第0話 白界
初投稿です。
のんびりやっていきますのでお願いします。
「そうですねぇ、眼が、良くなりたい・・・ですかね?」
木村一郎はそう答えた。
「眼・・・ですか??」
困惑したような女性の声が返ってくる。
姿は見えない。辺りは見渡す限り真っ白。その中に一人、
木村一郎はプカプカと浮かんでいた。
「ええ、生まれつき目が悪くて、物心ついた頃から眼鏡でして・・・」
「それは、もちろん構いませんが・・・よろしいのですか? 叶えられる願いは一つだけですよ?」
「はあ・・・まあ、特に他に思いつきませんし・・・」
さて、そもそもの話、どうしてこんな事になっているのだろう?
一郎は首をひねるが記憶が判然としない。それどころか頭にもやがかかっているようにはっきりとしない。
まるで夢の中にいるような・・・
「そうか、夢か・・・」
小さくつぶやく。それもそうだ。
いきなり真っ白な世界に浮かんでいて、どこからか聞こえてくる声は自分の願いを叶えてくれるという。
そんな状況が夢でなくて何なのだ。
「いえ、夢では・・・意識がはっきりとしないのは貴方が肉体をすでに失っているからでして・・・」
「肉体を失っている・・・?」
疑問符を浮かべながら下を見る・・・何もない。何もない?
「ああ、混乱するのは分かりますが・・・」
「と、いう事は私は死んだので?」
「・・・・・・落ち着いてますね、貴方」
木村一郎という男は一言でいうと覇気がない。
面倒事が嫌いで事なかれ主義。やる気や情熱といったものがかけらも見えない、そんな男だ。
故に、だろうか。慌てたり狼狽えたりする事が極端に少ない。
動揺しないわけではないが、動転したりはしない。
それは良いのか悪いのか・・・こういった場合ならば長所であろう。
「まあ、十分に生きましたし・・・
しかし、そうすると願いを叶えていただいたところで意味はないのでは?」
既に死んでいるというならもう人生は終わったのだ。今更どうしようもない。
「ええ、ですから貴方には転生して次の人生を送っていただきます」
「転生・・・・・・」
暫し逡巡して一郎は答えた。
「それはまた・・・面倒ですね」
「・・・貴方に拒否権はありません。全ての魂は輪廻転生し巡るものです」
「リソースに限りがあるので使い回している、と?」
「・・・・・・・・・そうです」
苦虫を噛み潰したような声だ。
顔は見えなくともなんとなく分かるものだ。
「つまり、次の人生はちょっと良くしてあげるからどうなりたいか言ってみなさい、と。
ならば、先程の眼が良くなりたいというのは、的を射た答えでは?」
何が駄目なのだろうか?
「別に駄目ではありません。ただ今回使える霊子量が多いのでそれだと余るというか・・・」
「そちらの都合ですか? なら適当に・・・」
「魂の変質には本人の意思が不可欠です。それがないと霊子が定着せずに分離してしまいます」
「要約すると上手くいかない、と? そのれいし? ですか? を別に使うのは・・・」
「私にはその権限がありません」
縦社会なのだろうか?
ともあれ、どうあっても願いを言って叶えてもらう、という形が必要なようだ。
「なんだかもう面倒になってきましたねぇ・・・適当に、というのが駄目ならいっそのこと、ものすごく目を良くする、とかで良いんじゃないですか?」
「ものすごく・・・と言われましても限界が・・・」
「それを突破するにはそのレーシでは足りないのですか?」
「限界を・・・突破? ああ、そうですね、それでしたら問題ないです。そうしましょう!」
声が弾んでいる。どうやら何らかの解決方法を思いついたようだ。
まったく面倒な夢だ。まあ、どうせ起きたら覚えていないだろう。
「では、とびっきりの魔眼を授けましょう!」
「・・・・・・・・・魔眼?」
聞きなれない単語が出てきた。現代社会では特に。
創作物なら出てくることもあるだろうが・・・
「あれ? まだ余りますね。では服もつけましょうか・・・ほかに欲しい物はありますか?」
「・・・? 欲しい・・・物??」
「ああ、そういえばヘビースモーカーでしたね。煙草とライターもお付けしましょう! 私特製の魔導煙草です!」
魔導煙草。なんというパワーワード。
ではなく・・・服に煙草?
「あの転生・・・ですよね? 生まれ変わるんですよねぇ?」
「はい? 生まれ変わる? いえ、生き返るだけです! 別世界で」
「べつせかい・・・?」
異世界転生。そんな単語が浮かぶ。
そうだ。確かにシチュエーションとしては完璧だ。
よくあるテンプレートだと言っていい。
「それは転生じゃなくて転移・・・いや、一応死んだらしいので転移でもない、んですかねぇ?」
線引きは何処にあるのだろうか? まあどうでもいいといえばどうでもいいが。
「あ、これでぴったりですね! では良い旅路を!」
「・・・はい? ありがとうございます?」
直後、閃光が視界を埋め尽くす。
混乱冷めやらぬまま、木村一郎は異界へと旅立った。