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腹黒殿下のお気に入り  作者: 咲倉 未来
First School Year
5/21

5.腹黒殿下の降臨

評価入れてくれた方、ありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!

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日間恋愛BEST300[異世界転生/転移]に、ランクインすることができました。

[6/4 20:00時点 100位で確認(同一pt作品あり)]

 机に並べた硝子の器に、バロックパールと黒真珠を取り出していく。ワインレッドのベロア生地に金縁のリボンを切り揃え針と糸で縫い止めながら、手際良くモチーフを作っていく。


「おかしいわ。スチルもフラグも避けているはずなのに、レオナルド殿下のパラメータが上がっている気がする」


 腹黒さが(にじ)み出ている気がするのだ。


「うう。パラメータを上げる回答しか選んでこなかったから、下げる発言が思い出せないっ。それに、いざ言うとなると自分もダメージを喰らうから辛いわ」


 ずーんと落ち込んだアリアは、針を針山に戻してモチーフを置いた。


(とにかくソフィに頑張って貰うしかないわね。それと二人きりになることを避けてやり過ごそう!)


 気合いを入れ直し、仕上がったリボンをバレッタに縫い止めるため再び針を手に取った。


 □□□


 けれど、アリアの計画は見事に崩れ去る。


 今では週二日に増えたフィガロとのランチタイムにレオナルドが合流してきたのだ。そして当然のようにソフィも一緒に付いて来る。


(何が起きてるの?!乙女ゲームはどこにいったのよ!)


 アリアは頭を抱えながら、じわりじわりと増えるレオナルドの出現に脅えていた。そして、いつの間にか毎日四人でランチをするのが当たり前になったある日のことだった。その日もカフェテリアで四人並んでランチを食べながら、レオナルドがアリアに話し掛ける。


「もうすぐ期末試験だけど、アリアは勉強はかどってる?困ってるところはない?」


「そうですね。フィガロ兄様に聞いたりして一通りは勉強しました」


「ふーん。そうなんだ」


 アリアの返答を聞いてレオナルドの声色が少しだけ変わる。


「レオナルド殿下。(わたくし)は困っている問題があります!」


「そう。先生に早めに聞いた方が良いね」


 レオナルドの塩対応に、アリアは口元に運んでいたサンドウィッチを握る手に思わず力が入った。拍子に溢れた具で手を汚してしまう。


「アリア。ちゃんと気を付けて食べないと制服を汚してしまうよ」


 そう言って、横に座っているフィガロが紙ナプキンを差し出してくれた。


「ありがとう。お兄様」


 受け取った紙ナプキンで手を拭いていると、ここも汚れているとに指摘されフィガロが代わりに拭ってくれる。


「君たち兄妹は、とても仲良しだね」


「そうでしょうか。僕は割と普通だと思ってますけど」


「いえ、仲良しです。私はお兄様のことが大好きですから」


 負けてたまるかと、アリアは笑顔でレオナルドを見返した。レオナルドはアリアの発言に少し驚き、そして笑いかけた。


「私は兄弟姉妹が居ないから、どんなものなのか興味があるな。どうだろう。試験勉強に同席させて貰えないかな?」


「いいですね。ぜひ一緒に勉強しましょう」


「そんな!」

 即答で返すフィガロに、アリアは思わず叫んだ。


「あら、ぜひ(わたくし)もご一緒したいです!学年主席と次席の方との勉強会なんて素晴らしい時間になりますわね」


 すかさずソフィも参戦する。そしてレオナルドとフィガロは学年主席と次席の成績をおさめる優秀な学生なので、有意義な時間になるのは間違いない。


(三対一なんて断れないじゃない。どうしていつもいつもこうなるのよ!)


 哀れなアリアは、このパターンでレオナルドを含めた四人で行動することが増えているのだ。顔を上げればレオナルドの愉悦(ゆえつ)を含んだ瞳と視線が絡み合う。


「じゃあ決まりだ。仲良く四人で今日の放課後勉強会といこう」


 その言葉で、アリアは心を無にして残りのサンドウィッチを頬張ったのだった。


 □□□


 放課後、図書室で勉強会を行った後、四人は帰宅すべく校門へと向かっていた。


「僕は我が家の馬車を門に移動するよう伝えてきます。殿下の御者にも伝えてきますね」


「ありがとう。頼んだよフィガロ」

 手を振りながらフィガロが小走りで去って行く。


「いけない!忘れ物をしましたわ。教室に取りに行って来ますので少しお待ちになって下さい」

 そう言って、慌ててソフィが校舎へと戻っていく。あっという間に中庭の噴水前で、アリアはレオナルドと二人きりになってしまった。


(わーん。レオナルド殿下と二人きりにしないでよ。ソフィの間抜け!)


 恨めしく思い、校舎に入っていくソフィの背中を目で追いかけると、綺麗な夕焼けが目に入った。夕暮れ時の校舎と中庭の噴水という心当たりのある条件に思わず息を呑む。


(まずい、まずい、まずい、まずい!)


 チラリとレオナルドを見れば、風で少し乱れた髪に逆光の夕焼けで紫の瞳が煌めき色気を放っていた。


(腹黒殿下の降臨スチルっ!)

 その雰囲気が悪魔降臨にしか見えないと話題になった一枚だった。


(折角、図書室のスチルから一枚も出さないで過ごせてたのにぃぃ!)


 思わず警戒して後退る。そんなアリアをじっと見つめてレオナルドは首を傾げて思案していた。


「ねぇ、アリア。まさかとは思ったけど、私に脅えてる?」


「……」


「ねぇ。私の()()脅えているのかな?」


 まさかあなたの本性に脅えていますとは言えないアリアは、距離をゆっくり詰めてくるレオナルドに合わせて後ろへと後退った。


「そろそろ、止まった方が良いと思うけど」


「で、殿下が先に止まって下さい」


「うーん。質問に答えてくれるなら良いよ」


「べ、別に脅えていませんよ。と、殿方と二人きりは良くないので離れていたいだけです」


 我ながら上手い言い訳が出来たと、心の中でガッツポーズをする。


「普段フィガロに、あんなにベッタリくっついてるくせに?すぐバレる嘘を付くなんて悪い子だ」


 あっさり言い返されて、さらに一歩下がった時だった。


「「あっ!」」


 足元が引っかかり、ぐらりと傾く。噴水の縁に(つまず)いたアリアがそのまま倒れていったのだ。慌てたレオナルドが手を伸ばし、アリアが助けを求めてその手を掴もうとした時だった。


 くっとレオナルドの手が閉じたのだ。


 そのせいでレオナルドの手を掴み損ない、アリアは噴水の中へバシャリと落ちた。


 アリアは何が起きたか分からず呆然とした。そして顔を上げると喜びを噛み殺すような表情のレオナルドの顔があったのだ。


「っ!」


「……あぁ。だから止まった方が良いと言ったのに。仕方ないから助けてあげるよ」


 そう言って、レオナルドがザブザブと噴水に入りアリアを抱き上げる。ずぶ濡れになり夕暮れの風に吹かれたアリアは、レオナルドの腕の中でガタガタと震えていた。


 そこへ、戻ってきたフィガロの大きな声が響く。


「何やってるのアリア!レオナルド殿下、申し訳ありません!」


 けれどアリアは反応出来ず、レオナルドの腕の中で震え続けていたのだった。

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