HALの世界3
アッシュはグリフォン討伐の前に今、自分の使える能力を確認する。この世界で使えるスキルと他に使えるものがあるかどうか、確認していると目的地まで目前まで来ていた。
そんなワクワクしているアッシュを他所に後ろにいた彪はまだ騒いでいる。
「いや、マジでやるの?! グリフォンだぞ?!」
「問題ないよ。それより、彪は現実の魔法は使ったことある?」
「え、ここで現実の方の魔法? 使ったこと、ねぇけど。つか使えんの?」
「そっか。おけおけ。とりあえず僕は倒してくるからちょっと待ってて」
「ちょっ?! おい! アッシュ!!」
アッシュは剣を取り出してクルクルと片手で回してから構える。
これが通じるならもし何かあった時に便利だ。これは、そのテスト。ちょっとやそっとでは死ななそうなグリフォンでやるのがちょうどいい。
フィールドに足を踏み入れると、エンカウントしたグリフォンがこちらを向く。もちろんのこと、グリフォンの名前は真っ赤だ。
さて、まずは、初撃がどれだけ通じるかだ。
グリフォンに向かって走っていく。こちらに気づいているグリフォンも飛び上がって向かってくるとバッと目で追えないような速さで飛んできた。
これは敏捷力の差なのだろう。視覚は無駄な情報になりそうだ。
そう思って目を閉じて視覚ではなく聴覚に集中する。ゲームだからか気配では追えない。それでも、音で十分。
横から空を切るような音がした。
音を認識したと同時にグッと足に力を入れて上へと飛び上がる。飛び上がったと同時に目を開いて横から勢いよく飛んできたグリフォンに初心者の剣を振るう。切る感触はあるが、ダメージがあまり通っているようには見えない。
ここは攻撃力の差か。
もう一方の彪からの剣も振るうと、ザクッという手応えと痛みがあったのかグリフォンがグアアアアッと鳴く。
アッシュは地面に着地をしてから剣を腰に2本ともしまう。
「お、おい?! 剣しまっちまうのか?!」
「うん。1番試したいやつをするからね」
返事をした後、再度グリフォンへと向かう。
そう、数値が全てなら数値とは関係ない方法で倒せるのか。現実世界の魔法が使えるなら、どれほどの効果が出るのが、是非、試してみたい!
彪に見えないように自身の手のひらに中級程度の魔法陣を書く。術式はもちろん現実世界の魔法。
グリフォンの鉤爪を躱しながら頭を掴む。
「”炎魔法:煉獄”」
ボソッと詠唱をすると反応した術式から大きな炎の柱がグリフォンを飲み込む。
ゴォッと飲み込まれたグリフォンは雄叫びを上げながら燃えていき、そのまま倒れてしまう。先程のスライムと同じように消えたグリフォンは、鉤爪と硬貨を残して消える。
自分の視界にあるMPを確認する。
(……減ってない。これは便利かも)
試しにほかも色々試したかったけど、とりあえずここまでだ。
そして、ピコンっと通知が現れる。レベルアップの通知。レベル40以上ないと倒せない敵を倒したら、そりゃあ上がるだろう。レベルだけ確認すると30以上まで上がっていた。他のステータスはスキルポイントの振り分けの時に確認しよう。
グリフォンのドロップアイテム等を拾っていると後ろで彪がまたこっちまで走ってきて肩を掴んで揺らしてくる。
「お、おま、お前! 剣士じゃないの?! 魔法使い?!」
「え、いや、違うよ。僕、双剣士だから」
「双剣士が使える魔法じゃねぇよ?!」
「あー……」
なんだか説明もちょっと面倒くさくなった。少し考えてアッシュはにっこりと笑う。
「サブ職業が魔法使いだったからそれかもね」
「サブが魔法使い? ……なぁんだ、焦ったァ……。バグかチートかと思っちまったよ……」
「バグ? チート?」
「そ。そういうのとか見かけたら案内人に報告しねぇといけねぇの。せっかく楽しいゲームしてんのにそういうのあったらやばいだろ」
「あー、そういうこと?」
魔法の事は一旦、黙っておこう。今、修正されても困るし、やりようはいくらでもあった方がアリスたちを守るためには必要な可能性もある。それに、どうせ3日しかいないんだし。
「てか、お前マジすげーよ! 本当に! もしまた暇な時、声掛けてくれよ。その剣はやるし、あとこれもやるよ」
「ん? これいいの?」
渡されたのは上下セットの黒の軽装の装備。今の着ている服が初心者用の服だけど、これは明らかに上級者ような気がするような服の装備を受け取ってしまった。
「これは俺からのプレゼントだ。初心者でここまで出来るやつ初めてだしよ! 効果とかいろいろいいの付与されてるし、どうせ、他のランクの依頼も受けてんだろ? だったら初心者マークのその服じゃなくて少しはカッコつけたいい服の方がいいだろうしな!」
「あはは、ありがとう。大事に使うよ」
「おう! 俺、よくギルドにもいるからさ、なんかあったらいつでも来いよ! じゃあな!」
そう言って彪は走ってどこかに行ってしまう。
本当にレベル5になったら即解散だったなぁ。
まぁ彼のことは置いておいて、早速、スキルポイントの方を見てみよう。
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アッシュ
性 別:男性
種 族:ヒューマン
職 業:双剣士 サブ職業:暗殺者
魔属性:火
Lv.:38
H P:6800/6800
M P:4300/4300
攻撃力:C 2530/9999
魔 力:D 1560/9999
防御力:D 1060/9999
敏捷力:C 2040/9999
抵抗力:D 1060/9999
幸 運:D 1060/9999
スキル:身体強化 隠密 剣技 魔法?
