スキルを使ってみたケース
スキルの詳細を確認し、
一部見なかった事にしながら
自身の能力を把握した二眼レフさん
いまの二眼レフカメラから手足が生えた微妙な
風体の脱却を目指してスキルを使おうと…
今回はお姫様からの視点でお届け致します。
私の膝の上で黒い箱の精霊様は呆れたようなポーズをとったり、小さな手をワナワナさせてたりとせわしなく動いていらっしゃいました。
「あの、精霊様??」
-お? なんだ?
私の声に気がついた精霊様は私を見上げるように二つのガラスがついた面をこちらに向けました。
「ステータスは見られましたのでしょうか」
-あぁ、お陰で不本意な情報もあったけど、一通り確認できたよ、ありがとうな。
精霊様は私の膝の上でぺこりとお辞儀をされました。
その様がちょっと可愛いと思ったのは秘密です。
-で、ちょっと聞きたいんだけど。
「あっ、はい。なんでしょうか」
-この世界のHPとかの値って言葉で曖昧に表示されるものなの?
「い、いえ、具体的な数値でわかるように…どうかなさいましたか?」
精霊様は打ち拉がれたように膝(?)をついていらっしゃるようでした。なにやら「アホ女神、手を抜くんじゃねーよ。」という思念が漏れて来ています。精霊様は女神様と何かあったんでしょうか…。
精霊様は少し考え込み、意を決したかのように私に問いかけました。
-ヒラヒラ、悪い、私のスキルの中に相手の能力を確認するスキルがあるんだが、それを使わせてくれないか?
なんと、精霊様は他の方のステータスを確認出来るすべをお持ちでした。
「ジャ、判定スキルをお持ちなんですか? 」
-この世界ではそういう名称なんだ。とりあえず、実行するので窓際に立ってちょうだい。
精霊様の言われるがままに私は、精霊様を膝の上から降ろすとベッドから降りて、月明かりが差し込む窓際に立ちました。精霊様の判定はどういうものなのでしょうか。普通はスキルキーキーワードを唱えるだけで実行できるスキルのはずですが…。
-あ、このままじゃ撮れない。ちょっと待っててくれ。悪いね。
そう精霊様がおっしゃると、なにやら考え込んでいるようでした。どうされたのでしょう?
-姿はこれでいいか。虚像獲得!
声と同時に、精霊様の黒いお身体から手足が消え、銀色の煙が立ち上りました。煙はベッドの上を一周すると、人型を作り始めました。やがて、煙が消え去るとそこにはエプロン付きのシックなワンピースを身にまとったダークブロンドのご婦人が座っていました。
「!!…。な、何者ですか?!」
私の問いかけに反応するかのように女性は閉じていた目を開け、緑色のきれいな瞳で私を見るとにっこりと笑いかけてきました。王国一の美人と名高いヒルダ姉さまに劣らないほどの美人さんに笑いかけられ、私は思わず顔を赤くしました。
「Guten Abend. Prinzessin. ...というか、お姫様と呼ぶよりヒラヒラと呼んだ方が誰だかわかるかな。」
女性の口から奏でられる殿方ともご婦人とも聞こえる不思議な声…
「…精霊様?」
「Genau! いやー、初めて虚像獲得してみたけど、いいね、これ。」
精霊様は元のお身体を手に取り、ベットから降りられると、窓際にいる私に近づかれました。
「おお、視線が高い。ヒラヒラを見下ろせる」
新しい姿の精霊様はとても背が高く、私の頭一つ分違っているようです。私の目線はちょうど彼女の胸元でした。ワンピースの下に着ていらっしゃるブラウスはデルコテが大きく開かれており、そこから覗くたわわな胸は同性の私でも見惚れてしまうほどの深い谷間を作っていました。ちょっとうらやましいです。
「せ、精霊様は女の方でしたのですね。言葉づかいからてっきり男の方かと…」
「ん? 女?」
