5.声を取り戻そう
評価入れてくれた方、ありがとうございます!
ブックマークもありがとうございます!
町に着くと、レオナルドは大通りから一本中に入る細い道を進んでいく。しばらく歩くとスカイブルーの壁に白いペンキで塗られた木製ドアの建物の前で足を止めた。金色のドアノブを回して扉を押すとドアベルが鳴り響く。
「いらっしゃい。なんだい、レオンか」
「邪魔するよ」
(レオンって名前を使ってるんだ。気を付けなきゃ。でも喋れないから関係ないかな?)
アリアはレオナルドの後について店に入る。外装と同じスカイブルーの壁に白く塗られた木製の棚が並んで立っていた。部屋の真ん中にはテーブルと椅子が二つ対面で置かれている。
(飲食店も併設?でもテーブルが一つしか無いのね。何のお店だろう?)
キョロキョロと見回すと、まだ準備中のようで棚に品物は並んでいなかった。
「以前頼まれていたアクセサリーの作家を連れてきたよ」
「ちゃんと私のお眼鏡に適う作家だろうね?雑なものや偽物は顧客の信用が落ちるからね。厳しく見させてもらうよ」
ギロリと睨みを効かせるのは体にピッタリと沿う黒色のドレスに、藤色の髪を一つにまとめた女主人だ。
「そうは言っても私はその手の品に疎いから、マダムが自分で見て判断してくれ」
「なら早速見せて貰おうか。そこのお嬢ちゃん。籠ごとよこしな」
そう言って、スクエアカットを施された赤く長い爪の生えた手が伸びてくる。
(な、なんか怖いんですけどっ)
近付きたくなくて、思わず籠を前に突き出した。
「どれどれ。へぇ、中々良さそうじゃないか。じっくり見せてもらうから、そこで座って待っていておくれよ。お茶でも出そうじゃないか」
最初のギスギスした雰囲気は和らぎ、人の良さそうな笑顔を振りまいて女主人は奥へと下がっていった。
□□□
「中々良心的な値段だね。これなら全部買うよ。あと次は顧客受けする材料のものを注文したいから、また二週間後位に要望を聞きに来てくれるかい?」
『ありがとうございます!』
アリアは大喜びでお礼を伝えた。そのスケッチブックを見て女主人が訝しむ。
「あんた、もしかして声が出ないのかい?」
「彼女は喉を患ってるんだよ。次回も私が付き添うから取り引き自体は問題ないだろ」
「ふぅん。ねぇ、あんた名前は?」
『アリアです』
「アリアちゃん、ね」
アリアの名前を呟きながら、女主人はカウンター下から丸い水晶玉を取りだした。
「私は、ベファーナとでも呼んでおくれ。アリアちゃんとは長い付き合いがしたいからね。今日の良き縁のお礼に占ってあげるよ。その声を取り戻す方法を知りたくないかい?」
瞬間、アリアは大きく首を横に振った。
その反応に、ベファーナもレオナルドも驚いて目を剥いた。
「何だい。声が出ないなんて不便だろうに。患っているんだったら元々は喋れたんだろ?」
断りを入れたアリアを理解できないベファーナは、遠慮するなと言い募る。
そんなベファーナに別の事を占って貰おうと慌ててスケッチブックに書こうとするが、それより早くレオナルドがアリアの視界に割り込んだ。
「アリア、治し方を知っているね?」
図星を突かれたアリアは、思わずスケッチブックで顔を隠す。
「皆、心配して方々手を尽くしているんだ。フィガロだってそのせいで多忙になって無理をして働いているのに。知っていたならどうして言わなかった!」
怒鳴るような声に、身を縮めた。
(そんなの、知らない……。聞いてないもん……)
自分の後ろめたさを庇うように、心の中で何度も何度も言い訳を繰り返す。
けれどそんな言い訳はすぐに小さくなっていった。アリアを取り巻く環境は常に不自由ないように配慮されていた。学園側が特例措置を取るほど大事に扱われていたし、フィガロの忙しさも去年と比較にならないほど多忙を極めていた。
アリアのために皆が手を尽くしてくれていることなど、ちょっと考えれば分かることだった。
「ベファーナ。言い値で支払うから占ってくれ」
「はいよ、毎度あり。アリアちゃんは少し席を外すかい?」
ベファーナの心遣いに頷いて、アリアは店の外に出てレオナルドが出てくるのを待ったのだった。