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亀女

すっと荻野さんが机に置いてあったティッシュの箱を差し出してきた

気になっていた、このティッシュの箱

小さい机の上で妙な存在感を放っていた


なるほど、こいういわけか

みんなここで泣いてるんだ


「あ…すみません」


慌てて私は涙を拭いた


恥ずかしいな

なんか、この人に弱み握られたような気がする


荻野さんは気遣いからか、それとも客の涙に慣れてるからか私の涙はスルーして


「まあ、これ私が学生のとき友達に教えてもらったので出典とかよくわからないし、ほんとのとこ、ちゃんとした心理テストなのかもわからないんだけど…」


「これやるとね、なぜかほとんどの女の人が右側にお金持ちって書くのよ」


「ふふ、それがあなたの本当に求めてる条件ですって言うとみんな驚いてえって顔をするわ」


「人って無意識に気取っちゃうからね」


「あえてもう一つって言われた時に初めて本音が出るのもしれないわね」


と言った


「私は本を読む人でした…」


「お金持ちは最初に書いた左の条件に入っていたから」



「そう、美希さん正直な方ですね、最初の条件に書いたのね」


「本を読む人か…」


「プロフィールの趣味の欄に読書をチェックしている男性を選べばいいわね」




別に私はここで結婚相手を見つける為に入るわけじゃない

ただ生活を立て直すために早く引っ越しがしたいだけ


今の部屋に染みついた六年間の思い出はそれなりに重い

啓司のことを好きだったことも、啓司に裏切られたことも早く忘れたい

そのためにも親に引っ越し代出してもらわなきゃいけないから


荻野さんが話、聞くよ?オーラを出しているけど、私話す気ありませんから

こんなところで失恋話


もうその後は事務的にここのシステムのにログインする方法を教わって振込用紙もらってマリッジゲートを後にした


ちなみに私はパソコンもスマホも持ってないから、ここに来てここのパソコンを使わせでもらうことになる 

‥マリッジゲートでの出会いは期待していないけど、24万は全く活動をせず捨てるには、大きすぎる


なんだかひどく疲れた

もう九時…

ここに二時間もいたんだ


そう思ってビルを仰ぎ見たとき「菊川さん」と突然声をかけられて恐る恐る振り返ると…


最悪


同期の藤田くんがいた




「何してんのこんなところで」との質問に「会社帰りの散歩」と答えると藤田くんは「はは、俺はまたこのビルに入ってる結婚相談所から出てきたのかと思った」と言った


うっ、こいつ〜このビルから出てくるところを見てたな〜

ビルのエントランスにマリッジゲート説明会の看板が出てる


睨みつけた私に藤田くんは「大丈夫、大丈夫みんなには黙っててやるから」と笑う


このお調子者の男が黙ってることなんかできないと思うけど…


「私にもいろいろ事情があるのよ」


「親が結婚相談所に入れば引っ越し代出してくれるって言うからっ」



「…あれ?菊川さんすごくお金貯めてるって噂だけど、親に引っ越し代出してもらうの?」


「さすが、亀女、がっちりしてるな」



「?」

「なに、その亀女って」



「あ…や、みんなそう呼んでるよ」



「はあ?私のことを?」


「なんで亀なの?どこから亀がでてきた?」


別に亀なんか飼って無いし、好きでもない


「んー多分銭亀由来の亀じゃない?」


銭亀!

ショック…そんなあだ名つけられるほどケチに見られてたんだ…


「あ、ねえ、せっかくだからお茶でもしない?新入社員のときみたいに」


そう言ってから藤田くんは小さくあ、と言った

ふん、どうせ私はケチだからカフェ代を惜しむと思ったんでしょ?


「いいよお茶しよう」


「あ、ここでいいよね?」


マリッジゲート入ってるビルの並びにチェーン店のカフェがあった

疲れてるけどこいつとお茶しよ

改めて口止めもしたいし、カフェ代ケチるイメージも払拭したい




カフェに入り、藤田くんと小さい丸いテーブル挟んで向かい合う


「懐かしいな、新入社員の研修を受けてるとき、たまに帰りにこうしてお茶したよな」


「あの年は自分と菊川さんしか入社しなかったから」


「なんかいつの頃からかすっかり付き合い悪くなっちゃったよね?菊川さん」



「うん、実は私…」




このおしゃべり好きな男にプライベートを話すのは危険だと思う

けど、無性に誰かに話したい

啓司とのことを


その話し相手として、私は結婚相談所のおばちゃんじゃなく、昔口説いてきたことのあるこの男を選んだ











お読みいただきありがとうございます。

今週から金曜も投稿いたします。

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