危害を加えるなら容赦する気はないから安心して」

「……お前、何処の世界でも私たちへの過保護はかわらんな」

「あはは、もちろん」



 軽い返事をしながらも、警戒心は解かずに彼の後ろにアッシュは歩いていく。不安そうにしてはいたが、アッシュのことだからとエドワードはあまり気にせず、後に続く。


 階段を上がって三階の奥の部屋。少し大きめの両扉に手をかけて開いたあと、部屋の中にあるひときわ存在感のあるデスクの上に座る。



「悪いな。ここまで来てもらってよ」

「いいよ。なんだか聞いたらダメな内容だったのかな?」

「いや、聞いちゃ悪い話じゃねぇよ。ただな、あそこにいるギルドのメンバーは()()()()()()()()()()()()やつらばっかなんだ」

「……どういうこと?」



 アッシュは眉間に眉を寄せる。


 帰りたくても帰れなかった。それはこの世界から出られなくて、という意味をしてしているということだ。


 アティを降ろして、エドワードの方に任せて彪の前まで歩く。



「教えて。この世界は何なんだい?」

「……ここは、HALと呼ばれる人工知能のコンピュータが創り出した仮想世界。現実世界を元に作ったHALの理想郷だ」

「HALの理想郷?」

「あぁ、俺も詳しいことはわからねぇ。けどHALはこの理想郷のために今まで訪れた旅人も含めてずっとここに閉じ込められてるんだ」



 彪、曰く、外の世界で滞在期間を聞くがそれに対して応じたことは、一度もない。先程のブリキのように何人もの人が出られないか問い詰めても聞く耳を持たれることはなかった。


 どんなに足掻いても出られないと言われ、この世界に囚われることを強要されている。


 その話を聞いた、アリスがだんだんと涙目になっていく。



「ご、ごめんなさい。私が安直に行ってみようなんて言ったから……」

「アリスのせいじゃないよ。行くことも同意したのは僕らも同じだ。だから、気にしなくて大丈夫だよ」

「……うん……。みんなもごめんね……?」



 そんなアリスにエドワードやノアたちも”大丈夫”と言う。


 その中で、彪は言いにくそうな顔をしながらも口を開く。



「…………一応、手立てがねぇ、ってわけじゃねぇんだ」

「? 出られる可能性があるの?」

「……ある」



 あることは喜ばしいはずなのだが、彪の表情になにか引っかかる。


 けれど、あるならそれに賭けるしかない。



「教えて。僕らはこの国から出ないといけない。それが僕らが出来ることならやる」

「…………ハッ お前さ、会った時からそんなんだよな」

「僕かい?」

「レベル1なのにものともしなくてさ、怖いもんなんてねぇみたいにさ。俺はそれが羨ましいよ」

「……そうかな。僕は結構怖がりだよ?」

「ケッ どの口が言ってんだか。……ハァ、そうだな。出られる方法の話だったよな」



 彪はデスクから降りて、1枚の依頼書をアッシュに差し出す。



「ギルド全体、いや、全住人(アバター)強制参加の裏クエスト。”ラストクエスト”」

「ラストクエスト?」

「あぁ、そうだ。さっきも言った通り、このクエストを受諾すると、そいつだけじゃねぇ。俺らも含め全住人(アバター)の強制参加のイベントだ。非戦闘員も関係ねぇ。文字通り、クエストに参加してたやつは、もし、クエスト中に死んだら、その場で死ぬ。もちろん、復活もねぇんだ」



 本来であれば、ここは生死という概念がない。けれどもこのクエストが始まっている間は、もし、死ぬようなことがあれば復活がない。いわゆる現実世界でも死を意味するそうだ。


 だけどひとつ気になることがある。



「ちなみにだけどクエスト失敗したことはあるの? 君がこれの内容知ってるってことは、一度やったことがあるってことだよね?」

「あぁ、やったことがある。先代のギルマスを筆頭に、数多くの猛者が声を上げで解放を望んだ。望んだ、結果……」



 俯く彪だが、顔を上げてアッシュに続きを話す。



「結果、前ギルマスを含む数多くの猛者は、死んで、クエストを続行不可能。他にも非戦闘員の住人(アバター)も多くの被害を出して、クエスト失敗に終わったんだ」

「え、そのギルマスも他の強い人たちも死んだの? 1人も残らず?」

「あぁ、クエスト中、名乗りあげた強いやつら全員、死んだ」



 負傷や死亡なんて有り得る。けど、全員死ぬなんてことはあるだろうか?


 その疑問にアッシュが考えてると彪は軽く手をパンッと叩く。



「お前の疑問は最もだ。強者のアイツらが一人残らず死んでること、これに違和感あるんだろ?」

「そうだね。クエストの内容は分からないけど、全員死ぬなんてことはあるかと思ってさ。さすがに引き際も分かってるはず。ヒトだもの。自分の死が間近に迫れば逃げる選択肢もするはずだよ」



 守護者であるアッシュでもアリスたちの事を考えて、引き際は弁えてる。自分一人で事足りるならそれでいいが、引かないで彼女たちを危険に晒すマネはしない。


 だからこそ、強者とまで言われた人たちがその引き際を見誤るなんてことを全員がするのだろうか。



「そう。俺もそれは分かってる。けど、俺が知ってるのはその強者は不意をつかれて何人か殺られてる」

「不意を?」

「あぁ、生き残ったやつから聞いたんだ。ギルマスが守ってくれてたのにその後ろから狐の面をしたやつが、刺し殺した……てな」

「暗殺ってこと?」

「そうだと思う。一人の目撃ならモンスターをそう見間違えたと思うだろ。けど、それが何人も見てんだ」



 その話にアリスが二人が話しているのは分かっていたが、”ねぇ!”と震えた声を上げる。



「そ、それって、参加したら強い人が狙われて、殺されるってことだよね?」

「えーと、アッシュの仲間の姉ちゃんか。そうだな。ここまでの話がそうなら、そうなる」

「だ、ダメよ!!」



 アリスは声を荒らげて、アッシュにしがみついて、彪から離すように彼を引っ張る。


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