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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第九章 HALの世界
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僕を信じてほしい

 アリスはアッシュを引っ張りながら涙を目に浮かべる。



「ダメだよ!! それって、強い人がほとんど生贄みたいなものじゃない!! あんた、ほ、他に方法ないの?!」

「ねぇよ。それ以外にねぇ」

「そ、そんな……っ」



 震えながらアリスはアッシュの方を見る。けどアッシュはいつもと変わらずに笑顔で彼女を見ていた。頭を撫でて来るアッシュに震えながらアリスは顔を彼に疼くめる。


 その隣にいたエドワードがアリスの肩に触れながら言う。



「アリス、今はこの方法しかないんだ。やるしかないんだぞ」

「いやよ……! 私の判断で、こうなっちゃって、また、判断を間違えて、アッシュが、仲間が危険な目に遭うのは、いやよ……っ」



 震えた声でそう言う彼女をどうしたら安心してもらえるだろうか。この方法しかないのに、彼女が嫌だと思ってるまま、進めるのは得策では無い。それこそ、もしも何かあった時に、アリスが動けなくなってしまう。


 安心させるように、アリスの髪に触れながらアッシュはにっこりと笑う。



「大丈夫。君たちを外に出すためなら僕はなんだって出来る。それにさ、僕だけじゃないよ。今回は」

「……え?」



 アッシュの言葉にアリスは首を傾げる。


 タイミングを見ていたかのように、グレンがコンコンと開いた扉にもたれ掛かりながらしていた。



「そうだな。今回はお前一人では無い。私もいる」

「ぐ、グレン……っ」

「やぁ、グレン。来てくれてありがとう。何処から聞いていたの?」

「全部、聞いていた」



 部屋に入ってきたグレンとナギ。グレンはエドワードの隣まで来て、彼の肩をポンポンと叩くと彼によっかかりながら耳に手を当てる。



「エドワードに念の為、通話を繋げていてもらっていた。話に相違や聴き逃しがあってはいけないからな」

「さすが、君は仕事が早いね」

「ふん。さて、話を戻そう」



 パンッと手を叩く。叩いたことで視線はグレンに向く。



「このクエスト、やるぞ」

「は、話聞いてたのにやるの?!」

「当たり前だ。ここを出るためならやるしかないだろ」



 当然の如く言うグレンはアリスの前まで歩く。


 不安そうにするアリスに頭を鷲掴みするとそのまま髪の毛をぐしゃぐしゃにする勢いで頭を撫で回す。



「ぅひゃぁあぁぁ?! 髪! ぐしゃぐしゃになるじゃない?!」

「私とアッシュがいれば、問題は無い。絶対に出してやる」

「で、でも、二人が一番危ないんじゃ……?」

「そう簡単にやられるほど、私たちは弱く見えるか?」

「うぅん……」



 首を横に振るアリスに今度はアッシュが声をかける。



「君が心配するようなことは起きないよ。僕とグレンだもん。僕がピンチな時はグレンが、グレンがピンチな時は僕が。主様(マスター)がいた時はそうやって互いにカバーしてきたから僕ら二人が揃ったら無敵なんだよ」

