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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第八章 再会

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トラウマ

明日からは落ち着くまで朝7時のみ更新で致します。


社畜万歳です。

「……んん……」



 目を覚ましたアッシュは薄っすらと目を開け、ベッドの上で目を覚ます。周りはどうも薄暗い。

 眠っていた自分の隣にはすやすやと寝ていたアティが目に映る。寝息を立てている娘の頬に触れるとあたたかな体温が指に伝わってくる。


 あたたかい。この子がちゃんとここにいる。ようやく迎えに行けた。帰ってこられた気がした。


 そう思うとまた泣きそうになる。撫でていると、どうやら起こしてしまったのか、アティも目をうっすらと開けて目が合う。



「……おとう、さん?」

「おはよう、アティ。ごめんね、起こしちゃった?」

「うぅん……」



 呻き声を出しながらアティは一緒に横になっている父親の方へと寄って行き、胸元に顔をうずくめる。



「どうしたの?」

「あったかい……、本当にお父さんいるって実感してるの」

「っ! あはは、いるよ」



 くっついてくる娘を抱きしめながら身体を仰向けに向きを変えて起き上がる。足の上でちょこんと座ってるアティの頭を撫でながら、外を見ると、暗いと思ったら、すでにもう夕方だった。



「あれ、結構寝ちゃっていたな……」

「ほんとだ。もう夕方だ」

「……アティ、お腹すいたかい?」

「……えっと……あの……」



 お腹はすいているのだろうが上手く言えず、何処か怯えているような様子だった。


 多分、この三年間、素直に言うことも、わがままも何もかも、自分の意思すら言うことも、痛みや恐怖で縛られてしまったんだろう……。


 お腹すいたことも言えないアティに悲しそうな表情にならないように、どうにか笑顔で笑いかける。



「僕はお腹空いちゃったからさ、一緒に食べよっか」

「う、うん!」



 可愛らしく頷いた娘の頭を撫でて、立ち上がると、隣のベッドではエドワードが寝ていた。彼も寝ていたなんて珍しいと思い、少し顔を覗き込み、体調悪そうには見えないので軽く身体を揺すると、エドワードもうっすらと目を開けながらこちらを見て、ゆっくりと起き上がってくる。



「んん……。なんだ……、起きたのか……?」

「おはよう、エドワード。もう夕方だけどどうする? 僕、アティと一緒に下に行くけど君も行くかい?」

「夕方……? 結構寝てしまっていたな。起きるか……」



 背伸びをしてからエドワードも立ち上がる。あくびをしながら彼は口を開ける。



「あぁ、そうだ。一応、アリスたちは今恐らく出立準備で出てる。昨日のことも話しているからあとでいろいろと聞かれると思うぞ」

「あ、そうなの?」



 エドワードいわく、報告の共有が終わった後はそれぞれ解散したらしい。マカオは別の街に用があるらしく、ウィンクをして去っていき、グレンとナギに関しては一度、戻らないといけないということでテレポートで帰っていったそうだ。


 探してももらえていたからお礼も言いたかったんだけど、まぁまた会えるだろうからその時でいいかも。


 あとはエドワードも徹夜でアッシュといたということもあって、彼も寝ていたそうだ。


 下へ降りて行くと、ちょうど夕食時ということもあって人が多い。


 エドワードはアティと同じ視線になるようしゃがみながら、食堂のメニューを取り出す。



「アティ、何が食べたい?」

「え、えっと……」

「何でもいいぞ。好きなものあれば買ってこよう」

「な、なんでも、食べます……」



 まだ自分の希望が言えないみたいだ。

 メニュー表を見てもそむけて様子を伺うような視線をしながらアッシュの方へと隠れてしまう。


 後ろに隠れてしまった娘の頭を撫でる。



「アティはオムライス好きだったね。それにしよっか」

「っ! う、うん!」



 パァッと明るくなるところを見るとそれで合っていたようだ。

 まだアティとの距離感や考えてることがわからないエドワードは頬をかきながら困ったような顔をする。それがアティにとっては不安になってしまってるようで、そんなエドワードに対して怯えた顔にまた変わって、”ごめんなさい……”とボソッと呟く。



「あ、いや、大丈夫だ。すまないな。配慮が足りなかった」

「大丈夫だよ。アティ。君に危害を加えるような人はもういないからさ」

「うん、わかってる、だけど……」



 まだすごく怖い。怖いことも、痛いことも、もうないって、分かっているのに……。


 俯きかけたアティをアッシュはグイッと持ち上げて肩車をする。アティは”うわぁ⁈”と驚く。



「さ、ご飯頼みに行こう!」

「お、お父さん! あ、歩けるよ!」

「君が下を向いちゃうからね。でも下向いても僕がいるなら、もう怖くないでしょ?」

「……っ! えへへ、何それ、そしたら私ずっとお父さんに肩車してもらうことになっちゃうよ」

「あはは、君が怖くなくなるまではしてあげるよ」



 肩車したまま食堂を歩いていく。席についてエドワードが注文を頼みにいってもらう。それまではアッシュとアティで待っていることにした。


 アティは待っている間も周りをそわそわとして見ている。



「何か気になるのかい?」

「うぅん……。大丈夫」

「そっか」

「……」

「…………」

「………………」


(き、気まずい。3年ぶりに会ったからか、アティと何話したらいいんだろ……)



