HALの世界1
アッシュたちが訪れる、少し前。
主の指示により滅多に現れないという国の方へとグレンは足を運んでいた。こんな川に挟まれたところに国があるのもいささか不自然だ。
何処にでも現れて何処にでも在る、そんな国。
「へぇ~、おもろい国やなぁ」
「はぁ、すでに嫌な予感しかしないな……」
そう呟きながらもグレンは入り口にいる門番に話しかける。
「おい、入国したいのだが可能か?」
「はい。ようこそ、旅人の方々。ここはHALと呼ばれる街です。ぜひ我が国でゆっくりとご堪能してください」
「あぁ、そうする」
そう言ってグレンとナギはHALの街へと足を踏み入れる。道中にナースの機械人形から、ある程度この国のことで説明も受け、指示にしたがい装置の中へと身を沈める。
目の前に浮かぶ文字の指示通りに進んでいくと、次に目を覚ますと、そこには街並みと視界の隅に見える案内の文字列。少し違和感を持ちながらも無事に入ることができた。
(一応、私でもこれの中には入れるのだな)
自分の手を見てからあたりを見渡す。
かなり賑わっているし、ここは初期スポーンといわれるところなのだろう。ヘルプ機能というものもあって説明付きなのは親切設定だと思う。
ナギが出てくるまでの間、しばらく待っていると、何もないところから数人、似たような服も何人も出てきたりする。たぶんあの場所以外のも入れる場所があるのかもしれない。そう思っていると、目が合った一人の男住人がこちらに来る。
「グレンはん、見た目そんまんまやな!」
「……その喋り方はナギか?」
「せやで! どうよ! 男前やろ! せっかくのゲームの世界や! 楽しむしかないやろ!!」
「……はぁ、お前、遊びに来てるんじゃないんだぞ」
そう言ってるとピコンッと何か通知が来る。グレンはそれに目を移すと……。
《*アバター名: だいまおう をフレンド追加しますか?》
そんなのが出てきて、グレンは迷いもなく、NOを選択した。
「あ、おい! 今、キャンセルしたやろ! オレはYESにしたのに!」
「あ? あぁ、あれはナギの事だったのか。知らないやつの名前が出たんで、つい」
「なんでやねん! 普通、聞くやろうが!」
「そもそも仕事で来てるって何度も言ってるだろ。無駄なことしてないでさっさと行くぞ」
騒いでるナギをもう放っておこうと思い、先に進もうとすると、聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。
そちらを向くとアッシュたちがいる。
なんでこんなところにあいつらがいるんだ?
そう思いながら彼らに近づいていく。
「おい、アッシュか?」
「ん? あれ、グレン! 君も来ていたの?」
「少し前くらいにな。ところでなんでお前たちもここにいるんだ?」
「川を渡った先に地図にも乗ってない島があったからさ、せっかくだから入国したんだよ」
アッシュの言葉にグレンは片手で眉間を押さえる。深いため息を吐く彼にアッシュは首を傾げる。
「え、なんかまずいの?」
「あ~……いや、すぐ出国するなら大丈夫とは思うがーー」
「おじ様ぁー!」
アティがグレンに抱き着くと、頭をグリグリ~としながら満面な笑顔で顔を上げる。笑いかけてくるその子にグレンは先程までのしかめっ面から優しい顔に変わる。アティの頭を撫でてから再度アッシュの方を見る。
「まぁ、あまり長居はするな。ここに来てからは嫌な予感するから私も用が終わったら早めに出るつもりだ」
「……わかった。君が言うならそうするよ。ありがとう」
「ん」
小さく頷いてその場から移動しようとしてると、横からバッと誰かが出てきた。
見た目は完全にブリキの人形みたいな姿で、その人に目を向けると名前が出てきた。そこには案内人と出ている。
その案内人と書かれた人は一礼をして喋り出す。
「お取込み中失礼します。皆様は本日入国された方々でよろしいでしょうか?」
「あ、うん。そうだよ」
「ご回答ありがとうございます。わたくし、街の案内人でございます。このHALの世界について簡単な注意点をご案内させていただきますがよろしいでしょうか?」
「いいよ」
案内人の言葉に頷く。一応去ろうとしたグレンもまだアティがくっついていたためその場で立ち止まったまま聞くことに。
そうして案内人は何かの機械を取り出してまるでそこに画面があるかのように投影される。投影されているのはいま自分たちが見ている視界に似ていた。
「まず簡単な注意点だけなので少しだけお時間を。では、皆様の左上にHPとMPが見えますね?」
「ずっと見えてるこれね。うん、わかるよ」
「ありがとうございます。MPは時間が経てば回復しますが、HPは無くなれば死亡してしまいます。アバターロストとなり、同じアバターは使えませんのでご了承ください」
「あれ、ここって死んだりしないのよね?」
「厳密に言えばアバターが死亡してしまうだけなので皆様には影響はございません。新しいアバターでの再コンテニューという認識がわかりやすいかと思います」
アリスが納得したように頷くと案内人はにっこりと笑うと一礼する。
「それではあとの不明点はヘルプ機能でご確認が可能です。ぜひご活用ください」
そう言って一礼していくと何処かに去っていく。
去っていく案内人を見てグレンは急いでそれの後を追いかけるように、”すまん、また今度”、と言い残してナギの腕を掴んで去っていった。
去っていく彼らを見送って、張り切っているアリスが空に向けてガッツポーズをする。