「でも、ここは、現実じゃ、ない……。あんたたちの、いつもの戦い、出来るわけないじゃん……!」

「できるよ」



 アリスの腕を外して、そっと手を握る。


 彼女の不安をどうしたら拭えるだろうか。どうしたら彼女は僕たちに任せても大丈夫だと思ってくれるだろうか。納得しないまま進めても、アリスが嫌がるのは避けたい。



「君が信じてくれたら、僕らは強い。君は、ただ信じて、望んでくれるだけでいいんだ」

「し、信じてない訳じゃなの! し、心配なだけで――」

「なら、僕をもっと信じて。僕とグレンたちを」



 彼女の前に膝まづくようにする。アッシュは自分の両手袋を外し、神子のであるアリスの手に触れる。


 あの時の、ヴィンセントの時とは違う。

 僕がこうしたい。彼女だがら、そう思えるから。真っ直ぐな目を、瑠璃色の瞳で彼女を見つめる。



「”さぁ、僕を信じて、命じてよ。僕の主様(マイマスター)”」



 その言葉にアリスがルビーの瞳が見開いて顔を赤くする。


 そして、アッシュの行動にグレンも驚いた。それは守護者の誓い。それを、自分の神子でない者にしているからだ。


 顔を真っ赤にしたアリスは握られていない方の手で口元を隠す。



「な、な、な、なによ、それでまた私を丸め込もうってこと……?」

「そうは思わない。僕は君だからそうしている。もちろん、君は僕の主様(マスター)じゃない。だけど主様(マスター)と同じくらい僕は君に対して尊敬と忠誠を誓える」

「……っ」



 一度、神子と魂の契約をしたら他の神子に仕えることは出来ない。それはアリスも理解しているし、アッシュも理解している。それでも、この気持ちは偽りは無い。


 真剣な眼差し。綺麗なあの瑠璃色の瞳にこうも見つめられたら……



「…………そこまで、言われたら、言うしか、ないじゃないのよ……」

「あはは、さぁ、アリス。言ってくれないかな?」



 アッシュは首を傾げながらも握るアリスの手を自身の口元までもっていく。


 その仕草にくらくらとしたアリスは一度、目を閉じて深呼吸する。目をゆっくりと開けて、目の前にいる黄金の守護者に命じる。



「…………”命令よ、アッシュ。私たちをこの世界から出して”」

「”仰せのままに、僕の主様(マイマスター)”」



 そう返事をすると手の甲にキスをする。顔をさらに赤くするアリスだがどうにか声を出すのを耐える。ゆっくりと立ち上がり、再度アッシュは彪の方を向く。



「クエストを僕たちに受けさせて欲しい。守護者として、僕が君たちも含め、HALの世界から解放してあげるよ」

「……へへっ 普通のやつじゃねぇと思ったけど、まさか守護者とはねぇ。わーったよ。んじゃあギルドの面々には伝えてくる。さすがにこのクエストは勝手に受注できねぇからよ。ちょっと待てろ」

「わかった」



 彪が部屋を出ていくと、グレンが腕を組みながらため息を吐く。



「お前が守護者の誓いをするとはな」

「それだけ彼女のことを僕自身も信用してるからこそだよ。なにより、僕はアリスのことを主様(マスター)と同じくらい大事さ。……怒ってる? 主様(マスター)以外に誓いをして」

「……お前がそうしたいなら、構わん」

「さすが、僕の相棒だね」

「ふん。誓いをたてたからには、勝つぞ」

「僕も初めからそのつもりさ」



 アッシュとグレンは互いに拳をガッとぶつける。


 そんなアッシュを他所にまだ顔の赤いアリスは”うぅ〜”と自分の両頬を押えながら首を振っていた。


 あの時とは違う真っ直ぐに見られて顔が自分でも分かるくらい真っ赤で……、それに、まだエドワードたちにも守護者の誓いをしてもらったこともなかったのに……っ


 (せわ)しくも真っ赤な顔をしながら悶えるアリスにエドワードは背中を撫でながらアッシュとグレンの方を向く。



「それでこれからどうする? クエストを受けるとはいえ、お前たちだけでは厳しくないか?」

「全住人(アバター)の参加型だ。彪も含めて使える冒険者くらいはいるだろ。守りはそいつらにしてもらうか、どう動くかはクエスト次第で決める」

「そうか」



 グレンの言葉にエドワードは頷く。


 すると下が何やら騒がしい。彪が他の冒険者に言うと言っていたけど、もしかすると話は上手くできてなさそうかも。



「はぁ、下に行くか。アリス、それとエドワードとノア、リリィ。先に断っておく。一旦は私とアッシュがアリスの守護者として話をする。お前たちまでも守護者として話すと狙われる可能性が出てしまうからな。そこは申し訳ないが了承してくれ」

