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腹黒殿下のお気に入り  作者: 咲倉 未来
Last School Year

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14/21

1.レオナルドの恋心

 通い慣れた大通りから一つ中に入る細い道を、レオナルドとアリアは連れ立って歩いていた。


「レオン。ベファーナさんのお店には通い慣れましたし、毎回付き合ってくれなくても大丈夫ですよ」


「それは許可できない。あの店に行くときは必ず私が同席する。それに帰りに広場で一緒にお菓子を食べるのも楽しいだろう?」


 譲る気のないレオナルドの態度に、アリアは提案を取り下げた。そんなアリアに満足げに笑いかける。


「レオン。笑顔が邪悪です」


「バレた?アリアには何でもお見通しだ」


「レオンが分かりやすく出してるだけでしょ」


「さぁ。それはどうだろう」


 レオナルドはアリアと過ごすときの自分の立ち振る舞いをあまり気にしていない。そうして自分の腹黒さをアリアに的確に指摘される度に、楽しんでいるのだ。


(でも一応気を付けないと。前みたいに思うがままに振る舞って嫌われでもしたら(たま)らないからね)


 一度しくじったことのあるレオナルドは、アリアとの距離を的確に測っていた。そしてアリアの好みそうな立ち振る舞いをして自分の主張を通すのは、レオナルドにとっては赤子の手を捻るよりも簡単な事なのだ。

 

 □□□


 レオナルドは、物心ついた頃から同年代の子供や大人達の思惑も、何となく分かってしまう子供だった。


 帝王学や読心術を習ってからは、ハッキリと手に取るように分かるものだから、適当に好む返事をし相手を喜ばせて合わせてあげていた。


 全てに一線を引いて、何処か他人事のように俯瞰(ふかん)の目で眺めて立ち振る舞いを決めるのは、レオナルドの日常だ。それに心が平坦(へいたん)なのは楽で良い。


 そんなレオナルドは聡明叡知(そうめいえいち)だの温厚淡泊(おんこうたんぱく)だのと()めそやされた。両親と国民の期待に適ったこの調和を作っておけば、十分だろうと思っていた。



 マレーア学園に入学すると、二人の令嬢がレオナルドの元に日参してくるようになる。


 一人はソフィ・グリマルディ公爵令嬢。家柄も立ち振る舞いも問題の無い婚約者候補だ。

 一人はアリア・バルベリーニ侯爵令嬢。家柄は先の令嬢に劣るが、家業が成功し影響力の大きい貴族だ。立ち振る舞いも問題ない婚約者候補だ。


(放っておいて、残った方に申し入れをすれば良いだろう)


 彼女達の顔はそっくりで、レオナルドへの恋慕(れんぼ)がだだ()れだった。適当に喜びそうな言葉を掛ければ、想像通りに頬を赤く染めていた。


(御しやすそうで、何よりだ)


 けれど、半年経つ頃に一人が思っていたのと違う動きをしたのだ。急に来なくなったので、その違和感を払拭するために図書室まで迎えに行った。アリアの好む笑顔を作ってあげたのに、白けた顔で笑い返された。


(何、その顔……。思っていたのと違うんだけど)


 そんなアリアの態度は、レオナルドの思惑といちいちズレた。まるで目の前に羽虫がチラつくかのように、いちいち気になって仕方が無い。


(面倒臭いな。まぁ婚約者候補はもう一人居るから別にいいか)


 どちらにするか決着がついたなら気を遣わなくて良いだろうと、ランチも迷わずテイクアウトで済ませることにした。騎士を目指すものや階級の低い者達がよく利用するケータリングエリアに連れて行く。初めは驚いていたが、アリアは臆することなく欲しいものを購入していた。


(侯爵令嬢なのに、慣れてるんだな)


 ソフィなら提案自体を断るだろうに、と思いながら外のベンチで並んでランチをとる。会話も気を遣わなくて良いだろうと適当に返事をした。逃げるものを追っかけたくなるだとか、どうせリスはカラスに捕まるだろうとか、普段なら思っても口にしない感想を述べたのは失敗だったと思う。


「逃げ切りますよ。大丈夫です」


 ―― 私は殿下の全てから逃げ切ってみせますよ

 彼女の目は、レオナルドに向けて確かにそう訴えていた。


 瞬間、レオナルドは確信した。


(アリアは、私のナニかを知っている?)


