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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第八章 再会
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因果応報1

 屋敷の主人はずっとイライラしていた。


 あの男のガキをどれだけ痛みつけても治まらない。やつがこの街にいるということが非常に腹立たしい。

 もういっそのこと、前回、言った通りに火で炙ってしまえば、もし見つかってもわからんだろう。顔立ちだけはいいから成長したら、どこかに売りとばしてやろうと思ったがそうも言ってられない。


 奴隷の使用人に熱した鉄が入った炭窯を運ばせ地下へと向かう。


 あのガキが生きているとやつにバレればワシの命が危うい。せっかくこのくそ遠い田舎なところまで来たのに!!


 鉄格子を開け、例の子供がいる部屋を開ける。


 布切れ同然なマントと服でどうにか寒さに耐えようとしてる子供の身体を踏みつけ、さらに蹴り飛ばす。



「おいクソガキ! 起きろ! 何を呑気に寝ている⁈ さっさと立て!!」



 子供は声を上げずに起き上がり、顔も上げずにうずくまるようにしていた。

 動かない子供にイラつきながら再度、蹴る。



「何をしているんだ、クソガキ!! さっさとしろ!!」



 子供の首を掴み、無理やり立ち上がらせる。そのまま、持っていた熱した鉄を顔に押し当てる。これで、これでやつにバレない。



「アーッハッハッハッハッ!! 愉快だな!! クソガキ!! 恨むなら運よく侯爵をもらえた守護者である化け物の父親と、それから産まれた自分を恨むんだな!!」



 ニヤニヤとしていた主人だが、何とも反応しない子供にだんだんと、なにか、何かがおかしい気がしてきた。



(な、なんだ? この違和感。何故、泣かない? 何故、喚かない⁈)



 肉の焼ける臭いがする中、屋敷の主人は念入りに顔を潰すが全く抵抗がない。熱した鉄の棒を炭窯に置く。

気味が悪くなってきて子供から手を放そうとしたが、ガシッと子供が腕を掴む。焼けただれた顔にある、瞳が、両方とも蒼い、瑠璃色をしていた。


その子供の顔はニヤリと笑う。



「な、なんーーっ⁈」

「どうしましたか? ご主人様」



 ようやく子供が口を開くかと思ったら、にやりと笑う。掴まれている腕がミシミシと軋む。


 しかもいつものあのガキの声じゃない。誰だ、こいつは⁈


 ボキンッと折れる音が響き渡り、あまりの激痛に主人は子供から手を放し、断末魔を上げながら、うずくまる。

目の前にいる子供はフードを外して焼け焦げていたはずの顔は、すでに治っていた。


 茫然としていると、目の前の子供は、主人を蹴り飛ばした後、にっこりと嗤う。その瑠璃色の瞳はぎらりと光っている。



「どうも、僕はアッシュ。アッシュ・アウロラフラム、と言ったら分かる?」

「ーーっ⁈ な、なぜ、ここに⁈」

「ん? さぁ僕がここにいるなら、なんでいるかって答えは簡単だろ」



 子供の姿なのに、異様な威圧感。以前、こいつに会った時と同じ、威圧感。


 いや、待て。その前にこいつがここにいるのは、まさか、あのガキ、やはり助けを呼んでいたんじゃないか!!


 痛む腕を押さえて後退りしていくが目の前のガキーー、いや化け物は不敵な笑みを浮かべてくる。



「それよりも……」

「は、はいぃ⁈」

「君、なんで名乗らない?」

「は、はぁ……?」



 な、名乗る? なんだ、こいつ、なんだ。何が言いたいんだ?


 ため息をしながらアッシュは不機嫌そうに首を傾げる。



「僕、アウロラフラム”侯爵”なんだけど、君の貴族の人じゃないんだ」

「ーーっ!! は、ハッ! わ、わたしめは、トラッシュ男爵と申します! ご、ご無礼をお許しください!」



 慌ててトラッシュ男爵と名乗った主人は地面に額が当たるくらい頭を下げる。


 位が高いものが名乗った後にこちらが名乗らないのは失礼に当たってしまう。


 この男が今、機嫌を損ねるとまずい!