「わーってるよ。俺らじゃアリスも自分の身も守れるか怪しいからよ」

「そうだな。変に言ってお前たちの方の足を引っ張る訳にもいかない。すまないが頼む」

「ん。よし、なら下へ行くぞ。アリス、お前もいつまでもそんなアホ面してないで早く来い。お前が来ないと始まらん」



 急にグレンからアホと呼ばれてアリスはピタッと止まり、首をブンブンと振りながらムスッとする。そして、そのままグレンに突撃していく。


 ゴスッと音はするが平気そうな面をグレンはしていた。



「痛い」

「うっさいわよ! グレンのバーカ、バーカ!! みんなも行きましょう!!」



 アリスの態度に少し笑いながらも全員頷き、一階へ向かう。


 一階へと向かうと、そこには慌てふためく彪がいた。

 案の定、他の住人(アバター)に反感を買ってしまい、かなり罵声が飛び交っていた。あれでは話も何もままならなそうな事態だ。


 慌てふためく彪にアリスは”仕方ないわねぇ”と言いながら階段を軽々と降りていく。何をするのかとアッシュは彼女を目で追う。



「だから! 今度こそ、俺らは外に出られるかもしれねぇんだ!! 信じて今度こそ――」

「信じた結果、前のギルマスも死んじまって、大きな犠牲も出たじゃねぇか?! それなのにまたやるだと?!」

「お前たちを信じて、また失敗したらどうすんだよ?! 責任取れんのか?!」

「そ、それは……っ」

「だいぶ苦戦してるわね」

「うわあっ?!」



 たじろいでいた彪に、アリスが横からヒョコッと現れる。それにかなり驚いた彪の声で周りも一瞬の静寂が訪れた。


 静寂を逃さず、アリスが杖を取り出して、カンッと響かせる。



「責任なら、私が取るわ!!」

「あっ! ちょっ アリス?!」



 アリスの言葉にアッシュが驚きながら止めに行こうとしたが、グレンが制止する。



「私は女神様に仕えし、神子のアリス!! あんたたちのことも、この世界のことも、私が全責任を受け持つわ!! だから、私を信じて任せなさい!!」

「神子?」

「この世界に、神子が来ていたのか……?」



 ザワザワする中で一人の冒険者が叫ぶ。



「お、お前、そう言って俺らを騙そうって魂胆じゃねぇのかよ?!」

「そ、そうだ!! 神子なら、守護者がいるんだろ?! お前一人で――」

「守護者は我々だ」



 冒険者の言葉を遮って、アリスの左右にアッシュとグレンが立つ。アッシュは剣を、グレンは大剣をそれぞれ鞘は抜かずに持って、アリスを守るように前に出る。



「我らの神子のお言葉だ。もし、信用ならないと抜かすやつがまだいるなら、この場で切り捨ててもいいんだぞ」

「そうだねぇ、それに君たちは何のためにここに固執するんだい? そんなに好き? この閉ざされたこの世界が」

「そ、それは……っ」



 アッシュの言葉に数人、口を閉じる。みんな出たい気持ちがある。けれど彪が言っていた、挑戦して、多くの犠牲者を出してしまうということは今度は自分たちの可能性もあった。だからこそ、みんなは迷っている。


 うじうじとしてる冒険者たちに再度、アリスは叫ぶ。



「こんな安全の保証された世界がそんなにいいの?! あんたらそれでも冒険者?! 中には旅人もいたわよね?! あんたらの旅も、冒険も、何もかも諦めるの⁈ 私は嫌よ!! こんな世界じゃ、私は満足しない。こんな世界よりもいろんな国、いろんな人たち、いろんな、美味しいもの食べたい!!」



 最後はアリスの願望が出てる気がする。


 アリスの言葉にアッシュは思わず、笑ってしまう。



「あははっ そうだね、アリス。美味しいもの大好きな君にとってはこの世界は耐え難いかもね」



 そう言って、アッシュはゆっくりと階段を降りていく。


 さて、この弱虫たちをどう話をしてやろうか……。



「君たちは、外に出たい? それともここにずっと飼い慣らされたい?」

「飼い慣ら……?!」

「おい、お前。飼い慣らされるってどういうことだ?!」



 クスリとアッシュは笑いながら威圧しつつ、冒険者たちを見下ろす。



「だって、そうじゃないか。死ぬこともない。楽しい娯楽もある。何より脱出方法があるのに、失敗したからと怯える君たち……。僕から見たら甘い餌に厳しい躾を振りかざされて、(てい)のいいペット、いやモルモットじゃないか」