 いや、話したいことはいっぱいある。あるけど今はそっとしておかないと変にいろいろと聞いて傷つけてしまうんではないかと思うと思うとあまり深く聞くのが正直気が引けてしまう。


 互いに黙っていると、すぐ後ろから何やら揉めている人の声が聞こえ、アッシュはそれに振り返る。



「んだと⁈ てめぇ! 報酬は半分だという契約だろうが!!」

「はぁ? 働きに応じて渡しただけだろ⁈ ちんけな索敵しかできねぇくせに文句いってんじゃねぇよ!!」



 ……どうやらメンバーの報酬での、いざこざのようだ。


 ちなみに僕らの場合は依頼やそれぞれの金策で稼いだものは、報酬などの金額から半分はメンバー用の貯金箱に、半分は自分用のものとしてしている。そのため、大小あるにしろ自分のものは自分で買うようにしているから、あぁいう金銭的ないざこざは今のところ起ったことはない。

 というか、そういう経理系はエドワードがきっちり管理もしてくれているから起こることもないだろう。


 くだらないな、と呆れてため息ついていると隣にいるアティが両耳を塞いで小さくうずくまっていた。



「アティ、大丈夫?」

「……っ……うぅ……っ!」



 罵声と怒鳴り声が聞こえるたびにガタガタと怯えている。そしてーー


 ドンッ!!


 言い争っていた男の一人が相手を押してそいつがアティにぶつかる。その衝撃のせいなのか……



「うっ?! うぇ…ぇ……っ!!」



 アティが吐いてしまった。


 吐いたことにぶつかってきた男たちは吐いたアティに対して謝るのではなく、”うわっ”と言って吐いたことに引いて、離れようとする。その男たちの反応にアッシュはそそくさと去ろうとした男たちの腕を掴む。



「いでっ?!」

「な、なんだよ?!」



 掴まれた男たちはアッシュに文句を言おうとしたが、真顔でアッシュが殺気を出しながら睨んでいた。掴んでいた腕に力をじわじわと入れていくと軋む音が聞こえる。男たちは腕の痛みに悶えるようにしながらもどうにか振り払おうとしてるも全く微動だにしない。


 低い声音でアッシュは口を開く。



「おい」

「ひぃ?!」

「人にぶつかっておいてその態度は何? うるさいし、揉めるならよそでしなよ。ここ、食堂なんだけど」

「う、うるせぇ! お前に関係なーー」

「あっ、そう」

「うわっ?!」



 掴んでいた男の一人を、食堂の出口である扉の方面に投げつける。立て続けにもう一人も同じ方向に投げ飛ばしてぶつけると両手を(はた)き、眉間にしわを寄せながら舌打ちをする。



「ここで揉めるな。外でしろ。本当に迷惑」



 そう言い捨てて、アティの方を向いて背中を擦る。まだ顔が真っ青になったままのアティは震えたまま父親であるアッシュを見るが、この子には何が見えているのか、”ごめんなさい……っ ごめんなさい……っ”と謝ってくる。


 このままこの場にいるのはよくないと思い、一度そっとアティに触れる。



「一度部屋に戻るかい?」

「うぅ……っ ひくっ、う……っ」



 泣きながら小さく頷く。吐いたものが自身につこうがお構いなしにアティを抱きかかえ、エドワードも騒ぎを見ていたそうなので、目が合うと彼も目を瞑って上に行けという風に人差し指を上に向ける。


 アティを抱えたまま上の部屋に戻ってベッドに座らせる。

 まだボロボロと泣いているアティの頭を撫でて、何か着替えがないかアイテムボックスを見ていると震えた声でアティが呟く。



「お、おと、おとうさ……っ ご、ごめん、ごめんなさい……っ」

「ん? どうして?」

「わ、わたし、め、いわく、かか、かかって……っ」



 ガクガクと震え、過呼吸気味になりながらもずっと謝ってくる。


 あんな目にずっと3年間もあっていたんだ。こんな小さな、子供が。見つけきれなくて、ここまで怖い思いをさせてしまった。


 謝らなければならなかったのは、僕だ……。


 こういう時は、僕はどう声をこの子にかけたらいいのだろうか。レイチェルなら、この子の不安を取り除けたのだろうか。


 君なら、どうするんだろう……。

 どうしようもないくらい、無力な自分に嫌気がさす。


 泣いているアティを抱きしめることしか今は僕は、分からない。



「……っ アティ、大丈夫だよ。大丈夫」

「うぅ……っ」



 震えてすすり泣く娘に何をしてあげられる?

 この子の恐怖は、どうしたら取り除けるのだろうか。


 アティが泣き止むまで、ただ、僕は娘を抱きしめることしかできなかった。

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