特 典:スキルポイント 26000
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思ったよりもポイントがある。3つはカンストはいけそう。カンスト以上のものもあるのかな?
とりあえず一旦振り分けをする。
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アッシュ
性 別:男性
種 族:ヒューマン
職 業:双剣士 サブ職業:暗殺者
魔属性:火
Lv.:38
H P:6800/6800
M P:4300/4300
攻撃力:SS 9999/9999
魔 力:SS 9999/9999
防御力:C 3193/9999
敏捷力:SS 9999/9999
抵抗力:D 1060/9999
幸 運:D 1060/9999
スキル:身体強化 隠密 剣技 魔法?
特 典:スキルポイント 0
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とりあえずこんなんでいいだろう。脳筋なステータスだが、これならあまり数字は気にしなくていいと思っている。魔力も上げたのも、現実の魔法を使っても誤魔化せるように。これならしばらくはばれない。
画面を閉じてその後のレベルアップも非通知に変えておく。本当はバランスよく振り分けるべきだろうけど、そこまで脅威にも感じないし、問題は無いだろう。
「さて、他の依頼もこなしながら行きますか」
攻撃力の方のステータスをMAXにしておいたし、あとはなるようになる。あともうひとつ試したかったのは、このオープンワールドの限界値。ここまで敏捷をあげておけばどうにか行けると思う。
彪から貰った装備をつけて、軽くトントンとジャンプをしてから走る。
それに、敏捷をあげたおかげか、かなり速く走れるようになっている。たまにある依頼をこなしつつ、2時間ほど走っていると、このオープンワールドの境目のようなところに到着した。まるで膜のようにひらひらとしている。そこに近寄ると画面が赤くなっていき、引き返すように警告もなっているが無視して進んでいく。
ここからは何も無いところ、という意味なのかもしれない。でも視界では画面自体は乱れているがまだ拡がっていそうにも見える。
「んー、ギリギリまで行ってみるかぁ」
ゆっくりと歩きながら進むと、警告の画面がうるさいくらい出てきて、尚且つ、視界を埋めつくほどの通知が現れる。文字化けした通知。いい加減、鬱陶しく思い、通知画面の設定を変えようと設定を開くと、ノイズ混じり声が聞こえる。
《譚・繧九↑》
「え?」
《譚・繧九↑、譚・繧九↑、譚・繧九↑》
(聞き取れない、けど、なんだろ?)
さらに進むと響く声はノイズ混じりにまだ続ける。何かを訴えるように声は続く。
《縺ェ繧薙〒譚・繧具シ溘♀蜑阪?縺薙%繧堤オゅo繧峨○縺ヲ縺上l繧九?縺具シ溽オゅo繧峨○縺ヲ縺上l繧九↑繧臥オゅo繧峨○縺ヲ縺上l》
《縺薙%繧偵?√ワ繝ォ縺ョ荳也阜繧貞」翫@縺ヲ縺上l》
ピコンっと赤色ウィンドウ。普通と違う、ジジッと画面は乱れながら文字が浮かぶ。そして同時に金平糖のようなトゲトゲとした光る石が現れる。それは黒くなったり赤くなったり青くなったりと色を変えてい、まるでクリスタルだ。
《*逡ー遶ッ縺ョ蜉帙r蠑輔″邯吶℃縺セ縺吶°?》
YESとNOの表示。これは文字化けしてもはやなんと書いてあるかわからない。けどこの石を受けとれという意味なのか。それとも別の意味があるのか……。
「ま、いいか」
深く考えず、とりあえずそのままアッシュはYESを選択する。その瞬間――
「うわっ?!」
強い突風な風に押し戻される。ワールドマップの所まで押し戻され、尻もちをついてしまったが、手元な残る先程のクリスタルは持ったまま。
「びっくりした……」
驚きながらも再度立ち上がってもう一度進もうとしたが、今度はそもそも進めない。まるで壁があるように進むことを拒まれる。
先程まで進めたのに、行くなという強い意図が感じられるような気がした。
「……ま、いっか。なんかもらっちゃってるみたいだし、いろいろ試したかったことも試せたからあとは依頼をこなして帰ろう」
手元にあるクリスマスはアイテムボックスに入れずにポケットにしまう。
戻ろうと思っていると、ピコンッとエドワードから何か通知が来た。開くと、もうみんな集まているから戻って来いというメッセージ。エドワードには今から戻る返事をして、彪からもらった帰還石を使って街に戻っていった。