「んだと……?!」



 彼らの視線が一斉にアッシュに向かう。ハラハラしながらアリスも見ているが、アッシュのことだ。大丈夫と自分に言い聞かせて見守る。


 アッシュは笑いを堪えているように見せるために口元を軽く隠す仕草をする。



「プライドもない、誇りも、根性も、度胸という牙を抜かれた君らだ。きっとここはさぞ心地がいいんだろうねぇ……。でもさ、そうやって僕を睨むってことは、そうじゃないんだろ?」



 口元を隠していた手を前に出す。



「君たちはここに来るまで、どう思って旅を、冒険をしていたんだい? 安息の地を求めて? それともこうやって飼われることを望んでいたの? 君たちは!! ここで終わることを、望んでいるのかい? 今、君たちは何を望んでここにいるの?」



 アッシュの言葉に先ほどまでの怒りの声は静まり返る。真っ直ぐと見る彼に、一人の冒険者はゆっくりと手をあげながら、震えた声で言う。



「お、俺は、家族のために冒険者になったんだ……っ 貧しい家族のために、冒険者して、稼がないといけねぇ! なのにこんなところに、ずっといて、家族に、会いてぇ……!! 会いてぇよ!!」

「俺は、いろんな世界が見たくて旅をしてたんだ!! 家族の反対を押し切って、いろんなもの見て、あいつらにいろんな景色の写真送ってよ……っ それがいいって、言ってくれていたんだ!!」

「私は、もっと強くなって、立派な冒険者になりたかったの! こんな数値じゃない。自分の力で冒険者を目指していたわ!!」



 次々と上がる、本来の自分の目標や目的、願いなどが堰を切ったかのように広まる。


 それを聞いてアッシュはニヤリと笑う。伝播していくこの気持ちを駆り立てていかせる。


 鞘でダンッと床を叩く。



「君らのその願いは、思いはここでは成し遂げられない!! なら、足掻け!! 死ぬのが怖い? ハッ、そんなの現実でもそれは変わらないだろ!! 自由のために君らは足掻かないといけない!! その活路は僕らが開く!! 僕らを信じてついてこい!!」



 その言葉で周りの冒険者は”うおおおおおおおっ!!”と鬨の声を上がっていく。そんな彼らを見てから、アッシュはアリスの方を見て、頷く。大きく息を吸ってアリスは声を上げる。



「自由のため、みんな頑張るわよ!! さあ!! 自分ができる最大限の行動をしなさい!!」



 ギルド中に冒険者たちの声が響き渡る。そこからは行動はみんな早かった。街の外にいた仲間や、非戦闘員への理解と協力のためにそれぞれが動いていく。


 それを見ていた彪は、驚きながらもアリスたちを見る。



「お前ら、マジすげえな」

「僕よりもアリスが火種を灯してくれたから、僕はそれに火力をあげただけさ」

「ふっふ~ん。もっと褒めてくれてもいいのよ!」



 ドヤッとしてるアリスは誇らしげにしていて、彼女らしいなと思わず笑ってしまう。

 笑っていたらアリスがアッシュとグレンを見ながら、”それに……”と呟く。



「あんたらが頑張るって時に、こんなんしか私は役には立てないわ。女神の象徴である神子の私ができるのは今はこのくらいだもの」

「十分だよ。ありがとう」

「そうだな。……さて、クエストを受ける前に事前準備だ。忙しくなるぞ」



 グレンの言葉に全員が頷く。まずはスタートラインだ。冒険者たちが広めてくれている間にこちらはこちらでどう動くか、どうするか作戦会議だ。

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