 全身に嫌な脂汗を流しながら顔を上げられない。


 ガタガタと震えていると、アッシュは男を見下ろしながら、”ふ~ん”と呟く。



「トラッシュ男爵ねぇ……。あぁ、思い出した。あの没落貴族のところの。あはは、いいよ、いいよ。()()()()()の君の無礼を許してあげよう。間違えは誰にでもある」

「あ、ありがとうございます!!」



 た、助かったのか⁈ まさか許してもらえるとは……!


 トラッシュは喜びながら顔を上げる。

 ただ、アッシュはまだあの不敵な笑みは消えてない。



「そう、僕に対する事は、許す。けどーー」

「あぐっ⁈」



 顔を上げていた男の頭を足で再度地面にぶつける。メキッと音がしていたが、アッシュはグリグリと足に力を入れた後、今度は蹴り飛ばす。仰向けに転げた男の腹の上に、馬乗り状態で、足を組む。


 男に対してアッシュは冷たい目で睨み付ける。



「アティの件では許した覚えはないけど、何、喜んでるの? そこも許してると思ったならおめでたい頭だな」

「ま、待て! 待ってくれ! お嬢様に関しては、その、あな、あなた様の、娘様とは、つゆ知らず……っ」

「知らなかったと?」

「そ、そう、そうですとも!!」



 半べそをかきながらトラッシュは叫ぶがその言葉に対してアッシュは何かを手元に生成する。男は何を出されたかあまりよく見えてないが、組んでいた足を降ろし、トラッシュの左右の二の腕の上に足を置く。まるで腕を封じるかのように。


 その体勢のまま、彼は持っていたものを男の目の前に突き出す。それは、鞭だ。


 ガタガタと震え始める男に向けて、アッシュは笑顔のまま、口を開く。



「おかしいなぁ。僕、間違いなく聞いてるんだけどなぁ……」

「な、ななな、ななにを……?」

「僕の顔、焼くときにさ、”守護者である化け物”……って、聞いたんだけどねぇ。おかしいなぁ。僕の事、あの国で守護者って知ってるのって、皇帝と……、僕を嵌めようとして家を襲った連中だけなんだけどなぁ……」

「そ、そ、それ、は……、はぎぃっ⁈」



 バシンッとアッシュが持っていた、鞭が男の顔を叩く。一度ではなく、アッシュは話しながら何度も何度も続ける。その度に悲鳴が上がるが、気にも留めることもない。



「昔、よく皇帝も言っていたなぁ。”我に嘘をつくと鞭打ち1000回だ!”って。あの時はそんなことでそこまでするかなって思ったけどさぁ。いやいや、とんでもないね。これ、やられた側は非常に不愉快だ。君もそう思わないかい?」

「ヒギィッ⁈ アブッ! ギィッ!! ベガアッ⁈」

「ちょっと、聞いてる? 君のために僕は話してるんだよ。空っぽな脳みそでもわかるように例えも話してるのに、本当に失礼だなぁ、君」



 まともに返事なんてできるわけもないのに、鞭打ちは止まらない。しばらくしていたが、だんだんと動かなくなっていった。

 顔が何倍にも腫れ上がり、血がダラダラと垂れている。


 しばらくジっと見た後、男から降りて、そいつの身体を横にひっくり返す。背中の服をビリッと破いて、素肌の見える背中へと力強く鞭打ちを打ち付ける。



「ヒギャァアッ⁈」

「ちょっと、寝るんじゃないよ。まだ話は、終わってないじゃないか」

「も、もう、やめてくれ……っ こ、この、このままでは、死んでしまーー」

「あはは、大丈夫だよ」

「ひぃっ⁈」



 男の顔の前でアッシュはしゃがみこむ。変わらず笑顔を貼り付けたまま男の顔を覗き込む。



「殺さないし死なせない。アティを3年、3年もお世話になったんだ。是非とも僕からの”お礼”を受け取ってほしいんだ。だから、死にそうになっても、意識が飛びそうになっても、精神が壊れそうになっても、肉体が壊れそうになっても、どうなっても問題ないように魔法で全部回復させてあげるからさ。安心して受け取ってくれたらいい」

