4.子猫を拾いました
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ベファーナの店に納品した帰り道、レオナルドとアリアはジェラートを食べに広場へと寄り道した。
ベンチに座り食べ始めたその時、足元でミーミーと子猫の鳴き声がした。
「ベンチの下に猫が居るんですかね?」
「多分居るね。逃げないなんて人に慣れているみたいだ」
そんなことを話ながらジェラートが溶ける前に堪能する。先に食べ終わったアリアがベンチ下を覗き込むと、子猫がうずくまっていた。
「レオン。この子猫、動けないみたいです」
食べ終わったレオナルドもしゃがんで覗き込むと小さなハチワレの子猫が震えていた。手を伸ばして触っても逃げようとしない。抱き上げると足に怪我をしてることが分かった。
「怪我をしてる。連れて帰って手当をしないと」
「レオン、この籠に入れてあげて下さい!」
差し出された手提げ籠に子猫を入れると二人は馬車へと急いだ。
城に着くと裏口に馬車を回す。人通りの少ない通路を選んで歩いて行く。
「レオン、いいえ、殿下!どちらに行かれるんですか?」
「城に猫を保護している一角があるんだよ。まぁ、私が連れ帰るから、なし崩しにそうなったんだけどね」
煉瓦を積み上げた高い壁に沿って歩いて行くと木の扉の前に辿り着く。扉を開いて少し進み次に設置してある格子扉をゆっくりと押す。
「わっ。猫がいます」
音に反応し方々から、こちらに向かって成猫が走ってくる。
「アリア、早く入って。逃げてしまうから」
アリアを中に入れて格子扉を閉じる。振り向くと既にアリアは猫たちの歓迎を受けて足元にすり寄られていた。
「この先に獣医が常駐しているから、この子猫を看て貰ってくる」
「わ、私も行きます!」
けれど、アリアは猫によじ登られ、腕に一匹抱きかかえて足元は猫で塞がれている。
「がんばって。私は先に行くから」
「わーん!私も直ぐに追いつきます!」
レオナルドは、猫に足止めされたアリアを残して奥の診療所へと急いだ。
子猫の怪我はたいしたことなく、傷口を消毒し手当はすぐに終わった。二、三日安静にするため診療所に預けて部屋を出る。
先程の場所で猫の足止めに屈したアリアが、しゃがみ込んで相手をしていた。傍らには白髪の紳士が立っており何やら話をしているようだった。近づくと、それはレオナルドの幼少期からの侍従の一人だった。
「アリア、子猫の治療は終わったよ。エトーレ、彼女と私の分のアフタヌーンティーの準備をしてきてくれ」
けれど、エトーレと呼ばれた白髪の紳士は何やら切羽詰まった顔でレオナルドへと詰め寄った。
「殿下、お聞きしたいことがございます!よもや女の子まで拾ってきてしまわれたとか言いませんよね?」
「は?」
「猫は仕方ないと皆諦めております。獣医とて城の猟犬や軍馬の治療を兼ねてますので、じいやとて黙認してきました。ですがこの庶民の女の子は一体どこで?」
「彼女はバルベリーニ侯爵家の令嬢だ。アリア、自己紹介しなかったの?」
「しましたが、私の格好はどう見ても庶民の娘に見えますから、信じろというほうが難しいと思うんです」
アリアは髪を三つ編みに編み込み、花柄のワンピースにサンダルと麦わら帽子の軽装だ。今、巷の娘達の間で流行している出で立ちだった。
「残念ながらバルベリーニ侯爵家のご令嬢はデビュタントもまだですし、城への登城もございませんのでお顔を存じ上げませんでした。ではご本人様でございますね。大変失礼致しました」
エトーレはレオナルドの言葉に深く安堵し、アリアに深々と頭を下げて謝罪を述べた。
「いえ、私こそこのような出で立ちで城に伺うなど短慮でございました。お詫び申し上げます」
無事に誤解が解け、エトーレはお茶の準備をすべくその場を後にした。レオナルドは先程の話で気になることを確認すべく、アリアの元に移動してしゃがみ込む。
「ねぇ、アリア。エトーレの話は本当?」
「えっと。私の変装は庶民の娘にバッチリ見えますから、エトーレさんのことは怒らないであげて下さい」
「そうじゃなくて。デビュタントをまだ済ませていないって話だ」
「そうですね。去年は声が出なくなったので見送りましたが、今年こそはデビューできると思います。―― 殿下、笑顔が邪悪です。何を企んでいるんですか?」
猫を撫でながら、訝しむアリアの頭に手を置いて撫でる。
「ドレスや宝石の準備は済んでいる?エスコートとファーストダンスの相手は決まってるのかな?」
綺麗な笑顔を作り出しアリアの返事を待った。出来れば全てに立候補したいと思ったのだ。
「はい。全てお兄様と一緒に進めています。エスコートもダンスもお兄様にお願いしました」
その言葉に、一気に心が黒く染まって凍りつく。
「殿下、笑顔が何だか胡散臭いです」
アリアの頭を撫でながら、レオナルドはこの問題をどう攻略するか考えるのだった。