「よっしゃー! あっそぶわよぉー!」
「ユキ! いろいろなゲームとかクエストして来ようぜ!」
「はい、わかりました。行きましょう」
「アッシュー! アティちゃん借りてくわねぇー!」
そう言ってアリスはアティをアリスたちは連れて走っていく。
一応、全員フレンド登録してパーティー機能を使ってるからどこに行ってるかわかるようにはしたけど、みんな自由だなぁと思わず感心してしまう。
そんな中、エドワードはアッシュの方を見て聞く。
「お前はどうするんだ?」
「そうだねぇ。僕は暇だからここの街にもギルドがあるらしいからそこで依頼を受けてみようかなって思ってる。君はどうするの?」
「私は図書館に行ってこようとは思ってる。こういうところの歴史とかには興味あるからな」
「おっけー。なら途中までは一緒だからさ、一緒に行こ?」
「あぁ、そうだな」
そう言って街の中を歩いていく。
結構いろんな人たちが大勢いる。
それに装備品という項目を見るといろいろとレアリティとかがあるみたいだ。☆1~☆7までのレアリティ。攻撃力とかいろいろと書いてあって面白い。
「何見てニヤニヤしているんだ?」
「ん? いや、よくできてるゲームだなぁて感心していただけだよ」
「そうだな。レベル要素もあるようだな。魔物を倒したら上がるんだとは思うけど、面倒だな……」
「スキルポイントとかいろいろあるよ。元の現実世界での能力値に合わせてポイントも出されてるってさ」
「へぇ」
パネルを操作しながら確認していく。
もし何かあった時にこういう機能は見て慣れおけば困らない。まぁ現実世界にもステータスボードというものがあるけど、何処でも見れるのは便利だと思う。
話をしていたらエドワードの目的地の図書館につく。
「じゃあまた。何かあれば、えーと、このメッセージというのを飛ばせばいいのか?」
「みたいだね。じゃあまたね」
エドワードが小さく頷いて図書館へと向かっていった。
さて、僕もギルドに向かおう。
街の1番奥にある大きな建物。これがこのHALの街のギルドなのだろう。中に進んでいくと、何処でもある街と同じように受付も掲示板もあった。この辺りは現実と同じなんだろうと思い、受付の人に話しかける。
「すいません。依頼を受けたんだけど、どうしたら受けれるの?」
「あ、はい! 初心者の方ですね! まずはギルドの説明をしてから依頼の話をさせていただきます! リアルの世界でも冒険者として成されたことはございますでしょうか?」
「うん、あるよ」
「では、データを確認いたしますので左手首のバンドをお見せください」
「バンド?」
左手首を見ると確かにバンドのようなものがついている。それを受付の人に出すと、同じように受け付けの人も左手についているバンドを合わせる。
「これはなんの役割があるの?」
「これは現実世界側の情報の確認になります。もちろん個人情報となりますので認証と承諾がないと確認はできないのでご安心ください」
そういわれるとピコンッと音とともに目の前に通知が出てくる。
《*ギルドより、 情報開示希望有:現実世界のギルド情報 を 開示 しますか?》
なるほど。こんな感じに出てくるんだ。
出てきた通知のYESを選択して、情報を受付の人が確認をする。少し見ているとだんだん受付の人の顔が驚いてるような顔に変わっていく。
「え、Sランク⁈ 高ランクの冒険者なのですか⁈」
「え、いや、普通に2年くらい旅をしながら受けていただけだからどうだろ。気づいたらSランクになってたってだけだからさ」
「2年でも普通はいってもDランクくらいの人が多いですよ……」
ランクが上がったのも手ごたえがなさ過ぎて長期滞在中、ある街に行ったときに、ずっと放置されてる高ランクな依頼を何かあっても自己責任とギルドは責任を問わないことを条件に受けた。その放置されていたのものがほとんどSランクでだったので問題なく解決してしまったことをきっかけに当時はBランクだったけども飛び級でSまで上げられた。
それのおかげでSランクの依頼が受けやすくなったからありがたかったなぁ。
なんて考えていると、受付の人は笑顔で何かを取り出した。
「アッシュ様はSランクなので、こちらのギルドでもSランクの依頼を受けられるようにいたします。たまに高ランクのかた限定のイベントもありますので是非参加してみてください!」
「うん、ありがとう」
「早速、何を受けられますか? やはり高ランクのこちらとかどうでしょう⁈」
「んー、いや、一番下からするよ。せっかくこの街に来たんだし、どんなものがあるかもみたいからね」
「おぉ……!」
何故か受付の人は目を輝かせる。
「なんとも、凡時徹底なのですね! だからこそ、Sランクまで上り詰めてきたんでしょう!」
「いや、そういうわけじゃないと思うけど……」
「ご謙遜を! では、一番下のFランクの依頼からとのことですが何にしますか?」
「そうだね。受けられるだけのもの全部いいかな?」
「かしこまりました! では、お願いします!」
受付の人が元気よくそう言うと、目の前に通知音がピコンッと鳴る。視線でそちらを見る通知の画面が表示されていた。
《*ギルドより、 FランクからCランクの依頼 を 各10件 受託しました。》
これで受託できるのか、と思い、早速、ギルドから出て外を見る。
「さて、せっかくのオープンワールドってことだから、いろいろ行きながらしますかぁ」
キュッと手袋を締め直して、早速、オープンワールド、街の外へとアッシュは向かう。