今度は犬を
毎月来ていたマリッジゲートからの手紙は、申し訳ないけど読まずに捨てさせてもらっていた
だから契約期間が切れた4月以降荻野さんからの手紙が来なくなったことにほっとしている
無駄な罪悪感を感じなくてすむようになったと
けれどなぜかちょっとした拍子にあの荻野さんのまるっこい宛名の文字を思い出すことがある
それと同時にちょっびりの後悔を感じる
荻野さん、私のことを気にかけていてくれたんだろうに徹底的に拒否してしまった
最後の手紙くらい読めばよかったかな
私、ほんとに頑固で融通がきかないな…
それにしても…
時間は淡々と過ぎ去ってゆくんだな
なんとなく寂しい
それは一人でいることがしゃなくて人生の時間が着々と減っていくことが
年をとったなぁと気づかされる瞬間がある
手が荒れるようになったり、アパートの階段を上がるのがおっくうになったり
あれっ、去年となんか違う
うん、つまり身体の衰え
それを小金井さんと二人で会社帰りに駅北の評判のいい中華屋さんに冷やし中華食べにいった時話したら笑われた
「アラサーごときがそんなこと言ってたら、アラフォーは立場ないわよ」
「美希ちゃん、嘆く前にやることがあるでしょ?」
え…まさかとっとっとパートナーを探して心の安定をはかれとか言わないでしようね
自分が結婚相手を見つけたからといって
「水仕事の後こまめにクリーム塗ってハンドマッサージして、休みの日には少し運動して体力つけなさい」
あ、はい…
そうですよね
「体力落ちると心も弱るから」
「そんなときに悪い男に言い寄られたらフラフラ〜と吸い寄せられちゃうんだから」
「ん、何?その私は絶対大丈夫みたいな顔?」
「そう思ってる人が一番危ないんだからね」
小金井さん、経験があるんですか?
まあ、小金井さんの過去の恋愛はどうでもいい
ただ今はお見合いで知り合った人との結婚に幸多かれと祈るだけ
小金井さんと二人で食事をするようになったのはここ最近のことだけど、この人といるとなんとなく包み込まれているような安心感を覚える
「ねえ、美希ちゃん四十代で良ければ紹介するけど…彼の友達も結構独身者が多いから」
「ありがとうございます、でも私年下しか受け付けないんで」
面倒だからこう言っておく
なぜなら中野さんが私のことそう言いふらしているから
私は顔のいい新入社員と付き合うも、他の女子社員にその新入社員を取られたれた可哀想な女という設定になっている
私がちょっと美人だけれども結婚できないのは三十過ぎても若い男じゃなきゃ嫌だって身の程知らずの望みを持ってるからなんだって
どんだけ私のことディスれば気が済むんじゃボケ
…といつか言ってやりたいな
あ、でも小金井さん、ありがとうございます
私が寂しい思いをしてるんじゃないかと心配してくれてるんですよね
大丈夫です、私、ちょっと計画していることがあるんで
「私、もう少しお金が貯まったら、ペットOKのマンションに引っ越そうかと思ってるんです」
「猫は飼ったことあるんで今度は犬を飼おうかと思って」
「うわ、犬なんか飼っちゃったら母性が働いて、恋愛ホルモン抑えられてますます縁遠くなっちゃうわよ?」
「ふふ…これ私が犬飼おうかなってつぶやいたときに友達から言われた言葉」
「うーん、でもなんとなく美希ちゃんがチワワやプードル連れて歩いてるとこ想像できないな」
「そうですね、私も飼うなら日本犬がいいな」
「大きいのは無理だから豆柴あたり?」
「けど飼った犬を幸せにしてあげられないと嫌だから、一年ガッツリ犬のことについて勉強するつもりです」
「犬の生態や、一人暮らしでも飼えるかを」
「その後、ほんとに飼うかどうしようか決めようと思って」
そう言ったら小金井さんは笑った
「真面目ねえ」と言って