 次いで、心の奥で声が響いて驚いたのだ。


 ―― 自分を知ってくれた人がいる!こんな側面を知って付き合ってくれる人がいる!


 その歓喜(かんき)とも取れる叫び声を上げたのは、一線引いた向こう側のナニかだった。一線の向こう側に意思があったなんて思ってもみなかった。しかも、そのナニかが一線越えて出てきてしまったから大変だ。


 ―― 別に大した話じゃ無い。ずっと居たんだ。居心地の良い場所に居たいだけだよ。だから出てきただけだ。


 それは、幼い頃に矯正されたレオナルドの大公に相応しくないとされる性格の部分だった。うっかり出せば「相応しくない」、「似合わない」と認めて貰えなかったそれらは、一線引いた心の奥で、周囲の人間の心情を読み解いて嘲り小馬鹿にする、もう一つのレオナルドの側面だった。


 ―― さぁ、アリアを手に入れよう。きっと楽しいに決まってる。さぁ、早く、早く!


 そう言ってレオナルドを突き動かした。そうして逃げるアリアとの距離をどんどん詰めていったら、嫌そうな顔をしてフィガロとの仲を当て付けて(あお)ってくるのだ。


(私が選ばれる立場に追いやられる日が来るなんて。しかも選ばれない方だとか、ふざけてる)


 その度に、どうやり込めてやろうかと考えるのが楽しかった。最早(もはや)自分の内に一線など存在しない。どうでも良い人間を適当にあしらう『理想の王子様』の仮面を手にした、己が居るだけだった。



 中庭の噴水に落として、彼女の寝室にお邪魔して本音を聞いたときは歓喜で心が満たされた。それに怒った彼女の頭の中が、自分のことで一杯になるのがどうにも嬉しくて堪らなかった。


 けれど、その後彼女が声を失ったと聞いて自分の一連の行動を猛省(もうせい)したのだった。


 □□□


 広場に店を出しているワゴンの中から、ソフトクッキーでアイスを挟んだお菓子を二つ購入してベンチに座る。


「アリアは、バニラとチョコのどちらをたくさん食べたい?」


「チョコが良いです!」


「ならバニラを一口どうぞ」

 勧められてバニラを食べた後、嬉しそうに手に持っているチョコレートを食べている。頬いっぱいに口に含むのは淑女らしくないけれど、アリアらしくて笑ってしまう。


「笑いましたね」


「ゴメン。ついね。私にもチョコレートを一口くれる?」

 頼めば躊躇(ちゅうちょ)せず差し出してくれる。気を良くして、そのまま大きく(かじ)りつけば悲鳴が上がった。


「そんなに食べるなんて、酷い!」


 咀嚼(そしゃく)しながら、怒るアリアを眺めて楽しんだ。お菓子一つで涙目になりながら怒るアリアは、見ているだけで面白いのだ。


「さっき別のワゴンのお菓子も気にしてただろ。これしか食べないなら追加で食べれるんじゃない?」


 途端にアリアの顔が輝きだす。


「なら、早く買いに行きましょう!」

 さっきまで泣いて怒っていたのに、張り切って残りを食べ進めるアリアが可笑しくて、思わず笑うのを(こら)えた。


 たったこれだけのことが楽しくて仕方ない。こんな毎日は初めてだった。


 だから自分の手元に置くために、全ての総力を注いでアリアを攻略しようと手を尽くしているのだ。

 そう、ゆっくり、じっくり、確実に、ね。

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