と、私の声に精霊様は不思議そうな顔をされました。精霊様はあたりを見回し、私たち以外に誰もいない事を確認しました。そして私に視線を戻すと自分を指差し、「私?」と目で訴えてきました。私はそれに呼応し、首をなんども縦にふりましたがその様子をみた精霊様はすぐに破顔して笑い出しました。
「あははは、私は覚醒したばっかの付喪神さね。付喪神に男も女もないって。あははは…。だからね…虚像獲得」
精霊様は私から少し離れ、先ほどの銀色の煙を発生させたスキルワードを唱えました。すると、長身のご婦人の姿だった精霊様は今度は黒いコートを着たダークブロンドの男性へと姿を変えられました。
「男の姿になることもできるんだよね。どーよ。かっこいいだろう。」
殿方へと姿を変えた精霊様は再び私のそばに近寄ると壁に手を添え、私の目線にまで顔を下げて視線を合わせてくださいました。
その端正な顔立ちの精霊様はドヤ顔で顔を近づけています。ち、近いです。しかも、逃げ場のないこの状況。こ、これは、噂に聞く「壁ドン」というものでしょうか。以前、この国を訪れた他国で召喚された女の勇者様からお話ししていただいた事がありましたが、実際体験するとは思いませんでした。胸がドキドキして破裂しそうです。
「を? 大丈夫か? 顔赤いぞ。 窓際で夜風に当たりすぎたか? 待たせすぎて、ごめんな」
精霊様は端正な顔で私の顔を心配そうに見つめいます。私は慌てて首を振りました。
「そうじゃないんです。今までお父様以外の殿方からこんなに近くまで顔を近づけられたことがないっていうか…、以前、お会いした他国の女性の召喚勇者の方から壁ドンなる情景をうかがったことがあって…。こんな素敵な殿方から、壁ドンをいただけるのは幸せというか…ああ、何言ってるのかしら、私…」
私はドキドキしすぎて何かとんでもないことを口走ってしまった気がします。
「あははは。ヒラヒラには刺激がすぎたか…? ふむ、虚像獲得」
混乱している私をよそに、精霊様はカラカラお笑いになると再びスキルワードを唱え、お姿を最初の女性の姿へと戻されました。ちょっと、残念です。…でも、女性のお姿の精霊様から壁ドンされるのはそれはそれで…って、ああ、何考えているのかしら、私は…。なにか新しい扉を開けそうになったような…。
「ん? 刺激が強すぎじゃなくて、本当に夜風に当たりすぎたか? 本当に大丈夫か?」
「あ、いえ、大丈夫です。それより、私のステータスを判定するんでしたよね」
「…そうだった。そこに立っててね」
ドキドキを察せられないように話をそらしたのが功を奏したのか、精霊様は気がつかれたかのように手の平をポンと叩きました。そして、少し離れると元のお身体を胸元に構え、丸いガラスが二つ付いてる面を私に向けられました。
お身体の蓋をあけて上から覗き込むような仕草をされています。何度か私を見たり、お身体を覗き込んだりを繰り返しています。
「精霊様?」
「あ、そこ、動かないで…基本はバストアップでいいか。月明かりだか露光に問題はなかろう。f値は…」
精霊様はブツブツ言いながら元のお身体を弄っていました。判定を使われるのは初めてですが、こんなに時間がかかるものなのでしょうか…?
「ピント、Okay。はい、チーズ」
カシャッという小さな音が精霊様が構える元のお身体から鳴りました。精霊様は構えていた元のお身体の蓋を閉じてなにやら手元側の面をさすっています。
「フィルム現像」
新しいスキルキーワードでしょうか、精霊様が唱えると左手に光が集まりました。光が収まると精霊様の左手には何やら絵の描かれた四角い紙がありました。
「ふーむ、念のための確認だったが、普通はこう表示されるよなぁ」
精霊様は紙の裏側をみて残念そうに呟くと、その紙を私に差し出されました。
「あげる」
「あ、ありがとうございます。…えっ⁇」
精霊様からいただいた紙には月明かりに照らされた私がとても精巧に描かれてました。
ご感想頂けましたら幸いです。