「あ、ああ”ぁあ、ああ”ああ”あああああぁあ”ぁぁあ”あぁ!!!!」



 男は叫びながら部屋を出ようとしたが、何故か、ガクンと崩れ落ちてしまい、地べたに這いつくばるように倒れる。


 男は自分の足を見ると、片足が、無くなっていた。


 ドバドバと血が流れ、部屋中にまた断末魔が響き渡る。



「ダメじゃないか。まだ始まったばかりだよ? まだまだ楽しんでくれよ」

「た、頼むぅ!! だ、だれ、誰かぁ?! 誰か助けてくれぇ!!!!」



 男は外に向けて叫ぶが、ここは地下。そんな声も届くわけもなく、アッシュは次に男が置いていた、熱された鉄の棒を手に取る。


 それを見ていた男は恐怖した顔でズルズルと後退りをしていく。



「君に、選ばせてあげようか」

「な、なにを、だ……?」

「アティにつけた隷属の首輪。あれの鍵、何処にやったか教えてよ」

「く、首輪の、鍵……?!」

「そう。僕の可愛い娘に、つけている、あれ。外そうと思ったら鍵がいるみたいだったからさ。何処にあるの?」



 熱された鉄の棒を持ったまま、アッシュは近づく。さらに熱を上げるため、蒼い炎で熱していく。鉄はドロリと溶け始めていた。



「あ、別にいいんだよ。出さなくてもいいし、言わなくてもいい、その代わり君にはこれを今から――」

「も、持ってます!! わ、わたくしの、執務室に!! 執務室の、引き出しの中にあります!! そ、それがあれば外すことが出来ます!!」

「……執務室かぁ、そっかぁ。ありがとう。それはいいことを教えてもらったよ」

「だ、だから……」



 男は壁に追い込まれる。それでも構わずにアッシュは近づいていく。熱した鉄が彼の手に落ちても気にしない。本当は熱くないのではと思えるかもしれないが、熱気がそれから伝わることでその幻想は消し去る。


 ゆっくりと男に熱された鉄を近づけていく。



「言った、言ったから、鍵の場所も、伝えただろ?! だ、だから、もう、それを、それを――あぎゃあああああああああっ!!!!」



 ジュワッと音を響かせながら男の足に熱した鉄の棒を押し付ける。男はのたうち回るが、アッシュはお構い無しに次は肩へと押し付ける。



「教えては欲しかったけど、当てないなんて言ってないでしょ。どちらにしても止血もしないといけなかったし……。 まぁ、本当は君の汚いケツの穴にでも突っ込んでやりたいけど……」

「あ”づい!!!!あ”づい”ぃいぃいいいい!!!!」

「君の顔に付けるくらいで我慢してあげるからさ」



 ぐりぐりと額に押し付けたあと目元や唇、耳や鼻に順に押し付けていく。面白いくらいに叫んではのたうち回っていく様はまさに打ち上げられたトドのように見えて滑稽だ。


 けど、まだ終わらない。


 パチンと指を鳴らして浅い回復魔法を行使する。意識が残る程度に、痛みは残るように、加減をしながら回復させる。


 ピクピクっと身体を痙攣させてる男の腕を掴んで、細い針を生成させ、それを爪と肉の間に置く。



「ほらほら、まだまだあるんだから起きないとイタズラするぞぉ」

「はぎゃああああああっ?!」



 置いた針を、男の爪の間にゆっくりと差し込む。ぐりぐりと捻じ回していきながら、爪もじわじわと、ゆっくりと剥いでいく。



「アティを見つけた時に爪も剥がされていた。あんな小さい子にこんな痛みを味あわせてたって、分かってる?」

「わ、わか、わかり、分かりましたっ!! だから、本当に、本当にもう、おやめ、おやめ下さ――グギィッ?!!!」



 次の指にも針を捻り込む。その度にどうにか痛みから逃げようとしても、アッシュの掴んだ手からは逃れられない。逃がす気は全くないからだ。


 でも死なれたら困るから加減をしながら、できるだけ永く永く、味わってもらおう。

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