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無機質

寂しいなら犬や猫を飼えと言われる


団地なので飼えないというと、それならハムスターや小鳥を飼えと言われる

亀のような無機質なものでなく毛の生えている、もっと温かみのある動物を


亀は無機質ではない

ちゃんとぬくもりがある

いつでも必死で一生懸命な動きに充分癒やされる


何より亀美は自分に懐いている

「なあ、亀美」そう言って布津宗幸は自宅の亀のいる水槽をつついた

それに応じるように水槽の亀は砂利をけって寄ってきた

そしてびっくりするほど長く首を伸ばす




亀美は彼の父親が亡くなる前に買ってきた亀だ

何を思って突然こんなものを…とその亀の面倒を見る羽目になった宗幸は不満を感じたのだが…


雄か雌かもわからない草亀の子供に亀美と名前をつけたら急に愛着が湧いてきた

父親と二人で亀美、亀美と呼んでいるだけでこの2Kの県営団地の男世帯に女が加わったような錯覚を覚えた


夕飯が済んだ後、ちゃぶ台に亀美を乗せてその様子を見ながら発泡酒を飲むのがこの父子の習慣になった


亀美がこのうちに来て数ヶ月後、父親は心筋梗塞で亡くなり布津宗幸はこの部屋で一人で暮らすことになった


掛けていたささやかな生命保険は父親の残した借金の返済でほぼ帳消しになった

ある意味遺産は亀美だけだ




この父親のタバコの匂いの染み込んだ部屋に一人で暮らしているから余計寂しくなるのだと思う

ワンルームの新しいアパートに引っ越したほうがきっと快適に暮らせる

それは分かっているがなぜか引っ越す気にならない


あの晩耐えきれない孤独に突然襲われて発作的に入った結婚相談所では二年の契約期間中に結局相手を見つけられなかった


焦って失敗した

振り返れば最初に会った人がまあまあ良かったのだけれど、相手があまり気乗りしていないのがわかったし、次に紹介してもらう人はもっと良い人かもしれないと思って早々に交際を打ち切ってしまった


その後紹介された相手は同い年くらいの看護師や保育士が多かった

普通に感じのいい人たちだったけど…

荻野さんが料理得意がな人を選んで紹介してくれたし


でも彼女たちとは二回目会おうと言う気にならなかった


誰でもいいから早く結婚したいと思っていたけど、だれても良くはなかった

当たり前だけど


それに料理が上手いって自分にとって絶対条件じゃなかったと気づく

どんなに条件が揃っていても心が動かない人とは結婚なんかできない




あの人が、良かった


美人でしっかりしていたけれど、どこか真面目さが逆におかしい感じを与える人

今思えばなんか亀美に似ていた気がする


…亀美もあの人も美人だけど色気がない








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